タクティカル祓魔師短編集   作:イワシコ農相

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演習における損害額■■■■万円、経費として申請します。
───第四班



折り重なる

「困ったねぇ……全然手加減ないや」

 

 甲冑に兜、脇差しに刀。さながら、武士のような少女は苦笑いを浮かべる。ため息でも溢しそうな彼女の胴体には大きな穴が空いていた。後ろの光景を見渡せるほど、綺麗な円を描いていた。場所で言うならば、胴体が辛うじて繋がっている程度であろう。

 

 既に床には鮮血と溢れ出した体内の臓器が散らばり、口からは止めどなく垂れていく血は甲冑を湿らせ、形崩していく。紙で作られたもののように、水分が混ざり、重さがまして崩れていく。草摺(くさずり)も、後を追う。目立つのは胴体の大部分が消えて、その白髪の長髪が揺らめく。血よりも赤い瞳は一見すれば、白ウサギとも言えただろう。背中から生えている純白の二翼さえ無視すれば。

 

「……当たり前だろう。まだ、試したいことがある」

 

 形代に合わせて、再生された肉体を少し動かす。特に肩こりを治すかのように何度か、ぐるぐると回す。合わせて地面を汚す穢れの残滓と焼け焦げたレーザー跡。

 

「だからって、照砲を撃ちますかね~~!!うちは部下苛めは良くないと思うんですけど!ね!ね!」

 

 九即是色-照砲、第四班長である勾津日乃の禁術の一つ。班長が霊体内に秘めている穢れを圧縮して、今回は隊長の背に生えた副腕じゃなく利き手で放ったせいかいつもより、威力が強い。ジリジリと黒く染まっていく、七枚目の形代を感じる。

 

「……強く在ることが出来なければなければ、死ぬだけだ。そうだろう?」

 

「それ、死なない人に言っても無駄だと思うんですけど~~!」

 

「騒がしいな。形代、さっさと構えろ」

 

 ひぃん、形代呼びまでしてきたよと嘆く少女は剣を抜いた。銘はない。だって、これは所詮折り紙にすぎないのだから。この甲冑も、兜も、翼も全て紙。

 

 かつて室町の将軍に仕えた伊勢氏の折紙霊法によって、作られた霊装と言っても過言ではない。紙を折ることなら、大体なんでも作ることが出来る祓魔術。かつて、室町時代に形代を作るのに用いられた伝統あるこの術は折れる回数に制限がある。才能に応じて折れる回数が決まり、上限が七回。奇しくも、形代の回数と同じ。

 

「……まだ、班長を殺せてないですしねぇ……一応本気でやってるんですけどね!」

 

 だが、彼女は七回までしか折れないという因果をマリネッティの機械というニキシー管コンピューターによって打破した。秋葉原の電気街を彷徨い、偶然見つけたそれの前で溢した声。折れる回数の上限を消して欲しいと漏れたその声に、答えて機械は彼女のその上限の因果を破壊した。

 

 つまり、彼女は最初から七回どころか、それ以上折れる存在へと最初からそうであったと定義された。それによって機械は煙を吐き、壊れてしまったが……記念品として未だ黒焦げの状態で飾ってある。

 

「……本気が考え事か?」

 

「まっさかー、順当にやっても勝てないんで……どう班長を殺そうかと考えてたんですよ」

 

 最後の言葉を言い切ると、瞬時に駆け出した。土が舞い上がり、俊足の如く、班長の眼前へと現れる。右手で正面から突き刺そうとする刀を宗手(籠手)で受け止められ、透かさず左手で脇差しを抜いて班長の腹を切ろうとするが、裁刀(太刀型黒不浄)が間に割り込む。カキンと弾かれる脇差しを逆手に持ち替えて、右の副腕から放たれた牙槍(短槍)を自分の影がない方へと刃を当てるように反らす。

 

「……良い方法だが、考えが浅いぞ。副班長」

 

「べっ-!だ」

 

 宗手を取り囲むように折られた刀は梱包紙の如く、二重三重に重なる紙は鋼鉄の固さを帯びて、その場に強引に班長を留める。 

 

「甘い!」

 

 再び振るわれた裁刀が体に突き刺さるも、少女は笑みを浮かべた。消えていく命を感じて、さっそく九枚目、いや更なる形代を消費する。

 

「……班長、形代は霊体エネルギーを使う……って、ことはぁ!それが多発的に発生すれば……もうわかりますよねぇ。」

 

「一点集中の連続爆破ですよぉ!」

 

 咄嗟に、班長の宗手を抑えている手へ照砲を放つ。再び、やけこがれていく手を見ながら、少女は笑みを浮かべた。もう、遅い。

 

 術の範疇だ。一斉に形代を消費。それも、ただの一枚でなく、尋常でない規模での使用。まず、第一の爆発、固体から霊体への爆発的な相変化が発生。第二の爆発、霊子間の歪みによる自己分解。第三の爆発、空気中の霊素との爆燃。説明するならば、術的燃料気化爆弾(サーモバリック爆薬)とでも言うべきか。

 

「名付けて、大爆紙(だいばくし)なんてね。あっ、ソシャゲの方じゃないよ」

 

 途端、空間が爆ぜる。危害半径は300m、その爆発が衝撃波と共に戦いの場になっている演習上に襲いかかった。いくら、班長が少女の腕を切り落としても、後退しても時間が足りない。ガハハ、摂氏約5000度で燃え尽きるがいいと少女自身も燃えている点を除けば、満足げであった。

 

 再度、再生していく体がまず見たのは自分が作り出したクレーター跡。こりゃ、怒られるなと思いながら……班長はどこかなと目を見れば。空中で何度かアクロバティックにバク転しながら、自分から一定距離を取っている様。服の裾の端を見れば黒く焦げた箇所があちらこちらと見えるが、それは同時にまだ死んでいない証拠。

 

「ちぇっ、これでイケると思ったんだけど」

 

「もう、いっそ全身形代人間に改名したらどうだ」

 

「うちには伊勢おつる(御鶴)って名前があるんで、いいですぅ~~」

 

 全身形代人間、折紙霊法で折れる回数の上限が無くなったせいで生まれた悲しき生き物。どんなに弱くとも、形代さえ折り続けば生存し続けられることを悪用するバカ。

 

「って、おおい!今なんか失礼な説明された気がする!!!」

 

「うるさい、戦闘に集中しろ。今度はこっちの番だ」

 

 班長が裁刀を斧刃へと変えていく中、少女も刀を何度か折り重ねて太刀へと変えていく。

 

 班長は上から斧を振り下ろして、左右のどちらへと避けても牙槍か、照砲で射貫いてくるはず。あの構えは所謂、兜割り。太刀で受け止めたところで、太刀ごと斬られるのがオチ。あれは前回、この技を使わなかったから拗ねているなと少女は思わず笑いそうになり、口角が上がる。文字通りの兜割り、折檻のつもりなんだろうなと。

 

 対するように親指と人差し指の間に、太刀を添えて前傾姿勢に。これはどちらが、先に当てるかの戦いだ。

 

「一閃『明鏡紙水』!」

 

 駆け出した双方、顔と顔が向かい合うその刹那。斧が振り下ろされ、左右に避けること無く、その影に入り込むように太刀を下から上へ、太股から班長の(まな板)へと斬り込ませようしたが、照準も定めず乱雑に放たれた照砲が地面を揺るがせ、姿勢が崩れる。

 

 舞う。半円を描くように太刀の重心に引っ張られるように、班長の後ろへと動いて、裁刀を持っていた副腕を切り落とした。その光景は舞いのように美しく、合理化された戦場の感の裏打ちがあってこその動きだ。

 

「一閃って言ったけど、別に一閃である必要ないよね」

 

「相変わらず小賢しいな」

 

 少女はえへへと照れながらも、切り落とした副腕を紙で覆い尽くし、太刀を握った状態で智拳印を結ぶ。親指を中指と薬指で握り、立てた人差し指と小指の先を少し曲げる。一見すれば、中途半端に狐を手で形作っているだけだが、この印は大日如来の金剛界、堅固で不変の智徳を示すもの。

 

「ふぅ……これで前みたいに接着剤みたくくっ付けられなくなりましたね……班長」 無数の真言(マントラ)が張り巡らされ、副腕を金剛の固さの封印を施した。

 

「三本で十分だ」

 

 傷跡を照砲のレーザーで焼いた班長はさらに楽しくなっているのか、斧を鎌刃へと替え、突進。太刀を振るう暇すら無いことを見るやいなや、着ている紙の甲冑の隙間から無数の折鶴を飛ばす。鋭利に尖ったその折り鶴を飛ぶ撒き菱のように班長の進行を遅らせようとするが、第四班長は怯まない。無数の切り傷を作りながらも、前進。少女が慌てて、折り鶴を爆破しても、班長の刃を止めることは出来なかった。

 

 断頭。見事に首が胴体が離れ、班長は形代潰し。再生し切る前に再度、殺すべく牙槍を少女の影に突き刺す。その瞬間、再生していく副班長の体は身動きが取れないことに気がつく。相手の影を縛り付けることで、相手を縛り付ける牙槍の能力。

 

「どうだ、諦めるか?」

 

「ッッ……まさか、なわけないじゃん」

 

 身動きが取れなくとも、紙を操る能力まで無効化されたわけではない。先っから放していた無数の上鶴を平たい紙へと戻して、無数に広げてまるで雲のように動いて陽をズラす。刹那、副班長は宗手にぺたりと紙を一つ貼る。動けないと思っていた班長の隙を掻い潜るように、急急如律令の札を発動する。今回は速やかな術の効果の適用。

 

「ッ、なんだ!」

 

 班長の意思に逆らうように宗手は牙槍へと一直線に当たる。使われたのは簡易な式神術、だが簡易な式神では班長を動かすことが出来ない。そのため一部部位への一回きりの命令に限ることで、牙槍を地面から話すと同時に距離を取る時間を稼ぎきった。

 

「ふぅ……死ぬかと思った〜〜!!」

 

「死んでいるじゃないか」

 

「ノーカウント!」

 

 空を舞う紙が翼へと集まり、その羽へとなっていく。折紙霊法で作られた羽はその全てが形代。まるで鶴の羽のように大きく、羽ばたき、空中。正確には班長を見下ろせる位置に陣取り、手を合わせた。

 

 

 天子(デウスの)福音伝於(エヴァンゼリヨに)祈祷為(オラショせよ)

 

 

 日本に深く土着化した隠れキシリタンに伝わる福音。今まさに天使の如く、羽ばたいている日本人の少女であるからこそ実行できる。相手へ信仰告白を迫る異教徒告発式。

 

「……」

 

 当然、班長は隠れキシリタンですらない。口を開こうとしても、神は嘘をつく唇を赦されない。声を上げることが出来なかった。

 

聖霊(スピリツ • サント)審判(ジュイゾ)

 

 よって、穢れが攻撃の主体である班長の威力を制限し、裁くための儀式。神保町の古本屋で見つけた解説書を読み込んだ程度の副班長は万全にこの儀式を行えない。だから、自分が天使に似ているという擬似的な条件を整備した。

 

「……手を増やしたな。だが、それだけではオレは倒せない」

 

 空が曇り、雷が鳴り響く中。副班長を中心に陽光が差し込み、やがて一つの光線となって、班長へと降り注がれる。

 

 班長は思わず、好戦的な笑みを溢す。照砲を光線へと向けて、放つ。

 

 ドゴォォン。轟くのは穢れに染まり切った黒い一直線。聖なる裁きの光と地から這いずる穢れた死の正面衝突。迸る輝き、その瞬間だけ世界がモノトーンになったかのように……白と黒の世界に染まる。

 

 

 この勝者は明らかとなる。堕天していく、羽が穢れで染まった黒色の天使がその証拠だ。

 

「今日はここまでか……」

 

「ま゛っだでーす゛!!!!」

 

 穢れに身を蝕まれていきながら、激痛が走っているにも関わらず、歯茎を大きく見せて叫んだ。血痰によってしゃがれた声を聞いて班長は笑みを深めた。

 

 微かにしか動かせない右手で甲冑の内側に忍ばせていた拳銃を取り出して、口に含んで引き金を引く。ザクロになる頭部だけ見れば、自殺に過ぎない。しかし、形代を同時に無数使用することで、即座に再生。宙返りをしてて、そのまま天使が地に伏せる結果とはならなかった。

 

「……班長ォォ!!」

 

 咆哮。第四班として持つべき、殺意に満ちた声。羽を折り畳んで、鶴が水へ飛び込んで獲物を狩る時と同じように。

 

「来い!伊勢おつる副班長!!」

 

 宗手が迫り来る副班長を受け止めようと、差し出される。強固そのものといえる籠手は盾として構えられた。その間、照砲を何度か放つも、副班長は左右に羽を傾かせて回避。

 

 突き出された牙槍に影を突かせない為に、ダミーとして無数の折り鶴が影を作っていく。

 

 瞬時に羽を広げ、巻き起こした風で班長が怯んだその隙に。副班長は第四班長の心臓をしっかりと掴んで、体から引きずり出した。

 

「……これでようやく一枚かぁ」

 

「ふっ、よくやった。だが、気を緩めすぎだな……」

 

 地面へ倒れていく最中、照砲は副班長の心臓を再び吹き飛ばした。

 

「ちくしょう、邪魔が入る、ボケナスが」

 

 五七五で悪態をつく中、この戦いの見物人がようやく柏手を撃ちながら割り込んできた。

 

 

 この壮絶な殺し合い。固有地の山に設けられた第四演習場の有り様は悲惨としか言いようがなかった。地面は抉れ、備品は壊れ、何しろ山の一部が抉られている。

 

「……おいたが過ぎるんじゃないですか」

 

 憑坐ミケ神祇官、神祇官室ではなく環境庁大臣官房に所属する。いわゆる、お偉いさんの補佐をする人だ。

 

 僅か、117cmの彼女が同身長である第四班長と副班長を見上げて、苦笑いを浮かべた。どうせ、いつもの訓練でテンションが上がりすぎたバカ二人だ。

 

「修繕費用は第四班で払ってくださいね」 

 

「まて それは やめて」

 

「そうですよ〜!!これはちょっと盛り上がっちゃっただけで……」

 

 第四班長の人差し指が副班長を指した。

 

「こいつ わるい」

 

「はぁぁぁ!?!?レーザーをバカスカ撃ってた班長が言えますかねぇ!!」

 

 身長から体重、顔までも全く同じである班長と副班長の醜い責任の押し付け合い(どんぐりの背比べ)が暫く続いたが、ミケはやがて二人とも給料から天引きですと言い放って、バカな義理姉妹を置き去りにしてそのまま歩いて去っていく。

 

「ま、まて」

 

「本当に悪気なんて無かったんですよ!!」

 

  中臣千萱にも言っておきますからね。最後に溜め息と一緒にそう聞こえた気がした。

 

 




却下。吾の胃痛を増やすのをやめてくれないか?
───中臣千萱神祇官
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