転生したらアウラだった件   作:ちゅーに菌

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楽しんで頂ければ幸いです。





アウラ(33歳)

 

 

 

 

 魔族のいる村にフリーレンが滞在してから2年――。

 

 色々とアウラに対して思うところがあるフリーレンであったが、一先ずアウラの処遇については保留にすることにした。

 

 そもそもアウラに関しては、生まれてから明確な人間への敵対行為を取らないどころか利益をもたらし、村ぐるみで囲われて家庭を持ち、角の生えた村の魔法使いといった小ぢんまりとした地位を確立している。

 

『メンヘラで戦闘力のある奴が過剰な権力なんて持ってもどうせ碌なことにならないじゃんね』

 

 そして、もっと大きな街などで高い地位を得ることは興味がないとアウラ本人が明言し、それどころか避けているような節さえもあり、フリーレンとしても派手に行動しないのならば、波風を立てることもないと言ったところだ。

 

 そのため、今日もフリーレンは特に何をするわけでもなくアウラの魔導書を読み進めている。マハトの敗戦で魔族と対峙する気にもなれず、アウラという異質な魔族は監視で留めておけるため、ある意味フリーレンにとっては丁度よい状況でもあったのだ。

 

「アウラ」

 

「どうしたの? おやつなら右の戸棚に入ってるわよ」

 

「それは貰うけど違うよ」

 

 フリーレンは育児のない時間は、相変わらず魔法の研鑽ばかりしているアウラに彼女が書いた魔導書を一冊提示した。

 

【魔族が人間の子を産めるようにする魔法】

 

 そのタイトルにはそうあり、アウラが育児に奔走するハメになっている原因でもあるものだ。

 

「これ、時系列がおかしいよね? 魔族だってお前が自分を知ったのは少なくともこの魔法ができた後でしょ」

 

「ああ、そうだったわね」

 

 尤もな疑問であった。仮にこのタイトルを先に付けていれば魔族だと既に知っていたことになる。つまり嘘を吐いていたことになるが、今のアウラは生涯フリーレンに嘘を秘匿できないため、早速聞き出されているのだ。

 

「それ元々は"人間の子を産めるようにする魔法"だったのよ」

 

 そう言うとアウラは、魔導書をフリーレンから受け取り、題名部分を半分ほど引っ剥がす。

 

 そこには確かに"人間の子を産めるようにする魔法"と書かれていた。

 

「けれど私、自分のことエルフやドワーフみたいに種族として、魔力で身体が出来ている種族だと思っていたから後で魔族って枕詞を付けたの」

 

 "別に間違ってたわけでもないが"とだけ呟いたアウラは、フリーレンに魔導書を渡し、フリーレンはそれを見つめつつまた口を開く。

 

「これってさ」

 

 ちなみにフリーレンはまだ"魔族が人間の子を産めるようにする魔法"の魔導書を触り程度しか解読できてはいない。

 

 というのも彼女が手にしている国の歴史書のような厚みの冊子のそれは第一巻であり、ほぼそのままの密度の内容が全32巻と圧倒的なボリュームを持ち、棚の一列を丸々占領していた。

 

 聞いたところ、アウラが"4年掛けた"と言うだけはあり、現存する人類の魔法の中でもトップクラスに難解かつフリーレンですら著者の助けが欲しくなるレベルの怪作である。

 

「書いてある理論で言えば、魔力で肉体が構成された生物ならなんでも大丈夫ってことじゃないの? 例えば魔物とかも」

 

「試す?」

 

「自害させるよ?」

 

「聞いてきたのに酷いじゃない」

 

 相変わらずの無表情で肩を竦めつつそう漏らすアウラであるが、冗談を言うというその行為だけで、魔族から逸脱するほど人間というものを理解しているのだろう。もしくは冗談で言っていない可能性もある。

 

「まあ、この魔法は掛け続けていないといけないからほとんど術者にしか効果がないし、大した魔法じゃないわ」

 

「具体的には?」

 

「妊娠中は平常時の魔力量の1/5ぐらいになる」

 

「普通の魔族は絶対に使わないだろうね」

 

 大半の魔族は魔法に傾倒し、長い生涯のほとんどを一つの魔術の研究と研鑽に費やす。そのため、魔族の中では、より優秀な魔法使いで、より魔力が多いものが上位の存在となり、魔力によって魔族は着飾ると言えるのだ。

 

 アウラでさえ、基本的には服従させる魔法(アゼリューゼ)という魔法を中心に生きていることがそれを証明しているだろう。

 

 だと言うのに一時的にでも魔力が激減する事を全く厭わずに3回も使ったからこそこの魔族は、あまりにも狂っているのだ。

 

 魔族にとって狂気であることは、人間にとって益になるという皮肉であり、それは魔族と人間の共存が不可能なことの証明にもなるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぐぐ……」

 

(ん……?)

 

 キッチンの戸棚からおやつを取りに来たフリーレンは、アウラの上の子――長女のラウラが戸棚の前でぴょんぴょんとジャンプしている背中を見つける。

 

 どうやらおやつの存在をどこからか嗅ぎつけ、それを取ろうと頑張っているらしい。しかし、まだフリーレンの胸の高さ程しか身長がないため、戸棚の戸まで届かないようだ。

 

 なんて食い意地の張った奴なんだと、フリーレンは角のない幼少期のアウラと言えるような見た目をし、立派な魔法使いになれるとフリーレンが思う程度には魔力量が多い人間のラウラを眺める。

 

 暫くラウラは苦戦しており、おやつが敢えて届かない位置にあることにアウラが、凄まじいほど母親をしていることを感じるだろう。

 

 そんな折、それは起こった。

 

 

「やあっ――! えぁ……?」

 

「は――?」

 

 

 微弱な魔力の揺れを感じた後、ラウラがふわりと宙へ浮き上がったのである。

 

 それは直ぐに戸棚を追い越し、そう高くはない民家の天井まで到達した。

 

「わっ……!?」

 

「――ッ!」

 

 そして、その直後に糸が切れたかのように真っ逆さまへ床へと落ち、それを見ていたフリーレンは反射的に飛び込むと落ちるラウラを抱きしめて掴み止める。

 

「フリーレン……?」

 

「大丈夫?」

 

 キョトンとしつつも特に外傷などはない様子のラウラに安堵しつつフリーレンは今の異常事態を考える。

 

 ラウラが自然に行使したそれが物体を浮かすような操作魔法ではなく、"魔族特有の飛行魔法"であったことは、魔族を殲滅し続けたフリーレンなら一目瞭然であった。

 

 空は魔族と魔物の独壇場であり、人間は空にいる魔族を地上からどうにか倒さなければならない。当然の事実として人間は空を飛ぶことは出来ないのだ。

 

「…………?」

 

 それをただの人間の子供が壊した。

 

 片親が魔族なだけで魔力の多い子供が、その既成概念を振り払ったのである。

 

 魔族が歩行や呼吸のように行使している飛行魔法は、人間に転用が利く。それがたった今、フリーレンという魔法使いに知れるところになった。

 

 それに対して、フリーレンが行動を起こさない筈はなく、直ぐに戸棚からおやつを引き出すと、血相を変えてアウラの居る部屋へ飛び込んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 尚、とあるエルフに師事したラウラは"空を飛んだ魔法使い"として、後の世に賢者として語られ――史上最も多く魔族を屠った魔法使いのひとりに名を連ねる事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、私が飛べるようになったのもそれぐらいの歳だったわね」

 

 珍しく興奮した様子のフリーレンに少しだけ目を見開きつつも、アウラはそんなこともあったと言いたげな様子でそう呟く。

 

 やはりと言うべきか、アウラには人間の魔法技術の発展など心底どうでもよく、特に重大なことどころか、コレの存在が人類のターニングポイントになりかねないことも頓着していないらしい。

 

 フリーレンがアウラに魔族の飛行術式を人間に転用できるという事実が、どれほど人類にとって重要な事柄なのか説明した上での回答がこれなのだから、やはりその辺りの感覚は魔族なのだろう。

 

 尤も人類の進歩より、今母親でいることを優先していると言えなくもない。

 

「どうもこうも……魔法使いって空を飛ぶものじゃないの?」

 

「飛ぶわけないでしょ」

 

 

・魔法使い→飛ぶ

 

・魔女→飛ぶ

 

・魔術師→飛ばない

 

・錬金術師→飛ばない

 

・魔法少女→殴る

 

 

 ちなみに聞いてみれば、アウラの認識の中ではこうなっているらしい。意味がわからない上、魔法少女ってなんだと思いつつも今はどうでもいいため、無駄な時間を使ったことにフリーレンは後悔した。

 

 魔族であるアウラの感覚で会話をすると話が進まないため、人間側のペースで話をするべきだろう。

 

「どう飛ぶ……?」

 

 そして、魔族の飛行魔法の術式についての話になった直後、アウラは珍しく石のように固まった。

 

「うん……? うーん……?」

 

 アウラは椅子に腰掛けた姿勢で、空中に浮き上がり、色々な方向に暫く移動を繰り返してから元の椅子に降りて来る。魔族が行使するたったそれだけのことを人類が解明できないのだから魔法とは不思議なものであろう。

 

「…………どう飛んでるのかしらコレ……?」

 

「えぇ……」

 

 そして、どうやら魔族もよく考えていないらしい。まあ、確かに歩くことや呼吸することを考えて行っている者は、ほぼ居ないだろう。また、呼吸や歩行に関してのメカニズムは運動学に則れるが、飛行に関してのそれは未界域の魔法分野である。

 

 人間からはオーパーツ、魔族からは当たり前の事過ぎて気にすらされていない。つまり当たり前にしていることを何の知識もない状態から他種族へのパイオニアになる必要がある。これがどれほど無茶な話なのかは語るまでもないと言えよう。

 

「フリーレン、これ無理――」

 

「アウラ、魔族の飛行魔法を人間に転用しろ」

 

「えぇ……」

 

 流石にアウラもフリーレンからの世紀末的無理難題に難色を示すが、自身の服従させる魔法により、自然に手は動く。

 

 この時のことをアウラは"パスポートだけ渡されて冬のエベレストに百五十年前の装備で登頂して来いと言われた気分"と誰に言うわけもなく思ったという。

 

「ねぇ、フリーレン……これ……何十……いや、何百年か掛かるかも知れないんだけれど? まず、理論立てて飛ぶイメージが付かなくて」

 

「私も手伝う」

 

 フリーレンは机に向かわせられているアウラの隣に椅子を持って行き、自身も解明に取り掛かる。

 

 

 人間は魔族の飛行を行使することができる――。

 

 

 そんな夢物語でも、夢ではなくなった以上、今足掻かない理由にはならなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そんな風に紆余曲折あり、現代で魔法使いが当たり前に空を飛べる大部分は私のお陰なのよ、フェルン。ありがたく思いなさい?」

 

「はぁ……? そうですか」

 

 中央諸国の聖都シュトラールの郊外にある一軒の小屋の一室でアウラはフェルンに対して自身のことを語り、フェルンはそれを時折相槌を交えながら聞いていた。

 

 話を聞く限りでは、伊達にフリーレンのお供をしているわけではなく、アウラもまた人類にとって伝説級の魔法使いなのだろう。

 

「むにゃ……アウラ……タマネギきらい……」

 

「…………でも私、死んだ方がマシだったかも知れないじゃない……」

 

 ただ、目の前の大魔族には全く覇気が無かった。

 

「一つだけ覚えておきなさいフェルン……」

 

「むにゃ……アウラの……タマネギあたま……」

 

「介護って……報われないわよ」

 

 疲れ切っているというわけではないが、やはりとても小さな背中をしたアウラにフェルンは掛ける言葉が見つからないのであった。

 

 

 

 

 






 現金なので評価やご感想を頂くと嬉しくなって次話投稿する作者でございます(人間のクズ)

 本作の蛇足なのですが、感想を拝見するにこのアウラ凄すぎないかと時々言われておりますね。しかし、一応、原作の描写によると500年以上生きて、七崩賢に名を連ねて500年ぐらいらしいので、魔法技術と魔力量が重要な筈の魔族にも関わらず、約数十年で七崩賢(魔王幹部)になった魔法技術特化型の超天才魔族だと思われるのですよね、アウラって……(尚、末路)。

 なので、この作品のアウラは研究者面が強く、フリーレンにこき使われます(鋼の意志)


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