一方、Dユニット基地。チームホワイトも同じく戦況に対して思案を巡らせるものがいた。コルドンは今までのチームブルー、レッド、ブラックの戦闘記録を眺めている。
「ウルトラマグナス……。マグナス……。正しい歴史でのウルトラマグナスは、マトリクスを持っていないはず。何故なのだ……。マトリクス……。私は何か大事なことを忘れているようだ……」
「コルドン警部!大丈夫でありますか!」
頭を抱えてうつむくコルドンに、クランプダウンがすかさず駆け寄った。
「エグゾースト!君も何か知っていることはないのか……マトリクスについて!」
「ウ~ン?コルドンちゃん、呼んだかい?」
壁にもたれて寝ていたエグゾーストが目を覚まして応えた。
「まあね。これでも産業スパイだった訳ですから。そういえば昔ジアクサスのPCをハッキングしたことがあってなぁ」
「ジアクサス……。サイバトロン最高の科学者にして偏った思想の持主でありますか!」
「そうそう。興味本位でね。まあそしたら面白いデータがあってねぇ。なんと、マトリクスの複製をもくろんでいたみたいだ。ジアクサスはTFのスパークをより強力なボディに移し替えるためのG2計画を吸進めていたそうなんだが……。その成り行きであいつぁ、オプティマスプライムそのもののクローンを勝手に作ろうとした。そしてプライムといえばマトリクスが不可欠だ。オプティマスを調べるついでに、事前に本物のマトリクスを解析したデータを元にマトリクスを作っちゃったと言う訳らしい」
「兄さん、スピンアウトが昔遭遇したトキシトロン事件のことか……」
「その通り。G2ボディと、贋作のマトリクス、そしてスパークの代わりに自律型ナノマシンを組み合わせて生まれた偽オプティマス……。それがトキシトロンだったという訳だ。マトリクスの力は再現できちまったらしいが、流石の最高の頭脳を以てしても魂を作るのは不可能で、マトリクスに融合したナノマシンが暴走してしまったみたいだなぁ」
ジアクサスによれば、マトリクスの真価とは『全を個に、個を全に与える』ことであり、その一つとして、スパークを与え新たな命を生み出す力と死んだTFのスパークを集める力を持っていることが分かった。そうして蓄積されたスパークに宿る経験や記憶をデータバンクのように一か所に集めて、またそれを他人と共有することもできる。やがていつの日か宇宙を統一するために、プライマスによって作られたものだという考察であった。
「『全を個に、個を全に与える』……。なるほど。奇想天外だが、これでトキシトロンやスカージの能力に説明がつく」
コルドンが立ち上がって喋り始める。
「トキシトロンの場合、ナノマシンがマトリクスの『個を全に』する力によって増殖し、他者に感染するといった具合だろう。ただしナノマシン自体はスパークと違い単一の意思しか持たない……つまり同一の思考パターンかつ集合意思をもったゾンビが大量に生まれたという訳だ。スカージの洗脳の場合これに近い力として、自分の思考(=個)を他者(=全)に植え付ける能力を発露させた可能性が高い」
「同じボディに似た能力。スカージはやはりトキシトロンと関係がありそうだねぇ」
「スカージには確かにスパーク=人格があるという点を除けば……」
「もともとG2ボディはオプティマスのためのものだった訳だからねぇ……。つまりスカージはオプティマス本人なんじゃねぇか?」
「なるほど。オプティマスの並行世界の別人という可能性は捨てきれないな。スカージの目的がいまだにわからないとはいえ、自分自身と手を組んでいるというのはありえる。それならばマトリクスが2つあることの説明もつくだろう」
「じゃあ3つめは一体なんなんだあれは?」
「こら!バグバイト!本官に手錠をかけるとはなんたる無礼!公務執行妨害で即逮捕であります!」
「やいやい!その両手で捕まえられるもんならやってみやがれ!」
思案にふけるコルドンとエグゾーストを端に、クランプダウンとバグバイトはなにやら騒がしい様子であった。
「何をしてるんだね君たち。こんな時に……」
「おらおら!できるのか?この頭でっかちがよぉ!」
「なんだとこの!チビスケが!」
「こら!部屋で走るんじゃなっ・・・・・・」
コルドンが注意したその時、飛び込んできたバグバイトと衝突してしまった。そのまま体制を崩して床に倒れこむコルドン。
「あ!」
「おい!」
「警部殿!!!」
気を失ってしまったのかその場から動かなくなってしまった。
「バグバイト貴様!!いい加減にしろ!!」
「あ、ははは……。あそこにいたコイツが悪いんだろ……」
「あ~あ。俺ちゃんもう知らないよ~」
「……はぁ」
コルドンが意識を取り戻し、床に片膝をついて起き上がった。
「バグバイト君。君にお礼を言わなくてはな」
「な。よ、よかったじゃない。死んだわけじゃなくて」
「いや、そうではない。思い出したのだ」
「一体、何をでありますか?」
一同が息を吞む。
「あのウルトラマグナス……。あれはマグナコンボイだ」
「「「何だって!?」」」
――――時は戻りSG世界。
剣戟をガードがはじき返したその後、ウルトラマグナスは動かなかった。チームブラックとの睨み合いが続いていた。
「こいつは何を考えているんだ……?」
ロードレンジャーは、ウルトラマグナスの不気味な顔から感情というものがまるで感じ取れなかった。かくいう自分もバイザーとマスクタイプで表情の見えない顔をしているが、表情というものがあるおかげで他人との意思疎通をとることができる。しかし、彼の場合そう言ったものすら顔には何もなく、瞳の光すら感じることはできない。
「そこの黒い三人組!助太刀するぜ!」
「ワイらが来たからには、もう大丈夫やでー!」
「ここはアタシたちに任せな!」
後ろから三人組の声がした。
「今度は何者だ?」
一人はミントグリーンのディープカバーによく似たボディで、胸には大きな傷のついたオートボットのエンブレムがあり、両手には棒状の武器を構えている。もう一人ターコイズブルーでエグゾーストに似たTFは真っ赤なマシンに乗っている。最後のウーマンと思しき華奢な見た目のTFは、黒いボディに赤いファイヤーパターンが刻まれ、手には巨大な斧を携えている。
「お前たち!来てくれたのか!」
声に反応してメガトロンも振り向いた。
新手の登場に交戦していた一同も彼らを直視する。
「メガトロン様!指示を!」
ミントグリーンのTFが呼びかける。
「サイドスワイプ!今はチームブラックをウルトラマグナスから引きはがすのだ!」
「承知!スライサー、フレイムウォー、行くぞ!」
「了解やで!」
「とっとと片付けようじゃないの」
スライサーが右へ、サイドスワイプが左へ走り出す。フレイムウォーは斧を使い棒高跳びの要領で自分の2倍はあろうかというウルトラマグナスを軽々と飛び越え、背後に回る。三人が息の合った連携で陣形を組み、あっという間にウルトラマグナスを取り囲んだ。
対して囲まれたウルトラマグナスは微動だにせず沈黙を貫いている。
「……」
「ウルトラマグナス、覚悟!」
サイドスワイプは背負っていた小型のステルス機型TF(いわゆるミニコンである)を手に構えた。
「エクソスーツ、バトルモード!ポチっとな!」
スライサーの乗っていたビークルはバラバラに分離し、スライサーのボディに武装として再装着された。
「さすがのレッカーズ隊長も三人に囲まれて勝てるのかしら?」
フレイムウォーは不敵な笑みを浮かべ、斧を弓へと変形させると、ウルトラマグナスへとその矢じりを向ける。
「ここはこいつらに任せていいってことか?」
ガードはシールドを構えたまま下がって様子を見ることにした。ロードレンジャーとバーンアウトも黙ってガードの後ろに退避する。
「……フン!」
サイドスワイプたちの殺気を感じた瞬間、ウルトラマグナスが大剣を振り回した。斬撃は当たらずとも、その衝撃波で陣形を組んでいた三人が吹き飛ぶ。
「パワーが桁違いだ……」
バーンアウトですら表情に焦りを見せ始めたようだった。
「くっ!今行くぞお前たち!」
ロディマスをあしらっていたメガトロンが、背後の状況を察してウルトラマグナスの方へと向かってくる。
「おいメガトロンてめぇ!俺はお前が倒さなきゃいけねぇんだよ!」
ロディマスが構えていたバズソーが空を切る。
「俺の相手はお前だ!ホットロッド!」
すかさずサイドスワイプがロディマスの攻撃に応戦した。
「うるっせぇ!いつまでも粘着しやがって!」
「お前のようなオートボットを許すわけにはいかないんだ!」
両者とも激しく睨みあい、激しい表情で火花を散らす。
「ウルトラマグナス!今日こそ貴様の終焉の日だ!」
メガトロンが背中のウイングを展開させ、低空飛行しながら巨剣の切っ先を正面に向けて突撃する。
「いいだろう。受けて立つ」
ウルトラマグナスも紅緋の大剣を縦に構えた。そして刃と刃が激しくぶつかり合い、強大な衝撃波が辺り一帯を覆いつくす。
「これはまずいな……。巻き込まれる前にいったん引くぞ!」
スタースクリームがディセプティコンとチームブラックに呼びかけ、全速力でその場から離れることとなった。
「チクショウ!なんて迷惑なリーダー様なんだ!」
ロディマスもこればかりはさすがに同じ意見らしく、一目散にブラスターとブラーを連れて反対方向へと逃げ出した。
「おい、主人を置いてって大丈夫なのかよ!」
ロードレンジャーはスタースクリームを引き留めようと話しかける。
「……メガトロン様が俺の立場であったならこうしたと思うのだ。ここで巻き添えを喰らって全滅することは、メガトロン様の意思に反する」
「そうかよ……」
そうして一同は、一度ディセプティコンの防衛基地へと帰投することなった。
「手痛くやられたようだね」
彼らを出迎えたのは、紳士的な口調のTFだった。浅葱色を基調に赤いアクセントを入れたボディは、手足やどこかスタースクリームと似た雰囲気があった。
「ショックウェーブ。私はいいから彼らを診てやってくれないか」
スタースクリームは自分が負傷しているにも関わらず手負いの者たちを救護室へと運び込ませていた。
「なるほどねぇ。たしかに、派手にやられたようだね」
負傷者を観察しながらショックウェーブがつぶやく。
「原因はレッカーズのウルトラマグナスだ。今メガトロン様が一手に引き受けてくださっているが、時間の問題かもしれない」
「メガトロンサマ、シンパイ」
スタースクリーム、サウンドウェーブ、ショックウェーブは三人でああでもない、こうでもないと相談を始めていた。
「あ、あの」
医務室。ロードレンジャーは隣に座ったサイドスワイプに話しかけた。
「なんだ。お前はお尋ね者か?赤いオートボットのエンブレムなんかつけて」
サイドスワイプは目を合わせずに会話を続ける。
「いえ、これが僕たちの世界では正義の証、なんです」
「『正義の証』ねえ。確かに今のディセプティコンは正義かもしれないが」
「サイドスワイプさんは元オートボットなんですか?」
「まあ。見ての通りな。この胸の傷はあえてこうしている」
サイドスワイプは、胸のオートボットエンブレムについた傷を撫でながらそう言った。
「俺は最初、オートボットならこの星を変えられると思ったんだ……。しかしどうだ、変えるどころか破壊してまるで消そうとしているじゃないか。まあ俺もギリギリまでは仕方のない革命なんだと思っていたが、ある時俺の親友はオプティマスに殺された」
「親友?」
「クリフジャンパーさ。あいつは確かに血の気の多い奴だったが、それは正義感の強さ故だ。それがオプティマスの逆鱗に触れちまった」
「なるほど……」
ロードレンジャーは少しばかり顎に手をあて考えた。
「僕にも、親友と呼べるかはわからないんですけど、バグバイトってどうしようもない奴がいて。今あいつと同じ隊にいるんです。でもそいつはどうしようもなく犯罪ばっかりしてて。今は警察の監視下にいるので、野放しという訳ではないんですけど」
「お、おう」
「彼とはずっと対立しているはずなのに、なぜか彼はの僕ことを気に入ってるみたいで……」
「そいつはお前の敵なのか?」
「元々は。敵対グループだったんです。でもその争いは終結したんです」
「じゃあ今はお前にとってそいつと敵対する理由とやらもないわけだ」
「まあ。立場としては、ですけどね。隊の中で迷惑をかけるわけにもいきませんし」
「じゃあお前個人としてはどうしたいんだ?救ってやりたいとか思ってるんじゃないだろうな?」
「……」
図星だ、とロードレンジャー思った。
「俺はな、クリフジャンパーが死んだのを止められなかったが、後悔はしていない」
「えっ?」
「あいつは、ああいう奴なんだよ。ああいう死に方をしたことは、ある意味あいつらしい死に方だったんだと思う。何度止めたって、オプティマスがとち狂ってしまった以上何度でも衝突しただろうな」
「そんな……」
「友達だろうが、変えられないこともあるんだよ」
治療が終わり、各々戦闘の準備を始めた。スタースクリームが一同を集めて作戦の指揮を執る。スタースクリームが剣を掲げ、一同に向けてこう言った。
「メガトロン様を救いにくぞ!」
第三章 第二話 終
写真は後日追加する予定です!!