「イロハ、少し良いか?」
様子のおかしい男を排除し、カーラからの依頼を果たして帰投した俺は、ハンドラーから声をかけられた。
「617からお前の様子がおかしい、と相談を受けた」
『………気付いていたのか、617』
「旧宇宙港襲撃でもHCに単騎で挑むなどと無理をしているとは思っていたが…その焦りは617達を危険に晒す、俺としても放置しておく訳にはいかん」
『…貴方の言う通りだ』
「悩みがあるなら話してみろ。それを解決するのも俺の勤めだ」
『…621とは別の「レイヴン」と名乗る傭兵に襲撃を受け、俺は手も足も出ずに敗北しました』
気がつけば、俺は自分の思いを吐露していた。
『何も出来なかった俺に対して617はそのレイヴンと対等に渡りあっていて…それが情けなくて…そして、彼女が妬ましいと思ってしまった』
結局俺は、第7世代の手術に成功した選ばれし者だと驕っていた頃と何も変わっていなくて、無意識のうちに彼女を旧世代型と下に見ていた。
話してみてはっきりした。そうか…俺は617に憧れていたんだ…
『貴方のいう通り、俺は焦っていた。もう負けたくない、誰にも、何にも。また負けたら、617に置いて行かれてしまうような気がして…それが怖かったんだ』
俺は、617に並び立ちたい。見下すでも、見上げるでもなく。
「617はお前のことを気に入っている。置いて行ったりなどしないだろう。むしろ、お前にはあいつの側にいてやって欲しい」
『そう、か…』
「617のことは頼んだ」
『ああ、任された。ありがとう、ハンドラー』
…なるほど、彼の為に617たちが命を懸ける訳だ。出会って間もないのに俺もすっかり彼に絆されている。魔性の飼い主だな。
〔ハウンズ 仕事だ
アーキバスグループから依頼が入っている〕
ハンドラーの指示に従いアーキバスからのブリーフィングを確認する。
ーーーーーーーーーー
〔これは当社系列企業 シュナイダーからの依頼です〕
〔貴方達の活躍により陥落し当社拠点となったバートラム旧宇宙港について惑星封鎖機構の残存艦隊が奪還を企図しているとの情報を得ました〕
〔作戦内容は その迎撃および当該拠点の防衛〕
〔配備されているMT部隊は友軍として貴下の支援にお役立てください〕
〔ブリーフィングは以上です よろしくお願いします〕
ーーーーーーーーーー
なるほど、次の仕事は防衛戦か。3人でうまく分担すればそう難しくはないだろう。
『そういえば、耳鳴りは大丈夫なのか?』
「うん、621と会ってからは収まったよ」
『それは良かった、また何かあればハンドラーに調整してもらえよ』
機体の準備も完了、617も万全で一安心だな。さあ、仕事の時間だ。
〔封鎖機構は相応の戦力で基地奪還に来るはずだ
友軍MT部隊を上手く利用しろ〕
作戦地点に到着したが…静か過ぎる…?
〔ミッション開始…待て 様子がおかしい〕
『アーキバスと封鎖機構が既に壊滅している…!?』
俺たちの目の前には、墜落した強襲艦とMTの残骸の転がる旧宇宙港の姿があった。
〔…状況を確認しろ〕
墜落した強襲艦の上に3つの影が佇んでいる。どうやら彼らが全てを片付けたのだろう。
『ッ!あの機体は…!』
〔「レイヴン」通信は聞こえてる…?
目標を確認したわ あれがあなたを騙る傭兵…
想定より数が多いけれど今回は2人もついて居るわ〕
隣にいる機体は知っている…アリーナの上位ランカー、キングのアスタークラウンとシャルトルーズのアンバーオックスだ…!
あの日と同じように振り向いたACの頭部が変形し、バイザーによってカメラアイが覆い隠された。
〔見せてもらいましょう
借り物の翼で どこまで飛べるか〕
レイヴンを騙る傭兵…借り物…今回の狙いはレイヴンか。
〔偽者は「レイヴン」が直接対処します
キング シャルトルーズは取り巻きを!〕
「取り巻き扱いは心外…!」
『ああ、目にもの見せてやろう!』
敵はそれぞれ近い方に向かって来たか。俺が相手するのはアスタークラウン、アリーナランク3位の格上だ。構成はベイラムの重量4脚にバーストハンドガン、リニアライフル、3連装レーザーキャノン、パルススクトゥム…攻防を高い水準で兼ね備えた強力な機体だな。
「お前を手早く片付けて「レイヴン」の援護に向かうとしよう…3対1というのは気が向かないが」
『皮算用はやめておけ。負けないさ、俺も617も』
アーキバスでテストパイロットをしていた頃にあの翼のようなレーザーキャノンを使った事があるが、常に砲身が折りたたまれている為発射に時間がかかると感じていたのを覚えている。やはり実戦においては致命的な差だったな。容易く躱しアサルトブーストで接近、レーザーブレードでアイドリングを終えていないパルススクトゥムを斬りつける。
パルススクトゥムもなぁ…アイドリング終了後の性能は申し分無いがそれまでが長過ぎる。その性質上一度展開したら解除しにくいのに展開中はACS負荷を回復出来ないから扱い辛い…結局途中でパージして試験戦闘を終わらせたっけ。あとで調べたらあのテスト機体、積載もEN出力も超過してたんだよな…
一部を除いて先進開発局製武装は一般の傭兵には手が届かない代物だ。俺のようにアーキバスとコネがあるのか、あるいはなにか汚い手段を使ったのかは知らないが、そこまでして手に入れたのがそれか…と思わずにはいられない。
こちらからインファイトを仕掛ければ敵の機体はキックとハンドガンしか使える攻撃手段が残されていない。パルススクトゥムのガードが甘い脚部にマシンガンを連射し続ける。
頭部と脚部のおかげで姿勢安定性能だけは大したものだが…俺は至近距離で見せつけるようにブレードのチャージを開始。
「その攻撃、見え透いているぞ…!」
アスタークラウンのアサルトアーマーに対して俺もアサルトアーマーでカウンター。レーザーブレードによる回転斬りを放ち、吹き飛んだ相手に対してチャージしておいたレーザーキャノンを放つ。
『見え透いているのはお前の方だ』
「そうか…聞いていた以上の…強さ…」
奇しくも「レイヴン」に負けた時と同じ流れで、俺はキングに勝利した。横を見れば、617がACS負荷限界のアンバーオックスに対してガトリングを斉射し、そのまま撃破している。
『621を援護するぞ』
「分かった!」
617と合流し621の戦闘地点へ向かう。621は強襲艦の残骸を利用して戦闘を進めているが、その機動力に「レイヴン」は翻弄されることなく着いて行く。
〔ふたりを…退けるとは…!
「レイヴン」挟撃に注意して〕
「レイヴン」は621を無視して俺の方に向かってくる。一度完全勝利した相手だ、相手の立場なら俺だってそうするだろう。
ーーー双対ミサイルのせいで横か前への回避を強制され距離を離せず射程を活かしての攻撃も不可能。
ならば最初から近距離で殴り合うだけだ。双対ミサイルは俺を追い切れずに後方に着弾。回避を狩りにきた2連グレネードは跳躍して爆風を凌ぐ。
「レイヴン」はアサルトブースト中にクイックブーストを交えながらこちらに接近してくる。
ーーーリニアライフルとアサルトライフルでそれなりに弾幕を張っているはずだが変速的な動きを捉え切れない。
その動きはもう見た。ターゲットアシストをマニュアルエイムに切り替えて移動先にマシンガンを撃ち続ける。
〔「レイヴン」の動きが読まれている…!?
以前とは違うみたいね…対処を!〕
流石にフェイントを交えての回避に切り替えて来たか…だが、いつもの動きを制限できた時点で十分な成果だ。ターゲットアシストを通常通りに戻して弾を垂れ流し続ける。マシンガンはあくまで牽制だ。多少の被弾を許容せずに避けることに集中してばかりでは…
「レイヴン」の機体が特殊ミサイルの爆導索に引っかかり爆破に巻き込まれる。怯んだACにブレードで追撃を仕掛け、後方にクイックブーストして動作をキャンセル。遅れてアサルトアーマーによるパルス爆発が発生する。アサルトアーマーは既にキングに対して使用済みだ。カウンター出来ない以上引くしかない。
コア拡張は使わせた。今度こそブレードをチャージして攻撃。「レイヴン」は突っ込んでくる俺に対してパイルバンカーを構える。ブーストで突撃する俺は大振りの回転斬りでパイルに飛び込んでいき…
しかしそれが突き刺さることは無い。棒立ちのレイヴンの背中にガトリングとハンドガンが襲い掛かり、ACS負荷限界。カウンターはタイマンなら有効だが、複数との相手であれば相応に隙を晒すことになる。立ち止まるチャージパイルなら尚更だ。
よろめいた「レイヴン」のACに回転斬りが直撃し、構えていた左腕を切断。即座にチャージされたレーザーキャノンで追撃を加え、肩の2連グレネードを撃ち抜いた。
〔「レイヴン」…!反撃を…!〕
グレネードとパイルバンカーを失い、アサルトアーマーはクールタイム中。この距離では双対ミサイルも使えない。迎撃手段を失ったACのコアを621のパルスブレードが両断。「レイヴン」のACは膝から崩れ落ちた。
『終わったな…戻って休もうか』
オールマインドに戦闘ログを提出してレイヴンの動作をシミュレートしてもらった甲斐があったな。ウォルターの言うように焦って根を詰め過ぎていたのは間違いないが、あの経験も無駄では無かった。
予想外のミッションになったが…まあ、惑星封鎖機構による拠点奪還阻止という依頼は果たせた訳だし依頼は成功だろう。
◯イロハ
ウォルターセラピーで闇堕ち回避
仮に回避出来なかった場合AMに誑かされて両手にKRSVを握る事になる
◯617
エアと会話は出来ないが、621の側に誰かがいるような気配は感じている
◯イロハの昔の機体
【挿絵表示】
テストパイロット時代のアーキバス先進開発局製試験機
高負荷高出力で過剰過ぎると計画は凍結されたが、惑星封鎖機構の戦闘に備え問題点を調整し生産体制を整えた
右腕で牽制、ランスでスタッガーを取り肩で追撃というコンセプトは後のオープンフェイスに引き継がれている