転生したらアウラだった件   作:ちゅーに菌

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いつも感想や評価ありがとうございます。遅れて申し訳ありません。一話にまとめる予定でしたが、生存報告を兼ねて前後編でございます。


キャットファイト

 

 

 

 

 

 

 ハイターと聖都シュトラールの郊外に住み、師や姉弟子のようなものとしてエルフや魔族を持つフェルンにとってこの辺りの土地は庭のようなものである。

 

 しかし、彼女の庭は、現在見渡す限りの黒鉄と白銀に染まり、酷く硬く冷たく生命の気配をまるで感じぬ異質な場所へと成り果て、それを遥か上空から眺めるばかりであった。

 

 

「フェルン様、メトーデ。私から離れないでください。地上に居ればお身体の安全は保証しかねますので」

 

 

 フェルンを腕で確りと抱える魔族のツィトローネは、現代の防御魔法を下方向に張り巡らせ続け、それを数十層重ねることで10mほどの透明の盾とし、また足場として利用することで、自らを含めた3人の魔法使いを護りつつ下を見ていられる環境を作っている。

 

 それはただの人間の魔法使いならば、2〜3分も展開すれば魔力切れを起こすような代物であり、それをただの硬い足場として使用する判断をしている辺り、人間とは格の違う魔族らしさであろう。もっともツィトローネ自身が同年代の魔族と比べて別格に魔力量が多いという理由もあった。

 

 実際、フリーレンやアウラからするとツィトローネが後100〜200年も生きれば、容易く魔王軍の将軍クラスに達するほどの肉体のポテンシャルと、卓越した魔法の才を持ち合わせた個体なのだ。過去に幼少期のツィトローネを追い詰めた時にヒンメルが躊躇し、その村の村長が止めていなければ、両者が羽虫を潰すように殺していた判断は何も間違ってはいないだろう。

 

「これは……。紛れもなく魔族の魔法ですね」

 

「ええ、お母さんは"大鎌を廻す魔法(シュピラーレ)"以外に自身が作り出した魔族の魔法を持っています」

 

 空から見下ろすその世界とも言える魔法の中心――約十数kmの無機質と化した大地の中にアウラは立っていた。

 

 メトーデの呟きがなくとも明らかに術者はアウラであり、彼女が普段は着ることがほぼない魔族らしい軽鎧の装束を纏っており、遊びがなく面白くなさ気な表情をしていることから本気でそこにいることが伺える。

 

 更にアウラは、普段からフリーレンほどでないにしろ抑えている魔力を全て解き放っており、その濁流のような奔流は、アウレリアのものと比べるべくもないほど暴力的で莫大であり、それは彼女が魔力量を増やす修行を500年以上片時も怠ったことがないと証明しているだろう。

 

「ひとつの魔法を研鑽し続けると1世紀もしないうちに人も魔族も急速な伸び代はなくなるそうで……」

 

 それは人間や魔族あるいは魔法使いによるものというよりは、魔法という存在そのものの性質であった。

 

 魔法を一から編み出し、その強みを更に強化し、また削り研ぎ澄ませ、究極という果てのない高みまで研鑽する。そんなことをし続けて目に見えるような成果をハッキリと確認出来なくなるのが、精々100年程度という話である。

 

 実際、現代魔法の基本である防御魔法や一般攻撃魔法(ゾルトラーク)が、人間の魔法体系に組み込まれてから100年も経っていないが、既に魔法自体の発展に目覚ましい成果というものはほぼないであろう。一般攻撃魔法であれば精々、弾数、弾速、射程に多少の差異がある程度だ。それどころか、魔族の飛行魔法をそのまま転用したように理論を抜きに使う者すらいると考えられ、それは最早形骸化したと言っても差し支えない。

 

 少なくともアウラは500年前からそう考え、ひとつの魔法を研鑽し続ける魔族や一部の魔法使いなどを時間の無駄と言い切るレベルの魔族にあるまじき思考をしているだろう。

 

 そんなアウラが地上から見上げる先には――――宙に佇みつつ見下ろし、一切魔力を制限せずにアウラの倍以上の魔力を放ちながらただそこにいるフリーレンの姿があった。

 

 それは伝説の名に偽りはないであろう。

 

「フェルン様」

 

 魔王を討伐した伝説の大魔法使いと大魔族。

 

 その2人が、次の瞬間に激突するであろう光景を目の前にし、ツィトローネがフェルンに話し掛け、それにフェルンは真っ青にしている顔を向ける他ない。

 

 

「どうやら、貴女も選択を間違えてしまわれたようですね」

 

 

 いつもと変わらぬ無表情だが、何処となく口角が上がっているように思えるツィトローネを見つつ、先に言って欲しかったと思う他ないフェルンなのであった。

 

 

 

 ことの発端は、約30分と少し前まで遡る――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔法が好きかどうかですか……?」

 

 フェルンは、フリーレンからされた質問を他の魔法使いにもしてみることに決め、早速行動に移した。

 

 最初の質問した相手は、アウラの弟子であり、相対的常識人であるメトーデであった。現在、彼女はアウラから指導試合を受けた結果、魔力切れによって地面で伸びていたところである。

 

 メトーデがメダルを出すまでは、時間の無駄と話していたアウラであったが、蓋を開けてみれば彼女がこのようになっているところからもアウラの嘘であったのだろう。アウラは嘘を吐かない魔族ではなく、嘘を使い分けるより悪辣な魔族なのだ。

 

「まあ、好きなのでしょうね。魔法は魔族を狩る手段だと叩き込まれて生きてきましたが、私をここに至らせたものも間違いなく魔法ですから……」

 

 そう言うとメトーデは微笑みつつ言葉を続けた。

 

「4:6で魔法が好きです」

 

「ぎりぎりですね……」

 

 若干、嫌い寄りでもあるということらしい。戦闘民族と言える部族の出であるにも関わらずフェルンから見ても優しいと思える女性がメトーデのため、魔法自体は好きだが、部族はあまり好きではないと言ったところらしい。

 

「現代の魔法使いは、私やフリーレンからすればごっこ遊びも同然よ」

 

 そんな話をしていると、指導試合で幾らか荒れた環境を魔法で戻し終えたアウラが戻って来た。ついでにやたら尊大なことを話しているが、実際実力に伴っているため何とも言えないだろう。

 

 

『まずは私に別の魔法を使わせてみせなさい――"人を殺す魔法(ゾルトラーク)"』

 

 

 実際、試合の一部始終を見ていたフェルンの率直な感想は、あまりに圧倒的で一方的な蹂躙であった。

 

 禍々しくドス黒い色をした魔族の"一般攻撃魔法(ゾルトラーク)"。それはいったい何に倣ったのか、音を奏でる指揮者にも似た詠唱から放たれ、流星雨のような物量と、一撃一撃が明らかに通常の魔法使いが用いるものより遥かに重く、防御魔法ごと捻じ伏せる。その上、多数放った後にひとつに収束させる。逆にひとつのそれが数十以上に枝分かれして襲い掛かると言った技と言える技術にも長ける。

 

 また、途中でメトーデが何度か魔法を撃ち返してはいたが、"一般攻撃魔法(ゾルトラーク)"で物理的な魔法が発生した瞬間に起点を潰し、多少発生を許しても飛来する魔法自体を迎撃するという卓越した操作技術によってその場から一歩も動かずに完封していた。

 

 恐らく、フリーレンがフェルンに目指させているであろう理想は、アウラを基準にしたものであろうことが予想されるため、フェルンが多少気圧されたのは仕方のないことだろう。

 

「単純に現代の魔法使いの魔法には殺意が足りないという話ね。戦闘魔法は殺しの魔法。そこに遊びや個性は必要ないわ。ただ速く、大袈裟でなく静かで、遠くまでよく届き、より深く貫く。それだけで十分よ」

 

 それだけ言うと、アウラの手に"一般攻撃魔法(ゾルトラーク)"が灯り、魔力の収束の直後に空へと放たれ、それによる大気の軋みをフェルンは肌で感じる。

 

 黒い極光は遥か上空へと突き進み、人間の飛行魔法では限界の高度にある雲を容易く突き抜けて消えた。

 

 ハイターが設定し、フェルンが目標としている距離よりも明らかに長く飛んでおり、威力を失った様子も見られない。魔力操作技術に天賦の才を持ち、それを魔族らしく殺すことに注いでいるのだろう。

 

 口には決して出さないが、アウラは自身の存在そのものをフェルンの教本にしようとしていることがフェルンにもわかった。本来、弟子を取らず、子も育てることのない魔族にも関わらず。

 

「……お前はいつまで寝たまま黙って私を見ているの? 外傷は与えない程度に加減したつもりだけれど、何処か怪我していたなら早く言いなさい」

 

「いえ、やはり小さくて可愛らしいなと思いまして」

 

「泥水で口を洗え」

 

 アウラはバッサリと告げつつメトーデを肩に担ぐと、そのまま小屋に戻って行く。

 

 元々、魔物の中でも上澄みの身体能力を持つ故か、本人の気質なのかは不明だが、アウラは魔法を使わなくて済むことにあまり魔法を使わない質らしい。

 

「うーん、やっぱりお母さんは変わらないわ。

 いいわねぇ、痺れちゃう感じよ。

 ハナビでも見てるみたいに綺麗だったでしょ?

 多分、一番上手い使い手よ。私の知る限りだけど。

 私じゃ、ムリでしょうねぇ。あのレベルになるのは。

 まあ、でも! フェルンちゃんならきっといい線イケると思うわ」

 

 すると入れ違いのように何処からともなくアウレリアが、フェルンの背後に生えてきた。その上、背中から抱き締められてから気付いたことにフェルンは驚く。

 

 魔力を断つのがフェルンからしても凄まじく上手く、その点に関してはフリーレンに並ぶとさえ感じるが、そもそもアウレリアの師が実質的に誰だったのか考えると自ずと答えは出るだろう。

 

ラウラ(姉さん)は最も多くの魔族を殺した伝説の魔法使いだった。アウル(兄さん)は愛に全てを賭けて魔法史に名を刻んだ伝説の魔法使いだった。妹は……死んだけれど恐らく元気よ。大丈夫、貴女には偉大な血が流れている上、私の妹みたいなものでもあるんだから……」

 

 どうやら偉大な師を持つことをアウレリアなりに励ましているらしい。母親とエルフさえ絡まなければ、気さくで優しいお姉さんなため、フェルンは小さく溜め息を吐く。

 

「はぁ……」

 

「あれれ……? なんか思ってた反応とだいぶ違いますね……?」 

 

 "お姉ちゃん泣いちゃいますよ?"と言ってよよよと大袈裟に嘆く動きをするアウレリア。

 

 それを背中に感じつつ彼女にも魔法が好きか聞いてみることにしたが、よくよく考えれば、"お母さんとエルフが好きです!"などと質問と微妙に異なる妙な解答をされる気しかしなかったため、その質問を取り止める。

 

 その代わり、先ほど言われたことからふと頭に浮かんだ疑問を口にすることにした。

 

「アウレリア様。私はアウラ様のお子様方の中で、どのお方の子孫なのですか?」

 

「え゛……?」

 

 それを言われた瞬間、アウレリアは固まる。いつもと違う反応を疑問に思い、腕から離れて振り向きつつ彼女の顔を見ると、明らかに狼狽した様子で目を泳がせている姿があった。

 

「えっと……。どうしてそんなこと聞くのかな? それに500年は経ってるから家系図を辿るなんて流石に難し――」

 

「アウラ様は、私を見た時から私が子孫だと見抜いていたようですので、そのようなことも魔法でわかるのではないかと思いまして」

 

「ひぃん……」

 

 何故かアウレリアは小さく聞いたことのない悲鳴を上げた。よく見ると彼女の頬がやや紅潮しており、何処となく恥ずかしがっているようにさえ思える。

 

 そもそも既に人間からすれば短くは決してない期間、アウレリアはここに滞在しているが、その理由は謎である。時間の感覚が違うためと言ってしまえばそれまでだが、それにしては若干違和感があるのだ。

 

 そもそも彼女はなぜここに来たのだろうか?

 

「あっ! ちょっとお姉ちゃん、ミリアルデ様のお酒が切れそうなのを思い出したので買いに行って来るじゃんねぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 話し終わる前にアウレリアが逃げた。

 

 ドップラー効果を響かせながら既に米粒のように小さな空の彼方におり、現代のそれとは比べ物にならないほど、人間離れした飛行魔法に舌を巻くばかりである。

 

「アイツ……。まだ言ってなかったのね」

 

 するとメトーデを置いて戻って来たアウラが、ため息混じりにそんな言葉を呟く。

 

「不器用なのは誰に似たんだか……。まあ、なんとなくもうわかっているかも知れないけれど、向こうから切り出して来るまで待ってあげなさい」

 

「そうですか……」

 

 アウラもこう言っているため、今の質問は胸にしまっておくことにした。

 

「アウラ様は……魔法は好きであられますか?」

 

 その代わり、アウラへ魔法が好きかどうか聞くことにする。元々、フリーレンとアウラに聞きたかった質問内容であるため、実質最後であろう。

 

「好き……? 魔族にとって息をするようにしていることを好く道理があるかしら?」

 

 それはある種、当然と言える解答で、フェルンも予想していたため、それで納得するつもりであった。

 

「魔法は、誇りよ。昔も今も……死んでもね」

 

 しかし、アウラが更に話を続けたことで、フェルンは黙ってそれを聞くことにする。

 

「というか、好きとか嫌いとかの話じゃないわ。オタク趣味をしている合間に人生をしている奴か、人生の合間にオタク趣味をしている奴かの違いが重要なのよ。後者とは理解し合えない、別の生き物ね」

 

(オタクとは……?)

 

 アウラ特有の妙な造語のようなものを交えつつ"自分が前者ならイチイチ考える必要はないわ"と付け加えた上で、更に言葉を続けた。

 

「だから重要なのは、好き嫌いではなくて理由。なんのために魔法を使っているのか、なぜ魔法を作ったのか、それだけよ。魔法には、作った者の生涯全てが現れるの。それは人間でも魔族でも同じことよ」

 

「ならアウラ様にとって魔法とはなんなのですか?」

 

「それは……」

 

 フェルンの質問にアウラは、少し間を置いて考えるように止まる。それから細く息を吐き、ポツリと呟く。

 

「70年ぐらい前まで自覚していなかったのだけれど…………私はね、フェルン。死にたくないの、誰よりも臆病なのよ。だから私にとって魔法は、"生き残るための手段"ね」

 

 日頃から尊大で誰に対しても高圧的な様子を隠すこともない姿を知っていれば、あまりに意外な言葉であろう。

 

「魔族は嘘吐き。魔族の言葉は人間を食べ易くするための鳴き声。それは私もそう変わらない。だから私の嘘は……"虚勢"よ。そうやって嘘を吐き続けて生きて来たわ」

 

 それはアウラの生涯そのものと言っても過言ではない。彼女は昔も今も魔族らしく常に嘘を吐き続けているのだ。

 

「"服従させる魔法(アゼリューゼ)"なんて聞こえは良いけれど、その実のところ作った理由は、何事もなく平穏に暮らせるためのモノよ。本当は……村人に裏切られたときに使う予定だった」

 

 "そうはならなかったけれどね"と言って、アウラは小さく肩を竦める。

 

 "服従させる魔法(アゼリューゼ)"は、育った村で村人を欺いて暮らすための保険に作った。天秤は裁判の象徴であり、平等でないものを公正とするためである。

 

 "大鎌を廻す魔法(シュピラーレ)"は、一見すると攻撃的に見えるが、相手を閉じ込めることや、自身を守ることに特化している。また、本質的に鎌は農具であり、武器ではない。

 

 作った当初は"強制脱出魔法(フリチェバウンス)"などと特に理由もなく名付けていた魔法は、自らを守るため以外の何物でもないだろう。

 

「500年以上生きて、他にも沢山の魔族の魔法を作ったり、他の魔族から魔法を学んだり、盗んだりしたわけだけれど――"血を操る魔法(バルテーリエ)"」

 

 アウラが話の途中で、ふと自らの指をやや大きく傷つけると、そこから滴った血が意志を持つかのようにうねり出す。

 

 それは数秒ごとに花や生き物の形に変わり遊ぶように形作る一方、そのまま出血箇所に留まって止血し、血が体内に戻ると付けた傷は殆ど跡形もなく消えていた。

 

「――何れも私が死に難くなるものしかないわ」

 

 "死にたくない"――。

 

 ただそれだけの単純で生き物の本能とも言える願いの果てに彼女は、魔王にさえ歯向かった勇者一行の魔族の商人としてこの場にいるのだ。

 

「だから魔法は面白い。魔法を見れば、その者の人となり、それと生きた道標がわかる。それに嘘は吐けないわ。それは覚えておきなさい」

 

 そこまで言ってアウラは一旦話を区切ったが、すぐに思い出したように"ああ、そうそう"と続け、言葉を付け足す。

 

「それと、嘘っていうのは嘘を吐いた相手が死ぬまで貫き通せば真実になるのよ。もしくは吐いた後に真実になれば、嘘でなくなるわ……まあ、人間なら珍しいことでもないかも知れないわね」

 

「……難しいですね」

 

「大人になればそのうちわかるわよ」

 

 それだけ言うと、アウラはフェルンの頭を撫でる。その手つきは手慣れているのか、撫でられている側が心地よく感じるほど細やかで優しげに思えた。

 

「ああ、質問は魔法が好きかだったわね……。きっと魔法の才がなければ、魔族ではなければ、私がこんな生涯を送ることはなかったでしょう」

 

 そう言ったアウラは、撫でる手を止めて左手を少し掲げると、その薬指に嵌まった銀の指輪を見つめる。

 

 その表情は、何処か少しだけ柔らかく微笑んでいるようにフェルンには感じられ、同時にそれはここではない遥か遠くの何かを見ていた。

 

「ふふふっ……わからないけれど、きっと好きなんだと思うわ。今までもずっと、これから先も、ね」

 

「そうですか……」

 

 魔法というよりも魔法を通じて大切なものがあったのだと考え、フェルンはそれ以上詮索することはない。

 

 成長の中でフェルンにとってアウラとは、いつしかまるで祖母にも近い存在となっており、気の置けないどころか寄り掛かれる存在で、嘘が上手で不器用な方だと印象付くのであった。

 

 

「うわっ、アウラがへんな笑い方してる……」

 

 

 やり取りを終えようというところで、いつの間にか小屋からこちらを眺めていたフリーレンから、そんな呟きが聞こえ、アウラの表情が無表情に戻る。

 

「何よ、フリーレン? 他魔族(ヒト)の勝手でしょうが?」

 

「いや、別に。居間にメトーデを投げ捨てたまま、中々戻ってこないし」

 

 直ぐにフリーレンとアウラは小言を言い合い始めた。

 

 互いに仲が悪いというわけではなく、むしろ長年連れ添っているだけあってとても良いように思えるが、そのせいなのか、考え方が真逆なことが多いからなのか、しょっちゅう衝突している。その割りには、喧嘩にならず後腐れもしないので不思議な関係である。

 

(全然違うのに……どこか似ていますね……)

 

 フェルンは、友人とはこういうものなのかと思いつつ、アウラの指輪にさっきまで目を向けていたせいか、フリーレンの左手の薬指を飾る"何かの花を象った指輪"にも目が行き、いつかフリーレンから過去を話してくれることもあるのだろうかと考える。

 

 すると、ふと疑問が浮かんだ。

 

「あの、フリーレン様とアウラ様は……」

 

「ん、どうしたの?」

 

「あら、何かしら?」

 

 それは些細なものであり、つい先ほどアウラとメトーデの指導試合を観た後でなければ考えず、普段のフェルンなら口にしないであろう疑問である。

 

 

 

 

 

「どちらの方が――おつよい魔法使いなのですか?」

 

 

 

 

 

 それを言った瞬間、2人の魔力が明らかに激しく揺らぎ、また無言の時間が少しだけ生まれ、世界が凍ったようにさえ錯覚した。

 

 

 

「あー……あー……」

 

 

 

 ふと近くから別の人物の呟きが耳に入ったため、そちらを見れば、ツィトローネが小屋の玄関扉の前に立っており、フェルンへ向けて眉を少しハの字にしつつ、絶妙な半笑いを浮かべるという奇妙な様子が目に入る。

 

 それは"やってしまいましたね……"と言わんばかりであり、見ているだけでなんとなくムカついてくるような魔族らしからぬ豊かな表情に思えた。

 

「それはフェルン――」

 

「は? そんなの――」

 

 そして、次の瞬間にどちらからと言うわけでもなく動き出したフリーレンとアウラは、キリリとした表情でそう言い放つ。

 

 

「とーぜん、私だよ」

 

「まあ、私じゃんね」

 

 

 フリーレンの自信ありげに"むふー"と鼻を鳴らす様子と、アウラの当然のように淡々と宣言する様子から互いに全く冗談でなく遠慮もないことは明白であろう。

 

 直ぐに2人は顔を見合わせ、先に口を開いたのはアウラの方であった。

 

「フリーレン、問いが分かっていないようね。フェルンは魔法使いとして、どちらが強いかって聞いているのよ?」

 

「それなら私でしょ。魔力量も研鑽を積んだ期間も上だし。一般的な魔法使いとしては、間違いなく上の魔法使いだよ」

 

「なに魔族みたいなこと言ってんのよ。人間らしく、魔法使いなら対面との戦闘相性でモノを言うべきじゃない」

 

 それは、互いの考え方の決定的な相違であり、常に隣にいる代わりに決して交わることなく何処までも続く平行線。

 

「んー? 戦ったら私が、アウラに負けるって?」

 

「当たり前よ。お前は対魔族のために魔力制限をし続ける修行をしているせいで、同年代の魔法使いと比べたらふた回りは劣るでしょうが。500年以上を経て、ゼーリエの奴が好きそうな武闘派魔法使いとして大成している私に勝てるとでも?」

 

 そして、売り言葉に買い言葉が始まる。もうこうなるとただの痴話喧嘩であろう。

 

「うふふ……アウラはやっぱり魔族だねぇ」

 

「肝心なところが致命的に足りないのはエルフらしいわね、フリーレン」

 

 それぞれの背後にデカい猫のようなものと、細いドラゴンのようなものが浮かぶイメージが、フェルンの頭に湧いた。

 

 フリーレンはこう見えてもかなりの負けず嫌いだ。対するアウラは自身の嘘を虚勢と語ったが、それは同時に彼女が貫き通す魔族らしい誇りでもあり、そのため決して逃げることがない。

 

 

「表へ出ろ、クソエルフ……」

 

「ぶっ飛ばしてやる、アホ魔族……」

 

 

 誰が言ったか、争いは同じレベルの者同士でしか発生しない――。

 

 つまり、結局のところ単純に互いが互いに対して得意分野で絶対に負けたくないだけなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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