頭文字D 峠の弾丸   作:ペンギン太郎

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ACT.100 インベタの更にイン

 群馬県 渋川市 某居酒屋『たかはし』

 

 

 ガララ

 

 

 「いらっしゃい!!」

 

 

 タケル達がいろは坂に向かっていたその頃、渋川市の商店街にある居酒屋『たかはし』に、一人の中年男性が暖簾をくぐって入ってきた。中年男性は店に入ってすぐそこのカウンターに座る二人の男に呼びかける。

 

 

 「やあ文太。それに祐一も。久しぶりだな…」

 

 「ん?なんだ、お前かよ…」

 

 「おおっ、テツじゃないか。久しぶりだな…。おめえがここに来たってことは、今日は休みか?」

 

 「まあね。折角の非番だし、一杯やろうと思ってここに来たんだが、こんなところでお前ら二人と出くわすと思わなかったよ…」

 

 

 カウンターで一杯やっていた文太達に声を掛けたのは、結衣の父親である小林哲二で。

 嘗て同じ走り屋仲間であり、ライバルでもある文太と再会した哲二は文太の隣に腰を下ろす。

 

 

 「どうだい、折角の再会も兼ねて、久しぶりに一緒に飲まないか?」

 

 「けっ…。走りを捨てては女に乗り換えたてめえと飲む酒なんざ、飲めたもんじゃねえよ…。他あたりな…」

 

 「おいおい、いくらなんでも、それはねえだろ文太…。こうして一緒に集まる機会なんざ、そうそうねえってのに…」

 

 

 文太が頑なに断ろうとするのを、反対側に腰を下ろす祐一が苦笑しながら宥め。文太は仕方なしに哲二と一緒に飲むことになった。

 

 

 「ははっ、じゃあ早速一杯頂くとしますか…。ところで文太、ここに来る途中でお前のハチロクとタケル君のスイスポとすれ違ったんだが、何処に向かってったか知ってるか?」

 

 「ああ、あいつらなら、いろは坂へバトルをしに行ったよ。勝の息子は誰とやるかは知らねえが、拓海は小柏の息子と向こうでやるみたいだ…」

 

 「小柏?…ああ、小柏健のことか…。懐かしいなあ…あの頃のお前と小柏がいろは坂でやったバトル、僕もギャラリーしに行ったが、あれ程手に汗が握るバトルは他に観たことがないよ…」

 

 

 哲二は昔を懐かしむように言っては杯を傾け、自分達が現役だった頃を肴にしては酒を交わし始めるのだった。

 

 

 

 

 

 いろは坂 下り スタート地点

 

 

 

 「こういう個性的な(コース)は…やっぱ地元じゃないといろいろわからないこともあるだろうな…」

 

 「小柏の方は色々作戦とか考えてると思うから…、拓海は不利だよォ…」

 

 

 

 拓海達がいろは坂の下りで熾烈な走りをしている中、スタート地点で待機してるであろう健二が、いろは坂の峠を攻めるのが如何に難しいかをしみじみと呟き。

 池谷も地元を得意としてる小柏に有利ではないかと心配しては言う。

 

 

 「でも…拓海の親父さん、小柏の父親と昔、ここで勝負して勝ってるんだろ…?」

 

 「ああ、その時の体験を生かしたアドバイスをしてくれたんじゃないかと思ってたんだが…。拓海の奴、チンプンカンプンと言いやがった…。拓海の奴ヤバいよォ…」

 

 

 「ちょっと、二人共何暗いムードになってるのよ…。まだ勝負は始まったばかりなんだから、少しくらい拓海君が勝つって信じなさいよ…」

 

 

 池谷達が暗いムードに包まれている中、遥香は拓海が勝つことを祈るかのように二人に活を入れていくも、池谷は遥香に対してはこう語る。

 

 

 「遥香…。お前はこういったバトルをちゃんと観たことがないから、そう言えるんだろうけど…。相手はここを得意とする走り屋で、ノンターボのSW20でハイパワーのランエボを負かす程の男なんだ…。しかも元走り屋である父親から英才教育を受けたカート上がりな上に…。慣れたコースを徹底的に走り込んでる経験の差を考えたら、ここを少ししか走っていない拓海に勝ち目があるとは思えねんだよ…」

 

 「……」

 

 

 二人の言う走り込みの差で、勝ち目がないことに遥香は押し黙るしかなかったが。そのやりとりを少し離れたところで聞いていたタケルは、拓海達が走り去っていった方向を眺めながら勝負の行方を見つめていた。

 

 

 

 

 

 「(やけに葉っぱの多い夜だ!!おまけに風のいたずらで吹き溜まりもある…。乗せればズバっと行く…。やりにくいな!!だけど、この条件は先行するハチロクの方がキツイ筈だ…。いつどこで滑るかわからないからな…)」

 

 

 路面に降り積もった落ち葉を見ながら、車を走らせていく小柏、同じハンデを背負うハチロクのテールに食らいついては後を追いかけていく。

 

 

 「(走りにくい…!!こうなったら滑るより、こっちから滑りに行くか…!!早目に後輪(うしろ)を出して、四輪とも滑らせていけばいいんだ…!!)」

 

 

 そう決意した拓海は、次のコーナーに降り積もった吹き溜まりをものともせず、思いっ切り突っ込み。四輪を滑らせながら、ドリフトでコーナーを曲がり切る。

 

 

 「(なんて奴だ…、自分から吹き溜まりに…!?滑りやすい路面こそ…ドリフトってわけか…。手強いぜ…藤原拓海…。生半可な仕掛けは通用しない…。あれ(・・)をどこで仕掛けるか、タイミングが重要だ…)」

 

 

 小柏は父から授かった策をいつ使うか、頭を張り巡らせながらハチロクのテールを追い。どのタイミングで仕掛けるのか、タイミングを見計らうのだった。

 

 

 

 いろは坂 頂上

 

 

 『はい。こちら33コーナーです!!エキゾースト音が大きくなってきました!!もうじきこのヘアピンに来ます!!』

 

 

 「そうか。来たら実況してくれ…」

 

 

 

 

 

 「…そろそろ始まるぞ」

 

 「え?」

 

 

 明智平パノラマで、中継地点からの報告を受けた清次が、待機しているメンバーに向かい実況するよう指示を出し。

 その様子を少し離れたところで聞いていた啓介は、ノートパソコンに集中する涼介から、小柏が何かを仕掛けに来るような口振りで言っていくのだった。

 

 

 

 

 

 いろは坂 33コーナー 付近

 

 

 「(嫌な感じがする…。ハッキリとはわかんねえけど…。何か仕掛けて来る!!)」

 

 

 先行する拓海は、小柏が何か行動を起こすと警戒を強めながら車を走らせ。その後ろからハチロクを追う小柏は、額に汗を浮かべ、ハチロクのテールに食らいつく。

 

 

 「(もう待てねえ…!!親父、そろそろ行ってもいいだろ!?)」

 

 「(ピリピリと伝わってくる感じがある…!!何かが来る!!)」

 

 

 

 

 

 「仕掛けるのはこの先の33コーナーだ!!」

 

 

 我慢の限界を超えた小柏は、父から教わった作戦を次に差し掛かる33コーナーで使うと決め。ハチロクが33コーナーのヘアピンに差し掛かったところで、小柏は車を90度近く傾ける。

 

 

 ここ(・・)だ!!」

 

 「なっ!?」

 

 

 なんと小柏はSW20を90度近く傾け、コーナーの段差を飛び越え。それを目の当たりにした拓海は口を大きく開けては衝撃を受ける。

 SW20は段差を飛び出ては車体が一瞬浮き上がり、そのまま勢いを付けてはハチロクの前に着地してはオーバーテイクし先を突き進んでいく。

 

 

 「(抜かれた…ァ。はそんなのありかよォ!?)」

 

 「(悪く思うなよ…。インベタの更にインは空中に描くラインだ…。高低差の大きいヘアピンカーブだからこそ実現可能な掟破りの地元走りだ!!この勝負勝った!!)」

 

 

 地元スペシャルのインベタの更にインでハチロクを抜いては、勝利を確信したか、小柏はそこから勢いを付けてはいろは坂の下りを駆け下りていく。

 

 

 

 

 いろは坂 頂上

 

 

 「何っ!?SWがインのまたインを突いた!?何だと…ハチロクを抜いたのか!?」

 

 「ハチロクが抜かれた!?」

 

 「地元スペシャル…か」

 

 「ああ、これは難易度以前の問題だ…。タイミングを少しでも間違えれば、車だけじゃなくドライバー自身も無事じゃ済まないからな」

 

 「やったな…小柏の奴…」

 

 

 ハチロクが33コーナーでSW20に抜かれたと清次の携帯に飛び込んできた報告に、啓介が思わず声を上げるが。

 その話を近くで聞いていた涼介、瀬那、京一の三人は小柏が掟破りの地元スペシャルでハチロクを抜いたことに強い関心を示す。

 

 

 

 

 

 いろは坂 下り スタート地点

 

 

 「なんだって…SWがハチロクを抜いた!?えっ、33コーナーでか…!?おい、凄いバトルになってきたぞ…」

 

 「あんなヘアピンでどうやって…?」

 

 

 拓海が抜かれた情報は、タケル達が待ち構えているスタート地点にも届き。その話を無線で聞いたギャラリーが騒ぎ立てる。

 

 

 「おい、聞いたか…」

 

 「キツイぞ…。このバトル…」

 

 「ああ…。拓海ィ…!!」

 

 

 池谷達も拓海が抜かれたと耳にするや、焦りを募らせ。イツキに至っては涙目になりながら拓海のことを心配する様だ。

 しかし、その中でただ一人、桐生修だけがこうなるとわかりきっては、平然としていた。

 

 

 「カイの奴、あそこで勝負を仕掛けて来たか…。おそらく藤原は今頃頭ん中がパニックになってるだろうな…」

 

 「修兄、さっきからずっと気になってたんだけど、修兄が言うインベタの更にインって何なのか、教えてよ…」

 

 「そうだな。もう隠す必要はないんだし、教えてやるよ。インベタの更にインってのは、通常のインベタよりもさらに内側を攻めるラインのことを言ってな。いろは坂のような高低差の大きいヘアピンの段差を上手く利用して車体を深くイン側に落とし込み、最短距離で抜けていく…地元ならではの荒技なんだよ」

 

 「ええっ!?そんなやり方でインを突くの!?」

 

 「お前がそう驚くのも無理はねえよ。何せ、ヘアピンの段差を飛び越えるなんざ、危なっかし過ぎるからな…」

 

 

 修からいろは坂特有の地元走りである『インベタの更にイン』について聞いていくや、タケルは口を大きく開けては啞然としたまま修を見つめる。

 

 

 「タケル…。あんたがそこまで驚くってことは、そんなに凄い技なの?」

 

 「いや、凄いなんてもんじゃないよ…。いろは坂のヘアピンにある段差をわざと飛び越えて、最短距離でカットするなんて、下手に着地をミスしたら、車だけじゃなく、ドライバー自身もただでは済まないんだよ…。そんな命がけのラインを走るなんて、あの小柏って人、僕の想像が付かない走りをやってのけるなんて凄過ぎるよ…」

 

 

 タケルの話を聞いては、遥香も口を大きく開けては啞然とし、三人は拓海達が走っている方向を眺めては、バトルの行方を見ていく。

 

 

 

 

 

 

 「(くっ…負ける!!このままじゃ…負ける!!)」

 

 

 小柏が33コーナーでインベタの更にインに攻め込んだのを目の当たりにしては、動揺した拓海だが、すぐに冷静さを取り戻すと、先頭を駆け抜けるSW20の後ろを攻め込んでいく。

 しかし、SW20は次のヘアピンも先程と同じ、インベタの更にインを突いては段差をジャンプしては先を進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いろは坂 頂上

 

 

 「予想はどうだ、兄貴?」

 

 「残りのヘアピンの数は11…。勝負はまだわからない…」

 

 「どういう意味だ、涼介?」

 

 

 涼介がノートパソコンを操作しては、画面に映し出されるいろは坂のコースを注視しながら、まだ拓海が負けたと決まったと決まったわけではないように言っては、理由を話す。

 

 

 「京一。お前の言う通りの展開になった…。しかし、仕掛けが早過ぎたと思わないか?」

 

 「確かにな。仕掛けを早く出してしまえば、相手を精神的ダメージから立ち直る余裕を与えることになるからな…。おそらく拓海は、すぐに冷静さを取り戻してはSWのケツに食いついてるに決まってるよ…」

 

 「!!」

 

 

 涼介の言うことを瀬那が嚙み砕いては京一に話し、京一は意外なところを突かれては驚きを見せる。

 

 

 

 

 

 「(このままでは、差が開く一方だ…!!)」

 

 

 拓海と小柏のバトルは更に白熱した展開を繰り広げる。

 小柏のSW20が37コーナーのヘアピンを再度ジャンプしては最短距離をカットし、ハチロクがブレーキングドリフトでコーナーを横切り、その後に続く。

 

 

 「(ちっ…なんて奴だ…。よしっ、もう一丁行くか!!)」

 

 

 小柏はそこから更に差を広げようと、再びヘアピンを曲がる寸前で車体を傾けては段差をジャンプし、最短距離をカットしては先を行こうとしたその時、

 

 

 「行けえ!!」

 

 

 なんと拓海は、小柏の走りを模倣したかのようにヘアピンをジャンプしては飛び越え、上手く着地してはその差を縮めた。

 

 

 「(なんて奴だ…!!一発でジャンプをクリアしていきやがった…!!まるで峠センスの塊みてえな奴だぜ…!!けど、一度俺を前に出したらノーチャンスだ!!俺はこのままゴールまで突っ走る!!)」

 

 

 自分の切り札を模倣された上に、完璧に決められては動揺する小柏だが、それでも余裕が残っていたのか、すぐに姿勢を直しては突き進む。

 

 

 

 

 

 群馬県 渋川市 居酒屋『たかはし』

 

 

 「絶対に防げない走行ラインだとォ?」

 

 「ああ…」

 

 「どうしてそれを拓海に教えなかったんだよ?」

 

 「そりゃあ教えたところで、そのラインを防ぐ術がないからだろ…。地元に精通している人でなきゃ、どうにもならないしね」

 

 

 拓海が小柏とバトルをしている中、渋川市の居酒屋では文太が祐一と哲二の三人でカウンターに腰を下ろしては酒を交わし。文太がおちょこを口に入れる横で、祐一が焼き鳥のねぎまを手に持ちながら尋ねるが、その反対側に座る哲二がコップにビールを注ぎながら、いろは坂を知り尽くした者でなければ防ぎようがないと祐一に言う。

 

 

 「いろは坂は下がっていくと、最後に橋とトンネルがあるだろ?」

 

 「ああ…」

 

 「勝負掛けるなら、その最後のポイントしかないぞって拓海に言ったが…。そこに差し掛かる時、絶対にお前が後ろにいる筈だからって…。あいつ…、ピンと来ない顔してたからな…。今頃意味分かってるかな…」

 

 「そう言うからには、拓海君に抜き方のアドバイスはしたのか?」

 

 「一応な…」

 

 

 文太はおちょこに日本酒を注ぎ、一息に飲み干してから話を続ける。

 

 

 「もし俺の言ったことを理解できていれば…、抜き返せる可能性は50%くらいある」

 

 「なんだよ…。たったの50%しかないのかよォ…。少ねえなァ…」

 

 「当然だ。全力で逃げる相手がいるんだ。残りの50%を手繰り寄せるのは運だ、相手の100%を狂わせるような何か(・・)が起きれば…勝機はある!!」

 

 

 自分の教えたことを拓海がキチンとやっていたのなら、半分の確率で勝てるかもしれないと文太は言い切ると、残りの半分を運に頼るしか他にないと、酒を飲みながら二人に話していくのだった。




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