転生したらアウラだった件   作:ちゅーに菌

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この小説ではフリーレンがフェルンと旅を始めた時点でアウラの年齢を五百年+数十年程としております。




アウラ(32歳)

 

 

 

 

 

 

 フリーレンに全力で媚びて己の魔生を売り払い、どうにか生き残ってから約半年経った頃。

 

 私はいつものように自室で起床し、まず自身の顔に乗せられた無駄に綺麗な足を退ける。

 

 そして、隣に置いた揺り籠で寝かせていた赤子を抱き上げる。起きると早速泣き出し始めたが、この泣き方は空腹を訴える泣き方のため、それを解消する事にした。

 

「びぇぇぇん! うわぁぁあぁん!」

 

「う……ぅぁ……や、やめてよぉ……」

 

「お前も起きなさいよ……」

 

 そして、私の部屋にはエルフ――フリーレンの姿もあり、赤ん坊の鳴き声によって顔をクシャクシャにしながらとんでもない体勢で布団に縋りついていた。

 

 私を殺そうとしたエルフの姿……? これが……?

 

 このフリーレンという500年も生きているエルフらしきものは、どういうわけか既に半年ほど私の家に居候していた。

 

 宿代が浮くし、この村に滞在している分にはこの家を使えばいいじゃない等と軽く言った私が多分に悪いため仕方がない。というか、暮らしてからわかったが、コイツの感覚で半年なんて"少し"ですらないのだ。

 

 まあ、魔族である私の監視も含めてなのだろう。部屋は余っているが同室を敢えて選んだ事も見極めのため、あるいは粗探しをしていると考える他ない。

 

「後、半日……」

 

「夜になるわよ」

 

「そしたらまた寝る……」

 

 ………………本当にそのつもりなのだろうか? なんか丁度いい寄生先を見付けたので、たかられているだけとかでは――いや、流石に無いか。私の油断を誘い、本性を曝け出したところで殺す算段なのだ。そうに違いない……なんと狡猾なエルフなのだろう。タマネギ嫌いなクセに。

 

「けぷっ」

 

 授乳も終えたので、兎に角、いつも通りこのツインテールミノムシをどうにかしなければいけない。

 

「シャンとして、髪結ぶわよ?」

 

「おのれ魔族……」

 

 そう言えば介抱してて知ったのだが、フリーレンの右腕は手の先を中心にして妙な金色を帯びており、質感も肌のそれではない。そのせいなのか、指をあまり上手く使えていない事もあるようで、今の彼女は割と本当に介抱が必要なのかも知れない。まあ、だから何だという話だが。

 

 若干日常となりつつあるフリーレンの介抱をしつつ、そもそもどうしてこんな奇妙な関係になってしまったのか考える。

 

 まず、中央諸国の聖都シュトラールから北北東の方向の位置にあるブレット地方のフォル盆地の近くに私の村はあるのだが、どうにもこれがいけなかったらしい。

 

 ここはかつて、フリーレンが彼女の師である大魔法使いフランメと住んでいた場所だったらしく、そこに久し振りに戻って来た彼女が、前来た時には無かったこの村に立ち寄った結果、私に出会ったとの事。

 

 つまり私にとって恐ろしく間が悪かったという事だ。知るかそんなもん。巫山戯んな。この世界の女神様とかいう存在はレズビアンのサディストに決まっている。

 

 とりあえず、フリーレンを起こして彼女をいつものツインテールにしたため、次は朝食を作るとする。無論、子供たち2人とフリーレンの分だ。私は趣向として以外はあまり必要ないため、一応朝食に参加しているという雰囲気を出すための飲み物のみでいいだろう。洗う食器増えるし。

 

 ちなみに私の旦那は、村長の家系の者としての仕事でここから一番近い街に出張しているため、移動期間を含めても後2週間は帰って来れないだろう。昔はズボラで面倒臭がり屋な子供だったが、大人になったらやたら仕事に熱心に取り組むようになったものだ。

 

 いや、私と結婚してからだったか? まあ、どうでもいい話だ。兎に角、早くやってしまおう。片付かなければ時間が勿体ない。

 

「うわ? わ……」

 

「あうー」

 

 私はそれぐらいやれという意趣返しにフリーレンに赤子を抱かせ、そのままキッチンへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妙な魔族と遭遇してから約半年――。

 

 フリーレンは生まれてから人間の村でずっと暮らしているというこの魔族の背中を見つめつつ、何とも言えない感覚を抱いていた。

 

 エプロン姿で包丁を手に持って使い、更に彼女はごく自然に調理道具を浮遊させて調理を行っており、明らかに人間のそれではないが、かと言って魔族がするかと問われれば、それもないと言い切れてしまうような光景である。

 

 そもそも社会性のない魔族が、人間の社会の中で暮らすだけでなく、家庭まで持っているにも関わらず、破綻していないということがあまりに異様だ。その時点でフリーレンの社交性を超えている気がしないでもないが、その辺りは彼女が気にする事ではない。

 

 このアウラという名の魔族は、フリーレンとの実力差を理解した瞬間に自身の全てを擲って生存した。そのため、その生殺与奪権は依然として彼女が握っており、流石のフリーレンも形だけでも対話を選ばざるを得なかったのだ。

 

 その結果、結論としてアウラは概ね魔族であった。

 

 魔族らしく、感情のいくつかが欠落しており、損得勘定で人間と共存関係にあるに過ぎず、家庭というものさえそれのひとつに過ぎない。

 

 しかし、そもそもつい半年ほど前まで自身が魔族とは知らずに生き、それでいて社交性以外はほぼ魔族に則った本能で生きて来たというから更に驚きだ。また、村側に関してもアウラを取り込む事に率先的に加担し、定期的に食人衝動を抑えるために偽ってソレを食べさせていたというからフリーレンからすれば、愚かを通り越した何かであろう。

 

 ただ、単純にアウラは人間というモノを個として、あるいは集団として知り過ぎている。だから人間には基本的に逆らわない。そして、異様なほどに社会生活を送る事に執着している。そのため、社会からズレた行動をしない。言ってしまえば、彼女の行動規範はその2点だけであった。

 

 

『私、社会派魔族ガールなのよ』

 

 

 また、それについて問うと、アウラはそのような謎の発言をするため意味がわからない。自身の服従させる魔法により、嘘がつけないために心の底からそう考えているのが全てなのだ。

 

 他にもフリーレンを知っていた事についても"お前にアウラが殺されることを生まれる前から知っていた"等と話し、最早シュラハトのような予知能力でもあるのかと思えば、"(エックス)(旧Twitter)(カッコキュウツイッター)のせい"、"私は被害者じゃんね"等と更に意味の分からない事を言ってくるため特にそんなことはないらしい。

 

 精神面だけでもそのようなアウラであるが、身体面というよりもその魔法の才は、他の魔族と比較しても異常な程に高い事をフリーレンは認めざるを得ないレベルであった。

 

 何せ彼女の持つ"服従させる魔法(アゼリューゼ)"という魔法のその完成度は、魔王直下の大魔族である"六崩賢"たちに匹敵するレベルで魔法に希少性がある可能性すらある。アウラが仮に魔族として狂っておらず、順当に数百年研鑽を積めば、未来でそこに名を連ねていたとしても不思議はない程だ。

 

 また、それを生み出す頭の作りもやはり人間のそれを遥かに超えるものと言える。他者から学ばずに魔法が成長する魔族である彼女が三十年程で本能的に作り上げた魔法知識や理論は、業腹だが五百年生きたエルフであるフリーレンすら学ぶものが多い。

 

 更にアウラは、かなり几帳面な性格なようでそういった魔法に関する事柄をほぼ全て分厚い冊子にまとめ、自室の本棚に並べている。つまりは魔族が魔導書も書いているのである。

 

・砂糖を塩に変える魔法

・縦縞を横縞に変える魔法

・ヒヨコのメスを光らせる魔法

・屋根の雪を綿飴にする魔法

・地下水を見つける魔法

・横縞を縦縞に変える魔法

・夢に茄子が出る魔法

・ツノの尖端を丸くする魔法

・魔族が人間の子を産めるようにする魔法

・同居人の寝相を改善する魔法

・タマネギを種に変える魔法

・タマネギの生育を早める魔法

・タマネギを辛くする魔法

・エシャロットをタマネギに変える魔法

 etc.

 

 しかもやたら民間魔法染みたものが多く、村で活用するために生み出されたであろう事もわかるが、意味不明な魔法も多い。しかもこの村に滞在し始めた期間にも緩やかに増え続けている。そのような戦闘に役に立ちそうもない魔法を収集するのが趣味で、マニアと言っても過言ではないフリーレンにとっては、金の卵を産む鶏のようなものでもあった。

 

 しかし、最近何故かタマネギに関する魔導書が増えており、やはり魔族とは相容れないと思うフリーレンなのであった。

 

 人間の言葉で人間を欺き人間の言葉が通じない猛獣というフリーレンにとっての魔族の評価からすると、アウラは人間の言葉と行動で人間を欺き人間の言葉に寄り添う猛獣程度の評価にはなっているのだ。

 

 

「できたわよ」

 

 

 いつの間にか朝食が完成していたようで、両手にオムライスを持ち、更にひとつ浮遊したオムライスを追従させたアウラがテーブルまでやって来る。

 

 朝にしては重めだが、見た目に反してかなりよく食べるフリーレン的には特に問題はない。また、フリーレンだけでなく、その子供たち2人も既に席に着いていた。

 

 そして、オムライスを3人の前に並べてフリーレンから赤子を受け取ったアウラは、いつものように自分の席には紅茶だけを置き、席に着くと食前の祈りを行い、それに子供2人も従う。

 

「では頂きますの前に――」

 

 祈りをせずにそれを眺めるフリーレンは、形だけしており、神に対して何とも思っていないどころか罵倒している事を知っており、滑稽以外の何物でもないが、それを貫き通すアウラに何とも言えない視線を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フリーレンの方がおっきい!」

 

「ずるーい!」

 

「どっちも同じだよ」

 

 

 尚、明らかにフリーレンのオムライスの方がふた回りはデカい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、フリーレン?」

 

 いつものように夜にアウラの魔導書を読んでいたフリーレンは、机に向かって黙々と魔法の研鑽や研究をしていたアウラが珍しく自分から声を掛けて来た事にやや驚く。

 

 当然の話であり、当たり前の事だが、フリーレンはアウラを依然として警戒しており、アウラもフリーレンを良くは思っていないため、基本的に2人の間に必要以上の会話は無かったのだ。

 

「なに?」

 

「その手、どうしたのよ?」

 

 手というのは、フリーレンの右腕の事であろう。

 

 彼女の右腕の手先部分は、金色と金属的な光沢を幾らか帯びており、やや動きが悪い事は見れば誰でもわかる程だ。それが魔法によるものであることもアウラほどの人智を超えた魔法使いが見れば、理解できない理由もない。

 

「別に……。前にやられた後遺症だよ」

 

「ふぅん……」

 

 それに対して、フリーレンは当たり障りのない答えをする。アウラに危険因子となり得る知識を与えないという意味が大きいだろう。

 

 その手は魔王軍の最高幹部である六崩賢の一人にして、最強の六崩賢である黄金郷のマハトという魔族の万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)によって数十年前に変えられたものであった。

 

 その魔法は認識した対象を全く制限なく黄金に変える呪いであり、呪いとは一部の魔物が用いる異様な魔法を指す。呪いは人間の魔法使いたちにとって原理の解明が不可能であり、対象の肉体そのものを変化させるもののことを指すのだ。

 

 マハトと戦った時、あまりにも絶望的かつ理不尽な呪いの前にフリーレンは逃げ延びる他なく、討伐隊は魔力の隠蔽に長けた彼女を残して全滅し、その時の出来事は、魔王幹部の一人ですらこのレベルの強さなのかと彼女の心に影を落とすのに十分であり、それをアウラに悟られないようにしている面もある。

 

 そもそもフリーレンはマハトに敗走してからの数十年間、解呪に専念すると共に魔族相手にマトモな実戦をしていない。初手で降伏して来たアウラぐらいのものだ。

 

 アウラを見付けたのも本当に偶々であり、理由もなく療養していた住処からかつて師と共にいた場所を見たくなったため戻った帰りに見付けただけ。ある意味、奇跡的な出会いと言えた。

 

「ちょっと触るわね」

 

 フリーレンが何か言う前にアウラはその手に触れる。その行動を止めない程度には、フリーレンはアウラに身の回りの事をさせていたのだろう。

 

 次の瞬間、アウラから警告も予備動作もなく魔法が発動した事に驚く程度には。

 

「――――ッ!?」

 

 フリーレンはアウラの手を振り払い、アウラを魔力による衝撃で弾き飛ばすと杖を手繰り寄せ――。

 

「えっ……?」

 

 己の右手から一切の万物を黄金に変える魔法による呪いが消え、本来の手に戻っている事に気づいた。

 

 その手を啞然とした様子で眺めていると、フリーレンの反撃によって口の中か臓器の何処かを痛めたのか、細く口の端から血を垂らしているアウラと目が合う。その瞳には相変わらず光はなく、その表情は怒りも憎悪も何もない無表情であった。

 

 壁に背中から打ち付けられて床に座ったままの姿勢で、アウラは自身の状態を気にした様子もなく呟く。

 

「半年よ。研究期間は」

 

「半年……?」

 

「これで元通りね、お節介だった? それなら悪かったわね」

 

 その言葉にフリーレンは絶句する。アウラはこの半年間、フリーレンに掛かった呪いを観察し、研究しており、その解呪をたった今完成させたのだ。

 

 そして、同時に今まで通り用があるから声を掛けた。ただ、それだけだった事にも思い当たる。

 

「汚れたから風呂に行って来る」

 

 アウラはそれだけ言い残すと、口元の血液を拭って立ち上がり、魔法で自身の身体を修復しつつ部屋から出て行った。

 

 部屋に一人残されたフリーレンは、暫くその場で佇んだ後、手の感覚を確かめて完全に呪いを受ける以前の通りである事を自覚する。

 

 普通の魔族なら魔族が魔族の魔法に対して解呪するような暴挙は絶対にしないだろう。仲間意識は薄くとも理由なく喰らい合うような事はせず、魔法を重んじてプライドに則った行動をする魔族なら尚更同族を貶めるような事はない。

 

 ある意味でアウラという魔族は、本来ならば魔族にある筈のプライドというものが欠落しているのだ。

 

(六崩賢レベルなんかじゃない……)

 

 そして、同時に呪いとは、人間の魔法使いたちにとって原理の解明が不可能だという事を考えると共に、アウラにとってはその程度でしかない事を思い知る。

 

 たったの半年で、アウラは呪いを魔法に落としてみせたのだ。しかも片手間かつさしたる熱意も意思もなく、人間的に正しいからというだけで。

 

 

 

 

「魔王に知れたら……すぐに七崩賢になる……」

 

 

 

 

 それはあまりに絶望的な事実であると同時に、酷く行儀が良く結果的に善良と言えてしまえる魔族の生殺与奪を自身が握っている事実に思い当たるのだった。

 

 

 

 

 

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