ぴえんトレーナー(onze)   作:夜鷹ケイ

2 / 11
002.ポケモン研究所にて。

 ジョウト地方のポケモンリーグ公認ジムが、公認ジムの名に相応しいものであるかを確かめるために監査官の役割を貰った二人は、さっそく「フタバタウン」というところで出鼻を挫かれた。

 新人トレーナー用にと準備万端であったはずのポケモンが一体、盗まれてしまう事件が発生した為であった。それも、現在進行形で。

 

 混乱状態のウツギ研究所内部は煙幕が立ち込めており、しきりに咳き込む博士の助手の姿やヒノアラシの姿が確認できる。

 狼狽えることもせずにボールホルダーからピジョンを選び取り、すかさず羽ばたきで煙幕を外へと追いやることが出来たのは数々の修羅場を乗り越えた経験あってのことだろう。

 火災が生じたのではなく、ヒノアラシが何事かにビックリして煙幕を振りまいて警戒していたという事実を確認し、煙幕のおかげでウツギ研究所に残った足跡を照合する。グライスのでもレッドのでも、研究所の助手たちのものでも、ましてや研究所に慣れ親しんだ屋敷の主人であるウツギ博士のものでもなかった。―――年頃としては近しいものを感じる、少年か少女の靴跡だ。

 新人トレーナーは二人やってきて、すでにチコリータとヒノアラシを譲り渡した後だったし、その後にはワニノコが床を水浸しにしてしまったから清掃を行って足跡もなくピカピカであった。

 

 

「ヒノアラシが思わずビックリするようなことに関わっている、ともなれば」

 

 

 グライスの言葉に研究所の誰もがあることに思い至り、はっとする。炎より草原と言わんばかりの普段はのんびりとマイペースなヒノアラシが慌てるようなとき、所かまわず煙幕を振りまくほどの衝撃を受けたとき。―――それは、いつもどんなときだった?

 チコリータが植木鉢にぶつかって怪我をしたとき、ワニノコが元気に走り回って行方不明になったとき。つまり、そんな、まさか。そんなことがっ!

 

 

「ああ、」

 

 

 ヒノアラシがくれたヒント。煙幕による足跡の可視化。その先をたどってみると、研究所の奥にあったボールホルダーの一つがなくなっているということに気が付いた。

 

 

「なんということを……!」

 

 

 新人トレーナー用のポケモンたちの身体を動かすために、散歩に出かけることはマァマァある。出先でうっかりポケモンバトルにならぬよう、モンスターボールに戻ってもらって車で帰るなんてことはざらにあり。今回もその段取りでの散歩をするために、ワニノコとヒノアラシとチコリータのモンスターボールをつける予定であったのだ。

 思わぬ出来事があってチコリータはカントー地方のチャンピオンの腰にあるボールホルダーに、ヒノアラシはグライスの上着の下にあるボールホルダーに。しかしてワニノコの予定は変わらず、散歩用のボールホルダーへ。

 前日から楽しみにしている散歩の時間はもうすこしだからね、と言い聞かせ、セキュリティ面でも万全を期したウツギ研究所の奥も奥。ウツギ博士専用のワークデスクの上のケースで保管してあったと言うのに。件の騒動でウツギ研究所からなくなってしまったのは、そんなワニノコが散歩を楽しみにしながら待つボールホルダーであったのだ。

 散歩へ連れ出すどころか、数多の用心棒たちを退けて盗み出されてしまうだなんて。新人トレーナーに申し訳が立たない以前に、信じて身を預けてくれたポケモンに対して向ける顔がない。

 

 深く項垂れるウツギ博士の耳に、砂利がこすれ合う音が届く。再び意識がハッとする。そうだ、こんなところで落ち込んでいられない。

 自らモンスターボールの用心棒を請け負ってくれた、大事な隣人たちの無事を確認しなければ。ホーホー、レディバ。どの子も健闘してくれたことを伺えるほどに傷だらけだったが、最も重症だったのは毒を帯びた犬のかたちをした友人だった。

 

 

「キュー…ン…」

「デルビル!」

 

 

 力なく横たわるデルビルの治療中に、彼のからだに残った「毒」の鑑定を急げば、ズバットが有する毒である可能性が高く、侵入者のポケモンだろうと仮定した。

 ズバットからクロバットへ進化したヴェリテの協力もあり、最も濃厚であると結論が出る。鑑定のため採取した毒は、ヴェリテは最終まで進化したことでより強力な毒であったようだが、基本的な遺伝子の組み換えは細胞を自在に操るメタモンやミュウでもない限りは不可であろう。

 緊急で連絡を入れた先でオーキド博士の裏付けもあり、監視カメラに写り込んだ一瞬の翼を確認できたこともあり、侵入者のポケモンと決定づけることとなった。

 

 

「ワニノコとズバット、もしくはアリゲイツとゴルバットを手持ちに加えたポケモントレーナーですね。」

 

 

 通報により駆け付けたジュンサーは、そう言ったパーティーのトレーナーが居たら片っ端から声を掛けてみるのだと意気込んでおり。任された仕事を果たさねばならないために、二人は(というよりも一人は)お願いしますと言うほかなかった。

 

 

「俺たちも道中、気を付けて探してみます。―――ヴェリテ、オマエの超音波で博士たちの警護を頼んだっすよ。」

「ケケッ」

 

 

 強力な超音波による周囲の探索は今までの冒険で磨き上げられてきた逸品である。護衛のほかには、珍しい進化を遂げるというクロバットを研究したいという。

 ズバットの一件によるウツギ博士たっての願いもあり、同族にしてやられたというプライドを刺激されたのかしてお留守番に乗り気な本人の意思と、ヴェリテに危険なことがなければと同意したグライスにより、ここ、ウツギ研究所にしばらくの間預けられることとなったのだ。

 うまくいけばヴェリテの超音波から件のズバットの位置を割り出せるかもと燃えるウツギ博士に見送られながら、「事件が解決したらまた会おう」と再会の約束をして。果たすべくものと定め、どこか眠たげでおぼろげであった瞳がキュルリと覚醒した。戦闘モードと言うべきか、警戒モードと言うべきか。ちゃんとやすんで、と言いたげにピカチュウが「ちゃあ」と鳴く。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。