転生したらアウラだった件   作:ちゅーに菌

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バレンタインなので皆様への日頃の感謝として急遽整えたものです(ギリギリ投稿)



アウラ(31歳)

 

 

 

 

 

 魔族――。

 

 

 それは人間を捕食する魔物の中でも人語を話す個体の事を指し、殆どは人型で整った顔立ちと容姿をしているがほぼ無表情で、人間よりも虫や何かに近い精神性をした人類の天敵を示すらしい。

 

 人類と同等かそれ以上の知能と、人類が用いるそれよりも遥かに強力な魔法を扱う亜人のような存在で、意思疎通も可能だが、相互理解は不可能であり、あくまでも人間を欺く為や利益を得る為にしか言葉を用いないとのこと。それでいて知性は高いため、人が情に流されることを知識としては知っており、屡々情に訴えかける言葉を巧妙に使い人間を出し抜き、食人や利益を得る。

 

 尚、一種の食人衝動と呼べるものはあるが、人間しか食べられないというわけでもなく、食人とは偏食を覚えた熊のようなただの嗜好レベルのことらしい。

 

 加えて魔族は悪意、罪悪感、正義感と言った社会的感情を生まれついて一切持ち合わせておらず、人間で言うところの反社会性パーソナリティ障害に当たるような精神性を持つ生物であり、どこまでも自己利益だけを追い求め続ける害獣とのことだ。

 

 この本が隠されていた理由も解るというものだ。私がコレを読めば、自分自身という存在を本能だけではなく、知識として理解することを危惧したのだろう。

 

 私は更に本のページを指で捲る。

 

 身体的な魔族の特徴としては、やはり前述されていたように人間にすれば美男美女と言った整った顔立ちを持っている事。まあ、これは単純に進化の過程で人間に取り入り難い容姿の魔族は淘汰されたのだろう。

 

 手鏡を手に取り、私の顔を映せば私の知識の中では整い過ぎていると言っても過言ではない顔が映る。それから身体が魔力という物で構成されているせいか、常に肌は艷やかで髪は手入れせずとも枝毛一つなく滑らかな肌触りをしている。

 

 しかし、感情の欠如によって見た目の割にはほとんど完全な無表情をしており、その様はアリグモのように外面を整えて人間を捕食する為と言える。見目麗しい見た目から人間を騙すというのはあまりに合理的だ。

 

 なるほど、私の表情筋が生まれつき、ほぼ死んでおり、死んだ魚のような目のままなのは何かの病気ではないという事がわかり、一安心だ。

 

 また、魔族には角が生えており、怒髪天を衝くとばかりに私の頭に生えた二本の角がその証拠だろう。コレ、割と鋭くて不注意で木製の壁や天井に刺さるから普通に邪魔なのよ。神経通ってるみたいだから痛いし。

 

 次の項目に本のページを捲ると、そこには魔族の魔法について記述されていた。

 

 魔族は生まれ落ちた瞬間から強大な魔法使いであり、魔族は長い寿命の中で一つの魔法の研究に生涯を捧げ、その魔法を研鑽する種族である。長過ぎる寿命で研鑽されて卓越した魔法は、特異性すら持ち、人類の魔法とは別次元のモノとすら思え、実際に脳の構造が違うために別物と言っても差し支えないらしい。更に魔族の魔法で人類の魔法技術では解析不能なオーパーツを呪いと定義しているそうだ。

 

 なるほど、つまり私の魔法もそれに当たるのかも知れない。やたら強力なことは自負しているし、気付いたらその魔法を研鑽し続けているのは魔族としての本能なのだろう。

 

 正直、私は今まで自分の事をかなり反社会性パーソナリティ障害気質で、角が生えているだけの魔法使いだと思っていた。いや、人間の父に拾われた時からそう教えられ、村ぐるみでそう思わされていたのだろう。時々、薬と言われて飲まされていたあれは人の血か。全く無意味な事だ。

 

 "人間だった記憶"のある私はそもそも魔族が理解出来ない社会性を持っているし、感情に関しても知識として知っている。そのため、人間という生き物の恐ろしさを知る以上、リスク面から理由がなければ殺人をすることはないだろう。

 

 しかし、それ以前に私でない普通の魔族にしていたのならそもそも情が理解出来ない生物を人間にするなんて無駄で滑稽以外の何物でもないのだ。人間の知識のある魔族になったからこそ魔族の感情面の異様さがわかる。

 

 恐らく私は、友人や家族をこの場で手に掛けようともそれに対して何とも思うことが出来ない。正義感を覚えずに悪意なく殺し、罪悪感を感じない存在というものはそれが容易くできてしまうのだ。

 

 要するに魔族は、人型でありながら"共食い"が出来るような精神性の生き物でもあるのだ。

 

 共食いとは、動物においてある個体が同種の他個体を食べること。カマキリが交尾中にメスがオスを食べることや、ゴキブリの幼体の目の前で別のゴキブリの卵を割ると中身を食らい出すことなどが特に有名だろう。

 

 人間の世界では倫理的に許されない行為とされているが、動物の世界では決して珍しいことではない。むしろ、生存競争を生き抜くという観点に関しては、合理性の極致とも言えるだろう。そのため、倫理観が明らかに人間のそれではないのだ。

 

 尤も私に関しては、人間を殺さない方が利益があるからという理由以外で、前世で人間だったという知識があるばかりにもっと長い目で人間を見られる上、社会性を最初から会得しているという理由が主だろう。逆に言えば、社外的帰属になるのなら何でもするとも言える。

 

 そう、知識。前世の知識の話だ。

 

 私はこの魔族についての本を読んだことで、たった今それが繋がった。

 

 目を瞑って溜め息を漏らしつつ椅子から立ち上がり、私室にある姿鏡の前に移動する。

 

 そして、目蓋をゆっくりと開いてその姿鏡に映る姿を注視した。

 

 そこには赤みかがったピンクブロンドを左右で三つ編みにまとめ、灰にも青にも藤色にも見えるような暗い色合いの光のない目をし、頭部に悪魔のような反りのある長い角が二本生えた小柄な少女と言える容姿の姿がある。

 

 更に魔力を込めると鏡の中のソレの手に金に鈍く輝く天秤が現れ、それは出現した直後に片側へ勝手に傾いて止まったのだった。

 

 

 

「私、断頭台のアウラ(ネットのオモチャ)じゃない……」

 

 

 

 その自嘲に満ちた慟哭と共に鏡の中の断頭台のアウラ――この私の手から天秤が零れ落ち、木の床に打ち付けられてガシャンと硬い音が鳴る。

 

 中世ヨーロッパ風の何かの世界に生まれてから前世で見た何かに似ているとは常々思っていた。

 

 しかし、それが前世のSNSで一時やたら流れて来た程度の知識量の存在だと誰が思うだろうか? というか、世界に関してもフリーレンということだろう。何とかのフリーレン、なんか棺姫のチャイカと似たビジュアルに見える奴。

 

 どうしよう……私……。フリーレンのこと、マジで触り程度も知らないんだけど? 

 

 そもそも中世ヨーロッパ風とかいう雰囲気な世界で作品の特定は無理がある。何なら数分前の私になら指輪物語の世界と言われても信じる自信があるレベルだ。

 

 アウラ(500歳)に関してもフリーレンというツインテール(1000歳)に自害させられたり、旅に無理矢理同行させられたり、やたらエロいことされたり、ゆっくりだったり、"じゃない"って語尾を作中で一度しか言っていないことしか知らないじゃんね。

 

 

 

 え……というか――。

 

 

 

「お母さん? すごい音したけど大丈夫?」

 

「ままー?」

 

 

 

 アウラって人間の子供居たの? そんなキャラなの? 既に2人産んじゃってるんだけど……? お腹のもう一人、6ヶ月ぐらいなんだけど……?

 

 ちなみに私は今、丸眼鏡をしているし、ピンクのロングセーターと黒のロングスカートを着て人間の母親らしい服装を心掛けている。

 

 というのも人間としての知識のある私は、この世界に生まれ落ちた瞬間から野生動物じみた生活に堪えられない文明圏ガールと化していたため、子供のうちにどうにかこうにか人間の村に拾われる形で取り入り、今では村長の孫と育った幼馴染み兼嫁という不動の地位を手にするに至ったのだ。

 

 その過程での子供程度は必要経費のようなものであろう。死ぬほど子育てする気が起きなかったのも魔族の本能のせいか。あれ、でも……そんなんだったかなアウラって……?

 

 うーん……わからない。まあ、でも私の年齢的にフリーレンに殺されるまで後400年と半世紀以上時間はあるわけだし、時間はまだまだあると思ってもいいだろう。

 

 それまでに私がメインにしている魔法のために魔力量をもっと鍛えたり、実用的な魔法を身に付けたりして色々と対策をして――。

 

「ママは大丈夫だからね……。ええ、大丈夫……大丈夫なのよ……」

 

「そっかぁ。あっ、ママにお客さんだって!」

 

「だっこ!」

 

「はいはい、全く……誰よこんな時に……」

 

 まだ、腕の中に収まる下の子を抱き上げるが、人間ではない筋力を持つ私にとっては特に苦ではない。それよりも生まれてから一番焦ったタイミングで客とは間が悪いものだ。

 

 上の子がポテポテと部屋から出て行き、直ぐにこちらへ戻るのが増えた足音でわかる。どうやら既に招き入れていたらしい。

 

 人間の知識的に言えば防犯の面から有り得ないが、親が魔族の時点で防犯もクソもないため、これからなんと言って躾ければ人間的に正しいのか非常に悩みどころだ。

 

 まあ、大方村民の誰かが、魔法使いとして既に優秀な私の手を借りに来たのだろう。ならば体裁を保つために無下にする理由はない。情けは人の為ならずだ。必ず自分に利として返って来るのだから。

 

 私は天秤を拾い上げて一応自衛の構えを取りつつ、人間の母親のように下の子を撫でる作業に目を落とした。

 

 人間だった頃の私は、悪意がないなどとは口が裂けても言えないが、罪悪感で悪事は働かない程度には普通と言える善性を持っていた。

 

 今、こうして我が子を撫でていても何も感じないというのに。きっと、この子の首を今手折ったとしても何も感じないだろう。

 

 口元に笑みを浮かべて見せ、人間らしい良い母親を演じて見せる。きっと、人間だった私ならそうしたから。

 

「こんにちは、今日は何の用事かしら? 魔法薬ならそこの棚にあるから好きな効能の奴を持って行っていいわ。魔物が出たなら場所を言って。急を要さないやって欲しいことがあるなら優先度はこっちで考えるからそこに書いて――」

 

「驚いた。子育ての真似事をする魔族がいるんだ」

 

「は――?」

 

 相手を見ずに定型文と化した文言を並べていた私が予想よりも若くややダウナー気味で何故か聞き覚えのある少女のような声に顔を上げると、そこには上の子に袖を掴まれた少女――私より何倍も高い魔力をした銀髪のツインテールに長い耳をしたエルフの姿があった。

 

 その姿は記憶の中でフラッシュバックのように浮き上がり、何故ここに居るのかという疑問や対策の思案の前に寒気と動悸が止まらなくなる。

 

 それは私にとっての死神であり、死兆星であり、ただそこにあるだけの絶望と恐怖そのものであった。

 

 

 

「フリー……レ……ン……?」

 

「へぇ、知ってるんだ……? 見たところ100年も生きてないみたいなのに。やっぱり他の魔族と繋がりが――」

 

 

 

 その瞬間、私は真っ先に下の子を片腕で強く抱き上げ、無意味な天秤を握り締めつつ部屋の隅まで逃げる。

 

 そして、まだ人に毛が生えた程度の魔族の私が持ちうる最大の自衛手段を行使する他ない。

 

「ここ……こここここっ、この……この子たッ……! 我が子の命がどうなっ……な、なってもいいのかしら……!?」

 

「ままぶるぶるー!」

 

「お母さんが壊れた!?」

 

「なんだコイツ……」

 

 助けて、私死にたくない! 絶対に死にたくないの!? アナタたち私の子でしょう!? 母親を助けなさいよ人間なら!?

 

 そもそも私が修めている魔法の詳細がバレたら一発アウトなのよ!? どうやって村人全員を洗脳していないことなんて証明すれば……。何このクソみたいな魔法……でも気づいたら魔法が形になっていたんだから仕方ないじゃない!?

 

 そもそも魔族の言葉は人間を狩るための手段として吐かれる嘘とされているらしく、目の前のそれがそもそも私の話を聞くのかすら怪しい。いや、聞かないと思った方がいいだろう。

 

 そんな奴に潔白の証明なんて出来な…………あっ……。

 

 私は唯一の光明が見えたが、それはあまりにも無為な賭けだった。しかし、今この場を切り抜けるには、文字通り自身の全てを(なげう)つ他ない。

 

「聞いて……フリーレン。私が持つ魔法は対象を服従させる魔法よ。この服従の天秤に自身と対象の魂を乗せて互いの魔力を測り、魔力が大きい方が相手を半永久的に操れるようにする魔法だから……」

 

「ふぅん……。そんなこと教えてどうする気? けれど本当だとすれば成長されたら厄介だ。やっぱり対処しておくか」

 

「あなたの魔力の方が私よりも何倍も上! それはわかっているわ……!」

 

「それで?」

 

「お願い……殺さないで……。何でも……何でもするから……」

 

 私は天秤をフリーレンへと向かって掲げる。

 

 

 

 

 

「"服従させる魔法(アゼリューゼ)"」

 

 

 

 

 私はフリーレンに対して、自身の魔法を行使した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――と、いうのが大体500年ほど前のフリーレンと私の出会いよ。フェルン」

 

「えぇ……」

 

 中央諸国の聖都シュトラールの郊外にある一軒の小屋。

 

 その中の一室で頭に見事な角が生えており、一目で魔族とわかる女性――アウラと、フェルンと呼ばれた小さな少女が会話をしていた。

 

 尤も少女の方があり得ないもの、あるいは意味の分からないものを見ているような顔をしているため、その内容は筆舌に尽くしがたいらしい。

 

 絶妙な表情を浮かべているフェルンに対して、アウラは得意げな表情とも自嘲とも取れる半笑いを口元に浮かべた。

 

 

「私は500年以上エルフを介護した大魔族よ」

 

 

 そして、近くのベッドで既に昼間に差し掛かる前の時間だというのにすやすやと寝息を立てているエルフ――フリーレンを一瞥する。

 

「プライドとか、無いんですか?」

 

「だってフリーレンに殺されないように良い顔するしかないじゃない。私の服従させる魔法(アゼリューゼ)で、コイツの言うことは絶対だし……」

 

「そうですか……」

 

 フェルンは魔族だとしても随分と小さく見えるアウラの姿にそれ以上は何も言うことができなかった。

 

 

 

 

 

 これは元々のそれよりもちょっと人間に理解があり、かなりおいたわしくなった大魔族のお話である。

 

 

 

 

 

 

 

 






好評なら続きます(現金な奴)


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