半人半竜のヒーローアカデミア 作:十希
はじめに
皆様、いつも本作品をお読み頂き、誠にありがとうございます!
何とか2週間以内に投稿できた…!
※前回の長い投稿不足期間がトラウマになってる人。
やっと僕の書きたい事に少しずつ近づいてきたので楽しみ反面怖さ半面といったところです。
それでは本編をお楽しみ下さい!
俺達はえりちゃんの場所を特定するまでの間、学校で待機となった。今は訓練室でロープを使った壁の上り下りをしている。
『よっし…次行くぞ!!!!!』
『負けない!!』
『負けてられない!』
『ケロォ!』
『すっげぇ…リューキュウ事務所に行ってるインターン組。気合いの入り方が違ぇな!』
『というよりも、鬼気迫る感じといった所だ。』
上鳴、常闇の言う通り、破竜、耳郎、麗日、蛙吹の4人はいつも以上に気合を入れて訓練に臨んでいた。倒すべき敵の存在、そして必ず救い出さなければいけない存在が明確になり、昨日より今日、いや、数分前の自分よりも強くなる為に1分1秒を惜しんで訓練に臨んでいた。
そして、その炎は4人だけではなく…
『ゴラァ"!!テメェら外で何掴みやがった!? おい!!クソ髪言え!!!』
『わりぃ!いえねー!!』
硬化でガリガリと壁をよじ登る切島も俺も負けてられねぇ!と対抗する中、その炎が悪い方向に伝染する者がいた。
『………………』
ズルッ…
『わっ…!』
『なっ、危ねぇ!!!』
咄嗟にウォリアに竜変身した破竜は壁から落ちかけた緑谷を抱き抱え、壁に腕をガリガリと突き立てる。珍しいな…緑谷がこのくらいの訓練でミスするなんて。
『ご、ごめん破竜くん!』
『いや、俺は大丈夫だけど…。緑谷、お前なんか集中力切れてねぇか?』
『へっ?そ、そう?たまたまだよたまたま!!』
いや…今のはどう見ても…
『おい、そこ。話するなら地上に降りてからにしろ。他の奴らが訓練できん。』
『す、すみません!』
相澤先生の一睨みにゾッとした破竜は緑谷と共に地上に降り、竜変身を解除する。隣にいた緑谷に話しかけようとすると、逃げるように轟と飯田の元に歩いていってしまった。
そんなやりとりを見ていた耳郎がこちらに歩いてくる。
『ねぇ、アイツどうしたの?らしくないよね、なんて言うか…動きがさ。』
『やっぱ耳郎もそう思う?俺も気になってたんだよね。最初はえりちゃんの件で凹んでるかと思ってたけど、どうやらそれだけじゃないみたいだ…』
『それだけじゃないって…他に何があんの?』
『……………………』
『ま、別になんでもいいけど。』
キーンコーンカーンコーン
『あ、チャイム…。ね、破竜。放課後さ、少しだけ時間貰える?相談したい事あってさ。』
放課後?別に何もないからいいけど…
『ん、りょーかい。』
『響香ちゃん、私達もいっていい?』
『何するのか気になるわ。』
『……そうだね、2人も来てくれた方が助かるかも!』
助かる?どう言う事だ…
そして、放課後になって俺と耳郎、麗日と梅雨ちゃんは再度、訓練室にきていた。帰り際、緑谷と切島を誘ってみたが、切島は珍しく少し考える事があると言って欠席。緑谷はオールマイトに用事とか言って帰っていった。本当は午前中の件があったから心配してたが、昼休みに飯田と轟と昼食を食べた後からいつも通りの雰囲気が変わっていたから、大丈夫だろう。
訓練室の使用についてはインターンの件もあり、相澤先生が他のクラスや先生に融通を利かせてくれたみたいだ…。
いつもいつも、ホントすんません…
真ん中に陣取った俺と耳郎を外から麗日と梅雨ちゃんが見守る形だ。
『それで、相談って?』
『簡単。ウチと…模擬戦して欲しいんだ。』
なんかこんな感じのやりとり仮免試験前にもやった気がする。あぁ、思い出した。あの時は常闇とやったんだっけか。
『試したい技があるの。アンタに通用しなかったら、今度戦う敵にだって通用しない。悪いけどさ…ウチの実験台になって。』
『へぇ……』
そのセリフに俺はニヤリと笑っていつも通り、構えをとって了承の意を示す。
『…そう言えば、耳郎と戦うのは戦闘訓練以来だな。』
『そうだね。あの時は…作戦でも負けたし、実力でも負けたよ。でもさ、今回はあの時みたいに簡単にはいかせない。』
『響香ちゃん、本気ね…』
『……ねぇ、梅雨ちゃんはどっちが勝つと思う?』
梅雨ちゃんはしばらく黙った後、
静かな…それでいて凜とした声で告げる。
『響香ちゃんには悪いけど、破竜ちゃんよ。2人とも近距離、中距離、遠距離のどこからでも戦えるけど、破竜ちゃんはクラス内…いや、1年ヒーロー科の中でも練度が違う。加えて身体能力の差は圧倒的。しかも、実戦での経験値は比べ物にならない。勝ち筋としては響香ちゃんがそこをどうやって切り崩すかにかかってるけど…あの破竜ちゃんがそれに気づかないわけがない。最初の段階で響香ちゃんはもう何手も後手に回ってる。』
そう、梅雨ちゃんのいう通りだ。索敵能力なら負けてるが、それ以外で負けてる部分は客観的に見てもない。強いて注意すべき点を挙げるなら俺相手に試したい必殺技だろう。どんな技なのか皆目見当もつかないが、本来ならウォリアにならなくても十分勝てる。
ただ…
『……なに?』
耳郎の瞳に強いものを感じ取った破竜はパワーの力を解放してウォリアに竜変身する!
『っ!?』
『破竜くん(ちゃん)も本気!?』
『やるからには本気でいくよ…。ただ、ここにきて怪我させるわけにはいかねぇから、俺からの攻撃は寸止めにする。それがやる条件だ。いいか?』
『舐められてるわけじゃないからいいよ。かかってきなよ、破竜。』
そう言って耳郎はイヤホンジャックを構える。
『……………………………』
2人はお互いに睨み合いを続ける。その姿はさながら居合の達人同士が抜刀するタイミングを見計らっているようだった。
破竜からも…耳郎からも動く事はなく、
10秒が経過する。
『き、緊張する…』
麗日の声がその場に響くと破竜はため息を吐いた。
『こねぇのか?耳郎から言ったんだぜ。必殺技を試させて欲しいって。試す気がねぇなら終わらせるぞ?』
『…………………………』
破竜のトラッシュトークにも耳郎は何も反応せず…ただただ、破竜の動き一つ一つを見逃さないように最大限集中する。
『(戦闘訓練でも、雄英体育祭でも、破竜ちゃんは意外とトラッシュトークを使う事が多いわ。相手から仕掛けさせたい時、精神的に優位に立ちたい時、色々な場面で使う事が多い。この場合は前者だけど、響香ちゃんは何も仕掛けず…何を狙ってるのかしら?)』
蛙吹と同じように破竜も耳郎のその行動の意味を掴めず、構えをとったまま動けずにいた。
『(ダンマリか…前までの耳郎なら飛び込んでは来なくても反応の一つくらいはしたんだけどな。俺から仕掛けるか。)』
破竜は漆黒の翼を羽ばたかせる!
『……待つのはあまり好きじゃない、いくぞ。』
『…………来るッ!!!』
なんとか反応できる速度でこちらに飛び込む破竜を見て耳郎は自身のイヤホンジャックから発せられる心音を調節する。
『(この必殺技のキモは自分の射程範囲内に相手が侵入した時。つまり、破竜がイヤホンジャックの射程距離に入った瞬間だ…!絶対に見逃すな…!!そこで全部が決まる!!)』
勝負は一瞬でついた。
pound!!!!
『え…、い、今…なにが…』
『嘘…』
『あの破竜ちゃんが…』
驚愕する麗日と蛙吹。その視線の先には地面に座り込んでいる破竜と膝に手をつきながらも上から見下ろす形で破竜を見つめる耳郎。
何で吹き飛ばされたかはわかってる。たぶん…音の共鳴。それで生まれた衝撃波をぶつけられたんだ…。
だけど、問題は
『……これでギリギリか。たぶんアンタ相手じゃ次は通用しないかもしれないから手放しで喜べないけど。初見なら通用……するって事かな?』
疲れた表情をしながらも笑顔を見せた耳郎。
『(強くなる為にずっと前だけ見てた…後ろを振り返らずに走ってきてた。でも、気がついたら、少しずつ後ろに…)』
耳郎の成長にほんの少し焦りを感じた破竜だった。
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2日後の深夜
みんなが寝静まったハイツアライアンスの5Fの一室。破竜は自室の椅子に座りながら静かに意識を深層に潜らせていた。
『……出てきてくれ。俺のジーン達。』
『どうしたの?』
『何かあった?相談事?』
『主よ、なんの用事だ?』
破竜の呼びかけに反応したのは、ジーン達の中で常識的なメンバーでもあるアイス・サンダー・パワーの3人。全員、普段はあまり深層世界に来ることが少ない破竜の来訪に珍しい表情を浮かべる。
『悪いね、少し聞きたいことがあってさ。この前、パワーの力を引き出した時に見慣れない力が発現したんだ。皆は何か知ってるかなぁ…と思って。』
それはインターン初仕事での事。闇市の摘発をした際、女の子を救い出した時にいつもと同じようにパワーを解放したはずなのにその身にバチバチと鳴り響く稲妻が体を纏っていた時の話だ。あの後、何度力を解放しても同じようなことは起こらず、特に異変もなかった為、放っておいたが、そのままでいいわけもないと思い、ジーン達に確認をとっていた。
『あぁ…あの力のことか…。』
『その反応…やっぱ知ってるみたいだな。』
『それはな主『俺から話したほうがいいだろその事は。』お前…ッ!』
俺とパワーの会話に第三者の声が混じる。
誰だ!?コイツ。
『誰とは酷いな。新しく目覚めた力のトランスだ。初めましてと言えばいいか?主よ』
『トランス…』
『私が話す!お前は出てくるな!』
『うるさいなパワー。せっかく主が俺と話にきてくれたんだ。邪魔なのはお前だろう?』
『だが…っ!』
『大丈夫だよパワー。俺が話すよ、トランスだったな? 初めまして、アンタの主の破竜だ。それであの力はなんなんだ?』
珍しく喧嘩腰になっていたパワーを鎮め、代わりに質問を投げかけると
『あの力について説明する前に…そもそも主は俺がなんの力を司っているのか知っているのか?』
『進化する力だろ。違うのか?』
ティアマトに変身した時の経験から破竜はそう答えると確かにそうだが少し違うと否定される。
『俺はジーンの中では珍しく2つの力を司っている。その力は…"進化"と"怒り"だ。』
『進化…と…怒り?』
『そうだ。そもそも、人間がもっとも力を引き出せる瞬間、つまり進化する時に感情の爆発というのは切っても切り離せないものだ。その中でも怒りの感情は人間を飛躍的に進化させる。まだ、主は進化させる力しか引き出しきれていない。気にしているその力は主の感情の呼応に合わせてトランスの力を本当の意味で解放しかけている時に発する予兆のようなものだ。』
『予兆…』
つまり…トランスの力を完全に解放する為には
『怒りの感情の完全解放…と言う事だ。闇市の時はそれなりにキレていたみたいだが…まだ足りない。あの時は…もっと…もっと怒っていたはずだ。』
『あの時って……ッ!?』
破竜の脳裏に浮かぶのは神野事件での事。ロードによって瀕死にされたレイとリューキュウの姿。それを見て、破竜の中で何かが切れた音がした。
殺してやると
ヒーローにあるまじき感情を持ってしまった事を。
『あの時の…』
『思い出したようだな。だが、ただ荒ぶる怒りを爆発させるだけでは何も生まれず、その先にあるのは秩序のない暴力だけ。主は本来、感情の起伏が激しいタイプだ。だから、俺はあえて他のジーン達と違って怒りや殺意を持つなとは言わない。だが、その身を焦がすほどの激しい怒りを完璧に制御してみせろ。そうすれば…主は今よりももっと強くなれる。』
そうか…怒りや殺意の感情は持っていいんだな。問題なのはそれを制御せずにただ暴れさせるだけ…。今の俺に足りないのは…その先。
すると、唐突に携帯の着信が精神世界に鳴り響く。
『フッ、時間のようだな。まぁ、さっき言った通りさ。主、このトランスの力。完璧に制御して使いこなしてみろ。くれぐれも俺を失望させるんじゃあないぞ?』
『……あぁ、使いこなしてみせるさ。パワーもありがとね。』
『また来るといい、主よ。』
その言葉を最後に破竜は意識を覚醒させ、目の前でブルブルと震えていた携帯に視線を移す。
『これは……ん?』
すぐさま部屋を飛び出し、一階の共有スペースに向かうとそこには既に耳郎、切島、緑谷、麗日、梅雨ちゃんが集まっていた。
『みんな…メール見たんだな。』
『うん…』
『待ちくたびれたぜ。』
『やっと……!』
『見つけたんやね…』
『これが…』
『『 決行日!!! 』』
同じく敷地内、3年棟
そこには寝起きの波動、天喰がベンチに座っていたミリオのもとまで集まっていた。
『ミリオ…』
『くぁぁぁ〜…がんばりましょう。』
『……………………!』
そして夜が明けた次の日。
俺達は再度、今回の作戦に参加するメンバー達との打ち合わせの為、会議場所へ集まっていた。
『本拠地にいるぅ!?』
『なんだよ俺たちの調査は無駄だったわけか…』
『(いや…、俺達が学校の間もこの人達は一分一秒を惜しんで捜索を続けてくれた。俺はもちろん、無駄だなんて思う人は1人もいないですよ。)』
そう言って項垂れたプロヒーローの方々に破竜は内心でお礼を伝える。
『いえ、新たな情報も得られました。』
『そもそも、どうやって確信に至った?』
そう言うとサーナイトアイは机の上にバンとあるものを置いた。それは…女児用の玩具だった。
『な、なんですかこれ?』
『あら…?私、これ知ってるわ。グンバツプリユアっていう玩具よ。私の妹もよくこういうの見てたから知ってるけど…これが今回の作戦にどう関係してくるのかしら?』
『八斎會の構成員が先日近くのデパートにて、この女児用玩具を購入していました。』
『へ?それだけ?』
『それだけです。』
あまりにも単純明快な理由に面食らってしまい、黙ってしまった破竜に追従するように
『あの…理由になってないんスけど…』
『この世の中いろんな趣味の人がおるやんけ!世界は広いんやでナイトアイ!』
『いえ、そういう趣味を持つ人間なら確実に言わないセリフを吐いていた。このプリユアにはいくつかのシリーズがある。その男が吐いていたのはもう何年も前のシリーズのもの。今はモーレツプリユア10になります。本当にその趣味を持つ人間ならどのシリーズのどの玩具なのか知っていなければおかしい。』
なるほど…確かに言われてみればそうだ。わかりやすくオールマイトに置き換えてみると、
いや、ごめん…普通に怖い。
『つまり…購入する理由と実態が伴っていないということね。俄然怪しいわ。』
『そういうことです。そして、このタイミングで予知を使い、構成員の動きを確認させて頂きました。』
『使うのかよ!?』
『確信を得た時、ダメ押しで使うと先日も申し上げたハズです。』
予知で構成員の動きを見たサーナイトアイによると、死穢八斎會の地下にはとてつもなく広い空間の迷路が広がっているらしい。まるでダンジョンのようだが、その構成員は壊理ちゃんまでの最短ルートを歩いていたようでほぼ直線道だったようだ。
『とりあえずこれでようやっと決まりっちゅうわけやな。』
『奴が家にいる時間帯は張り込みにてバッチリです!』
ファットガムはパァン!と拳を打ちつけて気合を入れ、バブルガールはグッドサインを出してさらに周りの気持ちを盛り上げる。
『令状も出ている。後は……』
動くだけ…ってわけか。緑谷と通形先輩に視線を向けると2人とも気合十分だ。
『破竜、やっとだね。』
『あぁ。俺らにできる事は少ないかもしれねぇが、やるからには全力で助け出す。その道を邪魔するなら…どんな奴でもぶっ倒すまでだ!』
『おう!やってやるぜ破竜!』
『必ず助け出しましょう!』
『やろうデク君!』
『うん!!』
改めて気合いを入れたインターン組も当日の流れについて打ち合わせを真剣に確認していく。
それと同時刻。
死穢八斎會内 内部
治崎は事務所内のある一室に足を運んでいた。そこには沢山の管に体を繋がれ、ベッドに横たわる初老の男性の姿があった。
『…………オヤジ。』
『若、今宜しいでしょうか?』
『なんだ玄野。俺がここいる時はあまり顔を出すなと言ったハズだが?』
『すみません…。少し急な来客がありまして…。奴らが来ました。』
『!……チッ、後で行くから地下の応接間に通しておけ。くれぐれもここを悟られるな。』
『わかりました。』
玄野がその場を離れると治崎はため息を吐きながら、また来ますと呟き、八斎會の地下に築き上げた応接間まで歩いていく。
ガチャ
『待たせたな…』
『ふん、随分と遅いな、オーバーホール。』
『その通りだ。時間は有限、あまり待たせすぎるのもどうかと思うぞ?』
『あ、飯でも食ってたんじゃろ?昼時やからな。』
そこにいたのはミクバ、バリオ、サントの闇市を取り仕切る敵グループだった。ミクバはソファーに座り、他の2人は背後で直立していた。
『黙れェ!この、チンピラどもが!』
『ほぉ…言ってくれるなチビモンスターが。そのチンピラの力を借りてるのはどこのどいつだ?』
『やめてください、入中。協力体制にある以上、問題を起こさないでください。バリオも…』
小さな人形の中に入ってる入中と馬人間の片割れ、バリオが売り言葉に買い言葉とばかりに喧嘩を始める。サントは相変わらず、ヘラヘラとした表情を崩さず、ミクバと呼ばれた恰幅の良い男性はソファーに座りながら、身につけた装飾品の値打ちを確認していたようだ。
『ミミック、クロノ…俺が話す。それとそもそもの話、急に来るお前らが悪い。それで今日は何の用だ?俺は今、忙しいから端的に話せ。』
『酷い言い草だ。せっかくお前宛に良いニュースを持ってきたって言うのによ。』
良いニュースだと?いや、あまり間に受けるな。どうせ大したニュースじゃない。それなりの付き合いから何となくオーバーホールはそう察した。
『明日、死穢八斎會の事務所に数多のヒーロー達が突撃するぞ?』
『…なぜそう断言できる?お前の調査力は確かに俺が舌を巻くレベルで高いが、いきなりそんな事を信用しろと言われるのは難しいな。』
オーバーホールのいう通り、ミクバは闇市でも随一の独自の調査網を持っており、その高い情報調査力は死穢八斎會の比ではない。違法薬物や人身売買をする事で得たコネクションは政府関係者や警察関係者にも多少のコネが効き、裏社会の人間からは非常に重宝されていた。
ちなみにだが、八斎會が今日まで指定敵団体として摘発される立場に置かれているのも関わらず、何も無かったのは治崎のせせこましさだけでなく、先代組長の意向やミクバ達の裏工作によるものが大きい。
『俺の部下どもが事務所付近を捜索していたヒーローをたまたま発見してな。警察内部に探りを入れて調べてみた所、サーナイトアイ事務所。あのオールマイトのサイドキックをやっていた男が独立した後に作った事務所が主導になっているらしいぞ。』
サーナイトアイ事務所…何故、ここに来てうちの事務所を嗅ぎ回っている。確かに指定
すると、治崎の脳裏に2人のヒーローの姿が思い浮かぶ。壊理が逃げた時に出会ったヒーロー達で、一人は虐待の可能性を疑ってしつこく食らいついてきた新人らしき奴とニコニコしながら何故かその場を穏便に収めようとしてきたヒーロー。
『アイツらか…!!』
『覚えがあるらしいな。まぁ、お前には良くしてもらってるからそのお礼と言う事で今回は俺達も防衛戦に力を貸してやろう。うざったいヒーローどもを殺せるチャンスだからな。』
『……礼は言わないぞ?』
『薬の完成品をいくつか横流ししてくれたらそれでトントンにしておいてやるよ。』
そう言って席を立ち上がり、後ろの扉から出ようとしたミクバはあぁ、そうそうと踵を返した。
『今回、突撃してくる事務所の中にリューキュウ事務所があるはずだ。』
『リューキュウ事務所?あのNo.9の事務所か?』
『そうだ。お前に忠告しておくが、その中にいるヒーローは俺達の獲物だ。決して手を出すな。』
珍しいな…と治崎は柄にもなくそう思う。コイツは邪魔するものならどんな手を使ってでも容赦なく殺すが、自分が殺るから手を出すなというのはオーバーホールという敵名を名乗る前から付き合いがある治崎にとっても初めてのことだった。
『別にお前の獲物に手を出す気はないが、そいつらの特徴だけは教えろ。』
『1人は二刀の短剣を腰に納刀している虎の個性を持ったレイとかいう男、もう1人は黒い服装に木刀を背負った竜に変身する個性を持った破竜とかいう男だ。』
『……何故そいつらにこだわる?』
そう言うと体がバキッ…!バキッ…!と変化していくミクバを見て同席していた入中と玄野はその異様な変化に驚きを隠せなかった。
『奴らは俺が薬を捌いていた闇市をぶっ潰しやがった。裏の人間としてケジメはつけてやらねぇとな。』
『そう言う事だ。間違っても手を出すなよ?オーバーホール。もし、手を出したら…今度はお前らを殺さなきゃいけなくなるからな。』
『あ、ワシはそんなこと思ってないからのぉ!勝手に兄者達が言ってるだけやからな!そんじゃーのぉー!』
そう言い残し、彼らは立ち去って行った。
『若…』
『放っておけ、今はまだ利用価値がある。アイツらの情報力と戦闘力は役に立つ。わざわざ俺達の防衛戦に首を突っ込んでくれたんだ。使えるだけ使わせてもらうさ。』
だが…個性を消す薬が完成したら真っ先に殺してやる。お前らの持てるもの全てを奪い取って裏社会の支配する足がかりにさせて貰うぞ。
『聞いたなお前ら?明日はもしかしたら戦闘になる。出向している以上、少しくらいは役に立て。』
治崎はドアの後ろで気配を消していた
地下の応接間を退出した3人が歩いていると、何かを思い出したかのようにサントがミクバに話しかけた。
『ミクバの兄貴。一つ気になったんじゃが、今回闇市をぶっ潰した虎の男というのは…奴のことじゃないのかのう?』
『奴?』
はて…?と首を傾げるミクバに呆れた口調でバリオが話しかける。
『覚えてないのかミクバの兄貴。6年前、一度俺達をヒーローが追いかけていた時があったろう?その時、逃走途中のデパートで俺達がぶち殺したガキとオッサンの敵討ちだとか言って挑んできたのがいた。俺達を相手にそこそこやる奴だったから覚えている。』
サントとバリオは過去に自身達に歯向かってきたレイの事を脳裏に思い起こす。事実、2人の予想は当たっており、ミクバにその時のことを思い返すように伝えるが、彼から出たのは残忍で冷酷な本性だった。
『バリオにサント。悪いが、俺は殺した奴は勿論、覚える価値のない雑魚のことなんぞ知らん。殺してきた奴らすら朧げなんだからな。それに…明日、どうせ死ぬんだ。その虎の奴も、竜に変身する奴の事も覚える必要なんてないだろう?』
それを聞いたバリオはフッと笑う。
『……それもそうだな。』
『明日は久しぶりに人を殺せるのか…楽しみじゃのぉ!』
レイと破竜、耳郎達の目の前に今まで出会ってきた中で最も同情に値しないクズ敵との戦いが迫っていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
翌日
AM 8:00 警察署前
『隠蔽の時間を与えぬためにも、全構成員の確認、捕捉等、可能な限り迅速に行いたい!』
『決まったら超早いね』
『だな。まぁ、事情が事情なだけにこれ以上引き延ばしても得策じゃないだろうな。』
『でもさ、こういうのって意外と色んなところと協力するだね。探偵みたいなことやったり、警察との協力体制だったりさ。学校じゃどうやっても学べないことばっかだよ。』
そう呟いた耳郎の発言に麗日と梅雨ちゃんが同意する。
『そうね…こういうのってあまり学校じゃ深く教えてくれないのよ。ウラビティもフロッピーもイヤホンジャックもリュウもこういうのは貴重な体験だからちゃんと落とし込んでおきなさい。』
『了解!それとリューキュウさん、レイ兄さんは?』
『レイなら…あそこよ。』
リューキュウさんの視線を追ってみると1人でポツンと佇みながら短剣を黙って見つめているレイがいた。
あの日から今日の今日まで…俺はレイ兄さんと一言も話せていない。俺達を巻き込みたくないのはわかってる。
それでも…そんなに信用ねぇのかよ俺達は。
『リュウ、イヤホンジャック、あなた達に一つだけ頼みがあります。』
『『 え…
そろそろ出発するであろうタイミングでリューキュウさんが俺と耳郎にだけ聞こえる声量で話しかけてきた。
『あの姿を見て確信したわ。レイは絶対にあなた達を巻き込まないように自分1人で決着をつけるつもりよ。私も勿論、レイの動向には最大限注視します。それでも1人で突っ走ろうとしたら…』
『安心してください。その時は俺達がレイ兄さんのフォローに入ります。な、耳郎。』
『うん。1人でとか絶対にさせないんで!』
『……ありがとね2人とも。でも、決して無茶はしないで。命の危険を感じたらすぐに撤退しなさい。それも戦略だからね。』
『了解!!』
そう言い残し、リューキュウさんと俺達は八斎會の事務所まで向かっていく!
AM 8:30
八斎會事務所前!!
『令状読み上げたらダーッ!!と行くんで!速やかによろしくお願いします!』
『しつけぇな…信用されてねぇのか。』
『そういうもんちゃうやろ。いちいち意地悪すんなや。』
警察の対応に悪態をついたロックロックにファットガムが苦言を呈す。まもなく始まる…と全員が集中する中、耳郎のイヤホンジャックはインターホンの向こう側にある異変を捉え、即座に叫んだ。
『ん?……!! っ、みんなそっから離れて!誰かいる!!!』
DOGOOOOM!!!!
『なんですかァァ…朝から大人数で。』
『なんで襲撃がバレた!?』
いきなりの出来事に警察だけでなく何人かのプロヒーローも一瞬固まってしまう!
空中には先程の衝撃波で飛ばされた警官の人達が…
『助けます!』
『僕も!』
それに即座に反応したのは相澤先生と緑谷の2人!捕縛布と超パワーの個性で投げ出された警官達を怪我なく救い出す!
『少し元気が入ったぞぉぉ…もう一発』
『させねぇよ!!!』
パワーを15倍まで引き出した破竜が全員の前に割り込み、その巨漢の一撃を何とか受け止める!!
『止めたァ!!?』
『(重ぇが…対処できないレベルじゃねぇ。それに…)お願いします!リューキュウさん!!!』
『任せなさい!!』
視線を上に向け、叫んだ破竜に応えるようにドラゴン化したリューキュウさんが上空からその巨漢を巨大な龍の手で抑え込む!
『とりあえずここに人員を割くのは違うでしょう…ここは私達リューキュウ事務所で対処します!!』
『頼みます!!!』
そう言ってサーナイトアイを筆頭としたメンバー達は事務所内に突入していく。
『サポート行くよ!!』
『はいっ!』
波動先輩と麗日、梅雨ちゃんもその巨漢の対応の為、戦闘に参加する!
『ナイスフォロー、助かったよ。』
『あぁ、耳郎が叫んだおかげですぐに準備できた。さすがの索敵能力だな。』
『その後、すぐ反応したアンタもすごかったけどね。』
すると、レイが2人の元に駆け寄る。
『……良い反応だった。2人はここでリューキュウさんのサポートに入れ。』
いや、俺達もレイ兄さんと一緒に…と言いかけた俺は虫が背中をゾクっと這い回るような感覚を感じる。これは敵意!?
『その必要はない。』
唐突に割り込んだ声と共に
『なッ!!!』
ガギィッン!!!という金属と木刀がぶつかった特徴的な音がその場に響き渡る!
咄嗟に20倍使ったけど…くっそ、重ェ!!!!
『ほう?よく受け止めた…が、無駄だ。』
とてつもない腕力で破竜は木刀ごと近所の壁の中まで吹っ飛ばされてしまう。
ドッゴォォォォォォン!!!!
『破竜!!!』
『イヤホンジャック!!リュウはそれくらいじゃ死なねぇ!お前は警官達をこの場から避難させろ!死人が出る!』
破竜の元に駆けつけようとした耳郎だったが、レイがそれを制する。耳郎は心配する気持ちを抑え、りょ、りょーかい!とだけ発し、警官達を避難させ始める。
『おー、気持ちええ一発やのぉ。早速1人死んだか?』
『俺達の調べじゃ、ここには免許を取得したばかりの学生ヒーローもいるらしいからな。まぁ、所詮、足手纏いだろう。』
斧槍を携えた男の後方から2人の馬人間が現れる。
『あなた達は…!!』
『ようやく…!!』
憤怒の表情で3人を睨みつけるレイとリューキュウ。
『こいつらが…レイさんの!!』
『今の対応だけでろくでもない敵だというのを認識したわ。許せないわ。』
『何この人達?すっごく感じ悪い!』
2人だけではなく麗日と蛙吹、波動の3人すら唐突に現れた彼らに対する嫌悪感をあらわにする。
すると、サントはレイを指差して
『あ、やっぱりワシの言った通りじゃろ!コイツじゃコイツ!6年前、ワシらに無様に負けた虎の男!』
『…懲りずにまた挑む気か?まぁ、今回負けたら、今度こそお前の家族の元まで送ってやる。感謝しろよ。』
『安心したぜ…相変わらずのクソ野郎っぷりで。これで心置きなくお前らを地獄まで送り届けてやれる。』
レイは怒りのまま短剣を握りしめるが、ミクバはレイを無視し、リューキュウの顔を見て笑みを浮かべる。
『貴様は……あの間抜けなドラグーンヒーローか。6年ぶりだな。まだ、ヒーローをやっていたとは驚いたぞ。』
『黙りなさいッ…!』
『オイ…何無視してやがるテメェ!!!』
その視線はようやくレイに向けられたが…
『……やはりこう見ても思い出せんな。おい、バリオにサント。本当にコイツの家族を俺が殺したのか?
『殺すッ!!!!!』
その一言にレイの怒りは憎悪に変わり、超スピードでミクバの下に飛びかかって短剣を振り下ろすが、キンッ!!という音と共にその一撃は斧槍に弾かれてしまう!
『…俺達を殺すだと? 殺せるものなら殺してみろ、殺人虎が。おい、バリオにサント、力を貸せ。』
『了解だ』 『はいよー』
『させへんって!』『させないわ!』
そう言って麗日と蛙吹が応援に入ろうとすると後方から破竜と耳郎の声が聞こえた。
『『 2人ともそこを
『!?』
『火炎撃!』『ハートビートファズ!』
それと同時に渦巻く火炎と地を這う衝撃波がバリオとサントを襲うが、2人は間一髪、その一撃を避ける!
その視線の先には先程、ミクバが吹き飛ばした破竜といち早く警官の避難を終わらせた耳郎がいた。
『破竜くん!響香ちゃん!!』
『おー!コイツが破竜か?お目当てがどっちも揃っててラッキーやな!お前らを殺して闇市のケジメつけんと!』
『リュウ!イヤホンジャック!お前らは出てくるな!コイツらは俺が…』
『いくらレイ兄さんでも3対1は無理だ!麗日!梅雨ちゃん!波動先輩はリューキュウさんのサポートを!俺と耳郎でコイツらの相手をします!』
そう言って2人の敵の目の前に立ち塞がる。
『(やめろ…お前らを俺の復讐なんかに付き合わせたくない…もし、お前らが負けたら…俺はまた…っ!!)』
『レイ兄さん!』
『!?』
『俺達なら大丈夫です。必ず勝つんで。』
『ウチらのこと気にしないで、そいつぶっ倒してください!こっちは何とかするんで!』
戦闘体制に入った2人を見てレイは内心で
このお人好し共め…とため息を吐いた。
『……そこまで言うならそいつらは任せる。絶対に…絶対に!死ぬんじゃねぇぞ!?』
『了解!!!』
ミクバとの戦闘に意識を集中したレイを見届け、2人は目の前でブチギレかけている敵に視線を移した。
『……舐められたもんだな。お前ら如きが俺達の相手をするだと?ガキはガキらしく…』
『あのさぁ…さっきからいちいち煩いんだけど。口喧嘩しにきたつもり?もしかして…アンタら、案外大したことないんじゃないの?』
『…女が。サント、コイツは俺が殺る。手を出すな。』
『上等…!!』
耳郎とバリオが向かい合ったのを確認したサントは破竜に向き直る。
『兄者があそこまでキレるのは久々に見たわ。お前もアイツも可哀想じゃな。無駄な復讐に付き合わされてワシらに殺される…』
『……ごちゃごちゃとうるせぇんだよ、馬野郎が。』
『なんじゃと…?』
『御託はいいから、さっさとかかってこい。お前らのくだらない挑発聞いてる暇はねぇし、何より…レイ兄さんの件聞いてからこっちははらわたが煮えくり返るくらい…』
『『 ブチギレてんだよ!! 』』
火山が爆発した…と錯覚するほどの激しい怒りが乗せられた2人の叫びにバリオとサントは気圧されてしまい、ほんの少し後退りしてしまう。
『…な、生意気なクソガキ共が!』
『そのクソガキ共に負けるんだよ、テメェらはな!』
レイVSミクバ
耳郎VSバリオ
破竜VSサント
それぞれの想いをかけた戦いが今、始まる。
あとがきです。
ようやく始まった死穢八斎會との全面戦争!
破竜くんと耳郎さんはレイ兄さんの仇でもある
バリオとサントとの直接対決!
破竜にとっては尊敬するリューキュウさんやレイ兄さんの心に闇を落とした敵、耳郎にとっては人の命を無価値に扱う敵と2人がガチギレする要素は十分あります。※勿論、その場にいた麗日、梅雨ちゃん、波動先輩も同じようにキレてます。
個人的には2人のブチギレを上手く書けたのか心配する所です…
そして次回は久々の戦闘描写!このクズ敵達の残虐非道な行いに、遂にあのキャラが自分の壁を…
ではでは、次話もお楽しみに!
次回予告
『その程度のスピードで俺を捉えられるものか!』
『これが俺の個性だ。貴様には到底太刀打ちできんぞ?』
『貴様もあっちにいったほうがええじゃろ?』
『耳郎はいつか俺と一緒に最高のヒーローになる奴だ!』
次回!
半人半竜のヒーローアカデミア
『耳郎響香:ライジング』
『コイツは…ウチが倒すッ!!!』
更に向こうへ!Plus ultra!!!