011.協力者。
スマホロトムが振動する。「着信ロト!」 ぶるぶる震えながら顔の前まで浮上したロトムが、伺いを立ててくる様子に、グライスはにこりと笑って親指を立てて指示を出した。
静かなボリュームで自動的に録音が開始された通話が繋がり、最初に放たれた言葉と声で、顔見知りのポケモン協会・カントー本部に属する職員からの連絡であると知る。はて自分は何かやらかしてしまっただろうかと思ったが、そんなことはなかった。セーフ。
では何用かと言えば、ワタルさんからの頼まれ事に関することだった。現在の出来た部分までで構わないから監査報告書を一旦挙げてほしいとのこと。昨今、世の中を騒がせる集団の問題点等を洗い出すためだろうと辺りを付け、監査報告書にプラスアルファして情報を暗号化し、追加した分を挟み込んでフェイクを作り、竜王の印鑑を押して一部を閉じた。
本題は、暗号化した二枚目の冊子である。あれだけ手の込んだ偽装工作をしたそちらではなく、絵日記のようなほのぼのとした日常風景を描く冊子。未だ遠くにあるエンジュシティから取り寄せた特殊な墨でぺたぺたと色を塗り、意図して主張すべく文字に香りをつけたそれである。
正直、便箋を懐になおしっぱなしだったから消毒液の香りがまとわりつき、特殊な訓練を受けたものでなければさっぱり。フスベシティの墨とエンジュシティの墨によって描かれた絵日記の棲み分けは、意図せずオヤジギャグになってしまったが、マァ
ここが
「ほんでえ?」
胡乱な眼差しをじとりと向けてくる少女。コガネシティの看板娘であり、コガネシティの門番。ジムリーダーの名を華奢な両肩に背負ったうら若き領主・アカネの逃がさぬとばかりの問いに、何も悪いことはしていないと堂々たる態度のままグライスはゆるりと瞳を細めて小首を傾げた。
「
いけしゃあしゃあと何事ですかとまったり問う言葉に、アカネは二つに結んだ両側の毛を尾のように逆立たせ、カフェテラスのテーブルを力いっぱいに叩きつける。
とは言え、少女の力などは知れており、ばん、と小気味の良い音がするだけ。少女なりの威嚇と思えば結構いっぱいいっぱいなのだろうと分かるけれども、グライスにとっては恐るるに足らず。
新しくデザインされたばかりのそれは、目の前の少女を模したものだろうと理解できるほど鮮やかな紅。季節は違うが、紅葉の散る様を色で表した見事な逸品だ。
水色は……澄んだ茶葉ならではのカラーと、濁りっけのある白。ともなれば、彼女は事のあらましをすべてを知った上でのワタルさんの協力者であり、そのまた彼女の協力者として選ばれたのがこの店ってこと。―――あー、なるほどね?
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繰り返す。
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間を開けて指でテーブルを軽く叩く。
少女の怒りもほどほどに、同じように指先でトントンと苛立ちを紛らわせるかのような仕草で音をかき消し始めたことから意図をくみ取ってもらえたようだ。
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彼女の眉が険しく潜まるのに対し、信号を続ける。動き始めるには早すぎるような気もするが、あれほど一人の男を崇拝する組織なのだから無理もない。こちらが拾えた情報は不確かなものばかりだったので、とりあえずは確認のためにあちこちへ顔を出してみるつもりである。だが、その不確かな情報を彼女にだけ伝えておく。
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このジョウト地方で確認した彼らの行動が、テロ活動でなければ良いのだが。ひとまず注意だけしておけば、ジムリーダーたちによる連絡網が築き上げられて委員会の結成と相成るはず。
「期待には応えんとな! ウチに任しとき。」
「お任せしたっす。」
ロケット弾の残党を確認した。活動範囲の拡大を予想されたし。意図をくみ取った彼女の言葉は力強く、ふわりと浮かぶダイナミックに牛乳瓶の模様が描かれたケースに身を包むスマホロトムを稼働させた。
「おっちゃーん、おすすめのお茶菓子たのむわ!」
「あいよ!まかしとき~」
隠語だろうか。
カップの縁から取っ手へと移動させた指先に引っ掛け、口元まで運んで傾ける。ミルクが溶けたはずの紅茶は、変わらず香華やかに果実を彩った。口を付ける。さっぱりとした味わいに、出されたばかりのクッキーのほのかな甘さが癖になりそうな味だ。
警戒もなく手を付けおるわ、と言いたげなアカネの眼にはワタルさんの紹介なら気にする必要がないと判断してのことだと無言の抵抗を返す。アカネも人のことを言えた義理ではないが。
クッキー皿の下に添えられたシートに薄っすらと焼け焦げた跡を発見した。なんとなく地図と重ね合わせると何処かを指しそうな点々とした焦げ跡である。お互いに一枚ずつ摘まむ速度をあげ、早急に焦げ跡を隠すように折りたたむ。ポケットになおすでなく、一度見ればもう十分だとグライスは重ねた皿の上に返した。
「ところで、あの塔って何なんすか?」
「テレビ局のことやろか。一応タマムシシティにあるテレビ局のジョウト支部でな、ポケモン協会主催の番組から公共会社主催の番組まで網羅しとるって話きくで。」
「へえ。見学とかって出来るんすか、本部みたく。」
「もち! できるで、一般公開もしてんねん。ただし、奥まで行こうと思ったら関係者証明書が必要になるけどな。撮影するための部屋と放送するための部屋があるさかい。」
旅行のついでだし、とカップの中身をくるくる回しながら、グライスはにこりと笑って言った。ポケモン協会から何か言われても、領主がおさめる土地の確認は、あくまでも監査官としての仕事の範疇だと白を切ることの出来る札であろうと顔である。マァつまりは。
「案内してくれません?」
「ええよ!」
内部探索する気満々ってことね。お互いにイイ口実を見っけたと満面の笑顔での承諾。グライスはご馳走になった品の会計をしれっと済ませ、「案内のお礼」と先にくぎを刺した。
テレビ局に何の用があるのだろうと疑問を抱きながら。グライスがしたように、地上波に載せて仲間をかき集めるつもりだろうか。それとも世界に対する宣戦布告? 同盟を組んだ相手との取り引き現場。考えられる限りの可能性を頭に浮かべながら、二人はジョウト支部のテレビ局へと足を運ぶのであった。