今回新たにオリキャラも登場します。
「……」
藍璃とのバトルから一夜明けた翌日。
タケルは一人、屋上に立って外の景色をぼんやりと眺めていき。昨日のバトルで藍璃が最後に残した言葉が、頭によぎる。
『あなたは将来、世界で活躍するドライバーになるかもしれないわ…。あそこまで綺麗な羽根を羽ばたかせたんだもの』
藍璃が口にした羽根とは何だったのか。タケルはその答えを考えて込み、深いため息をつく。
「おーいタケル!!何一人でボーッとしてんだよ!!」
タケルが思い老けていたところに、聞き慣れた声で話しかけてきたのは走り屋仲間のイツキで。イツキはいつものように元気いっぱいの様子で駆け寄ってきった。
「イツキ…」
「タケル。昨日の夜は、大変だったのは分かるけどさ…、そう落ち込んでても何にもならねえだろ?だから、また今度の夜、俺や拓海と一緒に走ればいいじゃんか…」
イツキはタケルが藍璃の件で落ち込んでいると思い、気遣うようにタケルを励ましていく。
タケルはイツキの優しさに感動しつつ、いつものような明るい笑顔を取り戻す。
「うん、そうだね…。涼介さんの話だと、藍璃さんは一命を取り留めて助かったって言ってたし。また今度、会う機会があればお見舞いに行ってやるよ…」
タケルはそう言い切ると、イツキと共に屋上を後にする。
廊下で拓海と合流し、三人はいつものように固まって廊下を歩き始めるのだった。
「なんかこの頃…めっきり寒くなったよなー」
「上越方面のスキー場はとっくにオープンしてるんだぜー。関越でもスキー板、屋根に乗っけて走ってる車見かけるしなー」
「皆、この時期になると滑りたくなるんだよ。雪なんてもんは車走らせる側からしたら最悪だけど、スキーを楽しむ人にとっては最高だしね」
校舎の廊下を三人で歩きながらそれぞれ、言葉を述べ。
もうすぐ冬が近づいてくるからか、世間話が自然と冬の話題に流れていた。
「お前さー拓海…。将来は豆腐屋継ぐのか?」
「あんまり考えたことねーなー」
「まあ、豆腐屋なんて、もう少し年食ってからでも遅くないし。若い内はまだ遊び呆けたいもんね」
拓海は、イツキから店を継ぐのか聞かれるが、曖昧に返しては適当に流し。タケルも拓海に合わせながら、将来について決まってないと言う。
「まさか、お前ら…。卒業したら、東京行っちゃうんじゃねーだろうな?」
「行かねーよ東京なんて…。東京住みにくいし」
「言えてる。東京に行ったら車に乗るのに、物凄いお金が飛ぶし、そうなるくらいなら群馬に居た方がまだマシだよ」
「そうだな。俺も群馬の方がいいよ。
二人が群馬に残ると聞いて嬉しそうにするイツキは、自分も群馬に居続けると返す。
「そっか。そうだよな…。それ聞いて安心したよォ。俺も地元に残るつもりだったからさ…。お前ら二人がいなくなるんじゃ…。俺も考え直さなきゃいけねーからな」
「イツキ。お前主体性がないけど、大丈夫なのそれで?」
「だってつまんねーじゃんか。なんと言われようと、俺はお前と拓海の行くところについて行くからな」
三人はそのまま、いつものように他愛もない会話をしながら廊下の先へと歩いていくのであった。
高崎市 女子校
「えっ?卒業したらどうするかって?」
その頃、高崎にある女子校の渡り廊下で。タケルのガールフレンドである結衣は、親友の緒美と並んで歩きながら、進路について話をしていた。
「私はね、卒業したら看護学校に行くつもりよ…。それがどこの学校にするかは決まってないけど、ゆくゆくは群馬の病院で働きたいと思ってるの」
「へぇ〜、結衣ったらしっかりしてるわね…。緒美なんて、まだ全然進路が決まってないと言うのに…」
緒美がわざとらしく肩を落として見せると、結衣は優しく微笑んだ。
「そう?私は昔からナースになりたいって思ってたから、割と早く決まっただけだよ…。緒美もきっと、やりたいことが見つかるといいね」
「むぅ〜!何よその言い方…!まるで緒美が遊び呆けてるみたいじゃないのよ…!」
結衣は目標が決まっているから問題ないと言うが、それを聞いた緒美は頰を膨らませてプンスカと文句を言い返すのだった。
ガソリンスタンド
ゴワッ
タケル達が学校が授業を受けているその頃、ガソリンスタンドに、一台の青いMR2(SW20)が低く唸るエキゾースト音を響かせて滑り込んできた。
池谷がその車に駆け寄り、いつもの笑顔で対応する。
「いらっしゃいませーっ!!」
「ハイオク…20…」
「ハイオク、20リッター入ります…」
「あっ、ちょっと待った。20じゃなくて…やっぱ15でいいや…」
SW20の運転席から降りてきたた青年は、池谷に給油をお願いするも、途中で気が変わったのか、20じゃなく15でいいと訂正した。
そして、給油している池谷のを見ながら、ふと質問を投げかける。
「秋名のハチロクって…あんたか?」
「いや…俺は違いますけど…。お客さん、秋名のハチロクに、何か用事なんですか?」
「俺は小柏っていうんだけど…、ここに来れば秋名のハチロクに会えると聞いて来たんだ」
「(え?小柏だと…?まさか…)」
青年は自分の小柏だと語るや、拓海に会いに来たと話し。
その言葉を、少し離れたところで聞いていた祐一の表情がピクリと変わった。
タケル 自宅
「〜♪」
タケルが学校に行っている間、自宅では姉の遥香が家の家事を楽しんでいた
リビングで掃除機をかけながら、鼻歌を歌っていた。
ピンポ〜ン
「はーい」
家のベルが鳴り響くと、遥香は掃除機を止め、玄関に向かった。扉を開けると、そこに見覚えのある男性が立っては遥香に呼びかける。
「よぉ、遥香。久しぶりだな…」
「…修君?」
遥香は少し目を丸くして、その男の名前を呼んだ。
この男、桐生修は遥香と同じ高校に通っていた同級生でありながら遥香の元カレでもあり、タケルにとって兄のように慕われる人であったのだ。
「どうしたのよ、急に。あなた、確か親の都合で栃木に引っ越したんじゃ…」
「ああ。群馬に帰省したついでに、お前とタケルに顔を見せようと思って寄ったんだ。どうだ、久しぶりに会って驚いただろ?」
「もう…相変わらず突拍子もないところはタケルとそっくりね。あの子が明るくなって、走りに興味を持つようになったのも、修君のおかげだって部分は大きいわよ…」
「ははっ、そう言われると照れるな。何せあいつが、父親のバイクを初めて乗った時、二輪の基礎を叩き込んだのは、俺だからな…」
修は遥香とも親しげに話す様子から、二人がただの高校時代の同級生以上の関係であることは、誰が見ても明らかだった。
「それでよ遥香、もしこの後時間があると言うのなら、俺と一緒に少しドライブしないか?」
「え…?」
遥香は一瞬、言葉を詰まらせるが。昔付き合っていた修から急に誘われ、少し間を置いてから小さく頷く。
「…いいけど、あまり時間をかけないでね。タケルがまだ、学校に行ってる最中だから、遅くならないうちに戻らないと」
「わかった。じゃあ、車をこっちに回してくるから、待っててくれよな」
修は軽く手を上げて玄関を離れると。自分が乗ってきた車を取りに向かっていき。途中、家の駐車場に停めてある一台のスイスポを目にしては、口元を緩める。
「ほぉ…ZC31S型のスイスポか。どうやら、あいつが須藤京一を破ったっていう話は本当みたいだな…」
修はタケルが京一とバトルしたことを知っていたのか、タケルのスイスポを見ながらそう呟くが。
遥香を待たせるわけにはいかない為、そそくさとスイスポの前を離れるのだった。
ガソリンスタンド
「あいつは今いませんけど…。夕方4時以降に来てもらえれば…」
「わかった…」
「お客さん」
小柏が軽く頷き、SW20に戻ろうとしたその時、少し離れたところで聞いていた祐一が、鋭い視線を向けて声をかけた。
「今小柏って言いましたよね。もし間違ってたら…申し訳ないけど…、ひょっとしたら小柏健って…?」
「…小柏健は、俺の親父だけど…」
小柏はそれ以上何も言わず、運転席に乗り込むとドアを勢いよく閉め。低く唸るエンジン音を響かせながら、青いSW20はガソリンスタンドを後にしていった。
「ありがとうございましたー!!」
池谷は走り去るSW20に向かって大きく頭を下げ。スタンドに戻ると、すぐに祐一へ駆け寄る。
「店長、教えてくださいよ。さっきのお客さんの話…。何なんですか?あれ?」
「小柏健のことか?久しぶりにその名を思い出したよ…。何年ぶりだろうな…15年…いや、それ以上は楽に立ってるだろうな…。その頃、俺や文太、それに勝もいろんな峠へ出かけてたんだ」
池谷が目を丸くして聞き入っていき、祐一は懐かしむように小柏健について語り出す。
「小柏健っていうのは、いろは坂を走ってたラリー屋で…。その頃の文太の最強のライバルだった」
「!!」
祐一のいう小柏健が、文太とライバル関係にあったことに、池谷は驚きの表情を見せる。
「とにかくキレた走りをする奴だった…。もっともブチ切れ具合では、文太とは何回もやりあって…。最後の大一番で文太が勝って…。それ以来ぷっつりと音沙汰なしだったな…」
「(伝説の走り屋といわれた拓海の親父さん、藤原文太のライバル…)」
「その息子がいつの間にあんなにデカくなって…。拓海に会いに来るとはな…」
どういう因果なのか、小柏健の息子が拓海に会いに来たことに。祐一は深く関心を示していくのだった。
「ただいま〜」
学校を終えて家に帰宅したタケルは、玄関の扉を開けながら姉に呼びかける。家の中は忽然としていることに疑問を抱く。
「姉ちゃ〜ん、帰ってきたよ〜!!」
何度声を掛けても静まり返っては返事がなく。遥香が留守をしているに気付き。出かけてるではないかと思い込むが、自宅の駐車場にはスイスポが停まっており、どこか行くにしても車が置きっぱであることに疑問を浮かべる。
「おかしいなぁ…買い物に行くにしても、車を使わないといけないのに…。どこへ行ったんだろう…?」
「ん?どうしたんだタケル?一人でため息なんかついて?」
「おじさん…」
玄関でぼんやりと独り言を呟いていたタケルに声を掛けたのは、鈴木政志だった。
政志は作業着姿のまま腰に手を当てながら、タケルを見る。
「遥香なら、ついさっき、若い男と一緒に車で出かけたぞ…。あの様子だと、仲良さそうだったから、声掛けなかったが…。お前の知り合いじゃねえのか?」
「若い男?姉ちゃんはその人のことを、何て呼んでたかわかる?」
「ん〜そうだな。遥香はその男のことを…修って呼んでたような気がするな」
「…修?」
タケルは修という名前を聞いては表情が変わり。複雑な表情を見せながらも、小さく溜息を吐く。
「…もしかして、姉ちゃん…。修兄と出かけたの…?」
遥香が何故、修と二人で出かけたのか…その理由を考えながらも、タケルは二人の帰りを待つことにするのであった。
秋名山
「どうだ遥香、俺のドラテクは中々のもんだろ?」
「もう…。いくら夕方でも、あまり飛ばさないでよね。いつ対向車が出てくるかわからないんだから」
「ははっ、平気平気。これでもかなり抑えて走ってる方だからな。この程度のスピードで避けきれないような奴がいたら。そいつの運転技術がなってねーってことだ」
修が運転する車は、秋名の上りを軽快に駆け上がっていた。
ハンドルを握る修は余裕の笑みを浮かべ、助手席に座る遥香に、自分の走りが凄いかのように語っては自慢するのだった。
「ったく、そんなんでよく運転免許取れたわね…。一応聞いておくけど、この車、なんていう車なの?」
「ああ、こいつか…?こいつはDC5って言って、ホンダのインテグラ・タイプRの二代目にあたるんだよ」
「インテグラ?前にタケルから聞いた話だと、若者向けのデートカーだって聞いたんだけど…」
「おっ、いいところ突いてくるな。確かに普通のDC5はデートカーって言われてるけど、こいつはタイプR仕様になってるんだ。先代のDC2より重くなったが、K20Aエンジンを積んでるから低速トルクも太くて、峠でもサーキットでもかなり攻められる車になってるんだぜ…」
修がインテグラを軽快に走らせながら話していると、後方から鋭いエキゾースト音が迫ってきた。
青いSW20が二人の車をあっという間に追い抜いていき。栃木ナンバーを見た修は、軽く舌打ちをした。
「ちっ…、カイの奴。こっちに来てたのかよ…。折角いい雰囲気だったのに台無しだぜ…」
「そういうこと言わないの。大体、こんなスピード出してるあんたの方が問題でしょ…」
遥香は呆れたように溜息をつき。修に苦言すると、先程自分達の乗る車を追い抜いた車について聞く。
「修君。さっきの車…知ってるみたいだったけど、どういう関係なの?」
「ん?ああ、カイについてか…。あいつは小柏カイっていう奴でな。俺が偶にもてぎの走行会を行った時に、一緒に走るサーキット仲間だよ。父親が元ラリーストってのもあって、小さい頃からカートをやってたらしいぜ。相当走り込んでるからか、峠だけじゃなくてサーキットでも速いんだ」
「ふぅ〜ん…。まるで拓海君と藤原さんみたいな関係なんだね」
修から小柏のことを聞いた遥香は、先程追い抜いていったSW20に興味を惹かれたか、前方を走るSW20を見ていくと。SW20が走行する反対車線から、一台の白黒のハチロクがダウンヒルで猛スピードで下りてきた。
二台はすれ違う形になるが、SW20が颯爽と突き進む中、ハチロクは一瞬で姿勢を崩し、鋭いドリフトでコントロール。
ギリギリのスペースを保ちながらSW20を回避する。
「(なかなか…いい腕だ)」
ハチロクに乗っていたのは拓海の父である藤原文太で、文太はSW20の横を鮮やかに抜き去っては、修と遥香が乗るDC5の横を走り去った。
「…な、なんだよ今のは…。あんなハチロク、見たことねえぞ…」
「そう?まあ、修君が知らないのも当然よね。あのハチロクが、さっき言ってた藤原文太さんなの。この秋名山で一番速い走り屋だって、タケルや政志さんがいつも言ってるわ」
「なんだとっ!?じゃあ…前にいろは坂で須藤京一を負かしたっていうのも、あいつのことなのか?」
「ううん。それは父親の文太さんじゃなくて、息子の拓海君よ。タケルが一緒に走ったみたいだけど、ギリギリの勝負だったって言ってたわ」
「…そうか」
ステアリングを強く握りしめる修の手は指先を震わせており。自分が昔、住んでいた場所に物凄い奴がいたことを実感していく。
「何だ、今のは!?何が起こった!?スレ違っただけでどっと汗が出た。こんなことは初めてだ!!」
同じ頃、SW20を駆る小柏も、すれ違ったハチロクの気配を感じては、表情を強張らせる。
「(何が何だか分かんねーけど。すげぇのとスレ違った…!!)」
小柏は、先程すれ違ったハチロクの走りに全身が熱くなった。武者震いが止まらずにいては、胸の奥で、強い闘志を燃え上がらせるのだった。
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