タクティカル祓魔師短編集   作:イワシコ農相

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「十河です。本郷桂憲兵中尉は本日、総隊長より下命された作戦計画に則り作戦名寅号作戦の全目標を完遂致しました。以降の作戦計画は別途口頭及び紙面にて送付されます。お疲れ様でした。
なお、烏有祓魔大佐におかれましては商品名『霊峰富士の超深層天然水』の購入を検討する事はお控え願うよう具申致します。誠に遺憾ながら、総号第56次机上演習において同商品服用時の能率変動は誤差の範囲内に収まることが確認されております。
烏有祓魔大佐におかれましては美肌効果の有無を一喜一憂し、また気落ちされることのなきよう。今後のご健勝をお祈りいたします。」
───十河副官
「うるさい。美肌効果は気にしておらん」
───烏有先生


星条旗に旭日昇る

「……おい、新兵。てめぇは今から要人一家ごと爆破する。まぁ、あれだ。アメ公の命の重さが如何に軽いかわかる」

 

 第一隊長はさも当たり前のように煙草を1本持ち出して、煙を燻らせた。

 

「護衛車両は如何なされますか」

 

 煙が勢いよく吐かれて、隊長はそろそろかと口を開く。

 

「……今回は祓魔師もSPも同乗してる。だから、道路整備一つしておいた」

 

「……害意によって敵の結界が反応しませんか?」

 

 隊長は深く頷いた。

 

「良い着眼点だ。やつらはわざわざ大通りを迂回して、山道を選んだ。おそらく、戦闘を考慮した形だ」

 

 蛇行を巻くように見える道路はアスファルトで固められて整備された山道。場所は奈良の南側、見事な隠密行動として選ばれたルート構築。

 

「だが、アスファルトを施工する民間企業が何も知らずに設置したC4には害意はない。わざわざ、プリウス辺りの民間車。それも奈良ナンバー……一見すれば気がつかねぇが、車両に施される結界術は第三部隊から情報が入ってる」

 

「んだから、俺らは何も工作していない。民間企業が勝手にやって、勝手に事故るだけ。んで、新兵が『誤って』起動させる。完璧じゃねぇか」

 

そういって隊長は新兵を蹴飛ばして、思わずボタンを押させた。転ぶ反動で、少し手が触れた。その事実で、C4に確かな信号が送られた。

 

「戦争は終わってねぇぞ。アメ公、次期の在日米大使サマは随分間抜け……GHQ憲法は守ってくれねぇぞ。ハッ、トランプ遊びに興じた末路だな。」

 

瞬間に爆ぜた。いや、連続の爆破と言っても過言ではない。丁度八回、一定間隔に爆発するように整理された形代潰し。少なくとも、護衛されている要人車両には多めに爆破が当たるように回数を何回かわざわざ増やしたらしい。

 

「見事な花火だ。ここら辺だとPL花火大会があるんだったか……おっ、あれはガキの手が吹き飛んだな。よーし、要人一家の暗殺を確認。護衛はなんとか生き延びたが……そもそもアメ公と売国奴だ、恐るるに足らん。」

 

 刹那、隊長は第一憲兵分隊の作戦行動開始号令を発した。狙撃手のスコープから覗く、這い上がってくる黒焦げのSPや服装的に爆破の影響が少なかった神祇官であろう人物まで皆収まっている。

 

「あの神祇官は殺すな。メリケンを最初に処理して、神祇官は回収する」

 

 あの金髪野郎で、白人のやつ気に食わねぇ。目も青いな。撃て、隊長はイライラしながら煙草を吹かす。

 

 SPたちは日本の街中で見ることがない軍装に身を包み、星条旗の輝くパッチを肩上に張り付けていた。重々しい装備動きであるにも関わらず、俊敏に展開しようとする彼らに一射があたる。米軍のリキッドアーマーが頭部を守っていたこともあって、弾丸はいとも容易く弾かれる。境鐵(レンダライト)、米軍の誇る流体金属は『加護と穢れの境界を引く金属』、特殊な加工を除き、外部からの物質的な変化の一切を受け付けない論剛体だ。

 

 途端に撃ち込まれた方向から身を隠すように燃え盛る車を縦に米軍が身を隠し、リキッドアーマーを頭部でなく、胴体部分へと展開。これは跳躍弾を防ぐ上で極めて重要な防御策となる。剛体に当たる限りは、無傷で居ることが確約されるからだ。

 

「撃て」

 

 二射目。向かいの奈良の山岳に潜むミワシ憲兵第二分隊へハンドサインを送る。それに合わせるように弾丸が隊長の言った金髪の男のアスファルトに跳弾、彼が胴体に当たるだろうとため気を溢す。刹那、跳躍した弾薬が頭部を見事に撃ち抜く。

 

 この二射目は、両方から撃たれている。見事に挟み込む形でだ。単なる誤射と一瞬思わせる為だけに、隊長側からも撃ち込んだのだ。

 

「ファック」

 

 形代を消耗しきっていた。金髪の男改めてアメリカ軍海兵隊ジェーマス • サミュエルソン大尉は最後に悪態をつき、迫りくる弾丸に脳天を撃ち抜かれた。これによって齢34歳の人生に幕を下ろすことになる。

 

「これで指揮官は潰した。こっからは殲滅するだけだ。」

 

 第一隊長はテキパキと指示を出して、そっろ震えている新兵の前に屈んで、彼の両肩を強く掴んだ。

 

「おめでとう新兵、てめぇは民間上がりだが、これで立派な皇国の戦士だ。兵籍簿を見るに家族を妹の学費を稼ぎたくて入隊したんだろう?」

 

 怯えた新兵を見て、勘違いするなと不機嫌そうに隊長は唇を曲げた。

 

「責めてねぇよ。ただ、褒めてるだけさ。要人一家、次期大使一人とその妻、そして子供が二人。見事にその命を奪ったんだ。お手柄だよ、新兵。これからも、どんどん売国奴や外敵を殺していこうな。その対価にお前の妹は医学部だろうが、東京大学だろうが学費は出してやる」

 

 だから、みっともなく震えていると貰える額が減るぜ。うちは出来高制なんでな。隊長はそう付け加えて明らかに重そうな装備を気軽に動かしつつ、戦地へと向かった。背後で聞こえた新兵の天皇陛下万歳の叫び声に思わず、頬を綻ばせ、吸っていた煙草の亡骸を米兵の死体の上に放り投げた。

 

 ポイントマンが米兵のヘイトを買い、彼らの短機関銃がミワシ部隊を狙っている間も狙撃は止まない。場所を変えて、放たれる弾丸は人を殺すために特化した大口径。ストッピングパワーの最極致の一つと言っても過言ではない。

 

 例え、剛体で防いでも肉薄してくる憲兵隊員の弾丸を無視出来るわけではない。完全包囲下、いくらリキッドアーマーがあるとしても形代が消耗しつくしている以上、ただの兵にすぎない。それを致死的な、ローテーション。陸上自衛隊富士祓魔学校に伝わる奥義(特種祓魔課程)を悪用して、順番を繰り返したり、変更したりすることで憲法九条に縛られない軍事行動を実現する。ミワシ謹製の六◯式歩兵銃の7.7mm弾、有効射程1000mから1500mによる三点射が米兵の関節部を確実に撃ち抜いていく。徐々に数を減らすSPは護衛対象が死んだこともあって、戦意を徐々に失う。やがて、生き残りのごく一部を除いて降伏。憲兵隊は見事に作戦行動をやり遂げた。

 

「あ、そうだ。俺、今日は荒木のクソアマにババ抜きで負けて機嫌が悪いんだ。捕虜は取らん、全員殺して装備を回収しろ」

 

 再度、煙草を吹かそうとライタ-の押し込み部分に親指をかけた時、声がかかってきた。

 

 銃殺されていく捕虜が己の血によって血が喉に詰まっての溺れた声を背に第一隊長は神祇官へ目を向けた。

 

「今回はどうも。おかげで、こっちはヘマした四八式軍刀のみで突っ込んだバカな軽傷者一人で済んだ。謝意を述べておく」

 

「いやいや、仕事なんで良いですってば!」

 

 断るように女性は大きく手を振った。それにと付け加えて。

 

「日米友好だとかで大使夫妻、既に中臣千萱に絆されたみたいで、生き残られると不都合かなぁ~~なんて思っちゃいまして。それに第三部隊員ですからね、きっちり情報漏洩しちゃいました!」

 

 身長低めの明らかなロリであるが、その瞳は今浮かべている笑顔と違って冷徹きわまりない。

 

「……そうだな、氷川みささ。お前にとっては確かに都合が悪い」

 

 第一隊長はこの外見詐偽ロリがかつて時田が後継の居ないクラシカル神祇官家への影響を力増やすために、氷川神祇官家に養子に出した子であるのを知っている。権力闘争において中臣千萱はみんなにとって都合が悪い、だから本人を襲撃出来ないのなら、まずはその(ふち)から絶っていく。

 

「そうなんですよぉ」

 

 氷川神祇官家の赤髪に染めたのであろう少女は涙袋の下にあるホクロ以外は極めて顔が整っている。氷川家を継ぐためにさせられた神祇官資格の勉強をさせられ、合格して見せた神童とされている現25歳。今は表向きの年齢である14歳の為、民間神祇官であるのだが米軍にはそこが都合が良かったのだろう。

 

 なにせ、米軍と環境庁は相互に信頼しておらず、仮想敵の関係にある。あくまでも、国家が相互に同盟を組んでいるのに過ぎないのだ。自衛隊ならまだしも、官僚組織の環境庁は自国内の省庁とまで仲が悪い始末だ。

 

 結果、こうなるとは誰が想像できたんだろうか。

 

「星条旗に旭日昇る」

 

 黒髪のオッサンである第一隊長は浮かび上がったほうれい線を撫でて、燃え盛る車を見た。思わず、溢れた笑みと声を最後に。隊長は最後に氷川と向き合う。

 

「後で適当に傷でもつけて、汚れを足しておけ。今のままでは怪しい。……そうだなぁ、労詛派(アカ)あたりが適当だ。最近はそこらのデモも多い。幸い、お前は民間神祇官だ。あまり疑われんだろうよ、民間神祇官は任務不達成だと無給なんでな」

 

 それに。第一隊長は喜ばしげにライターを手のひらでくるりと回すと、タバコの先端に火をつけた。

 

「とっくにやってんだろ? ”統一戦線”の時みたく、二三の組織に有ること無いことタレこんで弄ぶのが仕事なんだからな。氷川二等陸そ……おっと、氷川軍曹?」

 

「当たり前でしょ。それが、情報を動かすってことだからね!」

 

「一部だけでも遺留品の境鐵(実利)がある方が真実味を増す、ってか? いい性格してるな」

 

 氷川は煙草の匂いに嫌な顔をしつつも、鼻を詰まんでしっかりと唇を動かした。

 

「第一隊長だって、横流しを考えて回収してるじゃないですかぁ~~あちしだけ悪く言わないで下さいよ~~!!」

 

「どうせ電子式神がなければロクに動かんからなぁ。屑鉄屋にでも売ってコイツらの給与袋に入れてやるのさ」

 

「なら、第三隊長に口添えしておくんで一部下さいな。労詛派(アカ)が実物持ってた方が、こっちがいろいろやりやすいんですぅ」

 

「馬鹿。最初からそうするつもりだろう?」

 

てへっと可愛らしく、頭を傾げて。何度か後頭部を掻く。いやぁと伸びた声が、やけに響く。

 

「そんな簡単にバレちゃいます?」

 

 残念そうな声を漏らした刹那、氷川ヘ第一隊長は真顔で答える。

 

「霊峰富士の超深層天然水を毎日飲んでるからな。タクチューブのイチオシ広告の品だぞ? 勅諭を毎朝読み聞かせたコイツを飲めば、肌のハリから頭のキレも百人力ってワケだ」

 

 こりゃ、ダメだと氷川はまだパワーストーンとか水素水じゃないだけマシかと思いながら、今まで設けていた通信障害の結界。自分では張れないので、総隊長から貰った札を使ったので、一枚をペリっと剥がして、第三隊長へ作戦成功の秘密通信を送った。

 

星条旗(アメリカ)に旭日昇る』

 

 




「好きな煙草の銘柄だって?カプセル入りでさえなければ吸えりゃ、何でも良いだろ。俺は倹約家だからな、とりあえず安いのにしてるが」
───ミワシ部隊健康診断における第一隊長の発言
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