――――それから数時間して……
サイバトロンのとある都市の繁華街、チームレッド&ブルーは銃撃戦の最中にいた。
「なんだあいつは……。サイバトロンのデータベースにも無いなんて……」
ディープカバーの頭脳回路はまたしても消耗の色を見せていた。
6人の前には、SGオプティマスプライムと、そして背丈は同じくらいの真っ黒なボディに巨大な肩装甲をまとったTFが、片手にはどぎついマゼンタレッドの色に光る巨剣を携えており、同じ色の目ががこちらを睨みつけている。
「知らない間に虫けらが三人も増えてるじゃないか」
黒いTFはつぶやく。
「お前!何者なんだ!」
シルバーストリークが果敢にも吠え掛かった。
「俺か?俺の名はスカージ!またの名を、ネメシスプラぁイム!!」
黒いTFは高らかにそう名乗った。
「ネメシス……プライムだと!?」
ディープカバーは驚きを隠せない。
「確かにあのエンブレム、オートボットでも、ディセプティコンでもない……」
リフトチケットも困惑の色を示す。
「くそっ!プライムがもうひとりいるなんて聞いてないぜこんちくしょう!」
ブレーカーも焦りを見せる。
「スカージが災厄でネメシスは復讐よね。中二病なのかしら」
なぜか平常心のロードレイジである。
「スピンアウトさん!指示を!」
ディープカバーが激しく叫ぶ。
「スピンアウトさん!」
「隊長!」
「おいスピンアウト!どうしちまったんだい!」
「あ、あの姿……。あの時のあいつと同じ……」
スピンアウトはスカージを凝視して固まってしまっていた。
「ほほう、俺の姿に見覚えが?貴様とは初対面のはずだが?」
スカージは興味深そうにスピンアウトを見つめ返した。
「ちがう、あの時のあいつは、もっと毒々しいライムグリーンだった……」
――――スピンアウトの脳裏によぎったのは、過去の戦い。
スカージと瓜二つのそれは、研究施設から逃げ出した怪物だった。ビークルモードがタンクローリーであり、そのタンクにつまった大量の毒液が、一般市民たちの身体を蝕んでいく光景が広がっていた。毒を扱う能力からそれは「トキシトロン(Toxin=毒素)」と命名され、当時結成して間もないDユニットからスピンアウトも、鎮圧のために駆り出されていたのであった。覚えているのは、ただただ響き渡る市民の悲鳴と、仲間の残骸。
トキシトロン毒は、厳密にいえばナノマシンのような微小な機械のであり、侵入したTFなどの神経回路に作用し自我を喪失させる。ナノマシンは寄生主のエネルゴンを吸い取って増殖し、他の寄生主を求めて感染を繰り返す。
「俺は……。何もできなかった……」
スピンアウトの能力は、名の示す通りSpin out=空転。相手のビークルモードのタイヤなど回転する機構に作用し摩擦を0にする。攻撃能力というにはあまりにも地味である。相手の身体コントロールを奪うことはできても、直接ダメージを与えることはできない。
ゾンビ状態のTFたちを自分に近づけないことはできても、まだ生きている可能性のある市民や仲間を攻撃することはできない。とはいえ精力を吸われていく彼らを、どうすることもできなかった。彼の良心の呵責に苛まれていた。
「オマエ……オマエハドウスル……」
トキシトロンがつぶやく。
「なんだお前……?」
スピンアウトがトキシトロンを見つめる。
「やめろ!俺にはもう、できることなどない!!」
彼の記憶はそこで途切れていた。この事件以来、同じような夢を見ることがたまにあった。そのたびに、スパークが崩壊しそうになった。
しかしこの事件での唯一の生き残り、ということで今ではすっかりDユニットでの古株になり、こうしてチームを任されるまでの人物になってしまった。でもそれは、戦闘能力に秀でていたからではない。むしろ、戦いから逃げてきたとすら自分では思っている。トキシトロンと対峙した時の記憶が、全力を尽くしなお自分一人しか生き残れなかった過去が、彼と自分の仲間を幾度も死から遠ざけることとなったのだ。彼は弟のコルドンのように熟考するタイプではないが、研ぎ澄まされた危機判断能力で幾度もチームを救ってきた名戦士だった――――
「こいつは、俺がどうにかする」
スピンアウトは低く落ち着いた声でそう発した。
「了解。隊長」
「バックアップは、任せて」
チームレッドの二人も同じ面持ちであった。
「ブルーの三人はオプティマスをできるだけ惹きつけてくれ。ブレーカー、頼むぞ」
「まかせなスピンアウト!」
「「了解!!」」
スピンアウトの指示にチームブルーが立ち直る。
「ロードレイジ、リフトチケット。ビークルモードでスカージを扇動してくれ。あとは俺がどうにかする」
「「ラジャ!トランスフォーム!」」
ふたつの真っ赤な車体がスカージに向かって突撃する。
「おらおら!そこの黒い兄ちゃんよ!!何見てんだオラァ!やんのかコラァ!」
ロードレイジが荒々しい口調でスカージの周りを旋回しはじめる。
「なんだこのウーマン!態度変わりすぎだろ!」
たじろぐスカージ。
「ふふっ、ロードレイジはいわゆる”ハンドルを握るとスイッチが入る”タイプなんですよ!ロープ射出!」
リフトチケットの車体から出たのはレッカー用のフックつきロープだった。
「ふん!ちょこざいな!」
紙一重で躱される。
「オラァ!」
「んぐっ!」
回避の隙を突いてロードレイジが体当たりで猛撃をしかける。
「ウーマンのくせに……!」
スカージの怒りが露わとなる。
「悔しかったら追いかけてみやがれ!」
「舐めるなぁ!トランスフォーム!!」
赤と黒のカーチェイスが勃発した。
「なんて強引な……。まさに”赤組”らしい戦い方だな……」
ディープカバーは傍目にチームレッドの戦いを見てつぶやいた。
「いったい何をしているんだ、スカージは!」
一方のオプティマスは助っ人の体たらくにあきれ返った様子。
「よそ見するなよ!この世界のオプティマス!」
射撃と同時にシルバーストリークの会話が飛ぶ。
「貴様!引導を渡してやる!」
オプティマスも右手のブラスターで応戦するのだった。
戦いの舞台をハイウェイに移してカーチェイスは繰り広げられていた。
スカージの変形したタンクローリーのタンクが展開し、前を走るロードレイジ扮する赤いスポーツカーに砲撃を浴びせる。
「ヴェロシトロンで暴れた俺の走行テクニックを見ろ!」
「んだとぉ!?てめぇむかつくんだよぉ!!フライトモード!」
ロードレイジの車体後部が変形し、1対の垂直翼と1対の水平翼が展開した。車体が浮き上がり、まるで戦闘機のようである。
「なに!?貴様トリプルチェンジャーなのか!」
「ちげぇなぁ!これはアタイ自前の”カスタム”だ!!ブラックビームガン!」
ロードレイジが急旋回してスカージの方を向くや否や、車体前方のバンパーから飛び出した銃をスカージに向け、光線を発射した。
「うおっ!視界がっ!」
黒の塗料のようなものを浴びたスカージが急ブレーキでハイウェイの中央で横滑りする。
「どうだ!アタイのブラックビームはソイツの視覚センサーに干渉しちまうのさ!もともと真っ黒のあんたにはお似合いだぜ!ゲヒャヒャヒャ!」
下品な笑い声を浴びせてロードレイジが飛び去って行く。
「ロードレイジ、今日はずいぶんとイキってるなぁ……。あとで恥ずかしくなっても知らんぞ?」
ハイウェイのを見上げる街道を走行しながら、スピンアウトがつぶやく。
「こちらスピンアウト。リフトチケット、どうだ、そちらの様子は?」
「こちらリフトチケットです。姐さんが飛び去って行っちゃったので僕もスカージの前から誘導を続けますね。さっき送った位置情報のところに連れて行けばいいんですよね?」
「そうだ。引き続きよろしく頼む。」
「ラジャ!」
第二話 終