転生したらアウラだった件   作:ちゅーに菌

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またまた、楽しんでいただければ幸いです。フリーレンとアウラが暫く二人っきりでございます。







ミミックだんじょん!(前)

 

 

 

 

 

 

「暗いよー!! 怖いよー!!」

 

 

 

 現在、私は諸行無常を噛み締めていた。

 

 どうやら我が主であり、私にとって神話の英雄が死ぬ切っ掛けの弱点レベルの天敵でもあるフリーレンは、ダンジョンのミミックに理不尽にも喰われ、そのエルフとしての生涯を終えようというのだ。

 

 既に上半身は完全に呑まれ、喚き散らしながら残る足でバタバタともがくばかりで……。

 

 

………………………………。

…………………………。

……………………。

………………。

…………。

……。

 

 

 コイツ、防護魔法張ってるせいで全く死ぬ気配がないな……。

 

 

「たすけてアウラー!!」

 

 

 どうしてこうなったのか、私は1時間ほど前のことを思い返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この村にあるダンジョンを再探索して欲しい……?」

 

 ある日の朝――。

 

 朝食後にリビングでそんなことを夫から言われ、首を傾げた。この村にダンジョンがあるなどと噂ですら聞いたことが無かったからである。というか、再探索ということは探索済みにしてももう少し知名度がある筈なのだが……。

 

「驚いた。こんな片田舎の村にダンジョンがあったんだね」

 

「概ね正論だけれど、お前それ自分の師匠の前でも言ってみなさい。そもそも住んでたんでしょうが」

 

「やだよ。絶対絞められる。住んでたからだし」

 

 この村ではないが、この辺りの何処かに大魔法使いフランメが住んでおり、フリーレンも一時期は住んでいたため、お前が言うな以外の何物でもない。

 

「ははは、二人とも相変わらず仲が良いね」

 

 これで仲が良ければ、角付き(まぞく)エルフ(にんげん)は今頃親友じゃんね!

 

 それから夫にそのダンジョンについて聞くと、どうやらそこはほぼ一種類しか魔物が出ず、罠もあまりない妙なダンジョンらしく、また危険性もほぼ皆無らしい。

 

 また、最近祖父が亡くなり、夫が村長になったのだが、その引き継ぎや文献などを整理していた時に発覚したとのことである。まあ、それならばいいだろう……妻なのにそんな大切そうなことを黙っていられたら腹が立つからな、少し。

 

「で? それは何処にあるのよ?」

 

「えっと――」

 

 すると夫はリビングの絨毯を引っ剥がし始め――直ぐに物々しい雰囲気の床下収納扉が現れた。

 

「ここだな」

 

「ええ……」

 

「へー、こんな場所にダンジョンがあるのは生きてきて初めてだね」

 

 本当に全く危険性はないらしく、真上に村長の家を建てて管理し、村人の緊急避難場所として使われていたため、数十年前の盗賊団による襲撃時にも少数ながら生き延びることが出来たというわけだそうだ。

 

 そして、それから全く使われず、当時の者たちはほとんど亡くなり、夫は当時小さ過ぎて覚えていなかったため、今まで中から魔物が出て来ると言ったこともなく、放置……というか忘れられていたらしい。

 

「文献によると前回探索されたのがだいたい100年ぐらい前みたいでな」

 

「少し前だね」

 

「フリーレンも来るの?」

 

「いくよ?」

 

 エルフの感覚の少しは100年ほどでも該当するようだ。というか、このエルフまだ心へし折れている割には探索に乗り気らしい。そもそもやりたくなければ、最初から興味が一切ないか、否定の言葉ばかり述べてくるからな。まあ、暇潰しにはなるのだろう。

 

「一応、この村で管理している扱いのようだし、流石に今の状態を国に報告した方がいいと思ってさ」

 

「まあ、私扱い的には冒険者だしね」

 

 ちなみに村から確りと申告して魔族の冒険者の登録が成されている。また、商人としても書類上で商売が可能なので、法律上は何も問題ない。

 

 冒険者の管理は国ではなく、都市や冒険者組合だとしても夫がかなり頑張り、長女も協力したらしく、登録証明書に名前と種族名が書かれた用紙を渡されたときは目を丸くしたものだ。

 

「今日の私の仕事は?」

 

「アウレリアがやってくれるみたいだ」

 

「ヤッタルデー!」

 

 いつの間にか居たアウレリアが嬉々としながらそんな声を上げた。まあ、角を生やせば廉価版の私のような性能なので特に問題はないだろう。一抹の不安はあるが、その辺りは村人の慣れを信じる他ない。

 

「このダンジョンに特性とかはあるの?」

 

「えーと……」

 

 夫は古めかしい文献を眺め、目を細めつつ読み込んでから口を開く。

 

 

 

「ミミックがめちゃくちゃ多いらしい」

 

「なんだ、それなら楽勝だね」

 

 

 

 むふーと鼻を鳴らすフリーレンの姿がとても印象に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛い痛い痛い! アウラ、ちょっと一旦引っ張るのやめてちぎれちゃうから! あぁあぁぁ……魔族の馬鹿力ぁ!」

 

「おう、考えてやるわよ」

 

 そして、踏破済みのダンジョンの入って直ぐの場所の宝箱に早速引っ掛かったバカがコイツである。

 

 ちなみに折角なので、私は冒険者風――というか、知識の中で知る断頭台のアウラの軽鎧とスカートを合わせたようなあの服装を生まれて初めてしてみていた。相変わらず、見た目だけはオタク用語的な意味で神みたいなデザインだな。それにとてもよく身体に馴染む。

 

 ちなみに魔族は衣服も自身の魔力で形成しているため、服のデザインなどは自由自在であり、それ故に死んだときに服ごと消えたりもする。

 

 夫とアウレリアにも見せたら"そのヘソの穴に何の意味があるのか、私はその真相を調べるべくダンジョンの奥地へ向かった……"と譫言を呟くアウレリアがダンジョンへ入ろうとしたため、絞め上げて止めた。

 

 ……後、帰って来たら夜にコレで夫とすることになった。

 

「で、どうすればいいのよコレ?」

 

「知らないの? こう言うときはね、逆に押し込むんだよ。ミミックがオエッてなって噛むのやめるから。まあ、2人以上のときに限るけど」

 

「そもそも普通はこんな状況にならないのよ」

 

 なんで、この状況になったときの対処方法を知っているのよコイツ……。

 

 まあ、喰われたことに腹を立てて宝箱を殴ると、底面から胴体と下肢が生え、中から腕と舌が生えて2〜3mの体躯になり、凄まじく綺麗なソバットを繰り出して来ないだけマシだろう。

 

「1人の場合は?」

 

「攻撃魔法で内側から爆破するんだ。髪の毛がチリチリになっちゃうから嫌なんだけど……」

 

「ふーん……」

 

 ケバケバやアフロになっているフリーレンを想像したら少し面白かったので、言われた通り、フリーレンを押し込む。

 

「ふんっ!」

 

「う゛っ……!?」

 

『――――!?』

 

 私の腕力によりフリーレンごとミミックが半分ほどズレて、直ぐにフリーレンを引き抜くと小気味よい音を立てて抜けた。

 

 何故か、フリーレンの首が多少傾いているが気にしない。フリーレンを噛んでいたミミックは当然、魔法で消し飛ばしておこう。

 

「………………(ぽかぽか)」

 

「なんで助けたのに叩いてくるのよ?」

 

「アウラ……。私で遊んでたよね?」

 

 失敬な、魔族にそんな感情はないと言っておこう。村の新年会で双六をすると私がフリーレンを集中狙いし、途中でリアルファイトに突入することが風物詩と化していたとしても何も関係ない話である。

 

「嘘つくな魔族」

 

 それはひとまず置いておき、ダンジョンに入った直後の感想として、ミミックの数がヤバいといきなり思うことになった。

 

 まだ、入ったばかりの一本道の通路なのだが、その両脇に数m感覚で疎らに宝箱が配置されているのである。突き当りに行くまでに軽く数十は宝箱が見え、宝箱を判別する魔法(ミークハイト)を範囲で掛けてみるが、全てがミミックだという結果を示す。

 

 これ全部ミミック……? 確かにこの奥に村人が逃げ込んだら盗賊団も追撃止めるわね。絶対ヤバいじゃない。流石にほぼミミックしかいないダンジョンだとは思わないだろう。

 

「アウラ、その宝箱をあけて」

 

「コイツ……!」

 

 意趣返しとして、服従させる魔法(アゼリューゼ)として命令して来たフリーレン。500年生きているクセに小さ過ぎる……。

 

 ちなみに私の服従させる魔法(アゼリューゼ)は、命令させる事柄と服従させるという意思をもって言葉に出すことが必要である。なので、普段からフリーレンに小さい叛逆をしているように見えるのだ。

 

 その辺りも私が服従させる魔法(アゼリューゼ)を主に使わなかった理由でもある。天秤を使い、成功し、命令を思い描き、発言して、服従させる。

 

 工程が多過ぎるのだ。瞬きより長い時間ならば、私ですら身体強化魔法を掛けて突撃し、天秤を腕ごと斬り落とせば容易く阻害出来る。それに全てを懸けることなど私には出来ない。

 

 

「………………」

 

『――――(ガブガブ)』

 

 

 ――などということをミミックの口の中で私は考えていた。

 

「感想は?」

 

「生暖かいわね」

 

「なにか言うことない?」

 

「もうしません」

 

 いつかまた陥れてやるわ……覚えていなさい……。

 

『――――!?』

 

 そんなことを密かに思いつつ、私は人間や子供が触ると危ないので常に自身に掛けている"ツノの尖端を丸くする魔法(ドラフハンドル)"を解いた。

 

 そのまま、ミミックの体内を掴み、床を踏み締めつつ瞬発力だけを頼りに頭突きを行い――ミミックの体内を容易く私の角が突き破り、そのまま壁に突き刺さる。

 

 そして、ミミックは魔物らしく塵のように消えて行き、残ったものはやや生臭い唾液だけだ。なんで倒すと塵も残らないクセにこういうのは消えないのかしらね?

 

 さて……これで脱出できた。やたら鋭利な角が珍しく役に立っ――。

 

 

「アウラ、たすけて」

 

「……なにしてんのよ?」

 

 

 隣の宝箱――ミミックに再び食われている500年以上生きたエルフことフリーレンの姿がそこにはあった。

 

 流石の私もこのエルフを置いて、一旦帰ろうかとも考えたが、仕方なくフリーレンでミミックをオエッとさせるため腰を掴む。

 

「……アウラ、宝箱を判別する魔法(ミークハイト)の精度は99%だよ」

 

「それがどうしたのよ?」

 

 するとフリーレンは何故か食われたままそんなことを言い始める。

 

 間違いなく、いつも一切自身の非を認めないフリーレンの言い訳であろうが、宝箱を判別する魔法(ミークハイト)でミミックであることを確かめてはいるので、そのまま話を聞く。

 

「逆に言えば、残りのたった1%を偉大な魔法使い達が見破らなければ歴史的な発見は見落とされて来たんだ。そして、それは今も踏破済みのダンジョンの中で眠っているかも知れない」

 

 そして、ミミックに食われかけのフリーレンは、そこで言葉を区切り、珍しく感情と熱のある声色で呟いた。

 

「それって……すごくもったいないことだと思わない?」

 

 歴史的な遺物……レア……1%だと……ピックアップ……バカな……そんなのあまりにも――。

 

 

「高過ぎるじゃない……!」

 

 

 そんなに確率があるの!? 英霊を召喚する奴は0.8%だし、私たちの青春の物語なんてそれ以下の0.7%じゃんね!? 0.75%でサポカ完凸要求のウマなんてオエッ……!

 

「どうやらアウラもわかってくれるみたいだね……」

 

 "アウラはこっち側の魔族だと思っていた"と訳の分からないことを言いつつミミックから引き抜かれるフリーレン。

 

 しかし、そう言われてしまうと途端にこのミミックたちが、宝の山に見えて来てしまう。別にフリーレンも私も食われたところで死ぬわけでもないし、確かに問題ないと言えば問題はないだろう。

 

「……今回だけじゃん、ね」

 

 尚、私はこの言葉を500年後も言い続けることになるのだが、それは今の私には何も関係のないお話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2時間後――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとあったね……」

 

「ちょっとあったわね……」

 

 そこにはミミックではなく、宝箱だったモノから獲得した十数個の戦利品を眺め、少しだけ誇らしげに座り込む縦ロールと化したフリーレンと、若干首を痛めて肩を押さえて座る私の姿があった。

 

「見てこれ、"命懸けで宝物庫の扉を閉じる魔法"だって。とても古い民間魔法だね」

 

「何に使うのよそれ」

 

 割と貴重な魔導書(産廃)も2〜3冊ほど出て来たため、フリーレンはご満悦な様子である。

 

 ちなみにこの命懸けで宝物庫の扉を閉じる魔法というもの。見る限りどうやら術者が生きている限り扉だけを閉め切って守る魔法である。つまり、宝物庫なら扉ではなく壁をぶち抜けば容易に侵入出来るということだ。作った奴はアホなのか。

 

「というか、なんで髪が縦ロールになってるのよ……?」

 

「こうなっちゃうんだよ」

 

「いや、そうはならないでしょ」

 

「試してみたら?」

 

「そんなバカな――」

 

 

 

 2分後――。

 

 

 

「…………なったわ」

 

「なったでしょ?」

 

 私のトリプル三つ編みもトリプル縦ロールになってしまった。どうやらミミックの内部で内側から攻撃魔法で爆破すると縦ロールになるらしい。これって何かの研究対象にならないだろうか?

 

 それはそうと、元々大きなダンジョンではない上、一階層しかないため、100年の地図でマッピングされていない一部区画以外のミミックは大方倒したと言っても過言ではないだろう。これでお昼前までには帰れるな。

 

「じゃあ、そろそろ帰ろうか。最深部はやっぱりもぬけの殻だったしね」

 

「は……? ダンジョンは隅々まで調べるものじゃない。取り逃がしているかも知れないと考えるだけでモヤモヤするわ。戻ってマッピングするわよ」

 

「そうなの? うーん……まあ、そうかも」

 

 フィールドに落ちてる一式装備の腕や脚だけ取り逃がすだなんて、ソウルシリーズでは定番過ぎて笑い話にもなりはしない。

 

 フリーレンもなんとなく同意を示したため、マッピングをする。とは言っても100年前の探索隊が優秀だったのか、迷ったのか、2〜3箇所の道以外はマッピングされていたので直ぐに終わるだろう。

 

「そういえば、アウラ?」

 

「なによ?」

 

 一本目の道をマッピングしているところで、フリーレンの方から声が掛かる。

 

「ミミックに服従させる魔法(アゼリューゼ)使わないの?」

 

「………………その手があったわ」

 

「忘れてたんだ。魔族の魔法なのに」

 

 コイツ、天才か……? 私、自分の魔法(アゼリューゼ)の研究と研鑽はするが、そもそも少ない実戦でも使うまで中々行かず、自ら頼らないようにしているので完全に忘れていたところだった。

 

 そうだ。私って断頭台のアウラだったじゃない。

 

 そんなことを考えつつ、一本目の道は直ぐに突き当りになり、そこには丁度一匹宝箱がいるばかりだった。最早、宝箱がミミックにしか見えない。

 

服従させる魔法(アゼリューゼ)

 

 というわけで、早速服従の天秤を出現させ、ミミックかどうか確認せずに使ってみる。

 

 …………………………? はて? 反応しなかったな。ということは――。

 

「――――ッ!」

 

「あっ……」

 

 すると直ぐに隣のカスエルフが抜け駆けし、普段ののそのそとした様子が嘘のような俊敏さで宝箱まで迫ると、何の躊躇もなく開け――。

 

 

「………………」

 

『――――(ガブガブ)』

 

 

 また、ミミックに食われかけのフリーレンと化した。

 

「嘘吐き……魔族……裏切り者……」

 

「こっちの台詞よ」

 

「アウラの魔法壊れてるよ」

 

 相変わらず、自身の非は一切認めずに失礼極まりないことを言っているが、私としても多少不安になって来た。とはいえ、流石に私が可笑しくなっていない限りは、私が死のうと絶対なものが魔法なため、恐らく私に非はないと考える。

 

 とりあえず、フリーレンをミミックから引き抜き、直ぐには倒さずに何度も蹴りを入れて擬態させないようにしつつもう一度服従させる魔法(アゼリューゼ)を使ってみる。

 

『――――』

 

「今度は成功したわね」

 

「魔法によるものかな?」

 

 まだなんとも言えないため、マッピングのついでにミミックをアゼることにした。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 十数体のミミックをアゼったことでひとつの仮説……というよりも驚きの事実が判明した。

 

 どうもこのミミックという生き物、獲物が口を開く段階まで魂というものが存在しないレベルで無機物である宝箱に擬態、あるいは仮死状態になっているらしい。

 

 まあ、確かに……いつの間にかそこに発生したり、生き物のように生殖で増えたりと未だによくわかっていない魔物の生態は予想すら出来ないかも知れない。

 

 そもそもダンジョンにばかり集中しているミミックやガーゴイルと言った魔物は、発生のメカニズムが不明らしく、ダンジョンを一掃してもそのうち気付いたら湧き直していたりするそうなのだ。

 

 まあ、湧く理由は不明だが、生存方法はなんとなくわかった。要するに前世の生き物で言えば、魔法によってミミックは、クマムシを超え兼ねないレベルで仮死状態になれる生き物らしい。

 

「"擬態する魔法"ってとこかな? 魂までそれが適用されているとは思わなかったけれど」

 

 まあ、人間に魂まで干渉する魔法は今のところほぼ存在しないであろうし、あったとしてもそれをミミックに対して使うことはまずないだろうから当然といえば当然だろう。ついでに例えばシャコの生態などを思えば、人間が出来ることなど高が知れていると言わざるをえないな。

 

 ちなみにミミックは外部及び内部構造的にも二枚貝の仲間に近く思えるが、ミミックの幼体というものは発見されていない。だとすれば、全く別の種類だと思われている魔物がミミックの幼体である可能性はないだろうか?

 

 例えば、フジツボだ。フジツボは貝類の仲間に思えるが、実際には甲殻類の仲間である。というのも幼体の頃のフジツボはなんと海を泳ぐのだ。ノープリウス幼生と呼ばれ、エビやカニと同様に甲殻類の最も基本的な幼生をしているのである。

 

 とは言え、そんなミミックがなぜこんな片田舎のダンジョンで異様にポップしているのかは、謎以外の何物でもないがな。

 

「アウラ、これ見て」

 

 ミミックについて考察していると、フリーレンがマッピングの最後の場所の一角で立ち止まり、私を呼付けて来た。やたらしたり顔をしてその周囲をペタペタと触れて回っている。

 

 これでマッピングは全て終わったのだが、どうやらまだ何かあるらしいが、最後のフロアは円形のやや広めの空間というだけで相変わらずミミックしかいなかった。

 

「ここなにかあるよ、ダンジョンの構造的に」

 

「ここ?」

 

 何処かに隠し部屋でもあるのかと思えば、フリーレンの指は真下を指している。どうやら下に空間があるらしく、何かギミックがあるのではないかと探していたらしい。

 

「おっ、これだね。どうやら触れた者の魔力に反応し――」

 

 どうするべきかと考えていると浮遊感を感じたため、ほぼ無意識に飛行魔法でその場に停滞する。何が起きたのかと辺りを見回すと、このフロアの床全面が綺麗さっぱり消えていたようだ。

 

 そして、下を見てみるとダンジョンとは異なり明かりがないため、人間ならば先が見えないほどの虚空ばかりがあり、そこへ落ちて行くフリーレンが居るばかりだった。

 

………………………………。

…………………………。

……………………。

………………。

…………。

……。

 

 …………? ああ、そうだ。フリーレンは飛べないんだったわね。

 

 直ぐに急降下してフリーレンへと向かう。落下するよりも私の飛行速度の方が速く、ぐんぐんその距離を縮める。

 

 そして、目をぱちぱちと何度も瞬かせているフリーレンの焦点が定まらない瞳と私の目を合わせ、それと共に彼女を片腕に抱き寄せて抱えつつ壁まで飛ぶ。

 

 更に身体強化魔法を用いながらもう片方の腕を壁の側面に手を掛け、引っ掻くように垂直の壁を削りながら勢いを殺して十数mほど滑り落ちて止まると、最後に壁から手を離して1mほど下の地面に降り立った。

 

「ああ、アウラ……。助けてくれたんだ?」

 

「そういうときにちゃんと命令しなさいよね? 今度は助からないかも知れないわよ」

 

 どうやら魔族のために夜目が利く私とは違い、フリーレンはほとんど見えていないらしい。その辺りは人間相応なんだなと思いつつ真上を見上げると開いていた筈の床が完全に閉じ、また上からは確認できなかったが幾重にも封鎖されているように見える。

 

 100mは軽く落ちたと思うため、上に戻るよりも出口に繋がるギミックを見つける方が早いかも知れないな。

 

「どうやら質の悪い罠だったみたいだね。隠されてた上にかなり高い魔力量に反応するようになってた」

 

 そう言いながらフリーレンは魔法で光を灯し、私は彼女を腕から下ろした。

 

 すると周囲が照らされ、上よりも更に年代を感じさせる石材や奇妙なモチーフの石像が並び建っていることがわかる。どうやらクッソ分かり難い入り方のせいで現在までこの場所が見付からなかったようね。

 

「驚いた……。私も伝承でしか知らなかったよ。どうやらここは――」

 

「どうかしたの?」

 

 私にとっては不細工で古いぐらいの感想しかないが、どうやらフリーレンにとっては違うらしく、それらを大きく目を見開いて眺めており、私としてはそちらの方が珍しいと感じる程度だ。

 

 何をするわけでもなくそんなフリーレンを眺め――魔力探知が反応したため、即座に大鎌を廻す魔法(シュピラーレ)で手元に大鎌を形成すると、こちらへ飛来する何かを斬り伏せた。

 

 それはキチン質に似た質感の不格好な矢とも杭とも見える何かであり、飛来して来た方向を見れば――。

 

 

『――――――!!』

 

 

 不揃いな牙を剥き出しにして威嚇する奇妙な宝箱がおり、その底面から凄まじく長いカニの脚のような物が幾つも生え、口の中から長く巨大な二本のハサミが伸びた"カニのようなミミックっぽい魔物"がいた。

 

 どうやら飛んで来たのは矢でも杭でもなく鋭利な牙らしく、宝箱部分の幅が約2mほどで、手脚は7〜8mあり、概ねタカアシガニのようなフォルムをしていたが、遥かに巨大だ。また、宝箱の内部の中心から触手のように揺れて伸縮する舌が伸びている。

 

「えぇ……」

 

 嘘ぉ……。カニ……? カニじゃん……。やっぱりミミックってフジツボの仲間というか甲殻類だったの……?

 

「――"神話時代のダンジョン"みたいだね。すごい、ミミックの上位種なんて初めて見たよ」

 

「えっ、神話の時代ってあんな魔物が闊歩してたってこと……?」

 

 ああ、なるほど……。どうやら神話の時代ではミミックは冒険者に対して元気に襲い掛かって来る生態をしていたらしい。それが進化の果てに極限まで余計なエネルギーを使わなくなって随分大人しくなったと言うべきか何と言うか……。

 

 

『――――――――!!!』

 

 

 そんなことを考えていると、牙を機関銃か何かのように放ちながらミミックの上位種がこちらへ向けて前方に蜘蛛のような機動で突撃して来た。

 

 ケガニかな……? 前に歩けるのよね、アレ。

 

「どうするフリーレン?」

 

「魔物だし、鍋にはできないと思うよ?」

 

「お前、今そんなこと考えてたの?」

 

 ………………ああ、そう言えば村興しに何か欲しいって旦那が言っていたわね。まあ、珍しいみたいだし、とりあえずはアレでいいか。マスコットにでもすればいいじゃない。

 

 私は"服従の天秤"を取り出す。

 

 

 

「――服従させる魔法(アゼリューゼ)

 

 

 

 私とフリーレンの初めてのダンジョン探索は、波乱の幕開けとなるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ミミックの上位種
 神話時代のミミック。上位種というよりも古代種であり、宝箱の胴体を持つカニのような魔物である。凄まじく気性が荒く、魔力探知の範囲に入った同族を除くあらゆる動く物を攻撃する習性があり、更にキチン質の外殻は合金のように硬い上に硬化魔法や身体強化魔法に長けるため、攻防ともにドラゴン並みかそれ以上の頑強さを誇る。また、硬化と身体強化されたハサミは容易に斬鉄し、射出できる牙は石材をプリンのように抉る。更にカニの魔物らしく身体の再生速度が異常なほど速い上に回復魔法も扱う。近距離にも遠距離にも対応した隙のない生物である。尚、必要性がないため、魔力量が著しく高いわけではなく、それが返って実力を見誤る原因となるため、神話時代ではダンジョンで最も会いたくない魔物の上位に名を連ねていた。
 ダンジョン下で生きるため、生物がいない状況では"擬態する魔法"によって石像に近い存在と化しており、空気中の僅かな魔力を吸収するのみで永遠にも近い時間を生き長らえることが可能。しかし、その魔法の性能があまりに高過ぎたため、現代では攻撃性をほぼ捨て去り、現在の進化を果たした。
 尚、ミミックの幼体は目に見えないほど小さな存在で空気中を飛んでおり、それがダンジョンや洞窟など魔力に溢れた居心地の良い場を見つけるとそこで根付き、周囲の魔力を吸い上げて急激に育つことで万人が知るようなミミックとなる。


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