待たせたな!(震え声)
これを日常回と言い張る勇気。生存報告ついでの更新のようなものですが、また、楽しんでいただければ幸いです。
ダンジョン攻略から約11ヶ月後――。
私は産休ということで、村役場の魔導雑貨店を一時的に自宅に戻し、そこで必要最低限の店番という名の休日を過ごしていた。
妊娠10ヶ月目に入っており、既にいつ産まれてもおかしくはない腹の子は隠せないほど大きく、常に"魔族が人間の子を産めるようにする魔法"を使っているせいで魔力が激減している。
それでも人間で言えば、熟練の魔法使い程度の魔力量はあり、並みの人間の魔法使いに負けることはまずないだろう。むしろ、私は技量の方が高いと自負しており、実際時々突っ掛かってくる冒険者を何も問題なく転がせていた。
神話時代のミミックがいるダンジョン――もといダンジョンの二層への入り口は勝手に蓋がされているため、自宅のリビングにある入り口を守っていれば、特に問題はなく、ダンジョンについても国と冒険者ギルドへ報告も済んでいる。無論、進入時の危険性、エリート魔族である私と500年生きる魔法使いのフリーレンが撤退した理由、それから考えられる最低限攻略に必要な戦力を明記し、これまでの経緯から放置しても特に問題のないダンジョンであるため、好奇心での攻略は愚鈍だということも記述している。
まあ、その際に魔族がいる村が噂でないこともそれなりに知れ渡ったようだが、だからと言って私の生活が何か変わった訳ではない。国や冒険者ギルドにやたら太いパイプを持つラウラたちのお陰かも知れないな。
何にしても人間というものは、目先の利益を前にすると目が眩んで急に焦り出すという生き物であり、そんなことは分かり切っている。そのため、半年前に国がギルドより先にダンジョン攻略の先遣隊を派遣して来たのだが、それは誰一人として帰って来てはいない。つまりはそう言うことだ。
せめて、"
まあ、魔族の力を国が表立って借りるというのは面目が立たないため仕方ないと言えばその通りだろう。とは言え、高い犠牲を払いつつ危険性の証明はした。国の先遣隊の全滅により、本隊の派遣は無くなり、ギルドも二の足を踏んでいるところだ。
そのため、ナウでホットなダンジョンが出来たというのにこの村に来る人間が急激に増えた等ということは余りない。極悪ダンジョン過ぎたせいだろう。精々、近くに来た冒険者たちが立ち寄る頻度が増えた程度である。
『行きなさい、ヤランゾ』
『――――――!!』
『ウワー!?』
『グワー!?』
『ぬわー!?』
まあ、ダンジョン攻略をしたいなどと宣う浅慮な冒険者パーティーに対し、国の先遣隊のことを顧みて、ミミックの上位種ことヤランゾに試金石としてぶつかることを定めたせいもあるかも知れない。
村人にはさながらハブとマングースのショーとして非常に人気だ。ちなみにどちらがハブでマングースなのかは言うまでもないだろう。そのせいで、全く賭けにはならない。後、私の魔法医薬品もついでに売れて一石二鳥だ。
『………………』
『ヤランゾおっきー!』
『ヤランゾ、リンゴたべるー?』
『――――!』
『アウラちっちゃーい!』
『小僧、ぶち殺すわよ?』
ちなみにそんなわけでヤランゾは、村人から割と愛着を持たれているように思える。ヤランゾと日課の散歩をしていると食べものを差し入れ、もとい宝箱に投げ入れて来る村人も多い。また、不可解なことにビジュアルに好かれる要素はないと思うのだが、冒険者を一方的にブチのめす姿が子供に好評らしい。それとミミックは雑食であった。
まあ、11ヶ月で多少状況が変わりはしたが、概ね普段通りの日常を送れているということね。
「お母さん! この家、何か変ですよ!」
「それはリビングの床下にフリーレン丸呑みゾーンがある話? それともこの家で盗賊団を殺すために魔族が育てられたこと? はたまた村長が用済みの魔族を妻に娶って四回も孕ませたこと? ああ……この前、居候エルフの滞在期間が15年を超えたパーティーをしたことかしら?」
「美味しかったよ?」
「感想は聞いてないわよ」
現在は自室のソファーに腰掛け、大量に貰った果物をフルーツチップスにしたものを机に広げつつ、腹の子のおくるみを縫っていたところフルーツチップスの匂いに釣られたフリーレンが私のところにやって来て、私の膨らんだ腹を興味深そうに撫でているところである。
「アウラ、体調は?」
「……? 別になんともないわよ」
「そっか」
しかし、何故かフリーレンが私の側にいることが増えたような気がする。
妊婦に対する配慮かと考えたが、前回のときにフリーレンがそのような素振りをすることは特になかったため、まるで意味がわからない。まさか、フリーレンに限って私の魔力が激減しているから守るためにいる等ということはないであろうが、こちらとしては特にデメリットはないため、こちらが口を出すことではない。
「ところで、縫ってるその緑のやつなに?」
「白菜おくるみ」
「お母さん、時々壊れますよね」
「お前ほどじゃないわよ」
出産も四回目ともなれば、遊びも出てくるというものだ。
しかし、魔族が子育てをしない生き物であるということは、本当に度し難い。出産まで1ヶ月はないであろうというのに未だ新たな子の母になるという実感がまるでないのだ。それこそ村と家族という環境と人間の知識さえ無ければ、産み落としてそのまま放置すると半ば確信するほどだから始末に負えない。
やはり魔族には、仕方なくしなければならないという環境を用意し続けるべきだろう。
「動く音がする……」
「フリーレン、生きているんだから当たり前よ」
「尊い……」
私の膨張している下腹部に頭を寄せると耳を付けて中の音を聴いているフリーレンと、そんな様子に対して言葉を溢しているアウレリア。同じ空間にいる二者ですら同じ事象を感じながらまるで違うものを見ているのだから人間というものは、魔族以上に訳の分からない生き物だな。
「アウレリア、チップスたべたい」
「はぁい♡」
「手ぐらい使え」
「むぐむぐ……。使ってるよ、アウレリアの」
「全く……アウレリアはフリーレンに甘いんだから」
「あはは、お母さんほどじゃないですよ?」
「は……? 私のどこがコイツに甘いって言うのよ?」
「そーだ! そーだ!」
「……………………"
「なんで?」
私の魔法が直撃した
これでお前も古き良き由緒正しきヒロインよ。
「そもそもお母さん、普段からほとんど固形物を口にしないからおやつを作ってるのってほとんど子供かフリーレン様のためじゃないですか? で、赤ちゃんは兎も角、私やお父さんはお菓子とかそもそもあんまり好きじゃないですし。それを机に広げて待つ相手と言えばもう――」
「"
「にゃ゛ー!?」
「おお、すごい。これ、全然髪型崩れないよ」
アウレリアの前髪の後ろも立ち上がった。しかし、私とほぼ同じ容姿のため私もダメージを受けている気がする。
ちなみにフリーレンはこちらは気にせずにその横で頭をブンブン振ってインテークを崩そうとするが、魔法で固定した髪型がそれぐらいで崩せるわけがない。
「アウラ、この魔法の魔導書は?」
「ほらよ」
「ひゃっほい!」
自宅の本棚になどとっくの昔に魔導書が入り切らなくなっているため、最近作って拡張中の
それを普段余りみない反射神経で飛び出し、空中でキャッチしたフリーレンは、そのまま部屋の床に正座して魔導書を読み始めた。
「ほら! そうやって供給を生むから需要が生まれるんですよ! しかも産廃魔法ばっかり開発して……お母さんはフリーレン様にゲロ甘じゃないですか! 魔族! 割れ鍋! 綴じ蓋!」
「なんだとぉ……?」
我が娘でありながら私の作る魔法が産廃だと……?
いいか、アウレリア? そもそも魔法とは、ただ一つの物体、概念、動作、現象、事象、すなわち森羅万象の理の中で、己が唯一執着した極一部のみを限定的に切り出し、限りなく近くあるいは本物を超えて再現したモノのことを言うのだ。
私はフルーツチップスをひとつ摘むと、魔力を渦巻くように流し込み、ひとつの魔族だけが使える魔法を行使した――。
「"
次の瞬間、手の中のチップスは私の指先から染み込むように金色になり、直ぐに黄金へと変わる。いつぞや、解呪したのにフリーレンにぶち飛ばされたときに解析した魔法を一部再現したものである。
まあ、フリーレンから聞いた黄金郷のマハトとやらのそれに比べれば、大長編の物語からカッコいい台詞だけ抜粋したようなものであり、性能なぞ比べるべくもない。
「ふんっ……!」
私が黄金チップスを指で潰すと、それは容易くへし曲がった。
しかも私が金というモノを鉄のツルハシどころか石ツルハシにすら劣るシルクタッチを付けるだけのクソ雑魚ナメクジと認識しているせいで、"触れたモノをゆっくりとただの金にする"というだけの代物と化しており、射程すら制限なく破壊不能の金に変えるという元々の性能の完全劣化どころか、比べることすら烏滸がましいだろう。更に言えば、魔力消費は多いクセに私の魔力量の10分の1以下のモノにしか効かない始末である。
黄金郷のマハトとやらに会う機会があれば、是非とも魔導書に書き出して貰い、ご教授頂きたいものだな。まあ、魔族は弟子も魔導書も作らんから冗談だ。
「…………ほんとお母さんって、頭の良いバ――もとい魔法以外に興味のない魔法使いらしい魔法使いですよね」
ふふん、そうだろう、そうだろう? ん……? 今、なにか言おうとしたかしら?
まあ、いいか。何が言いたいのかと言えば、どれほど強い魔法であれ、使い道すら不明な魔法であれ、応用は兎も角として、その結果は制作者が求めたただ一つに基本は帰結するのだ。
つまり私の魔法は全て産廃ではない崇高なものだ。わかったか、小娘……?
「失礼しました、お母さん。フリーレン様が好きそうな魔法に訂正します」
「……? アウラの魔法は好きだよ? 人間の50倍ぐらい筆が早いし」
「うふふ……ふふふ……お前、ナメてるじゃんねぇ!?」
表に出ろ愚娘……。雑魚相手以外は生まれてこの方、敗北か、無条件降伏しかしたことがない故に生み出された数々の魔法の恐ろしさを教えてやる。
「あっ、やばっ!? 煽り過ぎました!? フリーレン様助けて! 今のお母さん相手だと勝ってしまうかもしれません!?」
「ほほう……。なるほど、ここはこうなってるんだね」
「フリーレン様!?」
「今、いいところだから」
この家には、色々な意味で人でなししか居ないなと思いつつ、私は曲がった黄金チップスと丁度作り終えた白菜おくるみを置くと、勢いよく立ち上がり――。
パシャリと明らかに多量の液体が床に打ち付けられた音を聞き、生温かく濡れそぼった感覚を下肢の一帯に感じた。
「えっ……お母さん……?」
「アウラそれ……」
更にそう言えば今朝から鈍い痛みが下腹部に走っていたことに今更ながら気付き、それに少しだけ顔をしかめつつ溜め息を吐いた私は、感じたままのことをポツリと呟く。
「……興奮したせいで破水したじゃない。ちょっと歩いて診療所に行って来るわ」
「うっ……うぉぉおぉぉぉ!!!? フリーレン様! お母さんを捕まえてください! 私は分身でお父さん呼びます!」
「わかった」
「な、なにをするきさまらー!」
「暴れんなよ……暴れんなよ……!? お母さん!?」
その後、アウレリアの分身の知らせで合流した夫に抱えられた私は、フリーレンとアウレリアを同伴して村の診療所に運ばれるのだった。
〜 読まなくて良いボヤき 〜
魔法少女にあこがれての二次創作を書きたい(血迷う)