アドリビトゥム英雄譚〜嫌々ながらお人好し勇者のパーティのヘルプしてたら世界を救っていた件〜   作:ポメラニアンドロイド初号機くん

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第三話 自己回復型近接バーサーカー魔法剣士、ミユ

『野生動物に安易に餌付けをしてはいけない』というのはよく言われる話ではあるが、俺は今その理由を身を以て思い知った。

いや、厳密には野生動物じゃなくて狐系亜人の遭難者だったけど………

 

「く………、来るなァァァァァ!?俺のそばに近寄るなァ〜〜〜!!」

 

「なんで逃げるの………?ボクはただキミに恩返ししたいだけなのに…………なんで?ねぇ、ねぇねぇねぇねぇねぇねぇネェネェネェネェネェネェネェネェネェネェ………」

 

 

メンヘラに

情けをかけた

ばっかりに

 

詠み人 クロード

 

この女、元気になった途端に俺を追跡して、『恩返しがしたい』とか言ってつきまとってきた。錯乱して人間不信を爆発させていたと思えば、冷静になると今度は罪滅ぼしだの恩返しだのと………言動がエキセントリックすぎる。

 

「別に恩返しとかいらねェから……恩に着せるつもりも端からないし」

 

まあ、下心全開で下半身に正直なサルならば、こういうタイミングで恥じる事なくエロい要求とかするんだろうけどな。

 

「まさか、お前の故郷は命の恩人に嫁ぐしきたりでもあるのか?」

 

「うぬぼれないでよ童貞勇者………言っとくけどエロい要求とかしたら『ピーー(自主規制)』切り取って魚のエサにするから……」

 

「童貞で悪かったな………」

 

「ボクは借りを返したいだけだよ。ボクの育ての親は、一度受けた恩は決して忘れるなとよく言ってた。だからボクはキミに恩返しをしなくちゃいけないんだ」

 

なかなか良い親をお持ちで………。と言っても、別に何かして欲しい事がある訳でもない。さて、どうしようか………

そう考えていた時、目の前にいる狐系亜人の女が突然戦闘態勢に入った。

 

「グレイシャーウルフだ………囲まれてる」

 

グレイシャーウルフ、氷雪地帯に適応した狼型の魔物で主に群れで活動する。

冒険者ギルドでの危険度等級はAランク以上にもなる。しかも12頭もの群れだ。

 

「こいつはマズいな………おいメンヘラ狐女、逃げろ。俺が退路を切り開く」

 

俺は大鎌を振りかぶる。そして…………、

 

断ち切る者(スラッシャー)!!!」

 

薙ぎ払いの動作とともに全てを斬り裂く不可視の刃を放った。

俺の一撃は同時に5体程のグレイシャーウルフを巻き込み、盛大な血飛沫の華を咲かせた。先程斬ったグレイシャーウルフの残骸はとても見せられた物じゃない死に方なので俺の方からの描写はやめておく。

グレイシャーウルフの包囲網に穴が空いた。

 

「逃げる必要はないよ、こいつらはここで殲滅する。それにボクの名前はミユだよ……メンヘラ狐女って呼び方は好きじゃないな」

 

「ならミユ、背中は預けた」

 

「了解、狐月酔牙(こげつすいが)………」

 

ミユは両手に複雑な装飾の入った曲刀(たぶん狐と月がモチーフ)を構えて斬り込む。初撃で手首のスナップを利かせるように手近にいた狼の頭に曲刀を打ち付けてカチ割り、背後から襲ってきた1頭に対して振り向きざまに胴を横薙ぎに裂く。その後返す刀でさらにもう1頭仕留めてた。

ミユの剣技は荒々しく野生的だが、確実に相手の息の根を止める精密で冷徹で迷いのない太刀筋だった。万全の状態のミユに襲撃されなくて本当に良かった………こんなの相手にしたら命がいくらあっても足りない。

形勢が不利と見るや否や、残りのグレイシャーウルフ達は逃げていく。

というか、俺何もする暇なかったな………『背中は預けた』なんてカッコつけておいてこれはなんか気恥ずかしい。

そんな事を考えていたその時、突然吹雪が発生した。

 

「まだ終わってなかったか………まあ、あれだけ派手に眷属を殺したから仕方ないよね………」

 

ミユが冷静に呟いた。

吹雪の向こう側から巨大な狼がゆっくりとこちらに近付いてくる。おそらくはここら一帯のヌシだろう。

巨大な氷狼は低く唸りながら攻撃態勢に移る。

 

「ここは大野狐(おおのこ)を使うか………」

 

ミユは背中の箱から以前に見たノコギリ型の大剣を取り出して構えた。

 

「バフと回復はボクに任せてよ………キミは隙を見てさっきの切断魔法を叩き込んで。できるよね?」

 

ミユはそう言うと脇目も振らずに巨大な狼へと距離を詰めた。

オイィィ!?何やってんだミユ〜〜〜〜!!

あいつ回復引き受けるみたいな事言って1人で吶喊しやがった!!

巨大な狼の注意を引きながら1人で大立ち回りしてやがるぞあいつ………

そう思っていたが、辺りに樹のような見た目の光る構造体がいつの間にか現れ、巨狼を取り囲むように配置されているのに気付いた。

 

治癒の聖樹(ヒーリング·ホーリーウッド)………」

 

ミユの呟き声が聞こえた。おそらくは配置型の範囲自動治癒魔法、それをミユは戦いながら巨狼を囲むように配置したのだろう。すげぇよミユは………

ならば俺も期待に応えるまで。巨狼の注意がミユに向いている隙に死角に周り………、

 

断ち切る者(スラッシャー)!!!」

 

死角からの全てを斬り裂く不可視の一撃、しかしその奇襲は直前に察知されて回避された。そして巨狼が無造作に振るった剛爪がミユを捉える。

 

「ミユ!?」

 

巨狼の前脚の一撃によりミユは激しく地面に叩きつけられながらも受け身をとった。普通なら死んでもおかしくないのにミユは傷一つなく平然としている。

 

致死無効(デス·プロテクト)がなければ即死だったね………」

 

ミユがぽつりと呟いた。

奇襲は直前で察知され、たぶん次のチャンスはこない。普通に撃っても当たらないならば、動きを止めるまで。

 

時計仕掛けの時の神(クロノス·クロックワーク)!!!」

 

俺自身の存在固有時間を10倍速、最速の踏み込みで間合いを詰める。俺は巨狼の懐に飛び込んだ。

 

時計仕掛けの時の神(クロノス·クロックワーク)………」

 

対象の存在固有時間を強制停止、これで動けまい。

 

「正真正銘こいつが本命だ!!断ち切る者(スラッシャー)!!!」

 

俺は巨狼の首を刎ねて仕留めた。

 

 

▷▷▷

 

 

 

その後巨狼の亡骸から魔石を回収して、森を抜けた先の村にある冒険者ギルドに持ち込むと、俺達が倒したのは『氷雪狼王 ロボ』という危険度等級SSランクの魔物だったらしく後日ギルド本部からものすごい額の討伐報酬を貰える事になった。

 

 

そして今、前祝いとして酒場でミユにメシを奢っている。

ついでに俺も、ここぞとばかりに食い溜めした。

ただのスモークチキンや、安物の肉を使った酒場のステーキが感動する程に美味く思える。

 

 

 

「決めた。ボク、キミと一緒に旅をする事にしたよ。それなら恩返しもできるし………ボクは戦力になるよ?」

 

スモークチキンの塊肉2つとステーキを平らげた後にミユは突然、そう宣言した。

 

「勝手に決めるな………まあ、戦力になるのは確かだから断る理由はないが………」

 

「そういえば、キミの名前聞いてなかったね」

 

「クロードだ。白夜の国では黒勇者って呼ばれてる」

 

「黒勇者………なんかカッコいいね………よろしくクロード」

 

まだまだよくわからない奴だが、仲間が増えるならそれにこした事はない。なにせ俺の旅はまだ始まったばかりだ。

かくして、メンヘラ狐女ことミユが仲間になった。

 

 

 

 

 

 

 




作中の魔法解説

致死無効(デス·プロテクト)
バフ魔法。効果中に一回だけ即死級のダメージを肩代わりしてくれる。ダメージを肩代わりした後は効果が消滅する。

治癒の聖樹(ヒーリング·ホーリーウッド)
設置式の範囲系持続回復魔法。ミユはこれを敵を取り囲むように複数配置して自動回復領域を創り出しながらひたすら近接でボコす。

断ち切る者(スラッシャー)
クロードのユニーク魔法の一つ。クロードの切り札にして最強の攻撃手段。物理的、概念的強度を無視してあらゆるものを切断する不可視の刃を飛ばす。基本的にガード不可能。欠点は飛ばした不可視の刃に、最初に触れた対象を切断するので障壁や飛び道具などを使い捨てる事で迎撃が可能である事。とはいえ、見えない刃の軌道を予測して正確に迎撃できる戦闘センスの持ち主でなければまず成り立たない。

時計仕掛けの時の神(クロノス·クロックワーク)
クロードのユニーク魔法その2。万物の固有時間を自在に操る魔法。
自身の存在固有時間を倍速化する事で倍速で行動できたり、自身の肉体の老化の固有時間を停止する事で不老化できたり、射程距離に入った対象の存在固有時間を停止する事で動けなくしたり色々できる万能の魔法。射程距離はクロード自身を中心とした半径10メートル圏内、時間停止の最大補足数は6、停止時間の上限は7秒。
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