Q:おい、前話投稿から半年経ったぞ?
A1:
今回の話がクドくないように書き直していた結果、前話以上に難航し、凄まじく時間が掛かってしまい、大変申し訳ありませんでした。
A2:
もんくえ(育成)とか、エターナル(微課金)とか、フォレスティア(作者のおすすめ同人)とか、ナイトレイン(たこシあ)とか、シャドバ(今B3)とか、タルコフ(破産)とか、たこシあ(ゲーム外コンテンツ)に筆が止まる度に逃げ、気付いたら半年経っていました(作者の屑)
こんな生き物が小説を投稿しておりますが、また楽しんでいただければ幸いです。感想なども良ければどうぞ。
「中央諸国に向かえと……?」
大陸最北端のエンデ、そこに位置する魔王城にある謁見の間にて、現在3人の魔族がそこにいた。
一人は魔王の腹心である全知のシュラハト。もう一人は、黄金郷と呼ばれる異名を持ち、六崩賢に数えられる大魔族――黄金郷のマハトであり、その二人が会話をしている。
『………………』
そして、最後はシュラハトを侍らせて、この場にて唯一座しつつただ静観するばかりの存在――魔族らしく肌の一切を出さない全身甲冑を着た魔王と呼ばれる者もそこにいた。
もっとも魔王は、ただそこにいるだけであり、二人の会話に口出しするような素振りさえない。さながら石像のようにすら思えるだろう。
実際、この場においてシュラハトとマハトが話しているばかりで、それは魔王が居ないように振る舞っているようにさえ思えた。
「ああ、聞いての通り、魔王様からの勅命だ」
「……場所は?」
魔力による縦社会という生物としての完全実力主義である魔族は、六崩賢最強と名高いマハトでさえ、内心はどうあれ無条件に命令を呑む。
「フォル盆地近辺にある"魔族のいる村"と呼ばれる場所だ。そこで、アウラという魔族の女に会ってくれ」
「会うことが勅命……?」
魔王を前にしての勅命ということで、マハトは多少強引で意図を掴めない内容に疑問を溢しつつも、魔族の社会に則り拒否はしない様子である。
何せ、魔王が体外に放っている魔力だけで、軽くマハトの魔力量を超えた存在であり、それがそこにいるというだけで断る理由はない。それが魔族という存在だ。
「お前にとってもそう悪い話でもない。アウラは俺が知る限り、最も人間に近い魔族だからな」
「……ほう」
マハトは人間が持つ悪意や罪悪感、引いては感性や感情を知るための探究を長年行っており、その答えの鍵を握っていそうな相手を提示されれば、興味を持つなと言う方が難しいと言える。
また、人間とその文化や習慣などを研究している奇特な魔族の友人がマハトにはいる。そして、1000年先を見通しているというシュラハトならば、それを知らぬわけもないが、そのような者を差し置いて太鼓判を押すほどの魔族となれば、単純にそれだけで彼が出向く価値があるだろう。
既に彼の頭の中では、魔王の勅命は序でとなり、その魔族に会うことに意識を向け、それが行動に出ており、無意識に目を細めて自身の顎に手を触れる。
マハトのそんな様子を見たシュラハトは、目を少し伏せてマスク越しの口元に小さな笑みを浮かべているように思えたが、それを見ている者はいなかった。
「それだけか?」
「いや、それともうひとつある。お前にとある記憶を入れたい」
「それはでき――」
他者に魔術的な処理を受ける。
それは魔族という生物として許容できるものではないため、マハトが否定しようとした直後、それまで静観していた魔王の魔力が揺れ、明らかに兜越しの瞳がマハトを見据え――。
『――――――』
その視線とそれに伴う魔力は暴力等という生温い次元ではなく、マハトが見ただけで交戦する選択肢すら諦めるほどの存在に睨まれており、それ以上の言葉を吐くことができなかった。
明確に命とその処理を天秤に掛けられるならば、生物として命を捨てるような真似はしないだろう。
「――――ッ!?」
「悪いな……。これも魔族の未来のためだ……触れるぞ?」
"大したことじゃない"と更に言葉を続けつつシュラハトは、魔王のあまりに莫大な魔力と視線に押さえつけられているマハトに近付くと、その肩に触れ――魔法を起動させる。
「六崩賢が"七崩賢"だった未来にて――今より約500年後に黄金郷のマハトが、死ぬまで
魔王軍でも最強クラスの魔法使いである己が、500年後という魔族にとっては然程長くもない時間の先で死亡したことに対する驚愕を覚え――それと同時に存在しない筈の記憶の奔流によってマハトの思考は押し流されたのだった。
◇◆◇◆◇◆
目覚めたマハトは背に黄金と化した地面の冷たく硬い感覚を覚え――気絶していたことを感じると共に自身の敗北を悟った。
直ぐに思い出すのは、"
辺りに目を向ければ、戦後に廃墟と化した黄金の神殿のような残骸が転がるばかりで、黄金郷という名は見る影もない。
そして、手元を見れば――生成した金属の剣の姿があった。それは黄金という自らの生涯そのものである魔法を一時でも棄てたことを意味している。
「俺の負けか……」
「いえいえ、そうでもありませんよ」
誰に言うわけでもなく、自身に言い聞かせるようにポツリと吐かれたマハトの呟きに返答があったことにより、マハトは魔力を消して隣に座り込んでいた人間のようなもの――人類最強の戦士を自負したアウルに目を向け、彼の惨状に少し目を見開く。
そこには黄金の残骸に腰掛けつつ、何故かマハトが持っていた紙タバコを吸っていたが、下腹部から黄金の槍が貫通し、背中に生やしている姿があった。
更にマハトが髪を黄金の針に変えて投擲した物が至る所に刺さっており、既に治療したのか出血こそほとんどしていないものの深傷を負っていることは間違いない様相である。
自身に刺さる金の針を身体から引き抜いて、横に置かれたソリテールの大剣の脇に置きつつ、アウルは変わらぬ朗らかな笑みを浮かべながら口を開く。
「見ての通り、マハト様の槍が私を貫いていますので……贔屓目に見ても引き分け程度が、落としどころではないでしょうか?」
それはない。明らかに自身が負けているとマハトは考える。単純に互いがほぼ
相性が良いとアウルは言っていたが、その通りで、結界内の全てを己の黄金と化して戦ったマハトと、剣を強化するだけにしては異常極まりない出力だとしてもただの魔法剣を振るうアウルと比べれば、その魔力消費量の差は明らかだろう。
千日手になれば、どちらが負けるかなど目に見えており、結果として、自身の魔力は既にほとんどなく、それに引き換えアウルは半分ほど魔力を残していることが事実以外の何物でもない。
更に時間は不明だが、こうして隣に来れた上に煙草を吸う時間がある程度に気絶もしていた。これで負けでなければ、何を負けと言えばいいのかわからないレベルであろう。
しかし、そんな様子のマハトにアウルはくつくつと笑い、とても愉しげな様子を隠そうともしない。
「納得できませんか? ですが、現状はそうとしか言いようがありません。生憎、私はこれ以上消耗するわけにはいかないのですから……だってほら――」
するとアウルは身体を少し傾け、それによってマハトを挟んでアウルの隣に座っていたソリテールと目が合い、彼女はにこりと笑みを返す。
それから彼女は彼の傷に手でそっと触れ、人間ならば痛ましげに思いやるような表情を作ってみせた。
「うふふっ、こんなに怪我をしたアウルを見たのは初めてね。大丈夫? とっても痛そう」
「余力を残しておかなければ――ソリテールに殺されてしまいますから。これ以上の戦闘はどのみちできません」
そして、アウルは笑みを強めながら決まり切った事柄を話すようにそう言い切ってみせる。その表情は、マハトをして聖職者が信者へと送るような表情にさえ思え、本心から発言している事が伝わるだろう。
「今、満身創痍のマハト様にトドメを刺せば、その隙に至近距離から傷口へ魔力の奔流を浴びせられ、私は致命傷を負うことになります。その状態でも……まあ、勝てると思いますが、もしかすると刺し違えてしまい、本当に運が悪ければ、私だけが死んでしまうかも知れません」
ソリテールの奥の手は高密度の魔力をぶつけてあらゆるものを破壊するというものである。
「なので、何もせずに母さんを待つことが今の最善です。それに本人は否定すると思いますが、母さんが一番得意な魔法は、他人に掛ける回復魔法なので、致命傷の治療は私がしない方が良いですから」
つまり、暗にそれが真横から直撃した上でもほぼ殺せると言っているようなものだが、彼の実力を戦いを通して知ったマハトは、そもそも彼女が従うしかない状況になっている以上、事実なのだろうと考えた。
そんな話をするアウルに、ソリテールは悲しげに眉を潜めて表情を暗くし、顔を俯けながらも視線だけは彼から外さずに言葉を吐く。
「そんな酷いことしないわ……私を愛しているのでしょう? お願いだから信じて?」
「ええ、愛しておりますよ……誰より真摯に貴女を、何より貴女を信愛しております。ですので、信じ、信頼しているからですよ、ソリテール。必ず、私の貴女ならそうしますから」
そして、そんなソリテールの懇願する様子にアウルは、優しげな微笑みを浮かべ、子供に諭すように彼女の髪を撫でながらそう返した。
その光景をただマハトが見せつけられていると、満身創痍のような様子にも関わらず、変わらない様子のアウルがマハトへ向けて口を開く。
「不思議なものです。魔族と共存したいと宣う人間は少なくないというのに、そのどれもが、魔族を魔族のまま受け入れ、愛そうとはしないのです。何故か、魔族を人間として受け入れようとし、あるいは人間を押し付けようとした結果、勝手に絶望して破綻する」
"おかしな話です"と言葉を区切り、アウルは更に言葉を続ける。
「本質的に人間という生き物は、同種以外の生物との共存を望めないのです。なにせ、彼らが望むものはそもそも共存相手ではなく、人間の次に賢い生き物なのですから」
「それはそう、同じ人間にも関わらず、人種や文化、宗教といった様々な事柄で対立して、戦争にまで発展することも珍しくない生き物だから、ね? 自分たちよりも能力のある似た姿の生き物を受け入れるなんて、そもそも出来る筈がないのよ」
「ええ、全くそうですね、ソリテール。このような話を今までお付き合いをした人間の女性にすると大抵引かれ、大多数の魔族との話の種にしても右から左へ聞き流されてしまうので、貴女といると本当に楽しいです」
「うふふ……私もアウルと居ると退屈しないわ」
「…………なるほど」
マハトはそもそもソリテールがかなり思想が強めな魔族であることを知っていたが、アウルもそれと同等レベルの人間であり、2人が人間と魔物以前に似た者同士である事に気付くが、それ以上の事は口にしない。
「……ああ、すみません。こちらのことばかり話してしまい、貴方の話も――」
そこまでアウルが話した直後、魔力探知が僅かに反応し、マハトの目の前に三つ編みのピンクブロンドをした大鎌を振り被る魔族――アウルの母親であるアウラが現れた。
「…………」
それは明らかに魔族による瞬間転移の類の魔法であり、用途から超遠距離からの暗殺を可能とするものと思われ、それにやや遅れて驚いた様子のソリテールは反応し切れておらず、反射的にその場から距離を取る。
当然ながら満身創痍のマハトでは対処不能な代物であった。
その容姿は確かにマハトが知る断頭台のアウラそのものであったが、使う魔法も戦法もソレならば絶対に取らないものであろう。同姓同名の他者であろうとマハトが考えていた程だ。
言葉すら発さず、アウラは頭上に掲げていた大鎌をマハトの心臓目掛けて振り下ろす。そこに一切の躊躇も遊びもない。
その刹那、大鎌を持つアウラの片腕に3本のマハトの金の針が生えるように突き刺さる。
「母さん」
そして、空間に切り絵でも貼り付けたかのような速度でアウラの隣に大剣を振り抜いたアウルの姿が現れ――遅れて2度の剣閃が迸ると共にアウラの大鎌と、両足が半ばから宙に舞う。
アウルは重力に沿って地に落ちる両足を失ったアウラを腕でそっと抱え、同時に切断された断面から血が噴き出す。
更に辺りを視線だけで見渡したアウルは、マハトの盾になるように身を屈め――両足の治療より先に流れ出た血液を魔力を含む血霧へと変えて噴射し、魔力探知を阻害しつつアウルの腕から飛行魔法で退避するアウラの姿と、高速移動系の魔法でフリーレンが現れたのはほぼ同時に見えた。
アウルを挟むようにマハトの10mほど手前に出現したフリーレンは、胸の前で抱擁するように両腕を構え、500年以上生きるエルフの魔力が一点に収束し、それを見たアウルは驚きに目を見開くと共に眉を上げて歓喜に震える。
「それはソリテールの――」
次の瞬間、放たれたフリーレンの高密度の魔力による奔流は、アウルとマハト及び、魔力探知の阻害によって退避が間に合わなかったソリテールごと周囲一帯を削り取った。
◆◇◆◇◆◇
「やっぱり硬いなぁ……」
自身の魔力の光の残滓が一帯を覆う中、その中心を見つめながらフリーレンは、ポツリとそう呟く。
そして、小さく溜め息を漏らしながら肩を落とすように背を丸め――その直後、魔力の残滓の中から開かれた掌が飛び出し、フリーレンの首を掴む。
その腕の持ち主――魔力の奔流を全身に受け、各所から出血箇所が僅かに増える程度の被害を受けたアウルを、フリーレンは持ち上げられながら湿った目で見下ろす。
横目でアウルの後方を確認すると、膝を立てて座り込むばかりで、フリーレンの攻撃では無傷のマハトの姿があった。
「苦しいんだけど……?」
「フリーレン様、マハト様を殺したければ先に一言そうおっしゃって下さればよかったではありませんか? そう考えることは自由です。それにフリーレン様の境遇を考えれば、その想いも正当な権利でしょう……ああ、なんと痛ましい……」
「……でも、アウルぜったい怒るじゃん?」
「ええ、もちろん。怒りますし、必ず止めましたよ?」
そんな平行線どころか、最早会話すら成り立っていないようなやり取りの後、フリーレンは小さく頬を膨らませて押し黙る。
そんな様子を笑みを強めながら眺めたアウルは、フリーレンをそっと地に置くと、首から手を離し、身体を屈めて顔を近付けてから呟く。
「では、この場は私の意思を尊重して頂けるということで……私の
友人という言葉を聞き、既にアウルにとって価値を獲得していることを理解したフリーレンは、珍しく苦虫を噛み潰したような表情になり、マハトを睨む。その様子にマハトは空気を読み、視線をフリーレンから反らした。
「……………………………………わかったよ」
そして、やや長い沈黙の後、観念したように答えたフリーレンに対し、足を失ったままのために宙を浮遊しつつ戻って来たアウラが窘め、それにフリーレンが言葉を返す。
「だから、無理だって最初に言ったじゃん、ね」
「うるさいな、一度やらないと諦めがつかないでしょ?」
「アウルが寿命で死んだ頃に挑めばいいじゃない?」
「いや、万全のマハトになんか、私たちで勝てるわけないから。こんなチャンスは二度と無かった。そもそもなんで、アウラはそんなに格上魔族相手に好戦的なの? 死ぬよ?」
直ぐに二人は淡々と口論を始め、その様子をアウルは微笑ましいモノでも見るように黙って眺めていた。
するとそんな光景を他所に退避していたソリテールが戻り、マハトの隣にしゃがみ込む。
「あなたも災難ね、マハト。あんなに妙な人間たちと、変わり者の魔族に捕まっちゃうだなんて……きっと暫く窮屈よ?」
「クククッ……いや……そうでもない」
そう言うとマハトは余波で自身の隣に転がっていた一本の紙タバコを見つけ、それを手に取ると、辛うじて残っていた魔力を使い切り、ただ火を点けた。
「今度は別のものが見れそうだ」
「……? それはどういう意味かしら?」
それだけ言い、それ以上の言葉を発さず、何処か遠くを眺めながら煙草を吸うマハトは、少なくともこの場所に来てから一番美味そうに煙草を嗜んでいるようにソリテールには見えたという。
次回からマハトとソリテールを入れていつもの日常に戻ります(これがやりたかった)