対巨大生物対処局特殊戦術課   作:火薬好き

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第三話

佐野での戦闘が終わった翌日の昼の特戦課に課長である凪島は未だに姿を見せないでいた。

 

各々は戦闘時のレポート。戦闘で抱いた感想や状況を書き記すことで再自覚するとともに後進への資料作りということで戦闘ごとにするように半ば決定事項となっていた。

 

「とっつあん」

 

「なんだ?」

 

「ただでさえ陸自・・・上が切望していたボスの雲取山への潜入調査。これが早々に打ち切られてなおかつボスは帰投後すぐに局長室行き。その上局全体の雰囲気がいつもと違う。特に研究課が特にそうだ」

 

「まぁ、そうだろうな」

 

「なにか聞いてるんすか?」

 

「具体的な内容は聞いてはいないし、あの時課長は陸自預かり。下手に情報を話せば機密漏洩にも繋がる。が、そこは交渉上手な課長だから最低限話せる内容だけ確認して一昨日連絡をくれたんでね」

 

「となると、予測できるのは初観測の個体の出現でしょうか」

 

「さらにそれを課長が鹵獲したとあれば研究課が慌ただしくなるのは理解できるな」

 

「とりあえず午後からミーティングだ。今課長は局の上層部相手に喧嘩吹っ掛けている最中だろうよ」

 

「あの、よろしいですか?」

 

「須郷、どうした?」

 

「自分は自衛隊候補から途中で適正が見つかったのでこちらの路線を変えたのですが、実働部隊であれど、調整役の人員も揃っていなければならないはず。少々、というか課長一人で渡り歩くなど前例がないというレベルです」

 

「確かに、そうだな。だがその人員をどこから迎え入れるかで問題が一つ。その上、卒業前の配属希望提出時期に色んなところから誘いが来て、特に雲取山配属に関しちゃ五か所から別々に来てたんじゃないか?」

 

「えぇ、まぁ・・・まさか局内で分裂が?」

 

「まぁ、な。俺の同期がおかしくなった・・・地獄を経験したから身を守るために権力・戦力を集めなけりゃならない。かといって複数人が合流しても誰を最重要で守るかでもめるからこそ複雑で面倒な状況というわけだ」

 

「んー。ちょっと話がズレるけど、なんか今回のブリーフィング、気になるねぇ」

 

「気になるってどういう風に?」

 

「ただ単に新しい個体が見つかったのなら解析班が解析し終わってからこっちで有効な戦術なり弱点部位を探ったりする。それをブリーフィングでするはずだ。だけど、まだ終わってから一日。いくらなんでも解析班でもすぐには材料を用意できない。ともなれば・・・」

 

「その個体よりも重大な問題があるからこれに備えるためのブリーフィング、というわけですか」

 

「ま、雲取山のことも踏まえて話してくれるだろう。そん時は疲れているだろうが、それでも果たすのが課長だ。ならこっちはできるだけ質問を考えておくことだ。あとは戦闘記録の提出を急ぐぞ。下手すれば記録の書き出しすら呑気にやってられん事態にもなりかねないと見るほうがいいからな」

 

そういって全員のキーボードの音が激しくなった。

 

そして少しして凪島が特戦課に顔を出した。

 

「どうだ?上の様子は」

 

「芳しくないねぇ。研究課はサンプルの争奪戦の真っ最中。会計は政府相手に予算の捻出の準備。監査はいつも通り。広報は自衛隊と口裏合わせに必死。で、ウチは全員の戦闘レポートができしだいブリーフィングを始める。単なる個体に対する対策レベルじゃないからな」

 

「で、どこまで話せるんだ?一応陸自預かりで作戦をしたんだ。情報開示の許可は結構上までいかないと降りないし時間もかかるだろ?」

 

「あぁ、雲取出る前に監査室を通して幕僚監部に情報開示許可を申請して即刻受理してもらった。何せウチも自衛隊も単独じゃ研究できる部分は限られている。その上自衛隊から早急に情報交換のための協議会の打診もあった。俺は色々立場があるからとっつあん・・・」

 

「任せておけ。そればっかりはお前さんしかできない立ち回りだ。こっちは経験さえあれば現状維持ならできる。ただできるだけ早めに片付けてきてくれ」

 

「・・・協議のほうなんだけど、俺が外に出辛い影響で、こっちが会場になる。その上、大臣付きだ」

 

「かなり本腰・・・今の大臣の姿勢からすればまさに鑑のような行動意志が伺えますね」

 

「あぁ。だからこっちも足引っ張らないようにできるだけ資料は作っておく必要がある。頼むぞ」

 

「おう!!」

 

そうして全員の戦闘レポートが提出され凪島がすべてに目を通した後、ブリーフィングルームに移動し本格的な会議が始まった。

 

「まず最初に雲取山にある五か所の洞窟。これが中央にある大空洞と繋がっている」

 

「それって、放置していた分敵の基地建設を見過ごしていたということでしょうか?」

 

「あぁ、陸自からの路線転換した須郷さんらしい見解だ。そしてほぼあたりだね。防衛さえすればいいっていうスタンスが最悪の結果を引き起こした」

 

「あのー・・・これって記録されるんじゃ?」

 

「されない場所を選んでやってるから問題ない。だから思うところがあればじゃんじゃん言ってくれ。こういうのは個人の考え、それがこれだけ数が揃っているのならば一つは外れたとしてもほかの観点を添えれば突破口や可能性の示唆。または否定材料を見つけて可能性を減らすなど色々できるからね」

 

一呼吸おいてさらに凪島はつづけた。

 

「で、潜った先で見つけたのはほぼ岩石に擬態、ないしその成分を取り込んで仮死状態となっていた無数の巨大蟻が壁一面にいた」

 

「なっ!?」

 

「その上とりあえず信頼できる研究課の五係から構成物質の仮分析結果を送ってもらったが、これは先に発見された"黒"という個体とはさらに別の個体となる。確か発見と同時にギリギリ五期生のカリキュラムにねじ込めたはずだが、存在は知っているか?」

 

「えぇ。通常のドミネーターは当たりさえすれば敵を屠れる。だが黒という個体はどこに当てたとしても消滅しない。現状の有効打は急所であるとされる頭部へのドミネーターの複数の同時着弾、であってるでしょうか」

 

「満点だな。ただ、黒に関してはサンプル自体がまだ一個も取れてない現状、解明は難しい。何せ現れるときは群れに交じって現れる。バラすのは簡単だが、下手に放置すると自分の強酸性の液体が死骸の外殻を溶かしてしまい結果無意味になることで鹵獲はまだできていない」

 

「で、新種のほうはどうなんです?特にドミネーターが有効か否か」

 

「旧式の電磁刃が通用した時点で電流に対する抵抗は少ないと予想される。ただドミネーターに関しては発射される電気エネルギー弾が開発当初より効率優先の結果出力が落ち、単発の電圧でいえば旧式の電磁刃が有効とされるだろう」

 

「となると、課長とコウ君がまず候補に上がるわけね」

 

「一応狙撃型ドミネーターも電圧は高い方だ。どこまで通じるかはわからんが、急所の頭よりも弱い節の部分を狙撃できればそこで効果はでるはずだ」

 

「となると、残るメンバーは通常個体との戦闘か」

 

「と、言いたいけど、おそらく新種の方が数が圧倒的に多い。その上、地形的にも危うい状況だ」

 

「地形?確か山奥だったはず」

 

「さっき課長が見せてくれた新種の特性から推測すると・・・仮死状態の個体が重なって壁を構築。先に空洞を作ってから蟻による壁ができたかの順番はわからないけど、物理的に見ればただの壁よりは密度が薄いから脆い。下手に上から負荷をかければ落盤・・・それを発端に眠っていた個体と対策なしで戦うことに・・・なるんでしょうか?」

 

「満点だ。事実、蟻による壁で地盤が支えられている状況と考えれば少し刺激してこの個体たちが動き出すと落盤は当然として一気に防衛ラインの即時再構築が求められる。その上相手は完全な新種。体重も重いと推測すれば以前考案した陸自の遅滞戦術も効果は見込めないだろう」

 

「差し支えなければその戦術をお聞きしても?」

 

「あぁ。鹵獲した通常種の上半身と下半身から推測される体重は20kgにも満たないとされている」

 

「あの巨体でそんな軽いのですか?」

 

「あぁ。だから手榴弾レベルの爆発をうまく当てればひっくり返して時間稼ぎができる。その上腹部の酸が己が体すら溶かすともあれば転倒させ腹部に穴をあければ勝手に自滅してくれる可能性もある・・・だが、今回の個体は岩石を取り込んでいるとされれば重量は重くなるしそれを支える足も強いだろう。ともあれば爆風での足止めも効果薄と見た方がいいということだ」

 

「一応、考えはあるんだろ?」

 

「最悪だが、落盤を見越して陸自と空自に事前に爆発物での物理的殲滅を要請しようと思っている」

 

「巨大蟻には通常兵器の効果は薄いと聞いていますが?」

 

「確かにそうだ。だが確認されている個体が、外殻は固くとも、その反面それを繋いでいる節が進化しきれていないのであれば、通常種と同じでそこに過重負荷をかければ節の破壊によって無力化が可能と推測できる。その上雲取山近くには居住区はない。だからここで一気に自衛隊の火力で一気に背後を掃除したいと思っているわけだ」

 

「では我々がするべきことは?」

 

「解析班の情報からドミネーターの有効部位の測定と現地に派遣されているドミネーター候補者への統率強化。あとは旧式だが電磁パルス防壁を構築しできるだけ時間を稼ぐといったとこか」

 

「電磁パルス防壁か。旧式で電力と金を食うが有効ではあるからな。なら俺たちはその三つを盛り込んだ立案書の作成だな」

 

「自衛隊は俺が局長を通じて先に幕僚監部と事前情報交換でできるだけ有効兵器の割り出しと仮立案をやっておく」

 

「よし、一気に仕上げるぞ。今こうしている間にも別のところでせっせと巣作りされていたらそっちが優先されるからな」

 

「親父、水を差すなよ」

 

「ギノ、どっちも事実だ。俺たちは全員がそれぞれやるべきことに対してベストを尽くす。それだけだ」

 

「あの、指針が固まったところすみませんが、一つ疑問を聞きそびれまして。よろしいですか?」

 

「東金さんか。どうした?」

 

「我々が対峙している巨大蟻。あれは一つの生物なのでしょうか?」

 

「・・・群体による構成。ないしは群体と一つの個体の共生関係から成り立っていると?」

 

「生物学をすでに?」

 

「いや。聞きかじった程度だ。確か高校は生物学の研究をしていたんだっけ?」

 

「そこまで目を通して頂いているとは。実際現存する生物には両者ともに例はあります。ドミネーターによる細胞単位での消滅。これは細胞ではなく、群体を構成する核を攻撃した結果、群体を構成していた細胞が消滅した、とは考えられないでしょうか?」

 

「確かにその線も考えられる。ただし・・・」

 

「何かすでに証明されていると」

 

「否定材料が二つある。まず一つ。群体による構成となると今確認されている黒への対処方法から逆算するとつじつまが合わない」

 

「なるほど。同時にドミネーターの弾丸を複数を着弾させ細胞を破壊するという原理のみが有効。別の理由があれば逆に一発程度でも当てれば全体でなくとも少しは消滅できるはず。ですがそれは成功していない。もう一つは?」

 

「共生関係への否定材料だ。群体が一つの強大な個体に寄生ないし共生関係ともなったとしても、それはどこに存在するのか。最低でも強大な個体が前面にいなければこの関係は破綻する。一応通常個体のサンプルはあるが、構成物質に明らかな差は計測されていない。このことから一時東金さんの可能性は保留とする」

 

「否定材料が少なからずあるのに、捨てるのではなく、保留ですか?」

 

「今は捨てることもできる。だがすでに四年の間に黒という個体が確認され、今回も新種が表れている。敵も進化しているといことだ。現時点では捨て置けても、今後利用できないとまでは断定できない。ならばできるだけ論文などでアーカイブ化し変化があった時の肯定・否定どちらにでも利用できるようにそろえておく必要があるということだ」

 

「了解しました。ではこちらですぐに資料として作成し課長はその後アーカイブ化をお願いします」

 

「あぁ、わかった。では動くぞ。タイムリミットなどご丁寧にどこにも記されていない。ならば動ける時間を使えるだけ使う。どこかで詰まるのであれば都度誰かとすり合わせを行うといい。そうすれば違う観点を得られることもある。では抜かりなく」

 

「了解!!」

 

こうして戦術課は動き出した。

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