未遂なら許されるかもしれない。怪我は負わせる。
『ひとまず情報を整理するとしよう』
『この世界に「ヒーロー」と呼ぶ存在がいる』
『それと対になる「
『俺が相手した奴は「
『まあ、所詮はチンピラ。公に暴れる奴がそう呼ばれているらしい』
『そして、共通してるのは「個性」という力』
『人類の8割以上が持つ特別な力か』
『そりゃあ犯罪率が大幅に上がる』
『それが「
『だが、ヒーローはヴィランを殺すことはない』
『甘い創作のような話だな』
『異形型というタイプの「個性」があるから俺たちの容姿は意外と怪しまれない』
『むしろコンプレックスがあると思われて触れてこないが正しいか』
『有難いが、それよりもやっぱり…………』
『『『『『『『『『『『『
『チキ…………』
『留守番中にも襲われたらしいな』
『もう終わりだよこの国』
『終わってない方が奇跡だな』
『やはり、ヒーローの存在が大きい』
『治安を守り戦う者か』
『そして不殺を貫く英雄たち』
『だがヴィランは殺す』
『ヒーローもヴィランも等しく現れている』
『だがヒーローは死ぬ。しかしヴィランは捕まり再び世に放たれる事もある』
『相対的に熟練のヒーローが消えていく』
『熟練のヴィランが残りやすくなる』
『よく治安が保ててるな』
『努力の賜物と褒めるべきか』
『みんな、一つ相談なんだが』
『俺たちに相談がいるか?』
『お前も俺だろう。今は大変なことにならなければやるべきだろう?』
『いや、大変なことになるから相談なんだが』
『思考を共有できると言っても隠し事はできるのか』
『戸惑いは感じられるが詳細までは分からない』
『とりあえず、だ。今俺はビルの上から街を見おろしてるけど、どうやら犯罪者の護送車が横転している』
『よし、やれ』
『慈悲などいらんだろう』
『好き好んでなったわけでもないかもしれないが、その様子だと暴れてるんだろう?』
『護送車ということは刑務官のような者も居たはずだ』
『警察官じゃなかったか?』
『どっちでもいい。人質に取られてるのか?』
『人質が居るおかげでヒーローはうかつに手出しできないようだ』
『甘いな』
『キチキチ!』
『彼らが戦わないなら』
『俺たちがやる』
『やれるな?』
『…………誰だと思っている』
『『『『『『『『『『『『
『キチッ!』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
それは不幸な事故だったと言わざるを得ない。
囚人を刑務所へ護送中に事故が発生し、その衝撃で囚人の拘束が解けてしまったために脱走しようとした彼らにヒーローは迅速な対応をした。
したのだが、言い方が悪いが突発的に発生したことで逆に警察官が逃げ遅れてしまい人質となってしまった。
「おい、いいのか!車の中に人質がいるんだぞ!」
「くっ!車の中が見えないから手を出しにくい!」
「私も!攻撃範囲広すぎて車にも当たっちゃう!」
居合わせたのはシンリンカムイとMt.レディ。方や拘束に長けた個性、方や殲滅に長けた個性なのだが、見えない位置に人質が居ることと車に囚人たちが近いことにより攻めあぐねていた。
救出できる個性を持ったヒーローが居たなら彼らも気兼ねなく制圧で来ただろう。
だがもしもは現場にはない。限られた手札で工面するしかないのだ。
「ついてるのかついてないのか、さっさと逃げられねえのかよ!」
「車を立て直すしかねえだろ!誰だよ横転させたのは!」
「事故起こした奴に言え!」
「人質の解放は俺達を追跡しないことだ!」
自由になりたい囚人は無茶な要求をするも通ることは無い。
それ故に人質も解放されないため動くこともままならない。
「ん?なんだありゃ?」
そして、囚人はビルの上にいる死神を目撃する。
いかにも古いコートをはためかせて見下ろす影。それは一瞬屈むと高く飛びあがり宙を舞う。
そして、囚人たちの前に着地した。
「何だお前は!?」
「ヒーローか!?だが、見たことねえ面だ」
「ヘルメットに面もあるかよ?」
正体不明の存在ではあるが、囚人たちには人質という利はあった。
近づいてくるヘルメットの男に対して囚人は言い放つ。
「こっちくるんじゃねえ!こっちにはなぁ…………」
「人質がぷぎゃ」
言い終わる前に頭が赤い花火へ変わった。
ほんの一瞬だけの時間、瞬きする程度のものだったはずなのに殺された。
一時の仲間を瞬殺されて唖然としている囚人に彼は容赦なく拳を振る。
胸部に叩きこまれた拳の衝撃で骨と内臓が潰れる音が響き遥か後方へと吹き飛ばされる。
聞き慣れない音に、聞いてはいけない音を聞いてしまった野次馬たちも、数秒かけて状況を理解し、悲鳴が上がる。
「こ、こいつやりやがっ」
3人目の犠牲者がすぐに出てしまう。
単なる回し蹴りであったそれは人体を簡単に抉り取り、個性を使う間もなく肋骨どころか肺を露出して蹲るように倒れ込む。
「うわ、うわあああ!」
ようやく事態を把握した囚人は殺戮現場から逃げだした。
もはや人質や自由などどうでもいい。奴はそれを無視して襲いかかるのだから。
逃げ出す先はもちろんヒーローの方。
あの『怪物』に殺されるくらいなら捕まった牢獄の方がマシなのだから。
「た、助けてくれっ!ヒーローだろ!?こ、殺される!」
「分かった、わかったから大人しくしてくれ!」
シンリンカムイに拘束されながら泣き叫ぶ囚人に困りながらも視線は逸らさない。
暴力で制圧するのはいつもの事だが、堂々と殺人を行われている現場に居合わせることは滅多にない。
ヘルメットの男の凶行を止めるべく覚悟を決めたシンリンカムイは拘束しようと腕を樹木に変化させる。
Mt.レディでは巨大化したまま握ると相手のパワーによって再起不能になる負傷を負いかねないための決断。
伸びてくる樹木に対して僅かな回避、直接的な捕縛は出来ずとも囲い逃さないようにするのはシンリンカムイが鍛え上げた実践経験の積み重ねによる見事なものと言えるだろう。
だが相手が悪い。
上空への跳躍には対応できていなかった樹木の牢獄では彼を捕らえられなかった。
「なっ!?跳躍が凄い!?」
皆が宙に舞う彼なら注目していた中、動いたのは1人。
「空なら動くことできないでしょ!」
そう、Mt.レディである。
約20mもある身体で跳躍したヘルメットの男を捕まえようとしたのだ。
巨大故にパワーも高いのだが、先ほどの戦いを見て手加減は不要と考えた彼女はその手で捉える、もしくは叩き落とすという選択肢をとった。
一度跳躍してしまえばパワー強化持ちの個性ならこのまま落下するだけである。
だが相手が悪い。
そのヘルメットの下には禍々しい虫の顔がある。
コート越しでもうっすら発現する羽が変えようが無いはずの空中軌道を変えてMt.レディの手から逃れる。
「うっそ!?避けるのそれ!?」
そのまま護送車の近くに着地した彼は鍵をかけられたバックドアを力だけでこじ開け中に入る。
そして短い時間で悲鳴が上がり、ベシャリと液体が飛び散る音が響く。
囚人が殺された、それを理解した瞬間に護送車から飛び出した一つの影。
「待てっ!くっ、もうあんな所まで…………!」
シンリンカムイの静止に止まることなく高度に跳ね回りあっという間に姿を消した。
幸いな事に護送車の中で人質となっていた人間は救出された。
詳細は未だに不明だがこの一件から日本各地に話が広がり始める。
『
バッタオーグのパンチやキックは当然ながら相当な個性を持っていなければSHOKCER戦闘員の如く耐えられる訳ないという話。
そしてヒーロー側も上澄の上澄でなければ捉える事もままならない感じ。
でもヴィランっぽいと言ったらヴィランなのは違いない。