ぴえんトレーナー(onze)   作:夜鷹ケイ

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005.旅の歩調は如何かな。

 あれから数日を経て体調は復活(?)―――復活した。と言いたい。しばらくは不調が続くとは知っているし、微熱は通常運転。ともなれば、復活と称しても良いのではないだろうか。

 あまり滞在を長引かせるのはレッドの立場上よろしくはなく、行こうぜ、と旅支度をして部屋の戸に手を掛ければ彼もペチュニアも何も言わなかった。ゆっくりたっぷりじっくり休んでも微熱が続く不調の回復は完治しきらなかったからか、グライスの「これがしばらくの平熱」という発言をようやく受け入れられたようなのだ。

 件のポケモントレーナー。ヒビキくんに関しては、曰く、新人トレーナーでありながらすでに四個目のジムバッジを手にした勇者だと。彼の冒険を順調に進めているらしく、ポケッターの方では結構な話題の人となっているようだった。

 彼のたどる道はポケモントレーナーがジムをめぐるならば通るものであり、そんな道中の先々や後々ではポケモン強盗事件が相次いでいて不穏な気配もある。

 中にはヒビキくんを疑うような声も出たが、彼の手持ちのポケモンはどれもこれもが所謂カワイイ系統であったことや彼と直接会話したことで得た人柄などでことごとく、犯人ではなかろうかフラグがへし折られている。進化したらたくましくなるッスよ!と元気イッパイの発言には思うことがあったらしく、ジュンサーの警戒も一瞬やわらぐほど。ぼくワルイコトしてないんで疑ってください!と全力で前向きな発言には、誰もが脱力させられたのだとか。

 自信があるわね、と疑ってかかったジュンサーもワルイコトしましたと自首したヒビキくんの罪状が、公園の芝生でキャンプしたことであるとは思わなかったのだろう。

 しかも、子どもたちによる善意であろう「お外で寝ちゃダメなんだよ!」という発言から公園での野宿が禁じられたものだったとは知らずやってしまったんでタイホを、とこわばった様子で両手を差し出す少年の潔さと言ったら―――。あとからヒビキくんはポケモントレーナーであり、公園でのキャンプはポケモントレーナーに許された特権であるとこぞって事情を耳にした保護者たちが声をあげなければ誤った罪状を刻まれるところであった。

 事実として野宿を禁止された公園もあるからの自首であったことにジュンサーは緊張をほどき、ウツギ研究所や彼の実家である育て屋などに預けられるポケモンたちのラインナップを確認することで自らの潔白を証明した彼は、交番から見事な生還を果たしたとは、ウツギ博士談である。

 

 

「そこまで変な事件に巻き込まれんだったら、誰かついてやってた方がよさそうだな。」

 

 

 自分ではむずかしいだろう、この体調ではヒビキくんの助けになってやれない。足や腕を持ち上げることでも精一杯になってしまうから、この旅はそんな身体への慣らしでもあるのだけれど。

 

 

「ぴっかちゅぴかぴか?」

 

 

 レッドに行けって? 冗談でしょ、と眼が黄色の体毛を震わせながらさしてくる。しかし、現実的だと思うし、―――何よりも彼の歩幅でジムチャレンジが出来るのだ。

 いつまでも改革中のポケモンリーグという城の王座を開けておくことなんてできないし、かの組織では同じ王座を担うワタルさんばかりへ。そう、他の誰か一人へ負担をかけるのはレッドも嫌がることだろう。

 甘えるのと負担をかけるのとは、まったくの別物であることはオツキミ山の一件で懲りたのだと幼馴染たちは口々にしたから。言われるまではあまり自覚はなかったが、グライスは負担を抱える傾向にあるらしい。確かに一点へ集中砲火させたような気もするのでだんまりを決め込んだ。

 リハビリ中のグライスを置いては行けぬ。為すべきことを果たさねばならぬ。どちらも譲れんとばかりにお互い無言のまま、目を逸らさず見つめ続けること数分。

 がくりと肩を落としたのは、レッドの方であった。チャンピオンとしての書類仕事がシロガネ山の銀白のように降り積もり始めたのはグリーンから聞かされたことであり、ポケモンリーグの本部へ帰還したら書類の山と相対することは約束された未来であったからだ。

 逃げ回ってばかりだったレッドが、書類仕事をすることを条件に出したのがジョウト地方のジム巡り監査官であったからワタルも少々乗り気であったのだろう。

 もともとチャンピオンの仕事だったのだけれど、ようやく覚える気になってくれたのかと朗らかな笑みの奥に深く腰据えられた忍耐力の高さにはバトルを前にした高揚感があった。―――それでこそ、ドラゴンたちの頂点に立つ王者である。

 

 

「……そこまで心配なら、すこし手合わせ願おうか。再戦、とまでは行かずとも、なに、多少なりともオマエを納得させられるだけの力があると証明程度の事は出来るだろうよ。」

 

 

 本気のポケモンバトルは体調を悪化させる原因になるから禁止されており、グライスが現在できるのは手遊び程度の戯れのようなもの。

 とは言え、幼馴染たちのあずかり知らぬことだが、彼の本質は竜に在る。―――つまるところ、ただの手遊びであろうとも、戯れ程度のものであろうとも、獣たる生存本能を真髄から掻き立てて暴風が突き進むが如しの要領で相手を一方的に捻じ伏せることは容易く行えるのだ。

 それをポケモンと人との共存の象徴「ポケモンバトル」と呼べるかは些か疑問を残すところではあるが、むつりとぶすくれ、けれどもどこか清々しくレッドが側を離れてジム巡りの噂を耳にするようになったことから、彼らの間では”あり”なのだろう。勝敗の行方は、チャンピオンの表情から汲み取ってほしいところである。

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