TS転生少女は薄幸の聖少女ライフを満喫したいらしい   作:resn

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つづいた。急いで書いたのでちょっと雑です。



治癒の奇跡はじめました

 

「レン、死ぬな、こんなところで!」

 

 迂闊だったのだ。

 刺された少女……孤児仲間であるレンは、僕らが数少ない仕事をどうにか拾って稼いだ貨幣を管理してくれていた。

 それを、どこからか聞きつけてきたらしい物取りに奪われそうになり、抵抗して……そして刺された。

 

 僕がその場に居れば。

 レンを一人にしなければ。

 

 ぐるぐる胸中を回る後悔に苛まれながら、ただ必死に、今も血が大量に流れ出す傷跡を必死に止血しようと抑えるも……それはただ、レンの身体が徐々に冷たくなっていくのを遅らせることしかできない。

 

 両親が死んだときも、僕は無力だった。

 財産を親類縁者に根こそぎ奪われて捨てられた際も、何も守る事ができなかった。

 

 そして今、流れ着いたこのスラムでできた友人まで、また目の前で失いそうになっている。

 

 誰か、神でも悪魔でもいいから誰か──そう望んだ時だった。

 

 

「その子のケガ、みせて」

「……うわっ!?」

 

 不意に、側から聞こえてきた声。

 そしてニュッと眼前に生えてきた頭に、思わずのけぞって悲鳴を上げてしまう。

 

 僕のすぐ横には……いつのまにか、白いボロ切れのような外套を目深に被った小さな影が座り込んで、レンの様子をじっと見つめていた。

 

「き、君は……?」

「私のことよりも、まずはその子。見せて?」

「あ、うん……」

 

 舌足らずな、幼い女の子の声。

 驚いて言葉を失っている僕に、少女は強い口調で、腕を下せと指示を出してくる。

 

 少女が見やすいように、レンを抱えている腕を下ろすと、その様子を眺めていた少女は……一つ頷くと、告げる。

 

「だいじょう、ぶ。まかせて」

「あ、ああ……」

 

 全身を外套で隠した少女らしき人物は、今僕が腕に抱えているレンに、その小さく白い手を翳す。

 

 ──その時の光景を、僕は絶対に忘れないだろうと思う。

 

 視界いっぱいに広がる虹色の輝きと共に、今まさに腕の中で冷たくなりつつあったレンの身体に暖かさが戻っていく。血色が戻り、スラム生活でついた細かな傷や肌荒れも消えて、滑らかな子供の肌へと戻っていく。

 それだけじゃない。周囲に居る僕らの細かい怪我まで余波で治癒されていっている。いったいどれほど強力な治癒の力なのか底が見えないが、これならばきっとレンは助かると、ただこの奇跡に感謝の祈りを捧げる。

 

 やがて……。

 

 

「……よかった、まにあった」

 

 傍らから聞こえてきた、安堵の声に、ハッと我に返りそちらを見る。

 そこには……先ほどの光を放った際に発生した風圧で外れたのだろう、フードをはだけた少女が、控えめに、ふわりとした笑みを浮かべていた。

 

 ──見た事もないような美しい少女が、そこにいた。

 

 尖った耳は、エルフの特徴だろうか。

 スラムには似つかわしくない銀糸の髪を靡かせた、繊細に描かれた絵画のような少女が微笑んでいた。

 

 そんな姿に見惚れていた僕は……しかし、すぐに違和感を覚える。

 

 少女の顔が、やけに蒼白だ。目の焦点もどこかあっておらず、頭がぐらぐらと揺れている。

 

 ──倒れる! 

 

 咄嗟に判断し手を伸ばした瞬間、少女は、ぷつりと糸が切れたように僕の腕の中へと倒れ込んできた。

 

「ウォーリ、マジク、どこか休める場所を!」

「あ、ああ!」

「う、うん、分かった!」

 

 咄嗟に、背後で推移を見守っていた仲間の少年二人へと指示を出すと、彼らはすぐに状況を理解して駆け出していった。

 

 呼吸が妙に浅い。ひゅう、ひゅうと変な音を立てて喘ぐような呼吸音を上げる少女に、どうすればいいのか気ばかりが焦る。

 

 何が、これならば助かるだ。

 あれだけの力を行使した少女に掛かる負担が尋常ではないことなど、少し考えたらわかることだったじゃないか。

 

「ヒーロ、この前仕事を手伝った牛飼いのおじさんが、納屋なら使っていいって。今マジクが藁でベッドを用意しているから、早くその子を休ませてあげよう」

「本当かウォーリ、助かる!」

 

 戻ってきたウォーリが、レンを抱き上げながら報告してくれる。

 仲間たちの素早い行動に胸中で喝采を挙げながら、僕は気を失った少女を運ぶべく抱え上げて……そして、一瞬固まる。

 

「軽い……」

 

 まるで、この世のものではないような軽さだ。

 弱々しく、苦しげな息を吐く小さな少女。そのあまりの軽さに、胸が締め付けられそうになる。

 

 治癒の奇跡は、術者の体力を著しく削ると聞いたことがある。

 それをこの子は、こんな小さな弱々しい身体で、躊躇なくスラムの子供に使ってくれたのだ。

 そう思うと僕は居てもたってもいられず、この小さな身体に少しでも熱を分け与えてあげたいと、壊れ物を扱うように抱きしめる。

 

 ──守らないと。この子を、絶対に。

 

 それは、生まれて初めて抱いた、この心優しい少女に全てを捧げたいという強い衝動。

 

 騎士の子として産まれた僕に初めて生じる、生涯仕えるべき主人を見つけたという、心を激しく震わせる歓喜。

 

 この瞬間、僕は……ヒーロ=ディセンダーは、このとき初めて、自分の一生を賭けてでもこの少女を護りたいという願望を抱いたのだった。

 

 

 

 

 ◇

 

 ──さて、どうやって庇護してくれそうな相手をさがそうか。

 

 そんな悩みはしかし、スラム街を数分歩いたくらいですぐに進展があった。

 

 

 

「──レン、死ぬな、こんなところで!」

 

 閑散としたスラム街に響く、悲痛な少年の声。

 すわ何か事件かと、私はすぐさま声がした方向へ向かうと……そこで目に飛び込んできたのは、おびただしい量の、真紅に染まる街。

 

 凄惨な風景の中でまず真っ先に目に入ったのは、孤児にしては妙に精悍な顔つきをした、歳の頃は私よりも少し上、ローティーンくらいの少年。

 少年の後ろで顔を真っ青にしている、大柄小柄と両極端な、二人の孤児たち。

 そして……少年の腕の中では、彼と同年代くらいの少女が、お腹から物凄い勢いで血を流し、周囲を真っ赤に染めながら倒れていた。

 

 その血生臭い光景に、目を合わせないように立ち去っていくスラムの大人たち。

 孤児が路上で刺され倒れているというのは、日本での記憶がある私にとっては異常事態でも、彼らにとっては日時茶飯事でしかないありふれた光景なのだろう。

 地球という星においても上澄みの安全な国に住んでいた私には、それを非情だと責めることなどできない。

 

 だが──なればこそ、純真美少女回復チート聖少女たる私が、彼女を見捨てておける訳がない。

 

 決して、恩を売り対価として庇護して養ってもらおうとか、同年代より少し上の少年少女ならば身の危険は無いだろうとか、そうした打算があっての行動ではないのだ。

 

「その子のケガ、みせて」

「……うわっ!?」

 

 少年の隣に座り込み声を掛けると、突然現れた私に驚いた少年が派手にのけぞり悲鳴をあげる。

 

「き、君は……?」

「私のことよりも、まずはその子。見せて?」

「あ、うん……」

 

 意外にも、こんな怪しさ満点であろう私におとなしく従う少年。きっとそれほど藁をも掴む心境なのだろう。

 そんな彼に促され、倒れている女の子を状態をざっと観察する。

 

「だいじょう、ぶ。まかせて」

「あ、ああ……」

 

 自信満々に曰う私に、半信半疑ながらも頷く少年。

 

 まあ、彼が心配に思うのも無理はない。目の前で怪我をしている少女は、見た限りではおそらくお腹の大きな動脈を損傷したのだろう。

 

 大量の鮮血が溢れてくる様は明らかに致命傷であり、このようなスラムの片隅でどうにかできるような怪我ではない。

 

 ──だが、今は違う。私のこの手は、信仰されるレベルの治癒能力を秘めた奇跡の手なのだ! (ギュッ)

 

 そんな、なんとなくスーパーなお医者様になったような気分で、横たわる少女へと手を翳し、初めての『癒しの手』を発動した。

 

 思ったより派手なエフェクトだった。

 それと、めっちゃ体力使うわコレ。

 

 どうやら一度治癒を始めたら、相手の負傷を全て治療し終えるまで止まらないらしい。出力にガン振りらしい私のランクA癒しパワーは細かな制御が全く効かないようだ。

 ヤケクソのように吹き出す虹色の治癒の光に見合うくらい、凄まじい勢いで減少していく体力と、薄れていく意識に、危機感が湧き上がってくる。

 

 ──あれ、これでやっぱりダメでした助けられませんでしたとか言ったら、もうこの子らに信用されなくない? 

 

 それだけはいけない。

 私が望むのは、皆に感謝されて愛されてちやほやされる癒し(物理)系美少女ライフなのだ、その初手で躓く訳にはいかない。

 何より……彼らにはその第一号として当面の間、自活能力が無い私のことを養ってもらわなければならないという、切迫した事情があるのだから! 

 

 そんな危機感にせっつかれるままに、必死に意識を繋ぎ止めていると……いつの間にか、治療を終えた癒しの手は、光を放つのを終えていた。

 目の前にいるのはもう、すっかり血色も良くなり穏やかな呼吸をしている、怪我人だった少女のみ。

 

「……よかった、まにあった」

 

 どうやら、回復チート美少女の矜持は保てたらしい。

 ほっと安堵した瞬間……ここまでの疲労が一気に押し寄せて、視界がぐらっと激しく回った。

 

 だが、しかし。まさか神秘系美少女が顔面から大地に倒れ伏すなどあってなるものか。

 その一念のみでギリギリ近くに居た少年の腕の中へとターゲットを定めると……私は、今度こそ意識を手放して倒れたのだった。

 

 

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