チームブルー編 第一話
ここはサイバトロンの衛星にあるDユニット基地、管制室。入り口から入って正面と左右の三方の壁に向かって1個ずつ椅子が設けてあり、その前の机にはそれぞれ多くのモニターと観測機器が並んでいる。
モニターには空に空いた穴と、それに向かって飛んでいくTFが映っている。マグナコンボイ。彼こそがDユニットの総司令官である。今はロボットの姿だが、彼が変形するビークルはカーキャリアを牽引する青いトレーラートラックであり、陸上車両型TFが殆どの組織の長にまさにふさわしいと言えた。
そして三席にそれぞれ一体のTFが座っている。正面の席にたたずむ、黒地に青のポイントをあしらったスポーツカーに変形するディープカバーは、マグナコンボイ直属のチームブルーの一員である。
「…………」
室内には長いこと沈黙が続いていた。
「もしもし」
ディープカバーの左背後から一人のTFが声をかけた。
「はい、こちらディープカバー……。なんだお前か」
ディープカバーは振り返ってその顔を見るや否や、眉間にしわを寄せる。
「なんだとはなんだよ~!あっ、こちらシルバーストリークです。いま大丈夫?」
彼に話しかけたシルバーストリークは彼の同僚である。名前通りのシルバーのラインが青地のボディを貫いている。胸部にはビークルのボンネットが堂々と前に張り出て主張している。
「大丈夫とは、なんだ?」
陽気なシルバーストリークの声とは対照的に、ディープカバーは怪訝そうな態度で応えた。
「いやいや、モニターの仕事なんて暇でさ~。なんかしゃべろうと思って」
「真面目にやれ。重要な任務なのだ!我々Dユニットの総司令官かつチームブルーのリーダー、マグナコンボイが単身で異変の調査に向かうというからバックアップが必要だというのにお前ときたら何考えて……」
ディープカバーは立ち上がってシルバーストリークを叱りつける。
「わ~ってるよそんなこと!いちいち説明しなくたって!そんな怒んなくったていいじゃんか!おい!」
ディープカバーの怒りもむなしく、当の本人はへらへらと笑ったままである。
「ディープ、あんまり根を詰めると、仕事に支障がでるぜい」
画面を見つめたまま年季のある落ち着いた声で会話に割って入ったのは、同じくチームブルーの最年長、ブレーカーである。身体の色は二人と同じく鮮明な青だが、武骨な4WDへと変形することが一目でわかるような四角いボディをしている。
「そ、そうですねブレーカーさん……。とはいえこいつ、話し出すと長いじゃないですか」
「なっ、長いとは何だよ!お前は人の話聞かなすぎなんだよ!」
「ストリークもおしゃべりが好きなのはいいけどな!ほどほどにしとけよ!ハハハ!」
「は~い……。でもよぉ、マグナコンボイのことだ、一人でいっつも何とかしてるんだから、俺たちがすることなんかないって!」
「何かあった時のために俺たちがいるんだろ」
「でも今んとこなんもないじゃん」
「これから起きるかもしれないんだよ」
「モニターから目ぇ離すなよお二人さん!」
「「はい」」
会話を切り上げたその時であった。
ズズズズズズズ……
「なんだこの音は!」
「何が起こってる!?」
地響きのような奇怪な音が三人の聴覚を刺激した。
「カメラモニターを見ろ!どうなってる!」
その時写っていたものは、時空の穴が一瞬大きく開いたかと思えば、吸い込まれるようにマグナコンボイの姿が消失した瞬間だった。
「うそぉ!総司令官が穴に吸い込まれた!?」
シルバーストリークが画面にかぶりついて叫ぶ。
「総司令官!マグナコンボイ!聞こえますか!」
それまでモニターに映っていたはずの識別信号がキャッチできず、ディープカバーもつづけて大声をマイクに向けた。
「くそっ、あらゆる通信が通じてないぜ!」
ブレーカーは手元の通信機器を片っ端から操作するも、手応えを得られない様子だった。
カッ!
「うわぁあああああっ!」
突如モニターから閃光が漏れ出す。三人とも目を覆う。
「何が起こっているんだ!」
誰もがそう思い、あふれる光がおとなしくなるのを待つしかなかった。
その後、モニターに映る景色には穴のあった場所にヒビが入っているだけだった。手元の計器たちもそれ以上反応を示すことはなかった。
それから数時間後。ディープカバーにより、会議室にDユニット全チームリーダーが招集された。中央に設けられた円卓には、三人のTFがディープカバーの報告を聴いていた。
「以上が本件に関する報告です」
「ほい。質問。総司令官不在で今後どうする?」
説明が終わり、手を挙げたのはDユニット最古参のひとりで、チームレッドのリーダースピンアウトだった。レッドのリーダーだけあって、赤いスポーツカーのパーツが散りばめられたボディをしている。
「スピンアウトさん。それについては事前に司令官から命令が下っています」
「はあ、それでなんて」
「自主的に行動しろ、と……。各チームのリーダーに任せる、ということです」
一同がざわついた。
「それはどういう……。総司令官の意図は?チームブルーなら聞いているんじゃないのか!?」
叫ぶスピンアウト。上司の失踪という例の無い事態に、少々感情的になっているようだった。
「兄さん、一度冷静になってほしい。これはむしろ、我々を信頼しているということではないだろうか。」
スピンアウトの双子の弟コルドンが、彼を諫めた。コルドンはチームホワイトのリーダーで、スピンアウトと見た目がそっくりだがボディは対照的に真っ白である。警察組織の一員であり、その胸には赤色灯がついている。
「す、すまなかった。ディープカバー。それで、どういうことだ?弟よ。考えを聞かせてほしい」
「つまり司令官は、自分を助けに来い、と言っているのではなかろうか」
「なるほど。しかし、それならば最初から他に誰かを連れて行けばよかったんじゃないのかと思うんだが」
「ふむ、それはそうかもしれないが、報告の映像を見ただろう。今回の空間の穴は総司令官一人を吸い込んだ時点で閉じてしまった。我々が今まで観測してきた穴はそう容易に閉じるものではなかった。むしろそこが問題視されていたのだが。それと違って今回はおそらく、意図的に穴が閉じられた。そう考えるのが自然だろう」
「ほう」
弟の解説に対してなるほど、といった様子のスピンアウトであった。
「コルドンさん、続けてください」
「おそらく総司令官は、今回の穴について何者かの意図があることを知っていたのだろう。しかしそれを相手に悟られぬために、我々にも事情を深く説明することができなかったと考えるのが妥当だ。一人で調査に向かったのもそういう理由であろうな」
「なるほどね……。だとしたらもうやることは一つしかないわね」
チームブラックのリーダー、バーンアウトが沈黙を解いた。赤いラインをあしらった黒いバンから変形する、ウーマン型TFである。口元を覆っているマスクが冷徹な印象を与えている。
ディープカバーが再び仕切りだす。
「で、では司令官救出のための作戦を練る必要がありますね」
「それについては、我々チームホワイトに任せていただきたい」
コルドンが落ち着いた様子で立ち上がった。
「お願いします」
「じゃあ実行部隊は俺らレッドとお前さんとこだな、ディープカバー。今回もよろしく頼む!」
スピンアウトが立ち上がってこちらに熱いまなざしを向ける。
「は、はい」
「バックアップはうちがやるわ。これで決まりね。さっそく取り掛かるわよ!」
バーンアウトも立ち上がる。
ディープカバーが仕切る間もなく、各リーダーたちが次々と自分の役割を理解し、とるべき行動を即時に判断していく。ディープカバーは全員の発言を追うのに必死だった。
「それでは、次の会議、よろしくお願いします」
そうして緊急会議は一先ず終了となった。
会議が終わった後もリーダーたちはお互いに意見を出し合っているようすだったが、ディープカバーはひとり遅れて会議室を後にし、自室へと戻ると大きく息を吐いた。彼にとってリーダーの代理を務めることは初めてであったし、他チームのリーダーと同列に並ぶことは、彼に強烈な神経的ダメージを及ぼしていた。
「俺に司令官の代わりなんて務まるのか?」
その夜、彼の頭脳回路は一晩中稼働しっぱなしだったという。
第一話 終
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