対巨大生物対処局特殊戦術課 作:火薬好き
雲取山での鹵獲戦終了後の夜
「あーとっつぁん。聞こえてる?」
『どうした?何かあったのか』
「一応、今は陸自預かりの身だから情報送ったら内部リークになるからできないけど、早めに戻れそうだ」
『まぁ、何かあったわけだ。ウチからも報告だ。日の入り直前に佐野の山中で一個巣が見つかって出動になる。明朝こっちを出て昼には作戦行動予定だ』
「んー。じゃぁそれ理由にとんずらすっか」
『おいおい・・・』
「とりあえずサンプルゲットしたからそれでチャラってことさね」
『まーた雑賀が愚痴るぞ』
「俺も小言覚悟だな。んじゃ、位置だけ送ってくれ。明日申請で受理も明日。移動できても中盤になるな」
『ならセオリー通り遅滞戦か?』
「ゲートが無いなら、そっちの判断でと言いたいけど、五期生の戦闘記録がほぼないから無理はできんね」
『あぁ。こっちは時間稼ぎだな。まぁ、新人にはリミッターの範囲内で好き放題撃たせるつもりだ』
「了解。んじゃよろしく」
そういって凪島と征陸は通信を終わった。で、次は上司の局長・狭間に通信を繋いだ。
「あー局長。飲んでる?」
『さすがに飲めんぞ。この状態じゃ』
「んじゃもう監査室から情報行ってるわけ?」
『あぁ。仮死状態の個体、初発見の個体のサンプル。こっちは研究課の争奪戦の調停中だ』
「あー、五課に一つは送るようにしといて」
『まーたアイツが愚痴を言いに来るぞ』
「それさっき征陸のとっつぁんに言われたよ」
『で、鹵獲できたってことは一応ドミネーターも有効か?』
「そこなんだけど・・・微妙だね。岩石とかを取り込んでる影響か、外殻が結構固いし多分成分も違う。それは分析班に期待ってとこぐらい」
『わかった。で、そっちはとんずらか』
「そのつもり。出動もあるわけだしね」
『あぁ、とりあえずご苦労。あとは面合わせて話そうか』
「酒はなしね」
『わかってる』
そういってかなりお気楽な通信が終わった。そうして朝が来て凪島は監査室に帰還要請を申請し昼前には受理された。
「・・・ふぅ、相変わらずの交渉術ですね」
「だからこそ異例の解任案及び審査、そして投票が無いと解任できないシステムとなった後の初の防衛大臣だ。統合幕僚長がそのまま上に行ったから、苦労は聞いているけどね」
「いつまで上はお気楽政務中なんですかね?ま、大臣がトンだら自分らも飛ぶでしょうしさすがに上も理解してるでしょうね」
「一種のカードか。いいのかい、それで」
「自分が末代ですけど、今の現状も四年前とは違い敵も進化している。それを次代に負わせるなんて考えられませんね、というよりそれ考えるくらいなら潰す方法を考えますよ」
「本当の実力者がそういう考えで本当に助かるよ」
「自分も年齢のせいで調整やらで周囲に迷惑かけっぱなしですので。できることは戦場で働くくらいですよ」
「まだ正式決定ではないが、今回の測定を材料に自衛隊から対巨大生物対処局へ情報交換の協議を申請するつもりだ」
「了解です。では」
そういって凪島は本部と監査室の数名に見送られて移動用のヘリで佐野へと飛んだ。
そして少し時間は戻って昼の佐野
「到着だ。全員すぐに予定通りの戦闘配置。まずは陸自の設営部隊を護衛しつつ仮防衛地点の作成だ」
征陸の指揮下、巨大生物の巣と思われる地点の前面に陸自と共に防衛ラインを構築。強酸性の液体への対応するための仮の防壁を完成したのを確認して特戦課は作戦行動を始めた。
「さて、五期生。実戦だ。とりあえず言えることは射程内の敵が目に入ったら一秒一発の六発を行って二丁目のドミネーターに持ち替えて一丁目は充填のサイクル。しっかり頭に入れておけ」
「はい!!」
「伸元。総指揮は任せるぞ。俺は新人の援護だ」
「あぁ、わかった」
「ギノ。こっちも準備万端だ」
「いつでも狙撃できますよ」
「よし、開始だ。六合塚、始めてくれ」
「了解。誘導弾を発射します」
六合塚が巣と防衛ラインの中間地点に特殊な擲弾を投射した。誘導弾は巨大生物のフェロモンを分析した結果、巨大生物に対し刺激性のある成分を発生させ、どこから調達しかもわからない土の山から巨大生物をおびき出す役割である。そしてそれに釣られて次から次へと巨大蟻が姿を見せた。
「よし。両翼ともに狙撃開始。セオリー通り数よりも側面防衛を最優先とする」
『了解』
狙撃型ドミネーターによって長距離からの狙撃。そもそも物量差が大きいため、正面火力を維持するためには側面に回る個体を優先して排除しなければならない。
「よし、通常の射程距離にそろそろ入る。射程はこちらが優位だ。臆せず撃て」
「はっ!!」
征陸率いる五期生の弾幕射撃によって数は少しずつではあるが減っていく。だがさすがに物量差、そして大きさの恐怖などの精神的劣勢から効力射は少なく、唯一二刀流の征陸が着実に数を減らしていった。しかも征陸のドミネーターは大型の十二連射式であった。が、時間がたつにつれて想像以上に五期生は体力を削られていた。
『親父。そろそろ来るか?』
「卵があるならそろそろだろうな。五期生、全員耳当てはつけているな?」
「えぇ、全員装着済みです」
「しっかり気を張っておけ。耳は防げても腹にも精神的にも響くからな」
それを言い終わった直後、甲高くそして大量の金属音が鳴り響いた。
「・・・誕生の金属音」
雛河がポツリとつぶやいた。それと同時に五期生は一気に得体の知れない恐怖に襲われた。
「これが・・・巨大蟻の・・・」
全員がドミネーターを握る手はわずかに震えていた。
『親父、五期生の様子は!?』
「あぁ、正直ギリギリだ。雛河と如月がほぼ飲まれてる。残り四人もギリギリだ」
『じゃぁ、朗報だ。馬鹿げた速さで反応が一つこっちに来ている』
「案外早かったな。というか高所恐怖症のくせに音聞いた瞬間降下して一気に来てるわけか。通信は?」
『あぁ、入ってる。全体につなげるぞ』
≪こちらジェネラル1。あと10秒で着く。≫
『こちらインストラクター1。こっちの状況は聞いてるか?』
≪あぁ。一気に蹴りをつける。カウント8で開始する≫
『了解』
≪コマンダー1、引き続き側面を頼む≫
『コマンダー1。了解』
「・・・何か来る」
戦闘中で今も巨大蟻が近づいてきている状況で常森だけが唐突に後ろを振り向いた。
「さすがは主席卒業生。感も優れてるわけか」
≪3,2,1。状況開始≫
凪島は宣言と同時に防護壁を一気に飛び越えて空中から通常の六連射式ドミネーター二丁による制圧射撃を開始。ただし、両手に一丁ずつ。さらに背中に4本の刀と思われる物と腰には左右二丁ずつ六連射式のドミネーターを装備していた。ただし六連射とは思えないほどの弾幕、たった8秒で24発の銃弾の雨が降り注いだ。
「どういう・・・」
「・・・まるでゲーム」
その後は奇抜な機動力を生かして中央をリミッターありの状態のドミネーターで跳躍を繰り返しながら狙撃。側面は引き続き狙撃型が担当しものの一分で蟻は跡形もなく消えた。
「・・・あれが本当に年下の・・・」
「年齢なんて関係ない。実力、技能が揃ってるからこそできる芸当だ・・・といっても理解は難しいか」
「・・・戦闘は終わり、という雰囲気ではなさそうですね」
「ほう、鋭いな。まぁ、その通りだ。最初は巣からおびき出したのを叩いて、その後は強引に孵化した個体も混ざった群れとの戦闘。で、課長が一段落つけてくれたわけだ」
「まだ何かあると?」
「ゲートの存在の確認だ。卵とかは探査できるが、ゲートだけは既存の機械じゃ見つけられんからな。懐に入る必要がある」
「いくら何でも危険すぎでは?」
「それをやってきたのが課長だ」
『コウ。自分の近接防護服は持ってきてるか?』
『あぁ、一応あるが、いいのか?予定じゃまだだぞ』
『予定は予定。まずゲートが見つからない限りできないんだ。なら見つけた間に経験しとくべきだと思うが判断は任せる』
『了解だ。すぐに装備してくる』
『残りの狙撃班は引き続き警戒。とっつあんは五期生を頼む』
『了解だ』
『任せておけ』
「ボス。準備完了だ」
「んじゃ行きますかね」
巣の真正面に立って警戒していた凪島の横に狡嚙が並んだ。狡嚙は両手に通常のドミネーターを一丁ずつと左右の腰にも通常のドミネーターを一丁ずつと背中に一本の刀を背負っていた。
「映像は何度か見せてもらっていたが、実際の雰囲気は違うな」
「まぁね。その上まだ少しだけど残ってるし。こいつは教本通り強引に起こして叩く」
「場所こそ違うが、結果的に全部起こせるのか?」
「たまーに寝坊助がいるからそういう時はいったん起きたやつを叩いて、上とからから穴開けて一気にドミネーターを叩き込んでたな。切り刻むのにも時間かかるし、天井に伏せられてたら厄介だし。んじゃ、始めるぞ」
そういって凪島は一つの手榴弾を投げた。戦闘開始前に六合塚が打ち込んだ誘導弾のさらに濃ゆい成分を含んだ物である。しかし先の戦闘で孵化した時とは違い、金属音は発生せず、ヨロヨロと、通常より小さい個体が巣の入り口から出ようとしてきた。
「相変わらず、蟻にも酔いは有効か」
そして躊躇なく凪島と狡噛はリミッターを解除せずドミネーターを撃ち続けた。
「ギノさん。反応は?」
『いや、ないな。卵のほうもないが・・・』
「催涙でも出てこないならまぁ、突っ込んでみるか」
そういって普通に凪島は巣の中に入った。そして安全を確認してから狡嚙も中に入った。
「・・・ライトなんて当ててどうしたんだ?」
「後で話す。とりあえずゲートの破壊だ。思いっきり好きなだけ切り刻め」
「了解だ!!」
凪島の許可を受けて狡噛は一心不乱にゲートと呼ばれる紫色の物体を切り刻んだ。斬られるたびにガラスが割れるような音を立て、次第に小さくなっていった。
「これくらいだな」
「まだ、残ってないか?」
「あ゛」
「・・・どうした?」
「デコンポーザーが可能なドミネーター、まだ受け取ってなかったっけ」
「・・・予定を早めた反動か」
「まぁ、いい。少し離れておけ」
凪島がドミネーターを両手で持ち、引き金近くの部分からカートリッジを取り出して別のカートリッジを装着すると唐突にドミネーターが姿を変えた。
≪執行モード、デストロイ・デコンポーザー。対象を完全排除します≫
そして莫大なエネルギーの弾丸がゲートの残留物に衝突し、急激な化学変化を起こしゲートの抗生物質をすべて消滅した。
≪強制冷却。一定時間射撃不可能です≫
「一定・・・つーよりデコンポーザー専用カートリッジ一発でほぼ一日使えなくなるからなぁ・・・。あ、かがっち。洗浄用意。ついでに動ける五期生がいたら携わらせてやって」
『あいさー』
「で、実際にやってみた感想は?」
「・・・正直、アンタが両手で構えるレベルの反動となると、真っすぐ撃てるかが心配だな」
悠長に話しながら二人は防衛ラインに戻り洗浄を受けてようやく戦闘終了となった。
「コウ君、どうだった?」
「あぁ、想像以上だな。あとボスがドジッたぞ」
「ほう、それじゃぁ明日は雪だな?」
「つい先日まで言い回しを否定していた人が何を言ってるんだか」
お気楽な先達を見て五期生たちは唖然としていた。そしてそこにすかさずベテランがフォローを入れる。
「ま、二年も戦っていればあぁなる。というか真っ当な人間はある意味課長の毒牙にかかるからな」
「毒牙・・・」
「年齢なんてい関係ない。課長は見ての通り実力があり、下手な大人よりも頑丈な信念を持っている。実際に数を重ねていけば普通は理解できていく。ま、欠点はこうやって一番大事なフォロー、部下への心配りの経験がほぼないってところだな」
「・・・それは部隊を預かる立場としては致命的では?」
「・・・嬢ちゃん。傍から見れば課長を目の敵のようにしているぞ」
「敵ではないです。ただ、やっぱりおかしいと」
「ま、ある意味じゃ俺らの仕事は兵役。法律じゃ軍事的な兵役・・・というかそういうことを習うには高校は卒業する必要があるからな。その上、課長はまだ高校の課程を戦闘・訓練・その他調整と同時に進めている。正直、俺らも間違ってると思ってる。だが、悲しいかな。いざ課長が法に従って離れたとなれば、確実に戦力は著しく低下するとわかっている。大人が見っともなく年下に縋っているのさ」
そう言った征陸の言葉をよそに常森は何かを考えていた。