TS転生少女は薄幸の聖少女ライフを満喫したいらしい   作:resn

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TS転生少女は薄幸の聖少女ライフを満喫したいらしい

 

 ──どうやら、私は転生でもしたらしい。

 

 

 というのも、今しがた目覚めた場所に、見覚えが無かったからだ。そして、成人していたはずの自分の体が、明らかに子供のものとなっていたからだ。

 

 ここは、どうやらひどく壊れた廃屋らしい。

 だが、どうやら小さくなったらしいこの身体はそんな崩れた廃屋の、建造材の隙間に入り込むようにしてスペースを確保し、睡眠を取っていたらしい。

 

 だが、しかし。

 自分には、就寝するためにわざわざそのようなアクロバティックなチャレンジをしていた記憶は無い。

 

 いつも通り終電ギリギリに仕事を終えて帰宅し、着替えもそこそこにベッドへとダイブしたところまでは覚えている。だが、それから今、この廃屋で目覚めるまでの記憶が忽然と消えていた。

 もしも、元の世界で死んでこちらに転生したのだとすると……就寝中に脳でもやったのだろうか。

 

 ──随分とあっけなかったな。苦しむ事が無かったのを喜ぶべきだろうか。

 

 実際には、唐突に家族や知人と永遠の別れになった事で、泣き喚きたいほどの悲しみはある。

 だが今はそのような場合ではないためにグッと涙を拭い、次に何をするべきかを思索する。

 

 

 ──まずは状況把握と、廃屋から外の様子を覗き見る。

 

 今自分が居るこの場所は、いわゆる貧民窟とか、スラム街とか、そういった類の場所だろうかと予測する。明らかに人間ではない耳や尻尾を持つ人物が闊歩していたため、ここが地球にある日本という国ではない、違う異世界であることも把握した。

 

 それだけ確認すると……疲れた目で徘徊している人々や、一見して関わり合いになりたくない姿をしている輩に見つからぬよう、音を立てないように細心の注意を払い元の就寝スペースに戻ると、ちょっとした思いつきを試してみれる。

 

「……え、っと。ステータ、ス」

 

 たどたどしいが、可愛らしい、澄んだソプラノボイスが自分の口から出たことに少し驚きつつ、ゲームみたいにステータスを見る事ができないかと何となく思いつきで試してみたところ……。

 

「わ。でた」

 

 本当にARのような半透明のステータスウインドゥが開いた。驚きつつも、指で触れて動かしてみると……すぐに、あるものに目を奪われた。

 

「……これ、自分」

 

 ステータス画面の片隅に表示されている、こちらの動きに合わせて動く、その自分の姿は。

 

 着ているものは、ボロボロに擦り切れ、装飾も削り取られた薄汚れた白いドレスのような服。その上に、すっぽり全身を覆うように、同じ擦り切れてボロ切れみたいになったぶかぶかの外套を被っている。

 その、フード部分を脱いで出てきた顔に、一瞬で目線が吸い込まれた。

 

 サラサラの銀髪に、白い肌。エルフのように長く尖った耳。全ての顔のパーツは奇跡的なバランスで整っており、絶世の美少女と言っても良いだろう……少なくとも、自分は元の世界でこれほど美しい少女は見た事がない。

 

 対して体はというと、こちらは完全に幼女体型だ。

 決して不健康という訳ではないが、手足はすらりと長いが細く、胴体は心配になるほどに薄い。

 

 全てが下手に触れようものならば儚く崩れ去る砂糖菓子で出来ていそうな華奢な部品で構成された、見た目十に満たないであろう幼女の姿が、そこに映されていた。

 

「……自分、めちゃくちゃ可愛い」

 

 ちょっと伏せ目がちにして、俯き加減で座っているだけで、まるで世を儚む少女を描いた絵画のような佇まい。

 しばしやるべき事を忘れて、様々なアングルから自分の姿を見つめ……十分ほどしたところで、ハッと我に返った。

 

 美少女とはかくもおそるべきものか。

 気を抜くと、そんな場合じゃないと分かりつつも自分の姿を見ていたくなる。

 

 そんな衝動を無理矢理抑え込みながら、ステータスを確認していくのだが……

 

 ──いかん、めちゃくちゃ弱いぞ、自分。

 

 フィジカル系の能力が、比較対象が無いため確証はないがおそらく軒並み低い(ほぼ一桁)上に、成長率までEとかFとかが並んでいるのだ。

 

 ならばと開いたスキル欄には……こちらは最初から、二つのスキルが記載されていた。

 

 

 一つ目のスキルが『癒しの手:A』

 回復を願いながら対象に手を翳すだけで、怪我や病気、欠損を治療する。使用時には体力を消耗し、自らは対象にする事ができない。

 ランクAの場合は聖協会において信仰対象になるレベルの治癒能力を持つ。

 

 

 スキル説明をあらかた読み終えて、ふー、と溜息を吐く。

 

 ──あ、なるほど、そういうのね。

 

 守護られ系回復チート美少女なのかと理解した。なるほどステータスが低いのも納得だ。

 聖徒教会やらがどういうものかは詳しい情報は無かったものの、どうやらこの世界の宗教の中で自分は大切に扱われる存在らしいという情報も収穫だった。

 

 ならば、もう一つのスキルはどのようなものだろうかと期待しながら確認すると。

 

 

 もう一つのスキルが……『薄命美少女:A』。

 どうやら自分は、どんな環境下でも容姿が損なわれることはないらしい。永遠の美少女確定とかマジ神スキルと思った……のだが。

 なんでも、代償として虚弱体質になるらしい。

 呪いじゃねーかふざけんな。

 

 

 こうして得られた情報をまとめると……今の自分は、身体能力はまるで期待できず、いくら強力であっても自分は対象にできない回復魔法しか使えず、病弱なエルフ美少女と、そういう事らしい。

 

 

 これはまずい。

 何がまずいって、この場所が衛生的にちょっとよろしくないスラム街で、どうやら自分はここの浮浪児だということが良くない。

 

 下手に体調を崩したら、そのまま野垂れ死ぬ。

 悪人に捕まればおそらく散々弄ばれた上で死ぬ。

 

 早々に庇護者を見つけなければ詰む。人生ハードモードだコレ。

 

 だが、この類稀な容姿(自慢)では、下手な相手に目をつけられてしまえばぐへへな流れからの性奴隷ルートまっしぐらだ。

 権力者や金持ちに保護されるルートならば生き延びられる可能性も高いかもしれないが、相手が変態性癖を抱えていたらこれもヤバい。

 見た目せいぜい八歳くらいの幼女なのだから叡智は流石にされないだろ……と言いたいところだが、残念ながら元いた世界でもそうした事件が無かったわけではないのだから、現代日本より明らかに倫理観が低そうな世界観でしかもスラム街の中など分かったものではない。

 

 何より……せっかくの美少女に産まれ直したのだから、処女(ハジメテ)は大切にしたいのだ。

 

 それも永遠の美少女の、たった一つしかない純潔なのだから、その希少性はラストエリクサーにも引けをとるまい。

 それを失うとなると……まだ、親交を重ねに重ねた上で最終的にロマンティクスする結果となるならば諦めもつくが、無理やり叡智されて捨てさせられるのは絶対に嫌だ。自分はエリクサーを惜しんで使い損ねるタイプなんだ。

 

 ……という訳で、方針は決まった。

 

 とりあえず、当面の間庇護してくれそうな誰かを探す。身の回りの安全を確保したら、貧困に喘ぐスラム住人に恩を売ってチヤホヤされつつ、情報とできれば食事と寝床を得る。

 

 その後はどのように進展させるかだが……あり得そうなところだと、奴隷商人に捕まってVIPに売り飛ばされる、王族や貴族といった権力者に保護という名目で軟禁される、聖徒教会とやらに聖女という役職名で保護と(以下略)のいずれかが、まだマシな生活を得る可能性としては有り得そうなところか。

 

 奴隷商人に捕まるルートはランダム性が大きそうで、できれば避けたいところだ。

 理想は、王侯貴族や聖徒教会連中に目を付けられて保護(略)されて、いずれはなるべく善良な権力者の庇護下に入るか、聖女とやらに重用されるのを目指す。

 

 ……それでいいのかって? 

 

 どのみち、ステータスを見る限りでは冒険者として名を上げるとか、チート無双でヒーローになるとか、そういったことは不可能そうなのだ。

 

 ならば、せっかく美少女に産まれ直したのだから、ちやほやされたいのだ。回復チートで人々を癒して向けられる感謝で承認欲求を満たしたいのだ。安全な場所でぬくぬく傅かれて生きていたいのだ。

 

 権力者にいいように使われる回復チート聖少女万歳、自由は無くなるかもしれないが安全な生活は高確率で保証されるし、権力者や金持ちに軟禁される籠の鳥など実に薄幸の美少女らしいではないか、実に良い。

 

 まあ、それはそれで、将来的には心配事もあるのだが……それよりもまずは、生き延びて安全に暮らせる環境を手に入れるのが最優先だろう。

 

「自分は──()は必ず、純粋かつ純情な心優しい美少女として、薄幸の聖少女ライフを満喫する……ッ!」

 

 そう、グッと拳を握り誰にともなく宣言すると、フードを目深に被って、貧困に喘ぎ救済を求める人(ターゲット)を探してスラム街へと紛れ込むのだった。

 

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