チームホワイトによる解析の結果、今回の現象は空間にヒビの入ったその様相から“Shatterd Glass(壊れた窓)”と名付けられた。
先日と同じ会議室では全員参加でコルドン主導の作戦会議が開かれており、主題は時空のヒビへの突入である。
「ああ……えっと……喋ろうと思った内容が出てこない……」
それまで立て板に水だったコルドンの喋りが、突然もたつきはじめた。
「コルドン警部!大丈夫でありますか!これから具体的な突入方法についての解説であります」
このいかにも刑事っぽい口調のTFはクランプダウンである。ディープカバーと同じ見た目だが、真っ白なボディに赤色灯をつけた緊急車両型をしている。ディープカバーより少し遅れて誕生したいわゆる弟型であるが、チームホワイト所属のコルドンの部下で、彼からはその几帳面さを買われている。
「あ~……そうだった気がする。ありがとう」
「今資料をお持ちするであります。しばしお待ちを」
そう言ってクランプダウンが会議室から駆け足で出ていった。それを横目に見て、シルバーストリークが隣の席のディープカバーに耳打ちする。
「警部のあれってそのさ、なんなの?めっちゃ頭いいのにすぐ忘れちゃうってどういうこと?」
「俺も詳しくは知らんが……。総司令官と会う以前に、戦いの後遺症で記憶領域が破損してしまったというのは聞いたことがある。ただしその代わりに瞬発的な現状把握能力が卓越しているのは確かだな。そこでうちの弟、クランプダウンのたくましい記憶力が補佐役としては大抜擢だったわけだが」
「お前弟の話になると饒舌だよな。聞いてないのに」
「うるさい」
数時間後。クランプダウンが駆け足で紙切れを抱えて部屋に戻ってきた。
「お待たせしたであります!」
「ご苦労。解説に戻るとするが……。そうそう、空間に亀裂が入っているといっても。単純に、物理的に何かをぶつけても意味はないだろう。なにせ時空間のつながりを破壊してできた穴を無理やり修復したものであるからな。例えるならば、繊維質の素材(※布のことである。TFの世界に衣類は存在しない。)に穴が開いたところを、より合わせて縫い合わせた、といったところだろうな。そのような芸当ができるTFなぞいるとは思えないが……、現実に起きていることだ。否定することはできん」
「そういえば、空間を粉砕してワームホールを生成することができるユニクロンの手先がいたでありますが」
「そのとおり、空間に巨大なエネルギーをぶつければおそらくこの亀裂が少しでも広がると推察できる」
「ではミサイルなど高火力の兵器を使用する、ということでしょうか?」
真っ直ぐ手を挙げて質問したのはディープカバーであった。
「いや違う。我がチームホワイトのバグバイトくん、彼の持つアストロビームを使う」
「あれは兵器ではなく簡易スペースブリッジのようなものだと聞いていますが」
「ふむ、確かにその通りだが、しかし、スペースブリッジなど次元転移を利用した従来のトランスワープ技術とは異なり、アストロビームは人工的に誘起された量子重ね合わせの原理を利用している」
頭上に疑問符を浮かべてシルバーストリークがディープカバーの顔を覗く。
「え?どういうこと?」
「こっちを見るな。俺もさすがに門外漢だ」
「理論的な面はさておき。空間の亀裂に向けてアストロビームでの転送を行うことで強烈で瞬間的な空間の変化によるほころびを生じさせ、そのまま空いた穴から別時空へ突入する。アストロビームは瞬時に転送が可能で今回の作戦に最適だが、大量の人数を転送することはできない。よって少数精鋭での突入になる。3人が限界だろうな」
「ってことは、チームブルーだけでってことになります!?」
シルバーストリークが目を見開いた。
「ストリークくん、その通りだ。」
「チームレッドは?」
「向かうとしても君たちの後だ。援軍として要請してくれたまえ。」
「あっ、ちょっと待てよ」
さらにシルバーストリークの目が大きく開く。
「どうした。」
「それ以前にさあ!これってつまりあのヒビに体当たりして穴こじ開けるってこと!?」
大きく口を開けてディープカバーを凝視する。
「お前のわりに察しがいいな」
ディープカバーが冷ややかな目で見つめ返す。
「言ってろ!じゃなくて衝突させるって大丈夫なの?それ痛いんじゃねぇか!?」
「それについては、問題ない。物理的な痛みは生じないはずだ。ただし、時空の歪みに巻き込まれて後遺症が残る可能性は否定できないが……。」
「もっと嫌だよ!」
会議室に大声がこだまし、後ろからはクスクス笑う声も飛び交っていた。
「それは個人的にも懸念点ですね。そこに対する対処はこちらでなんとかします」
場の空気が再び静まり返った。
ちょうどその時、時間を告げるブザーが鳴った。
「会議は以上であります。お疲れ様でありました!」
クランプダウンの敬礼で、その日の会議は幕を閉じた。
また一日経ち、今日が作戦決行となった。基地の外、地上はいつもと変わらない顔をしているが、上空にはひび割れのような文様が異様に目立っていた。
「緊急事態から二日で対応とは、さすがDユニットといったところか。」
急なことだが、司令官不在の今、できることはなるべく早いうちにしたほうが良いとディープカバー自身も思っていた。先日の会議と言い、プロフェッショナルが集まっているようなチームである。
「なぜか一部には犯罪者もいるのだが……」
「えっ、そうなの?」
シルバーストリークの無知すぎる発言にディープカバーはあきれてしまった。
「そうだ。今回のアストロビームの所有者のバグバイトだって、レネゲイズ所属だったんだぞ」
「レネゲイズねぇ。ボトロポリスの反乱分子だっけ?」
「若いのによく知ってるねぇ」
そう言い出したのはブレーカーだった。
「あのバンブルビーさんのふりをして犯罪をしてたんだろ?そんなやつ引き入れるなんてどうかしてるよな~!ははっ!」
「あのアストロビームとやらも瞬間移動のように使われていたらしい。それで今まで警察から逃げ続けていた、まったく腹立たしいやつだ……」
「なかなか小賢しいおチビさんだねぇ、まったく」
三者三様の感想を言ったところで、背後からまた別の声が聞こえた。
「三人とも~。どうやら僕のうわさで持ちきりみたいだけど。そろそろ出発の時間みたいだよっ」
声をかけたのはバグバイトその人であった。チームホワイトの他の二人同様白いボディだが、彼はもちろん緊急車両などではない。一見少年のような見た目をしており、ビークルも小柄な乗用車から変形する。
「おやおやおや。チームブルーってのはいつも総司令官さんの尻ぬぐいで大変だな。」
バグバイトの隣にいは鉄仮面をつけた風貌の、スポンサーロゴが入った白いレーシングカーから変形したTFもいた。エグゾーストである。
「なんだお前たち。冷やかしに来たのか?」
ディープカバーが突っかかる。
「おいおい捜査官さんよ~。バグバイトはアストロビームの所有者だぜ?」
「じゃあお前はいなくていいだろ」
「こら~!本官の近くから離れてなにしてるでありますか!」
クランプダウンが基地の方から走りながらやってきた。
「兄上の邪魔をするんじゃない!」
「けっ、お兄ちゃん大好きかよ。」
「まったく。カウンタック兄弟に話しかけるんじゃなかったぜ。」
二名の前科者は、ばつが悪そうな顔をした。
「えっ、こいつから聞いたけど、お前たち犯罪者だったの?」
シルバーストリークがディープカバーを指さして尋ねた。
「まぁね。そうでもないけど。僕は1回しか捕まった来ないし」
「俺もまあ捕まるたびに逃げてるから似たようなもんだけどなぁ。」
バグバイトもエグゾーストも、まんざらでもなさそうだった。
「そっかあ。じゃあそんなに悪い感じじゃないのか?」
「そういう問題じゃないだろ!」
あまりにも呆れた会話にディープカバーは頭を抱えた。
「兄上、突っ込んでいる場合ではないであります。もう作戦の時間なのであります。」
「ああ、そうだったな……。」
ディープカバーが指定場所を確認しながら歩きだした。シルバーストリークも前科持ち二人を不思議そうに見つめながら、黙ってディープカバーの後をついてその場を立ち去る。
「はっはっは!楽しそうでいいねぇ~若いのは!」
二人の向かう場所からブレーカーの笑い声がこだましていた。
敷地内の、基地から少し離れたエリア。普段は演習を行う開けた場所である。アストロビームの前に三人が三角の陣形に整列する。一番前にいるのはブレーカーである。ディープカバーとシルバーストリークの二人は彼の後ろで、緊張の面持ちであった。
「俺のシールドで万が一あってもどうにかするから任せとけよ!」
サムズアップしながらブレーカーが叫ぶ。先日の懸念に対する対応はあまりにも単純であったが、アストロビームが目的通り動くためにも、重量は最低限にする必要があったので仕方ない。
「そういえばディープ。現状リーダーはおめぇに任せてるが、それで大丈夫かい?」
打って変わって落ち着いた口調で、ブレーカーは語りかけた。
「えっ、まあ。ブレーカーさんがやらないとおっしゃるなら……」
「そうかい。まあじっくり考えてくれよ!」
シルバーストリークは二人の会話など気にも留めていない。
アストロビームから閃光が発せられた。と次の瞬間、目の前に巨大なひび割れが出現する。否、チームブルーがひび割れの前に出現した。いよいよ未知の領域である。
「衝撃用意!突入するぞぉ!」
ブレーカーが檄を飛ばす。シルバーストリークとディープカバーも覚悟を決めた。
「「了解!!」」
第二話 終