活動報告欄に、タケルの今後の展開について載せましたので、見てください。
いろは坂でのバトルから数日後のある日の夕方。
拓海とイツキはバイトに励んでいたものの、冬が間近に迫るこの時期においての外仕事は、イツキにとっては苦痛になる他なかった。
「はぁ~…。うぉ~今日は冷えるなァ…。拓海~ほかほかカイロ持ってねえか?」
「ねえよ。そんなもん…」
イツキが手に息を吹きかけては温めようと試みるが、一向に温まらず。体をブルブルと震わせるしかなく。
イツキのすぐ後ろにいた拓海は、寒さを気にしないまま、慣れた手付きで洗い終えたタオルを計量器の横の棚に入れる。
「ヤダな、寒いのは…。からっ風吹くしさ。拓海、お前は卒業したらどうするつもりだ?」
「卒業…っか…」
「そうだよ…大学に行くつもりはねえんだろ?」
「まあな」
「専門学校っとか行く気か?」
「それは…」
「まだ決めてないならさ、俺と一緒にここへ就職しねえか?」
「ここへ?」
進路を決め兼ねている拓海に、イツキがバイトしてるスタンドで働き続けてみないか呼びかける。拓海はきょとんとする。
「俺さ…店長に頼んで、四月からここの正社員にしてもらおうと思ってんだけどさァ…。なぁ、お前もそうしろよ」
「う~ん…」
「ボーっとしてる内に時間はドンドン過ぎて行くんだぜ!!」
スタンドで一緒に働くよう拓海に呼びかけるイツキ。だが拓海は、イツキからの熱い押しに押されては返事に困る他なかった。
そこに一台の車が入ってくるや、イツキは応対しようと前に出るが。その車がタケルのスイスポだと分かるや、態度が変わる。
「いらっしゃいませ…なんだお前かよ。紛らわしいぜ、ったく…」
「イツキ、僕が来たからってその態度はいただけないよ…。とりあえず、ハイオク満タンね」
「いいぜ、ハイオク満タン入りまーす!!」
イツキがタケルの乗ってきたスイスポにハイオクを給油するが、給油している途中でイツキは先程の話をタケルに振る。
「なぁタケル、お前、群馬に残るって言ってたよな…。高校を出た後、どこへ行くか考えてるのか?」
「いや、まだ考えてはいないけど…とりあえず社会人になって、自分で稼げるようにならないと…」
「そっか…。なんなら、俺達と一緒にここで働いてみないか?池谷先輩もいるし、話が合う人がいて悪く無いだろ…」
「おいイツキ、俺はまだ何も…」
「悪いけど、それはパスするよ。ガソリンスタンドの仕事がキツいことは知っているし。自分に合った仕事を、探してみたいんだ…」
イツキからの誘いを断ったタケルは、給油を終えたスイスポに乗ってスタンドを後にし。それを見送ったイツキはぼやく。
「ったく…あいつも拓海も、堅実すぎんだよな」
数日後 秋名湖 畔
この日、タケルは結衣を連れて秋名湖を訪れ。畔の前に立っては、一緒に湖を眺めている。
ムードに包まれる中、結衣が秘めた思いを告げる。
「えっ?群馬を離れるって…」
「うん…、自分の視野を広げたくて、来年の春に引っ越すことしたの…。ごめんね…。急にこんな話したりして」
結衣は来年の春に引っ越すことをタケルに言う。
群馬を離れ、色々経験したいと打ち明かすが。言ってすぐさま申し訳なさそうにする。
しかしタケルは、そのことを話した結衣に対し、優しく微笑む。
「全然ガッカリしてないよ。女の子なら一度は親元を離れてみたいって思うのは当然だし、結衣さんがそう決めたなら、僕が止める理由なんてないよ」
「…タケル君」
「で、どこに行くかはもう決まってるの?東京とかだと会いに行くのは大変だけど、無理してでも会いに行くよ」
「ううん、私が引っ越すのは埼玉よ。親戚が埼玉に住んでいて、居候させてもらって、専門学校に通うつもりなの」
「そっか、埼玉なら一時間近く飛ばせば、すぐ行ける距離だし。いつでも会えるね」
結衣が来年には埼玉に引っ越すと聞いてはホッと一息つくタケル。この先、結衣と会えないでいたら、どうしようか悩みかねていた機運も不遇に終わり。結衣が少し照れくさそうに笑うと、ある質問を投げかける。
「タケル君、前にプロになりたいって言ってたよね。どうやってプロになろうとしてるの?」
「う〜ん…プロになるって言っても、誰もがそう簡単に慣れるものじゃないんだ…。大抵、レーシングチームのオーディションを受けて合格するか、腕を見込まれてスカウトを受けるかの二択しかないからね…」
「そうなんだ…プロのドライバーになるにはかなり道のりが厳しいんだね」
「ああ。だからこうして、走り続けて腕を磨いてるんだけど…。僕みたいな高校で二輪始めて、四輪に転向したばかりの走り屋は、どうしても目を向けてもらいにくいんだよね…」
プロになることが、どれ程難しいのか結衣に説明したタケルは、今のままだと到底プロになれないと言っていくしかなかった。
「だったら、高橋先生に相談してみるのはどう?緒美から聞いた話だと、高橋先生はプロのチームからも誘われてるみたいだし、高橋先生を伝ってタケル君のことを話してもらうってのはどうかしら?」
「それは難しい話だなぁ…。仮に涼介さんが僕を推薦してくれたとしても、結局はドライバーの実力が物をいう世界だから、そこで結果を出せなきゃ迷惑を掛けてしまうだけだよ…」
「そっか、私、いいアイディアだと思ったんだけど…ごめんね、変なこと言っちゃって」
「ううん、ありがとう。結衣さんが心配してくれて嬉しいよ。僕もまだ完全に諦めてるわけじゃない。ただ、自分の力で少しずつ実績を積んでいきたいんだ」
「タケル君らしいね…。自分の力で進むなんて、ますます惚れちゃいそう…」
「そ、そう言われるとなんか、照れ臭くなるよ…」
結衣から褒められるや、照れ臭そうに顔を赤くするタケル。
二人が甘い雰囲気に包まれていってる中、
『そんなの嫌だ!!』
「「!?」」
突然の叫び声に、二人は声のした方向を見た。
そこには拓海となつきが湖の畔に立って言い争いをしているようでいた。
「タケル君、あっちに拓海君となつきがいるよ…。私達と同じ目的で来たのかしら?」
「拓海の奴、ようやっと茂木さんと仲直りしたみたいだけど…。何か揉めてるみたいだし、ちょっと様子を見てこようか…」
「ええ、でも…拓海君となつきが仲直りしたって、どういうこと?」
「ゔっ…ま、まぁ…。そのことはおいておくとして、とりあえず…二人がいる方に行ってみようか…」
拓海となつきの間に何があったか問い詰められるが、なつきが裏で中年の男性と会っていたことを話すわけにもいかないので、適当にはぐらかし。
タケルは結衣の手を軽く引いて、拓海達の元へと向かっていった。
「最後まで諦めない…。絶対に拓海君と仲直りする…」
「……」
拓海との関係を取り戻したいと、なつきは真剣な眼差しを向けるが。拓海は目を見開いたまま、なつきの前で立ち尽くし。核心を突く質問をする。
「一つ聞きたいんだけど…。お前、結構モテるし…誰かと付き合いなら…いくらでも見つかるだろ…!!お前らしくないよ…。何で俺なわけ…!?」
「…何でって、理由なんてないよ…」
そこからなつきは目に涙を浮かべながら、胸の内に秘めた思いを拓海に吐き出す。
「好きだからに決まってるでしょ!!」
「……!!」
自分のことを心の底から好きだと言われた拓海は言葉を失い。なつきの瞳を見つめ返した。
「やぁ、拓海。こんなところで会うなんて奇遇だね…」
「久しぶりね…拓海君。なつきも元気してた?」
「タケル…それに結衣さんも…。ここへ来てたのか…」
「まあね。それよりお前、茂木さんと一緒にいるってことは、無事に仲直りできたの?」
「べ、別に仲直りしたとか…そんなんじゃねえよ…。ただ、相談に乗って欲しいって言われたから、こうして一緒に来ただけで…」
「そうかなぁ…?もし本当だとして、お前が茂木さんと一緒にここへ来たりしない筈だけど…」
「……」
タケルからの質問に、拓海はぎこちない返事をするが、その様子からして、ある程度関係が戻ったとタケルは察する。
結衣も拓海達を見ていっては何を思い付いたか、二人に話しかける。
「ねえ、もしよかったら二人も私達と一緒にどう?これからタケル君とカラオケに行く予定なんだけど、拓海君やなつきも一緒に歌わない?」
「え?そんな話、一度もしてな…いででっ!!」
タケルが慌てて口を挟もうとするが、結衣が後ろから脇腹を軽く抓り。微笑みながら続ける。
「私達、来年の春にはもう、別々の道へ進むでしょ?だから、今ある時間を大切に過ごしたいから、最後の思い出作りとして、一緒に歌いましょう♪」
結衣は拓海達を誘っては、一緒に歌わないかと積極的に声を掛けていく。彼女なりに二人を気遣っての行動ではあるが、拓海は結衣からの誘いに対し、言葉を返す。
「折角、誘ってくれたのはありがたいけど、俺…今日金持ってきてねえから…カラオケに行けねえわ」
「え…」
金欠を理由に、誘いを断った拓海は、すぐ傍に停めてあるハチロクに歩み寄る。乗り込もうとする寸前、タケル達のいる方に顔を向け、短く言う。
「そういうことだから…。俺はここで帰るよ…。ここへ来たのも茂木と話をするだけだったし、用が済んだから、ここらで上がらせてもらうよ。じゃあな、タケル、結衣さん」
ブォオオオン
素っ気なく返事をしていった拓海は、横になつきを乗せ。
二人が乗るハチロクは唸るエンジン音を吹かしていきながら、タケル達の前を走り去っては湖畔の道を遠ざかっていった。
「……」
「あいつ…。結衣さんが気を利かせては誘ったっていうのに、断るのかよ…。まあ、今の拓海の様子じゃ…暫くそっとしておいてやるしかないか…」
タケルが拓海に愚痴っていくも、結衣はムッとした顔をタケルに向けては言う。
「タケル君…。二人も行っちゃったし、私達だけでいきましょう…」
「へっ?行くってどこへ…」
「決まってるでしょ。カラオケへ行って思う存分歌いましょう…。二人が来られないのは残念だけど…折角だから、二人で楽しもう」
「わ、わかった…。じゃあ…今から行くとしますか」
タケルは結衣をスイスポに乗せては秋名湖を後にしようとエンジンをかけるが、空からひらひらと白いものが舞い落ちてきては、それを手にかざす。
「雪だ…。もう、振り出してきたんだ…」
「本当だ…。このタイミングで降ってくるなんて、なんかロマンチックね…」
「うん…」
二人はしばらく無言で、フロントガラスに落ちる雪を眺めていた。
結衣の横顔が、街灯の柔らかな光に照らされ。タケルは小さく息を吐き、心の中でそっと呟いた。
「(…結衣さんと過ごせる時間は、もう後僅か…。残された時間を、大切にしないと…)」
彼女と過ごせるこの時を大切にしていきたいと思ったか、タケルはアクセルを緩め、スピードをいつもよりゆっくりと、秋名の下りを駆け下りて行き。
スイスポのライトが、降りしきる雪を優しく照らしていくのであった。
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