失踪令嬢奇譚   作:既知の海月

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大変長らくお待たせ致しました…(-人-;)
エタるのが怖い…


第三話:入学/後悔

◆アンジェ・エルフィール

 

 人恋しさが激増する前に、これから先は諸君と呼ばせて頂きたい。いや、諸君と呼び掛けたところで誰も居ないのは重々しているが……。

 幼児から今に至るまで人に避けられがちになっていた恥の多い生涯を辿った私なら、当然孤独に慣れているのだと、そう思っていた。だがしかし、味方の居ない状況というやつは、意外にも虚しく苦痛であり、堪え難いものであったのだ。理解者が必要である。

 されど味方は今のところ私一人、嘆いても一人。その上その味方に関しては、情弱の大馬鹿者であり、頼りにならない。そんな者に語りかけても虚しさが湯を吸いまくったカップ麺の如く倍増してしまう。どうせ無意味に語りかけるのであれば、なるべく面識のなさそうな連中の方がいい。

 よって、私の活躍を固唾を飲んで見守り、歓声を上げてくれる観客(オーディエンス)が必要なのである。よろしく頼む、愛しきイマジナリー達。

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 魔法学園、入学の時である。

 そう、入学だ。

 おかしい話だと思うだろう? 破滅フラグなど立たぬ方が良い、故に主要人物に断じて遇いたくないとあれこれ考えを巡らせていた私が、自ら死地へと向かうのは何故だと。

 この考えに至った理由は三日前、転生初日の出来事によるものである。

 

 簡単な話、家も死地だった。主に精神的に。

 成る程、人の恋路を邪魔する鬼畜と化すわけだ。けしからん事この上ない。

 

 先ず、メイドがカスである。

 

 モザイクさんが帰った後に、あれこれ考えどうしましょうクソッタレと混乱し続けていた私は、夜が明けるまで魔道書に目を通しつつ、うんうんと唸って思案し続けていた。

 すると突然扉が開き、不愉快そうな顔を張り付けた無愛想なメイドが睨み付けてきた。

 カチコミかしらと眺めていると、軽く舌打ちしたのち、丁寧語で「とっとと来い飯だ」と吐き捨て、何処かへスタスタ歩いて行ったので、何だこいつと思いながら後を追った。

 微妙に草が生い茂った庭へと進み、そこから完璧に手入れが行き届いている庭へとメイドの後ろからのんびり歩くと、私が目覚めた屋敷よりも豪勢な屋敷があった。

何故住まいから遠い場所に住まわされていたのかと疑問に思いつつ、その戸を開ければ先程の屋敷は何だったのか問いたくなる程、使用人がそれなりに居た。解せぬ。

 そこからまた部屋へ移動するのだが、そこでも誰かとすれ違う毎に小鳥の(さえず)りの如く舌打ちが聴こえ、何事かしらと思っているとおもむろに足をかけられた。この手の悪戯には慣れているので微妙に体勢が崩れかかったのみで済んだ。再度舌打ちが聴こえたので念のため足を上げておくと、きっちりアキレス腱狙いの蹴りがすっぽりその隙間に入った。ピッタリフィットである。シンデレラもびっくり。

 驚く彼女に、にこやかに「あの世で会ったら御機嫌よう」と、自分でも訳の分からない言葉を吐き捨て、その場は事なきを得た。一発芸が滑ったかのような空気になっただけかもしれん。要らんことした。

 

 次に両親がクソである。

 

 場所が場所なので当然ではあるが、私と会うことも少なく、会話も一度あるか無いかであり、重苦しいことこの上ない。

 食事の席にも談笑が無いのは、規則規範に厳しいが故に、食物を漫然と口に運ぶ行いを許さずきっちりとした所作で丁寧に美味しく戴く事で全ての生命と労働者に感謝の意を示す為かと思えば、単に娘が居る事が不愉快なだけである。

 何かと血筋がどうこう、お前には期待などしていない等々、血統主義のボンクラ家庭らしいねちっこい罵詈雑言をたっぷりと含ませ、もうじき学校だという情報を垂れ流した。気に喰わぬなら無駄を省き、最初からそう述べればよいのだ。どうせ一、二回お話をする程度でしかないならかさ増ししても意味は無いだろうに。

 

 ともあれ、入学となるとある程度知識を得る必要がある。

 魔法学園の生徒だというのに、魔法のマの字も知らぬとなると浮くどころか引かれる上に舐められる。そうして妙なのに目を付けられて要らぬことをされ、終いには破滅を呼ぶ乙女と邂逅するがオチとなるであろう。

 

 御断りだ、御免被る。

 

 故に、学んだ。独学かつ付け焼き刃という何とも心許ない知識となるが、ないより遥かにマシなのだ。どうにか、逃げの一手や二手は習得する必要がある。

 が、所詮は独学。魔力の感知と操作は上手いことやれたものの、魔法をどうこうするまではどうも上手くいかない。無念である。

 むしろ、これで良いのか……? 敢えて落ちこぼれAとして学園の隅っこで過ごせば、人々や主人公は眉目麗しい者共に目を向けて此方を眼中に納めることはないのではないか?

 ……そういえば今の私はモブ成人Aではなく、主要美少女であった。無念なり、顔の良い女と笑いなさい。

 

 まぁ、事実はさておき。

 

 結構困った。しかしながら時間も有限。努力しようにも、可能性という暗い道を行く先も分からないまま走って行けるのは盗んだバイクくらいである。

 授業態度と提出物の納品以外誉められた事がない私の理解力で出来ることは最早これまで。

 ならばもう、学園とやらでしっかりじっくり学ばせて貰うしかない。このくらい飲み込んでみせなければ、明日はない。悪条件である。悪女だけに。

 …………というわけで、馬車に揺られ、木製の鞄に詰められるだけ詰めた服と筆記用具に、魔道書を抱えて、ため息を吐いている。全寮制なのだ。

 荷物持ち? メイド? 付き添い?

 

 居ると思うのか、この私に。

 

 辛うじて馬車に乗せて貰えただけだぞ。厄介払い的なノリで。

 こんな夢見る乙女のゲームの世界でも、毒親とやらは居るものなのか? 綺麗な夢をぶち壊さないのか?

 ……現実でも、幼児向けの作品であるシンデレラの家族すら酷い方々だった。このくらいの仕打ちは乙女共にとってはデフォルトなのやもしれん。

 

 もっと登場人物に優しくあれ。乙女に厳しくて、何が乙女ゲームか。

 

 そもそも、家の生活スタイルから意味が分からんものであった。屋敷から離れた先の屋敷に隔離されるとは何事か。食事も隔離かと思えばわざわざ足を運ばねばならないし。

 

 はぁ、と何度目かのため息を足元に撒き散らしつつ、窓に映る風景を眺める。

 終点は近そうだ。

 

◇◆◇

 

 シィタリウム魔法学園。

 

 王立の学園とされるこの学園は、恐らく私がプレイすることの叶わなかった乙女ゲームの舞台。心なしか夢溢れてキラキラしているように……やっぱり私にとっては破滅の光にしか見えないな……。うん、やっぱり怖い。冷や汗も手汗も滲んできた。

 そも、よく考えてみたら全寮制なのだから常に学園周辺で生活する事になり、顔も知らない主人公とその他メンズにばったり遭う可能性がグンと跳ね上がっているのでは……? まさかの同室なんて可能性もある。いや、あってくれるな頼むから。

 

 ちくしょう、やっぱりやしきかえりたい。

 

 とはいえ、ここまで来てしまっては後の祭りというもので、辟易と会場へ進み、粛々と案内された席につき、つつがなく進行してしまう入学式をぼんやりと眺める。

 学園長の有難いらしいお言葉を右耳から頂き、左耳からリリースしつつ、それらしい人間は居るのかと周囲をそれとなく見渡す。

 それらしいとは、当然ながら破滅の元凶達である。

 主人公と攻略対象、その他にも私に何かマイナスなイメージを持たせようとする輩が蔓延っている可能性をも考慮しなければならない。今のうちに知っておけば避けやすいので、私は意地の悪そうな連中や顔の良い連中を探った。

 ……駄目だ、情報が無いに等しいから全員それらしく見える。くそめ。

 思わずため息が零れる。本日何度目だろうか。

 そうこうしている内に入学式が終わり、解散となった。あとは新入生同士で挨拶しあう為にと、歓迎会を始めるのだとか。立食的なやつらしい。

 勘弁して欲しいけれど、足踏みしてボイコットしようものなら怪しまれる。敵が誰か分からないのだから、顔合わせだけ細心の注意を払って憶えるべきだろう。どうせいつかは失踪するつもりだから、そこは割り切ろう。

 

 唾を悪条件ごと飲み込み、立食パーティーを隅の方で凌ぐ。

 何の確証もない偏見だが、乙女ゲームの主人公はそこまで特別な力を持っていない……あるいは、特別な力を持っているという事でちやほやされているという状況がテンプレになっているものだと、私は思う。

 であれば、やけに目立たない乙女か、もしくは目立ちまくってる乙女のどちらかに目を向ければ自ずと答えにたどり着くのでは?

 なればこそ、やってのけようではないか。

 そうと決まれば、未だかつてない程集中して、バレない程度にご尊顔を拝んでやる。顔、憶えてやるからな。

 

 「あ、このサラダうま……♡」

 

 いけない、驚き過ぎて声出た。いやしかし旨いなこれ、調理担当と農家は実に素晴らしい働きをしてくれているのだろう。お野菜シャキシャキしてて超新鮮だこれ。しかもこのドレッシングの味……私の、好きな、やつ……!

 パクパク無心で食べてしまう。美味しい……美味しいよぉ……!

 

 ……じゃないっ! 待て!! 探りはッ!!?

 

 バッと顔を上げて、辺りを見回す。くっそ、人があちこち移動しまくるせいでそれらしいのが見つからない!

 

 「私の……馬鹿野郎……!」

 

 地団駄踏みたくなるのを堪えて、皿の上のサラダを平らげる。ああ旨いな畜生めが!

 何してんだ、サラダが滅茶苦茶美味しいから不利になるとかあってたまるか!!

 あっちこっちをキョロキョロして探す。迷子の我が子を探す母みたいな様相だが、迷子なのは私の命運の方である。

 主人公共でお腹いっぱいなのにサラダまでもが私の敵か!? 死因がサラダになってしまったら死んでも死にきれんぞ死にたくないが。

 血の気が引いてくるのが分かる。比較的安全に出遭う機会は滅多にないというのに……!

 頭を抱えて項垂れるしかなかった。なかったのだが。

 

 「……ッ、アンジェ……!」

 「ッッッん゛!?」

 

 突然誰かに呼ばれた上に、肩を掴まれ私は驚愕した。心臓を吐くかと思った。

 

 「ぁ……ご、ごめんなさい、わたし…………」

 

 何奴かと目を向けると、同じように真っ青な顔をした女生徒が、私の肩に手を乗せていた。

 ショートボブの、黒髪青目な可愛らしい子だ。それが何故私の名前を……?

 

 「その……っ、ごめんなさいッ……!」

 

 訳も分からない内に走り去ってしまった。追いかけようにも、既に人混みの中に紛れて見えなくなってしまった。

 人違いなのか、それとも深い理由があるのか。

 

 「ステラちゃん! 待って、どうした……の……」

 

 呆然としてる間に、第三者が現れた。

 栗毛色のロングヘアをセンター分けした、おでこの良く見える可愛いその子も……何故か私の顔を見るなり表情が引きつり、言葉を発しようとしなくなってしまっている。

 何だよ。

 

 「あ~……ええぇっとぉぉ…………」

 

 声まで震えているときた。

 何だよ、本当にマジで。

 

 「……何か私にご用け」

 

 「ごめんねっ! あたし今ちょーーーっと用がある人がいて、だからまた今度っ!」

 

 「いや、ちょ」

 

 「ホントごめんね~っ! 多分同じクラスだからさ! 教室で会うはずだし、その時いっぱい話そうね!? またね~~~ッ!!」

 

 

 尋ねる前に捲し立て捲り、彼女は疾風の如く駆けて去ってしまった。

 何なんだよ、一体全体。

 いや、それよりも。

 

 「せめて、名乗れ……」

 

 どうしてどいつもこいつも、何故に私の前に出てくる者共は名乗りもせず訳知り顔で向かってくるのか。その出会いと付随する謎が、今後の私の人生に色々と響きそうだな、とかなんとかあれこれ考えてしまってやきもきせねばならなくなる。問題ばっかり山積みなのにこのような仕打ちを受けてしまうと、ちょっぴりムカッと来るので勘弁して貰いたいものだ。

 

 「それにしても……」

 

 先程の二人、何故私の名前を知っている……? その上であの引き様……確実に何かを知っている筈だ。

 ……アンジェ・エルフィール、お前は何をやらかした?

 胃が痛いことこの上ない。

 

 誰か助けて。

 

 立食パーティーの歓談に溢れる会場から逃げるように奥へ奥へと進み、隅に隠れるようにへたり込み、頭を抱えて歯噛みする。

 これから先の事に胃を捻られながら、私は深く息を吸ってそのままリリースした。

 間違いなく、明日から面倒臭い。少なくとも今日で既に面倒臭い。というか、こんな世界に転生させられた時点でもう面倒臭い。泣きたくなるのを堪え、あのモザイク面と屋敷の面々の顔を思い浮かべ、心で怒鳴った。

 

 くそじゃねえか、馬鹿野郎。

 

 もう、正直ボロしか出そうにない。探せる程の余裕も今日はない。

 

 「……明日、クラスの割り当てか……」

 

 サラダくらいしか食べてない筈なのに、何故だろう。胃がもたれる。

 前世で厄除け、するべきだったな。

 

◇◆◇

 

◆ステラ

 

 ごめんなさい。

 貴女の味方になった気でいて。

 貴女を追い詰めて、貴女の幸せを奪ってしまって。

 貴女に、人を殺させて。

 

 「……ごめんなさい……」

 

 今でも最期は憶えてる。

 何もかも諦めて。何もかも憎んで。何もかも失くそうとして。

 貴女が私を刺した時の事。

 痛くて、辛くて、悲しかったけど……。

 

 「……辛いのは、痛いのは、貴女の方だったよね……」

 

 あの頃。

まだ貴女が、私を友達だと思ってくれていたあの時に話した夢には、貴女も含めていたんだよ。

 大切な夢で、大切な友達だから。

 

 ……だから、今度こそ。

 

 「貴女を助けてみせる」

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