少々、まとめるのに時間が掛かりましたが、また楽しんで頂ければ幸いです。ひとまずはこれでシュラハトさんのお話は終わりとなります(設定を盛られまくる腹心)。
「そもそもの発端は31年ほど前だ」
空を含む自身の周囲にこれまでよりも多く、百と数十のアウラの大鎌が展開され、彼女の後ろからフリーレンから攻撃魔法が放たれる中で、シュラハトは語り始める。
「あの日、人間の復讐を終えたアウラという魔族は、人間の男からの告白をされ、それを受け入れたことで村に留まることになった」
「それがなによ……?」
プロペラのように激しく回転を続けながら対象へと回転と浮遊の緩急をつけて殺到する三次元のシュレッダーのような無数の大鎌の刃。
それこそが、アウラの
それは魔族らしく、人間ならひとつひとつが生涯を費やすような幾つもの高等魔法技術を同時に要求するお伽噺の魔女が行使するようなあり得ない魔法であり、そもそも"操る"という分野において、アウラは天賦の才を持つことが見て取れるだろう。
そして、この無数の大鎌の何よりもの利点は、対象の空を含む周囲に展開することで、魔族の飛行魔法を実質的に封殺し、ひと度地上で展開されれば、鉄檻としての役割をこなすという事。
また、一本一本の強度は魔族の子供の攻撃魔法ですら簡単に破壊できるほど脆いが、鋭さだけは業物のようであり、またその分物を言わせた数と、物体の操作魔法技術によって成り立たせ、迎撃のため対象に攻撃魔法を強制的に幾重も使わせることで、
「アウラ、逃さないで」
そして、エルフの魔法使いであるフリーレンが、大鎌の檻目掛けて範囲攻撃魔法の絨毯爆撃を放ち続けて一方的に対象を燼滅する。そうでなくても防戦一方になった相手の魔力を削り続け、相手にフリーレンへのヘイトを買わさせつつ、その魔力が一定ラインを下回った瞬間にアウラから
これが黄金郷のマハトによる敗北で折れかけた心を、アウラを手に入れたことで回復した葬送のフリーレンが考案したハメ技である。
実際、既にこの地方に来た魔族の将軍に対して初めて使用され、数分掛けて徹底的に炎や雷に焼かれ、片腕を斬り飛ばされた末に
『むふー』
『お前、
そんな会話があったかは、当人たちとシュラハトしか知り得ないであろう。
「……旦那のことは関係ないじゃない」
「大アリだ。それより以前の分岐は、取るに足らない些事に過ぎない。あれさえなければ、遅かれ早かれ七崩賢がひとり、断頭台のアウラにどうあってもなっていた。その事象の選択こそが、アウラという魔族における最大の分岐点だった」
しかし、シュラハトは嵐のような刃を直前まで引き付け、直後に予備動作なく2〜3歩分ほど瞬間移動することで回避し続け、転移魔法という魔族にしか使えない人類を超越した技を用いつつも最小限の魔力消費で済ませる。
「自覚が無かろうとアウラは人間によって変えられた。人間を知識として理解し、理由によって殺さず、理由のために手を貸し、考え出した理由で助ける。さながら人間といるために理由を作るよう――それは最早、理由なく人間と共に居るということにならないか?」
更に瞬間移動の着地地点目掛けて放たれたフリーレンの範囲攻撃魔法は、片手に形成された魔力の刃から斬撃状の魔力を飛ばすことで弾ける前に叩き斬り迎撃した。
「そのようなことが出来る魔族が、魔王様の手駒として人間と戦う存在になれる筈もない。だからこの未来のアウラは、七崩賢にはなりえない」
シュラハトが語ることは、歯の浮くような話ではあるが、今のところアウラの生い立ちと現在についてしか話していない。
しかし、魔族が人間を欺くために嘘を吐いていると認識している以上、攻撃の手を休める理由にはならないだろう。
「だが……それでは困る」
「――――!?」
シュラハトは突如、瞬間移動する距離を延ばし、大鎌の檻から容易く抜け出すとアウラの真後ろに現れた。この時点でフリーレンとアウラの戦法は一切、シュラハトに通じないということが確定する。
次の瞬間、アウラは空中にある全ての大鎌を捨て、即座に自身が持つ大鎌の補強と身体強化に魔法を使い、超近距離でシュラハトと斬り結ぶ。
「約400年後だ。俺は一人の人間の男と相打ちで死ぬ」
「なんですって……?」
「魔族らしくない嘘だね……!」
また、フリーレンは範囲攻撃から小さな攻撃魔法を大量に放つ連続攻撃による弾幕に切り替え、アウラの戦闘を有利に進める立ち回りを取った。
「その際、最終的に横槍なく
フリーレンの弾幕を斬り払いつつアウラに対応するため、シュラハトはもう片方の手にも魔力の刃を形成し、"二刀流"になると2人の猛攻に一切退かず戦い続ける。
「他はまだ何とかなるが、それだけは欠かせない。その仕事を引き受けて欲しいというのが、ひとつ目の要求だ。人間の牽制だけで殺す必要はないし、人間の死体ではなく、北部の魔物を掻き集めて軍勢にするだけでいい。悪い話ではないと思うが?」
「そうね――ここでお前が死ななければ」
その刹那、アウラの大鎌の長柄の石突きから鎖が形成されて伸び、シュラハトの片足に絡まる。そして、突撃して大鎌を叩き付け、両方の刃を防御に使わせ、更に身体能力を魔法で強化して鍔迫り合う。
「ぐぅ……!?」
「鎖に転移魔法の術式をほんの少しだけ乱す効果を付与したか……。戦闘の片手間にこの短時間でやり遂げたのは流石の技量だ。そして――」
当然ながらシュラハトの方が強く、直ぐにアウラが押される形になるが、鎖による阻害とその行為による時間稼ぎに理由がない訳がなく、そのままの姿勢で首だけ動かしたシュラハトはフリーレンの方を見た。
そこには今までよりも遥かに魔力量が引き上がったフリーレンが、正面に収束させた極大の魔力の塊を構えている姿がある。
「それだけあれば十分だと……な」
次の瞬間、限界までシュラハトを押さえ付けたアウラが離脱すると共に、逃げ遅れた大鎌を持ったアウラの片腕ごと単純な魔力の奔流による極光にシュラハトは呑み込まれ、遅れて辺り一面を消し飛ばした。
◆◇◆◇◆◇
爆心地は天高く舞い上がる土埃と、塵と化して漂う元々あったものや、魔力の残滓によって視界のない焼け野原へと変わり果てている。
「はぁはぁ……。アウラ、大丈夫?」
「もう少し遅かったら諸共死んでたじゃない……」
「間に合ったからいいでしょ」
魔力を激しく消費して疲弊するフリーレンの下まで来たアウラは、肘の先から片腕がなく、満身創痍と言った様子であった。
しかし、腕を回復魔法で生やすよりも先に大鎌を再び形成して残った片腕で握り締める。
「当たればマハトだって一撃で粉砕出来る筈なんだけどなぁ……。腕、直さなくていいの?」
「その魔力も惜しい」
「そっか」
そして、2人は魔力探知が示すままに舞い上がる塵の中を見つめたまま構えを崩さずにいると、その中に角の生えた男性のシルエットが徐々に浮かび上がり――。
一瞬だけ"一枚一枚が六角形の形をした半透明の障壁で出来た球体"の中にいるシュラハトの姿が見えた。
「…………なにあれ? 結界……障壁? 短時間で展開したにしては硬過ぎるし……」
「流石だなフリーレン。俺の目が少しばかり良くなければ死んでいたぞ」
目視した次の瞬間には、その簡易的な結界のような魔法をシュラハトは消し、まるで健在な姿のまま2人の方へ歩いて来る。
しかし、一見すると無傷のように見えるが、戦闘開始時点で、アウラが知るフリーレンが隠している魔力量の倍近くあったそれは、フリーレンの全力の攻撃を魔法による防御で受け止めたためか半分以下にまで落ち込んでいた。
故にアウラはまだ勝機はあると考え、同じ考えであるフリーレンと共に自身の
『
次の瞬間、フリーレンの杖と、大鎌が紙でも引き裂かれたように切断され、それに驚くと共に杖だけ斬られたフリーレンとは違い、自身の掌も半ばで切断されていることに気付く。
発動条件は未だ不明だが、今度は確認出来た"簡潔な術式"から恐らくそう長い距離で発動出来るものではないと当たりを付け、唖然とするフリーレンを残った腕の部分で抱えて距離を取った。
「今のは……!?」
「ひとつ言えるのは見た感じ、破滅の雷を放つ魔法とかみたいに魔族の奴じゃないわね」
「人間の魔法は、
アウラが片手の掌と指を再生させた次の瞬間、シュラハトとアウラたちを中心にして数百m近く大地が激しく隆起してめくれ上がり、コップの中に囲われるかのような形状の土壁が
『
形勢が極めて不利だと悟ったアウラは、砂埃を巻き上げる魔法を行使して視界を塞ぎ、魔力の痕跡を遮断しつつ残った森の中に飛び込む。
そして、重なり合うような大木のうろに飛び込んで身を隠すと、直ぐにフリーレンが口を開いた。
「アウラ、私を飲んで」
「よくそこまで魔族を殺すために捨てられるわね……」
直ぐにアウラは、フリーレンの首筋に歯を立て痛みに震える彼女を他所にその血を啜る。
「………………ぅっ!」
「ん……ぁ……」
啜りながらアウラは、フリーレンの血液の味に妖しく目を輝かせ、彼女とは違った意味で身を震わせていた。
魔物や魔族は魔力で出来た生物故に食べた対象が持つ魔力を自身の魔力に幾らか加えることが出来る。
とは言え、魔力の総量を超えるようなことはなく、多少回復出来る程度の微々たるものであるのだが、対象が500年以上生きた自身よりも遥かに魔力量の高いエルフであるのならその効果はかなりのものだ。
「…………うぅ……」
致死量の近くまで血を吸われ、その結果として一時的に動けずやや朦朧としたフリーレンと、魔力量を7〜8割程度まで回復したアウラが残る。
そして、アウラはフリーレンの吸血跡を塞ぎ、大木の洞から出ると――その数mほどのところで何をするわけでもなくこちらを待っていたシュラハトを見つけ、それに向き合った。
「もう、こちらがそちらを殺す気がないことはわかっているだろう?」
「……ええ、殺したいならとっくに出来ていそうなものだもの。けれどコイツの命令は絶対なものでね。仕方のないことだわ」
そうは言うが、アウラは戦闘不能になったフリーレンに止めを刺し、遥か格上のシュラハトにその死骸を捧げて命乞いをするような魔族らしいことを一切していない。
そして、片手に天秤を出現させると、それを恭しくシュラハトの目の前に突き出す。
見掛けの魔力量は、今のアウラの方がシュラハトよりも少しだけ上回った。しかし、相手の様子と未来を見ているとしか思えない行動や言動の数々から何か隠し玉を持っていることは間違いない。
「それに――裏切るって言うのが、褒められたものじゃないことは知っているわよ」
しかし、それでもアウラは、不敵な笑みを浮かべてその言葉を口にする。
「
その魔法の行使により、アウラの方に傾いた服従の天秤は、自身とシュラハトのやや白みを帯びた黒い魂を天秤に乗せた。
天秤はアウラの方に傾いたままであるが、どちらにせよこの魔法が発動した時点で勝敗は白と黒に決する。
「………………ああ、見込んだ通りだ」
それを眺めたシュラハトは一度目を瞑って小さく笑う。また、呟かれた言葉は魔族とは思えぬような温かみのある抑揚をしており、まるで今の状況を楽しんでいるように思えた。
そして、シュラハトは再び目蓋を開き、アウラを見据えると口を開く。
「断頭台のアウラはフリーレンにこうやって負けたんだ」
「――――――ッ!?」
次の瞬間、シュラハトの魔力が爆発的に増え、そのあまりの奔流は周囲の物体を押し流して余りある程だった。
それをフリーレンのように魔力を制限していたとその様子からアウラは判断し、その魔力量は優に"今のフリーレンの総量の数倍"に上っており、そもそも格が違い過ぎた相手であったことを思い知る。
「はぁ……負けね」
そして、アウラの溜め息の後、服従の天秤はシュラハトの方へと傾いたのだった。
人生で2度目の自身の魔法による反射を経験し、前回よりも潔く諦めたアウラは、シュラハトが言うであろう命令に耳を澄ます。どうせ拒否権などは初めから存在し得ない。
シュラハトはアウラの目の前に立つと、彼女を見下ろしてその口を開く。
「ではアウラ、こちらの用件だ。まず、さっき言った通り、俺とアイツが横槍なく戦える場を作るために人間側を牽制する仕事をして貰う。牽制するだけで構わない」
「はい……」
「そして、もうひとつは――」
シュラハトは真顔のまま本題であろうその命令を下す。それがどれだけ過酷であろうと受け入れなければならず、それで命令が終わることもないだろう。
「期間も方法も問わない。今、アウラが構想をまとめている"アリとアブラムシに基づく人間と魔族の共存"を完成させてくれ――以上だ」
「はい……………………はぁ?」
服従させる魔法を跳ね返してまでさせて来た命令の内容が意味不明な頼み事レベルだったことにアウラは思わず声を上げる。
シュラハトは周囲を囲っていた大地を操る魔法を解除すると、用件は終わったとばかりに踵を返した。
「問題ない。これで未来の辻褄は合った」
そして、それだけ呟くと流石に困惑しているアウラを他所に歩き出す。
そして、数歩進むと思い出したように足を止めて振り返らずに呟く。
「……ああ、少し変わったな。どうやらひとり増えるらしい……クククッ」
「なにがよ……?」
アウラの疑問には答えず、何が可笑しいのか小さく笑うばかりのシュラハトは、そのまま歩き出し、その場から去って行ったのだった。
「ええ……」
何故か普通に生き残った上に時間だけは掛かる妙な頼みをされ、それが呑み込めずにアウラが困惑していると、聞き覚えのある泣き声が背後から響き渡ったことを耳にする。
「うおーん!」
それに溜め息を吐き、大木の洞に戻るとそこには、幾らか回復したようだが、何故か体育座りのまま大泣きしているフリーレンの姿があった。
理由はなんとなく理解するが、一応フリーレンに声を掛けるアウラ。すると背を向けたままのフリーレンはぷるぷると震えながら口を開く。
「あ……あんなの……あんなのに勝てっこないよぉ……!」
黄金郷のマハトに心を折られ、アウラによって精神が回復したフリーレンは、全知のシュラハトによって再び心をへし折られたのであった。
◇◆◇◆◇◆
「アウラ!? 大丈夫だったのか!?」
「すやぁ……」
煩い上に中々その場から動こうとしないフリーレンを睡眠魔法で黙らせ、消し飛んだ片腕を直し、消し飛ばしたその張本人をおぶって村に帰って来たアウラは、村の入り口で自身の夫が真っ先に駆け寄って来たのを目にする。
とりあえず、フリーレンは隣に浮かせておき、それに対応するが、何故かアウラは夫のことをあまり直視出来ないでいた。
「……………………」
「ど、どうした……? なにかあったのか?」
「…………アンタのせいよ」
「えっ……?」
それだけポツリと呟くと彼に自分から手を回してそっと抱き着く。そして、シュラハトが言っていた理由なく人間と共に居ることを考え、自身を変えた目の前の存在を想う。
「なら……何もわからないけど、きっと愛しているのね……」
「…………? アウラらしくないじゃないか」
「うるさい、アンタのせいなんだから……」
そういうとアウラは、頬を膨らませて多少痛い程度に彼を抱き締めるのであった。
尚、翌年になり、アウラがまた"ひとり"人間の子を産んだのは全く別のお話である。
ちなみに完全な蛇足なので読まなくて大丈夫なのですが、実はこの小説を投稿するか、もう片方のネタを投稿するか迷ってこっちにしました。なので、2〜3話書いて死蔵した供養としてあらすじだけ載せて置きますね?
・あらすじ
カスの嘘しか話さない魔族お姉さんと過ごす、二人だけの時間――――――――
冬、夕焼けに染まる大森林。
黄金郷のマハトに敗走したフリーレンがここにいると、ある魔物が現れます。その相手は、魔王軍所属でマハトよりも強い神代の大魔族のお姉さん。
魔法使いの協会に入らず、かといって人間社会に馴染む気にもなれず、人里離れた森で黄金と化した片腕を解呪しつつ時間を過ごしていたフリーレンに声をかけてきた謎の魔族お姉さん。
彼女の口から出る言葉はその全てが取るに足らない"カスの嘘"で、そこにコミュニケーションを取ろうという意志は感じられません。
しかし、そうした日々が続くうち、いつしかフリーレンにとって魔族お姉さんとの時間は強制的に日常になっていきました。
彼女の目的がただ『カスの嘘をつく』ことだけだったとしても、二人で過ごす時間は、酷く数奇で――――
「
「えっ……?」
・使用予定だったタグ
怪異
豆しば魔族
カスの嘘ASMR
・タイトル
カ ス 嘘 魔 族
・ひとこと
このネタあげるから誰か書いて(はーと)