頭文字D 峠の弾丸   作:ペンギン太郎

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ACT.97 再会と二つの挑戦

 「勇、この間の秋名でのバトルで、お前が推すタケルって若者の走りを見せてもらったぞ…。確かにあれは、そこらの走り屋と質が違うのも納得いったよ…」

 

 

 渋川市街の喫茶店。カウンターの内側でマスターの南雲優作が静かに珈琲を淹れ、眼の前に座る勇にカップを置く。

 勇は軽く香りを楽しみながら一口啜り、ゆっくり頷いた。

 

 

 「そうですね…。俺がFFの走らせ方を教えた上に、中嶋に負けてからは、ちゃんと敗北を糧に変えて大きく前進してます。ただ、プロのレースを真近で見てきた俺からすると…、まだまだってところです…」

 

 「そうかい。ま、秋名であれだけの走りができるなら、俺がわざわざ教える必要はないかもしれんが…。今のまま他所に行ったら、いいようにヤられるのが目に見えてるぞ」

 

 

 優作はカウンターに両肘を付き、笑みを浮かべるが、

 今のタケルでは、県外の走り屋を相手に通用しないと発する優作の言葉は容赦なかった。しかし、勇は怯むことなく、強い眼差しで優作を見つめ返しては言う。

 

 

 「それについてなんですが、優作さん…。前にタケルから聞いた話によると、あいつ、秋名のハチロクこと藤原拓海と一緒に、高橋涼介からチームに誘われたらしいんですよ」

 

 「…あの赤城の白い彗星が、タケルと秋名のハチロクを誘っただって?」

 

 

 群馬ではその名を知らない奴はいないであろう、高橋涼介の名を耳にした優作は、一瞬動きが止まるが。勇は続けて話す。

 

 

 「ええ。どうやら高橋涼介は、関東各地を回る県外遠征専用のスペシャルチームを組もうとしてるみたいで。その戦力として、二人の腕を見込んで直々に声をかけたそうです…」

 

 「ふぅん…。確かにあの高橋涼介の元に付けば、タケルの腕は確実に上がるだろうな…。だが、それがどこまで通用するかは…また別の話だ」

 

 

 タケルが涼介の率いるチームに入るかもしれない話に、優作は口元に楽しげな笑みを浮かべては、タケルの今後に期待するのであった。

 

 

 

 

 

 「「今日もよろしくお願いします」」

 

 「おう、よろしくな」

 

 

 夕方からシフトに入った拓海とイツキが池谷に挨拶をし、仕事に取りかかろうとすると、池谷が急に思い出したように拓海を呼び止める。

 

 

 「拓海、昼間お前に客来たぞー」

 

 「客ですかァ?」

 

 「あの雰囲気だとまあ…、多分バトルの申し込みとか、そういう類いだと思うけど…」

 

 

 池谷は昼間の小柏の様子を思い出しながら、拓海にバトルを挑みに来たのではないかと予想する。

 

 

 「マジですか?そいつ車、何でした?」

 

 「SW20だよ、栃木ナンバーの…」

 

 「SW20ってどんな車?」

 

 「MR2だよ…。ミッドシップだから戦闘力高いぞ」

 

 「ミッドシップ?」

 

 

 池谷は小柏がSW20型のMR2に乗ってきたと話すと、拓海にミッドシップについて教え始める。

 

 

 「ミッドシップっていうのはドライバーの背中にエンジンがあるんだよ…。普通の車は運転席の前の方にエンジンがあるけどミッドシップは逆なんだ。前にタケルがバトルしたレオが乗ってたプジョー・205T16もミッドシップだったろ?」

 

 「へーえ…?それだと後ろに人が乗れませんね…」

 

 「まあ、そうだけど…」

 

 

 池谷は拓海のトンチンカンな返しに軽く呆れながらも、話を続ける。

 

 

 「エンジンが後ろにあった方が、後輪駆動の場合アクセルを開けた時にタイヤが滑りにくくなるから、コーナーから立ち上がる時の加速が有利なんだよ…。重たいエンジンは車の中心に近いところにあった方が運動性能が良くなるという利点もあるし、F1のマシンも全部ミッドシップだからな…」

 

 

 ブァアアア

 

 

 「おっ、噂をすれば…」

 

 

 話をしている途中、エキゾースト音と共に、小柏が乗るSW20がスタンドに滑り込んできた。拓海達は思わず顔を見合わせては小柏と対面するのだった。

 

 

 

 

 

 拓海が小柏と遭遇したその頃、自宅に戻ってきたタケルは、駐車場に停めてあるスイスポに腰を預けながら姉の帰りを待っていた。

 しかし、夕方になっても遥香はまだ帰ってこない。

 

 

 「タケル、遥香と一緒にいた男を修兄と呼んでいたが。どういう関係なんだ?」

 

 

 政志が修について聞くと、タケルはスイスポにもたれかかったまま修との関係を伝える。

 

 

 「修兄は、僕が高1の時に二輪の走らせ方を教えてくれた人なんだ。バイクに乗り始めたばかりの僕に、手取り足取り教えてくれて…色々とお世話になったことがあるんだよ」

 

 「ほう…勝が残したあのカタナに乗る時に、指導した先輩ライダーってことか」

 

 「うん。修兄はバイクの乗り方を教えてくれただけじゃなく、ツーリングに連れてってくれてね。関東各地を回って、いろは坂や正丸峠を攻めながら、バイクでの攻め方を叩き込まれたよ」

 

 

 修との間には色々と思い出があり。

 タケルは政志に昔のことを懐かしげに話してると、どこからか咆哮するようなVTECサウンドが耳が響き。音のする方向に視線を向けると、見慣れない車が自宅に向かって近づいてくるのだった。

 

 

 「あれってDC5だよね?」

 

 「ああ、遥香が乗ってった車だ…。どうやら、充分に満喫しては戻ってきたみてえだな」

 

 

 DC5はタケルの家の近くを通るやゆっくりと駐車場の近くへ停まっていき、助手席の扉が開いては、遥香が降りてくる。

 

 

 「ごめんタケル。ちょっと、修君と一緒に秋名山へ行っててたわ…」

 

 「いいよ、それくらい。せめてメモくらい残してくれれば良かったのに…」

 

 

 タケルは愚痴を零しながらも、姉が帰ってきたことに胸を撫で下ろし。

 DC5は駐車場の端に停まり、運転席から桐生修が降りてきた。

 

 

 「よぉ、タケル。久しぶりだな…」

 

 「修兄…。お久しぶりです」

 

 「ははっ、最後に会ったのはお前が高2の時だったけな…。あの後すぐに栃木に引っ越しちまったから、こうして再会できるとは思わなかったぜ」

 

 

 修は久しぶりに会ったタケルに、笑顔で手を振っては再会を喜ぶも、ふと駐車場の中に停めてあるスイスポに目を移す。

 

 

 「それはそうとタケル、お前いつからスイスポに乗ってるんだ。昔カタナに乗って時もそうだけど、お前相当なスズキ好きだよな」

 

 「まさかぁ〜偶々だよ。カタナは元々父さんが乗ってたバイクだし、スイスポは僕が免許を取った時に、そこにいる政志さんから貰ったんだ…」

 

 「そうか…。俗にいう“おさがり”でカタナとスイスポに乗ってるってわけか…。随分と贅沢な思いをしてるじゃないか、全く…」

 

 

 タケルがタダ同然でカタナとスイスポに乗っているのを修がからかいながら言うと、タケルはムッとして言い返す。

 

 

 「そういう修兄だって、前まではホンダのVTRファイヤーストームに乗ってたくせに、今じゃすっかり四輪に転向してDC5に乗ってるじゃないか…」

 

 「VTR…ファイヤーストーム?何なのそれ?」

 

 「ホンダVTRファイヤーストームは、正式名称VTR1000Fっていうマシンでな。Vツインエンジン搭載で、低回転から太いトルクが出て、軽快に走れるマシンなんだ…」

 

 「へぇ〜そうだったんだ…」

 

 「タケル、先輩である俺に向かって随分生意気なことを言うようになったな。まあ…このDC5は、前に乗ってた奴がDC2よりも走りのキレが落ちてるって文句言って手放したのを、俺が安く譲り受けたんだよ」

 

 

 修はDC5を手に入れた経緯を語るや、タケルがいろは坂で京一とバトルしたことについて触れる。

 

 

 「それよりもタケル、お前…このスイスポでいろは坂の須藤京一に勝ったんだろ?」

 

 「え?そうだけど…どうして修兄がそれを知ってるのさ?」

 

 「当然だろ。須藤京一は栃木の走り屋の間じゃ知らねえ奴はいないくらい有名だからな…」

 

 

 京一に勝ったのは事実とはいえ、栃木の走り屋の間にまで広がっていたことに意外そうにするも、修はそこからタケルに目を向き直り、こう話す。

 

 

 「タケル…。久々に会って悪いんけど、俺といろは坂でバトルしてくれないか?」

 

 「え…?」

 

 「元々、須藤は俺とカイが狙っていた男だったんだが。それをお前と藤原拓海に先を越された以上、お前を倒して、エンペラーの奴らに一泡吹かせてやりてえんだよ…」

 

 「そうなんだ…。それよりもカイっていうのは…?」

 

 「ああ、そうだったな…。カイっていうのは、俺のサーキット仲間である小柏カイのことだ。あいつも藤原に先を越されたのが癪だったか、今藤原がいるっていうスタンドに寄ってる筈だ…」

 

 「なるほどな…。文太の倅と小柏の息子がバトルするってわけか。親子ニ代で妙な因縁だな…」

 

 

 政志は小柏カイの父親である小柏健を知っていたのか、その息子であるカイが拓海とバトルするのに、因縁染みたものがあるなと思うのであった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 「それでだ…もし俺とバトルするなら、俺とお前、カイと藤原の二組に別れてバトルをするってのはどうだ?前にカイから聞いた話だと、あいつの親父さんは藤原の父親と因縁があるらしいから、その決着も一緒に付けようと思ってるんだ…。どうだタケル、乗ってくれるか?」

 

 

 修はいろは坂で自分とバトルするようタケルに言っていくと。タケルはニッと笑みを浮かべながら返事を返す。

 

 

 「いいよ。修兄がそこまで言うなら、こっちも本気でやるよ。拓海と一緒にいろは坂に行ってバトルするから、覚悟はしといてね…」

 

 「へっ。そう言ってくれると助かるぜ…。じゃあ、タケル。もし行ける日が決まったら、この番号に連絡してくれ。カイの奴ともスケジュールを合わせて、いろは坂の下りで全開バトルだ」

 

 

 修は自分の携帯の番号が書かれたメモをタケルに渡し。タケルがそれを受け取ると、修はDC5に乗り込み。再び咆哮するようなエキゾースト音を響かせながら、颯爽と去るのだった。

 

 

 「タケル…。本当に修君とやるの?」

 

 「うん。だって修兄とバトルするの、これが初めてだからね。どんな走りを見せてくれるのか楽しみなんだ…」

 

 「タケル…。お前が兄貴分である男とバトルするのはいいが、くれぐれも油断しねえことだな」

 

 「え?」

 

 

 タケルは自信満々な顔をして、修とバトルするのを楽しみにするが、その話を少し離れたところで聞いていた政志だけは真剣な顔をしていた。

 

 

 「あのインテグラ、マフラー音からして、排気系は相当煮詰めてるのもあるが、エンジンもかなり回して磨いてあるな。それに、お前に走りを教えたってことは、お前の知ってる走りの上を行ってると思っても間違いねえからな。それを相手に、向こうの地元でするとなれば、かなり厄介だぞ」

 

 

 政志は真剣な目でタケルを見つめ、修とバトルするのに油断しないよう釘を刺す。

 

 

 「そうだね…。いろは坂で修兄を相手にするんだから、油断も隙もないことぐらい、僕自身がよく分かってるよ…」

 

 

 政志の言葉を受け、タケルは気を引き締めしながら頷き。前回の須藤京一とバトルした時と同様に、絶対に手を抜くわけにはいかないと自分に言い聞かせ。強い決意を胸に刻むのだった。

 

 

 

 

 

 タケルが修にバトルの挑戦を叩きつけられたのと同じく、拓海は目前にいる小柏カイに強い眼差しを向けては対峙し。小柏は修と同じことを拓海に話す。

 

 

 「お前が秋名のハチロクか…。いろは坂でスイスポと一緒にエンペラーの須藤に勝ったそうだな…」

 

 

 小柏は、拓海を真正面から見据え、ゆっくりと切り出してはタケルと共に、京一に勝ったことを引き合いに出す。

 

 

 「須藤は俺の標的(ターゲット)だった。あのパンパンやかましいエボⅢは地元では敵なしと言われているが、俺なら負かす自信があった…。もうちょいというところで…、おいしいところをお前ら二人に持っていかれた…。だから…俺の標的(ターゲット)は自動的にお前に変更させてもらう…。俺はお前と勝負したい」

 

 

 小柏はいろは坂で須藤京一を負かすのは自分であった筈が、二人に先越されたとを根に持つように言い。はっきりとした苛立ちと闘志が込めながら、拓海にバトルするよう告げる。

 

 

 「どうだ、返事は?」

 

 「「……」」

 

 

 小柏からバトルの申し込みをされる拓海を、スタンドの端で池谷とイツキが固唾を飲んで見守る中、拓海は小柏の目をじっと見つめる。

 

 

 「俺はエボⅢに勝ったつもりはないけど…。そういう話の流れならこっちも逃げるつもりはないよ。いつとは言えないけど近いうちに…、雪が振る前に必ず…いろは坂に行く!!」

 

 「よし、わかった。楽しみにしておく…。俺の名は小柏カイだ。そっちは?」

 

 「藤原拓海…。悪いけど、俺仕事中だから…」

 

 「ああ、悪かった…。あ、それともう一つ…伝えておく。お前と同じ秋名の走り屋のスイスポは、俺とは別の奴といろは坂でバトルするそうだ」

 

 「え?」

 

 

 タケルがいろは坂でバトルするという話に拓海はきょとんとするが、小柏はそれについて教える。

 

 

 「スイスポは、俺と同じ地元の桐生って男とバトルするつもりだ…。あいつが言うには、スイスポのドライバーとはちょっとした繋がりがあるそうだ…」

 

 「桐生だと…!?まさか…あの桐生とタケルがバトルするっていうのか!?」

 

 「へ?池谷先輩はその人のことを知ってるのですか?」

 

 「知ってるも何も…桐生はタケルの姉の遥香が高校の時に付き合ってた男で、タケルに単車の乗り方を教えた兄貴分なんだよ」

 

 「えぇ!?」

 

 

 タケルがバトルする男が、嘗てタケルの二輪時代の先輩であり、タケルとは兄弟染みた仲であることを聞かされたイツキは目を丸くして驚き、拓海も思わず言葉を失う。

 

 

 「ふっ、まさかあいつがスイスポのドライバーとそういう関係だったとはな。今度のバトルは楽しみになってきたぜ」

 

 

 そう言い残すと、小柏はSW20に乗り込み、低く唸るエンジン音を響かせてスタンドを後にした。




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