劇場版 機動戦艦ナデシコ -The another-   作:113(いちいちさん)

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中編

第十三番ターミナルコロニー「サクヤ」攻防戦

 

 

 コロニーを占拠した火星の後継者艦隊と連合宇宙軍第七艦隊による激しい艦隊戦が繰り広げられていた。

 第七艦隊は連合宇宙軍最大最強の艦隊であり、統合軍結成による軍備縮小の中であっても未だ連合軍最高戦力とされている。

 

「何としても抑えろ!!」

「もう少しだ、もう少し!!・・・味方が来る!!」

 

 味方が次々と沈められる中、火星の後継者艦隊の指揮官は希望を失っていなかった。

 

 

「元統合軍だろうと容赦するな、奴らは反逆者でありテロリストであり我々の敵である。壊した船や機体はまた作ってもらえば良い、クーデターに加担した人材など連合軍には必要ない。殲滅しろ」

 

 金髪をツーブロックにした初老の男性、第七艦隊旗艦サンスベリア艦長ナチ・アンダーソン中将は淡々と指示を出す。

 

「敵の損耗率70%を突破、我が方は損耗率3%」

「ボソンジャンプによる奇襲への警戒を怠るな」

 

 彼は艦隊の指揮を取りつつも、数日前の事を思い出していた。

 

 

 

 

クーデター発生から数時間後

 

 

「君が私のプライベート回線に連絡して来るのは初めてだな」

『はい。お久しぶりです、アンダーソン中将』

 

 なんと、アンダーソンのもとにカイトからの連絡が来ていた。

 

『この回線は完全に此方の制御下にありますので盗聴の心配はありません』

「わかった。しかし本当に可能なのか?ボソンジャンプによる大部隊の奇襲攻撃なぞ」

『可能にしたんですよ彼らは・・・アキトとユリカちゃんを使ってね・・・』

 

 画面越しの彼の表情は仮面によって隠れていたが、声からは怒りの感情が伝わって来る。彼は現時点で解っている火星の後継者の情報と、火星の遺跡を使った奇襲戦法の事をアンダーソンへと話す。

 

「大体のことは解った。しかし何故これほどの重要情報を私に教えたんだ?」

『裏切り者だらけの軍内部で、貴方が最も信頼できる人だからですよ』

「ルリ君よりもか?」

『・・・・・』

「まあ、そちらの事情は聞かんよ・・・最後に一つ」

『何ですか?』

「機動部隊隊長の席はまだ空いている、いつでも帰ってこい」

『・・・・ありがとうございます』

 

 そう言うと通信は切れる。端末の通信ログは勿論、今回の通話に関する痕跡は始めから存在しなかったかの様に綺麗サッパリ無くなっていた。

 

 

 

 

「ボース粒子の増大確認!」

「来たか」

 

 突如第七艦隊の周辺に火星の後継者の機動部隊が現れる。当然サンスベリアも機動部隊に取り囲まれてしまうが、アンダーソンは全く動揺しなかった。

 

「やれ」

 

 アンダーソンの指令を聞き、船体に待機していた味方機動部隊が偽装シートを脱ぎ捨てて一斉に攻撃を開始する。

 完全に奇襲が成功したと油断していた敵機動部隊は瞬く間に全滅させられた。

 

 

 

 

火星の後継者本部

 

 

「何だと!?」

「何故だ!?完全な奇襲の筈だ!!」

 

 本部から戦闘を見ていたクサカベら火星の後継者メンバーは奇襲が完全に失敗した事に驚きを隠せないでいた。

 

「どういうことかねヤマサキ君

『はい、イメージ伝達率98%。ナビゲーターのイメージ通りの地点に飛ばせましたが、此方の動きが読まれていた様ですな』

 

 クサカベの問に元コロニー開発公団、現火星の後継者メンバーヤマサキ・ヨシオ博士は答える。

 

『どうやら何処かから情報が漏れていたようですね』

「やはりテンカワ・カイトか・・・どれだけ我々の邪魔をすれば気が済む」

 

 

 

 

秩父山中 共同墓地

 

 

「どうしたの?」

「ハーリー君、月に飛んだ頃です」

 

 新造艦ナデシコCのクルー集めを終えたホシノ・ルリと元ナデシコ操舵士ハルカ・ミナトの二人は、亡くなったイネス・フレサンジュの墓参りに来ていた。

 

「だからお見送りしてあげなって言ったのにぃ」

「三度目は嫌です」

「えっ?」

「非科学的ですが、ゲン担ぎです」

「・・・意地っ張り」

 

 二人はイネスの墓へと足を運ぶ。そこには一人の男が花束を持ち佇んでいた。

 その男の姿を見た二人は立ち止まり、驚愕したハルカは思わず手から水の入った桶を手放してしまう。

 

「・・・カイト、君?」

「・・・今日は、三回忌でしたよね」

 

 そこに居たのは黒いコートを纏い、白い仮面をしたテンカワ・カイトその人であった。

 三人はイネスの墓前に線香を上げ、合掌をする。

 

「早く気づくべきでした」

「えっ?」

「あの頃、死んだり行方不明になったのはアキトさんや艦長、イネスさんだけではなかった」

 

 彼女の脳内には、死者行方不明者のリストが思い浮かぶ。

 

「ボソンジャンプのA級ランク、目的地のイメージを遺跡に伝えることができる人、ナビゲーター・・・皆、火星の後継者に誘拐されてたんですね・・・」

「誘拐?」

「この二年余り、カイトさん達に何が起こっていたのか私は知りません」

「知らない方が良い」

「私も知りたくありません・・・でも・・・」

 

 仮面の下から聞こえてくる声は、とても優しかった。しかし彼女は暗い表情のまま話し続ける。

 

「どうして教えてくれなかったんですか?生きてるって」

 

 長い沈黙の後、カイトは答えた。

 

「すまなかった」

 

「すまなかったで済むわけ無いでしょう!」

 

 ルリとカイトの会話を黙って聞いていたハルカはとうとう我慢できずに彼へと詰め寄る。

 

「今までこの子がどんな気持ちで過ごして来たか貴方にわかる!?」

「・・・」

「アキト君とユリカちゃんが居なくなって、貴方まで居なくなって、この子が、皆が・・・私が・・・」

 

 激しく攻めていたハルカの声が段々と小さくなって行き、遂には涙が溢れる。

 

「どれだけ・・・悲しんだか・・・」

 

 カイトの胸の中で涙を流すハルカ。三人の間に沈黙が流れる。

 

 

 

 

「・・・ッ!」

 

 突然カイトはハルカから離れると、懐からリボルバーを取り出す。

 銃口の先には笠を被りマントを纏った男が一人立っていた。

 

「迂闊なり、テンカワ・カイト」

北辰(ほくしん)・・・」

「我々と一緒に来てもらおう」

 

 北辰と呼ばれた男がそう言うと、男の背後から同じ格好をした六人の男達が現れた。

 

「何あれ?」

ダンッ!!ダンッ!!ダンッ!!ダンッ!!ダンッ!!ダンッ!!

「!!」

 

 カイトは北辰に向かって容赦無く発砲するが、弾丸は彼に当たる前に全てシールドに弾かれる。

 

「重ねて言おう、一緒に来い」

「君達は関係ない、早く逃げるんだ」

「こう言う場合、逃げられません」

「そうよね・・・」

 

 カイトは素早く銃をリロードすると二人に向かってそう言ったが、二人は否定する。

 

「女は?」

「殺せ」

「小娘は?」

「彼奴は捕えろ。ラピスと同じ金色の瞳、人の技にて創り出されし白き妖精。地球の連中は殆遺伝子細工が好きと見える」

 

 部下に指示を出す北辰はルリを見つめてそう言った。

 

「汝は我が結社のラボにて栄光ある研究の礎となるがいい」

「クッ・・・!!」

 

 北辰の言葉を聞いたカイトは歯を食いしばり、グリップを握る手に力を込めた。

 

「もう誰も、俺の前から奪わせない!!」

「よく言った!!テンカワ・カイト!!」

『『『!?』』』

 

 その時、突如北辰達の後ろから声が聞こえて来た。

 そこには何と、かつて木連に所属しカイト達と敵対していた過去を持つ男、 月臣元一朗(つきおみげんいちろう)が立っていた。

 

「久しぶりだな、月臣元一朗。木星を売った裏切り者め」

「そうだ。友を裏切り、木星を裏切り、そして今はネルガルの犬」

 

 すると、何処からともなく武装した黒服集団が現れ北辰達を取り囲む。

 

「隊長」

「慌てるな」

「テンカワに拘り過ぎたのが仇となったな、北辰」

「え?え?」

バコンッ!!「久しぶりだな、ミナト」

「そ、そうね・・・」

 

 突然ハルカの横にあった墓石が持ち上がると、中から元ナデシコクルーであり、現在はネルガルシークレットサービスに所属している ゴート・ホーリーが現れた。

 

「北辰、投降しろ!!」

「フッ・・・ 跳躍!!」

 

 そう言うと北辰の胸にあるプレートのレンズが光だし彼等を包み込む。

 

「何!?」

「ボソンジャンプ!?」

「テンカワ・カイト、また会おう」

 

 光が収まると、そこに北辰達の姿は無かった。

 

 

「単独の・・・ボソンジャンプ?」

「奴等はアキトとユリカちゃんを利用してそれを可能にした」

 

 唖然とするルリに向かってカイトが答える。

 

「ルリちゃん、君に頼みたい事がある」

「頼み?」

 

 

 

 

 

「二人を助けた後、俺は死んだ事にしてくれ

 

 墓地から少し離れた丘の上。そこでカイトとルリの二人は向かい合っていた。

 

「出来ませんそんな事!!」

「俺は二人を守りきれなかった・・・兄失格だよ」

「貴方は悪くありません!どうしても責任を感じると言うなら、二人を取り戻した後に直接謝って下さい!そして皆で一緒にアキトさんのラーメンを食べましょう!!」

「・・・それだけじゃ無いんだよ、ルリちゃん。本当は言いたく無かったけど・・・」

 

 彼はそう言うと、仮面を外した。その姿を見たルリは思わず息を飲む。

 

「奴らの実験で、頭の中掻き回されてね・・・分からないんだよ」

 

 彼の眼は白く濁り、顔中を青白い光が走る。

 度重なる非人道的な実験により、彼は視覚と聴覚を除く五感の殆どを失っていたのだ。

更には色覚の機能を失い、彼は色が分からなくなっていた。

 

「感情が高ぶるとボウッと光るのさ、漫画だろ?」

 

 彼は力無く笑う。

 

「もう、君に絵を描いてあげる事も・・・アキトの料理の味も、匂いも、暖かさも感じる事が出来ない」

 

 そんな彼に対してルリは言葉をかけることが出来なかった。

 彼の境遇に対してだけでは無い。

 

「こんな俺が側に居ると、アキトとユリカちゃんが幸せになれない」

 

 これだけの仕打ちを受けてなお、他人の心配をする彼の優しさが、ルリは何よりも悲しかった。

 

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