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なんだか、更新が早いですね(感覚麻痺)
「しゃー!」
「デジャブを見てる気分だわ」
「なんだか、なつかしいね」
現在、フェルンの目の前でアウレリアにアウラとフリーレンが、対峙するような形で話していた。縄張りに入る敵を見た猫のような様子のアウレリアをなんとも言えない表情で眺めている程度のことである。
ことの発端は、アウラに会いにメトーデという魔法使いの少女が会いに来た直後、まだ滞在していたアウレリアとかち合ったためであり、彼女を見た瞬間、全てを悟ったかのような表情の後、声を上げつつ威嚇し始めるアウレリアを見て、アウラとフリーレンはアンニュイとも感傷的ともお約束とも取れる気分らしい。
「なんという魔力……」
しかし、魔法使いの少女――メトーデと、彼女に抱えられているフェルンは、恐らくアウレリアが全開にしているであろう溢れ出る魔力に慄いていた。
それは文字通り、500年以上生きた魔族と全く遜色なく、人間の老練した魔法使いを遥かに凌ぐものだろう。見かけだけならば、フリーレンとアウラよりも多く見え、色々な魔法使いと魔族を既に見ているであろうメトーデが、驚いているのだからそれほどのものだ。
ちなみにフェルンが、メトーデに抱っこされる形になっている理由は、アウレリアの方がなんか怖いからである。恐怖というよりも危機管理面の話であろう。
「いえ、私はお構いなく……」
また現在、聖都の郊外にあるハイターの自宅リビングには、アウラとフリーレンを含む5人に加え、部屋の隅でツィトローネも静観している。そのまま窓の外を眺め、木々や野に咲く花に無表情かつ動きもなく目を向けるばかりで、観葉植物程度の存在感に徹していた。
「私はお母さんの産道を通ったんだぞ!?」
「遂に言いやがったわねコイツ」
これが500年生きた賢者の姿。人ならざる外法に手を染めて尚、賢者と謳われる者なのだろう。確かに才も頭も常人とはかけ離れていると言う他ない。
「じゃあ、私は魔導書の解読に戻ってるね」
「コラ、逃げるな」
「アウラが悪いんでしょ?」
「環境と育ちは良かったわよ。というか、それを言ったらお前にも責任あるでしょうが」
アウレリアの実母と義母同然の者から割ととんでもなく無情な話がなされているが、それは魔族とエルフという長命種の価値観や関係が悪いのではなく、単に気の置けない間柄というだけの話であろう。
仕方なくしょぼしょぼした顔でフリーレンはこの場に残り、未だに嘆き声を上げるアウレリアと対峙する。
「がるるる……!」
「アウレリア様、ここに来たのには
それとなくアウラが制している側で、メトーデはここに来た理由を話す。また、この時点で、フェルンは名残惜しそうなメトーデの腕から離れた。
というのもそもそもの発端は、メトーデが今のフェルン程度の年齢の頃に先祖の祠で遊んでいたときに、地震で半開きになっていた石棺の中に新品同然の見た目をした金のペンダントと日記を見つけ、くすねたことである。
「お前、結構ロックじゃんね」
「まあ、あの娘ならソッチのほうがいいんじゃないかな? 子供好きだし」
元々、祖先が残した"魔族を殺せ"という身も蓋もない目的を先祖代々語り継ぎ、北部で最もイカれた魔術家系のひとつに数えられているメトーデの一族は、ひたすら魔族ひいては魔物を殺すこと以外にほぼ興味を持たないのである。
しかし、明らかに魔族と仲良くしていた写真と、魔族のいる村で暮らしていた日々が綴られた日記を読んで育ったメトーデは、外のことにも目を向けられるようになり、戦闘以外の魔法を覚えることや趣味を持つこと、そして他の地方に行きたいという思いを持つことになった。
「え……? ちょっと待って。アイツの末裔今そんな風になってるの?」
「魔王討伐のとき、特に会わなくてよかったね」
それからひとり立ちできるようになった頃に一族を出て、南下しながら日記に書いてあるような場所に立ち寄りつつ旅をして来たのだ。
しかし、魔族のいる村あるいはいた村は、500年の年月が経った結果、"天使のいる街"と呼ばれるようになっており、街の中央広場にペンダントの写真の魔族ことアウラかと言われれば、そんな気もする程度に酷似した見た目で翼の生えた天使のような石像が置かれているばかりの場所であったことは、少し悲哀を感じた。
ちなみに石像を撮った写真もある。朗らかに微笑んでいる姿がよくできており、一目で良い職人の技だと分かるだろう。
「ああ……アレね」
「まあ、すぐ忘れちゃう人間のことだからね」
そして、メトーデはその街でルーツについて探した結果、街にあるダンジョンの管理者権限を持つ先代の者に行き当たる。
それは最難関と謳われていたダンジョンが攻略された後、前任者は管理者権限を街に預けたのだが、その前任者がそれまで約400年以上権限を持っており、また魔王を倒した勇者パーティーの商人であったことに行き着いたのだ。
そのため、アウラが持っている様々な資格や身分や公的文書から現在の居場所を突き止め、こうしてやって来られたということである。
「身バレがはや過ぎる」
「アウラ、マメだもんね」
「お前もせめて魔法使いの申請ぐらいしなさいよ」
「やだよ、人間の身分証ってすぐ使えなくなるんだもん」
「えっ……フリーレン様は闇魔法使いであらせられるのですか?」
そんなこんなで、メトーデは目的というよりも善意も悪意もなく好奇心によって来るべくして来たということが正しいだろう。
そのため、誰がこの事態を引き寄せたかと言えば、まあ悪いという訳ではないが、アウラのせいという話に帰結した。
そして、話の一部始終を聞き終えたアウレリアは――。
「……北部高原から来たって……ふざけてるのか?
ワケってなんだ、もしかしてアレか?
どうせゆるい魔族やエルフなんだから、まともなものじゃないだろうって?
ポンコツ長命種ばかりだから、実娘の目も誤魔化せるとか……!
なでなでくらい許されるとか思ったんだろ……?
言い訳なんて、先祖からもう分かってんだよ!
どうせ小っちゃい子の頭を撫でるのが好きなんて考えで……白昼堂々、ぎゅーっとしようってんだろ!!
もう限界だ!! 末代まで馬鹿にしてくるなんて!!!」
突然、キレ散らかした。
どうやら既に人の言葉も解さないらしい。あるいはことの本質を誰よりも見抜いているのかも知れないが、少なくともこの場においては誰よりも異常者であろう。
そんな様子で、魔族のように素手のままで魔法を行使し始めるような素振りさえあるアウレリアを見たアウラは、溜め息混じりにポツリと呟く。
「ツィトローネ、アウレリアを止めなさい」
「お母さん、今の私には不可能です」
そう言いつつツィトローネは、首だけをアウレリアの方に向けるばかりで部屋の隅の椅子に腰掛けたまま動こうとしない。
それもそのはず、アウレリアは生きる人間の賢者のひとり、ツィトローネはアウラの庇護下にいるとは言え、年若い魔族でしかないため、勝ち目などある筈もないだろう。
「邪魔をするなァアッ!! クズがッッ!!!!
嫉妬を知らない貴様ごときがア! ええッッ!?
私の苦しみ、孤独を……恐怖を、理解できるのかア!!? ぽっと出小娘魔族のクセに出しゃばるなァッ!! これは私の――」
「殺しなさい」
「はい」
「えっ……?」
あまりにも当然かつ無機質に行われたその会話と、単純で絶望的な言葉に疑問符をフェルンが浮かべた――次の瞬間、アウレリアの全身が弾けたかのように発火した。
『
「アツゥイ!!」
隙間無く燃え盛るそれは、さながら人型の炎のようであり、木造の室内にも関わらず、アウレリア以外に一切被害を与えない赤より緋い火であるそれは、不気味な魔族の魔法以外の何物でもないだろう。
ただ、煌々とした妖しく揺らぐ光だけが、メトーデとフェルンの身体を照らすばかりだ。
そして、すぐにアウレリアの身体は、塵も残さずに全て焼失し、部屋は何事もなかったかのような落ち着きを取り戻したが、肌を撫でる異質な熱風だけが何が起きたのかを現していた。
「アウレリアさ――」
『
次の瞬間、消失した場所に白く輝く人魂のようなものが現れる。
そして、見ただけでフェルンが目を回し、幾重にも折り重なり、高速で回転する術式が魂を包み込むように展開されていることにメトーデが息を呑み、それを中心に魔力の身体が形作られ、ものの数秒で五体満足な様子のアウレリアが現れた。
「頭は冷えた?」
「熱々にされたんですが……それは」
さも当然のように会話をするアウレリアであるが、実際落ち着いたらしく、さっきまでのような凶暴性は既に見られないため、効果的ではあったのだろう。
しかし、訳が分からない様子のフェルンとは対照的にメトーデは愕然とした様子であった。
「今のが……」
結界と同じような常時発動型の魔法であり、更に魔族を形作る肉体や魔力そのものを術式に落とし込み、魂すら絡めた外法中の外法。魔族の魔法を研究することが如何に有用かを証明した理由のひとつ。
そして、何より魔族と戦うことを生業としている魔法使いならば、数世代経とうとも未だに知らぬ者はいないであろう偉業――。
「約80年前に腐敗の賢老クヴァールによって中央諸国の戦線が崩壊した後、以後の南下を単身で数年押し止め続けたという賢者の魔法ですか……!」
「コイツ、肩書きだけなら普通に大英雄なのよ」
「アレに数年ってアウレリア以外にまずムリだよね」
アウレリアの魔力で構成された肉体は、一見すると通常の人間と同じように見えるが、魂と肉体がそれぞれ完全に独立しており、実際には魂という核を死後の法則を操作する類の膜で保護し、それらを体という幾らでも代替の利く外殻で守るという構造によって成り立っている。それはアウラという母であり、師が魂を扱うという分野において天賦の才を持つからこそできた魔法であろう。
要するに賢者アウレリアという存在は、肉体を殺しても一切被害のない法則の外にある魂を滅ぼすか、魔力切れで消滅する以外の方法では半ば不死身なのである。
「えへへ……もっと褒めて……」
「よしよし。クヴァールが復活したらまたがんばろうか」
「えっ、死んでも嫌……」
魔法史のことをよく知らないフェルンには、それらのことはよくわからず、フリーレンに撫でられてご満悦な様子のアウレリアを見つつ疑問符を浮かべて首を傾げるばかりであった。
「うぇへへ……幸せ……。刻まれた言葉が、心に浮かぶ……我が下心を、ここに棄てる」
「床を汚すな」
「前から気になってたんだけれど、アウレリアってなんで決まり言葉みたいなこというの?」
「お前、その話、500年温めてたの?」
「聞くタイミングがなかったし、次に聞こうとしたら忘れてた」
感覚のズレた発言にまた小さく溜め息を吐いたアウラは、そんな様子をしつつもフリーレンになでなでされているアウレリアを見つつ口を開く。
「アウレリアの"
「ミーム?」
ミームとは、基本的には脳内に保存されつつ他者の脳へ複製可能な情報のことであり、習慣・技能・物語などの社会的、あるいは生活や歴史などの文化的な情報である。
そういった文化の中で、人から人へと広がっていくあるいは受け継がれていく行動やアイデアなどのことであり、またミーム汚染とは、自身のものとは別の他のミームへの接触により無自覚な認識の変更がされてしまうことを指す。
「要するにアウレリアの頭の中は、私の中に既にあった無意識の認識に汚染され切っているのよ」
「へー、そうなんだ」
「つまり……アウレリア様がおかしいのは、アウラ様の頭がおかしいからなのですか?」
フリーレンは聞いておいて、あまり興味をそそられなかった内容だったのか、若干生返事であるが、ことの本質を捉えたフェルンの言葉の刃により、アウラが少し固まる。
「フェルン、人間なら私とかフリーレン以外には口の利き方には気――」
「ぬるぽ」
「ガッ――をつけるじゃんね」
「わぁ……」
なんだかわからないが、恐らくこれ以上踏み込んではいけないことを察したフェルンは、閉口するばかりであった。
「まあ、アウラがおかしい魔族なのは今に始まったことじゃないし」
「うるさいわよ、フリーレン」
歯に衣着せぬ物言いなのは、フリーレンとアウラの関係性らしいものとして、それをアウラが否定しない辺り、自覚はあるらしい。
「それで? お前は私に会って何か用があるの?」
「そうですね。アウレリア様の魔法を見て改めて思いましたが、やはり私の一族は元を辿ればアウラ様が開祖のようなもの。叶うならば、師事できればそれ以上の――」
「――却下よ、却下。意味も理由もメリットもないわ」
本題に戻り、メトーデに向き合ったアウラであったが、その発言に発言を被せて否定する。どうやら祖先のときのように一筋縄ではいかないらしい。
「いいじゃんアウラ。私が解読するまで暇でしょ? 意地張ってないでまた師匠になりなよ」
「…………そういう問題じゃないのよ、今回は」
ちなみにフリーレンとアウラは、勇者パーティー時代の僧侶であるハイターに魔導書の解読を頼まれたのだが、フリーレンが指名されたため、アウラは関わらずに行われている。
また、そのことに関してアウラは特に何も口を出さないどころか、解読に一切関わっていない。そのため、この辺りで取れるもので作った魔法薬や魔道具を偶に聖都へ売りに行きつつ、フェルンの師のようなことをしている程度なのだ。
「お前さ。フェルンやツィトローネと違って、見たところ魔法使いとしてはほぼ完成しているじゃない」
そう言いつつアウラは、メトーデの身体を見回す。常人にはそのように見えるが、魔法使いとしては、全身の魔力やその流れを見ており、それだけで少なくとも彼女が既に並みの魔法使いではないことを見抜いているのだろう。
「仮に師事したとしても私が入るような余地はあまりないでしょうね。無駄よ、無駄。お前の短い時間のね。普通に実戦経験を積むか、色々な魔法使いの魔法でも見て、大陸魔法協会で一級を目指した方がよほどに建設的だわ。お前なら……そこまで難しくはないでしょう」
"少なくとも先祖のアイツが来た頃よりもよっぽど上等よ"と、アウラは言葉を締めくくる。どうやらアウラにしては、メトーデのことを褒めており、相変わらず言葉は強いが、相手のことを現実的かつ実益を見て言っているらしい。
「そうですか、ところで……」
「なによ? 今度は褒めても絶対に首を縦に振らな――」
「ここに私が集めた"メダル"が50枚ほどあるのですが……」
「先に言いなさいよ」
次の瞬間、アウラはメトーデが懐から出した小さな布袋を目にも留まらぬ速度でひったくる。
そして、その袋の中身を見ずに重さを確かめるように片手で上下に揺らし、少しの間だけシャリシャリとメダルの擦れる音を鳴らす。
「……53枚ね。良いわ、師匠になってあげる。ビシバシ行くわよ?」
「ありがとうございます」
「うっそだろオマエ……」
自身の発言すら捻じ曲げる驚くほど綺麗で熱い掌返しに流石のアウレリアも軽く引く程であった。
「アウラはそのメダル大好きだからね」
「好きじゃないわよ。いつか、好事家に高値で売れるわ」
「……アウラって生きてこの方、1枚でもメダル手放したことあったっけ?」
「……? そんなもったいないことするわけないじゃない」
そう言えば、基本的にアウラはこういう奴だったと、フリーレンは絶妙な表情を浮かべる一方。他の面々は苦笑いや微笑ましく見守るのであった。
「フェルン様」
今回の騒動がひとまず落とし所になった頃、フェルンの近くにツィトローネが寄って来る。
そして、何処か嬉しげに口元をほんの少し歪め、そのまま言葉を続けた。
「下ができました」
「嬉しそうですね……」
このまま、ここはどこまで賑やかになってしまうのだろうと、不安とも気怠さとも思える感情を覚えられる一方、何処か少し楽しさも感じるようになって来たフェルンであった。
〜 道具紹介 〜
・幸せな日記
ある一族の祖、アウラの弟子が遺した日記
彼女が師を得て北部高原へ至る全てが書かれている
死と共に埋葬され、数百年
墓暴きという不遜は、彼女にとっては微笑ましく
そして、日記の最後にはこう綴られている
我が子孫、あるいはそうでない者よ
これを読み終えたのなら
メダルを蒐めなさい、50枚ほどあると尚よい
それはいつかの未来へ託した縁であった
・小さいメダル
アウラが便宜上そう呼んでいるだけで、本来の名前は誰も知らないほど昔からあり、何処からでも見つかる可能はあるが、探すとなるとけっこうレアという絶妙な塩梅のメダル。アウラが積極的に収集しており、本人曰く"いつか、好事家に高値で売れるじゃない?"とのこと。しかし、生まれてこの方誰かに売ったことはなく、好事家を前にすると自身のメダルの存在を絶対に明かさないが、相手の持つメダル枚数を執拗に知りたがり、知ると大方したり顔になる。
※アウラのメダルショップで物々交換用アイテム