拓海達と秋名湖で別れた後、タケルは結衣と二人でカラオケにいっては盛大に楽しみ。
一日を満喫して家に帰ってくると、政志が家の玄関先でタバコを蒸しながら、タケルの帰りを待っていたのだ。
「タケル、やっと帰ってきたか…」
「おじさん…?どうしてうちに?」
「何、丁度、雪がチラついてはひと振りしそうになってるだろ、念の為、スタッドレスとチェーンを用意するよう伝えように来たんだよ」
「へっ、まだ雪が降り積もってないのに、もうタイヤを替えないといけないの?」
「そりゃあお前、早目に準備しとかねえと、車が雪で滑って慌てる羽目になるからな。念の為、業者に冬用タイヤを注文してやったから、届いたらすぐに車を工場に持ってくることだ」
「はーい…」
タイヤをスタッドレスに履き替えるよう政志から促され、タケルは軽く返事を返すが、政志は呆れざまに話す。
「一応、言っておくが…雪が振り積もった道路は至る箇所が凍結して、軽く走らせただけで簡単に滑っちまうからな…。お前さんのスイスポはFFだから、下手に速度を出さなければ滑る心配はねえが、くれぐれも調子こいて車を走らせては、タイヤを滑らせるんじゃねえぞ」
「それくらい分かってるよ…。スタッドレスが来たらすぐに連絡してよね」
「おう、俺はまだ仕事が残ってるからな…。ちゃんと大人の言うことは聞いとけよ…」
政志はそう言い残すと、軽く手を上げて去っていき。
タケルは、玄関の扉を開けて中に入ろうとするが、ズボンのポケットに入れていた携帯に着信が鳴り出す。
ピリリリリ
「ん?誰からだろ…。あ、茂木さんからだ…」
電話の相手は、先程まで拓海と一緒にいた茂木なつきからで、電話に出ようとボタンを押して耳に当てる。
「もしもし…」
『あ、タケル君?…ごめんね、急に電話して…』
「いいよ、別に…。で、僕に何の用があって電話したの?」
『うん…。実は一つ、タケル君にお願いしたいことがあって、連絡したんだけど…いいかな?』
「お願い?」
『タケル君、拓海君が働いてるスタンドの人と知り合いなんだよね。それで…、タケル君の口から、スタンドの人にちょっとお願いをして欲しいんだけど…』
「…わかった。店長には僕から話してみるよ。で、何をお願いしたいか、聞かせてくれる?」
なつきの頼みを聞き入れるタケルではあるが。
なつきは何をお願いするのであろうか…。
今季初の雪が降った翌日。
一晩で完全に溶けてしまった雪の影響で、いつもの寒い日常に戻ったが、拓海達はいつものようにバイトに励む。
「池谷、ちょっといいか…」
「何すか店長」
「もうすぐバイト希望の高校生が面接に来ることになってんだけどな…」
「えっ、そんなの募集してたんですかァ?」
寝耳に水だったか、池谷はバイトの面接に来る子がいたことに意外そうにするも、祐一がそのことについて訳を話す。
「いや…募集はしてないんだけど、その子を紹介したタケルが言うに、やる気があって熱心な子だそうだ…」
「タケルが…?」
「まぁ…。昨日、わざわざ俺のところに来て頭下げるくらいだし…。試しにしばらく使ってみるから…。お前、色々と教えてやってくれ」
「は…あ」
タケルの推薦もあってか、祐一はその高校生を試しに使ってみると言っては、池谷にその子の世話係を命ずる。
そして、数分後に面接予定の子が来たその時、拓海達はその高校生を見ては意外そうにする
「あれ?」
「茂木…」
面接に来る子がいると聞かされた拓海達の元にやってきたのが、まさかのなつきであり。
なつきは拓海と目が合うと、真剣な眼差しを向ける。
「なんだよ…」
「別に拓海君に会いにきたわけじゃないもーん」
「えっ」
「すみませーん、斎藤丈瑠君の紹介で来た茂木といいますけど…」
「タケルの紹介って…まさか…!?」
この時拓海は、タケルが推薦した女の子がなつきであることに気付き。ぎょっと目を見開かせながら、複雑な気持ちに駆られるのだった。
「…というわけで、よろしくお願いしまーす」
「は…はい。こ…こちらこそ…」
スタンドの制服に着替えたなつきが、拓海達の前に立ち、自己紹介をする。なつきを前にしたイツキと池谷は一瞬で頬を赤らめ、デレデレする。
「とりあえず、始めはお客さんの車の窓拭きをやってもらうか…。説明するからちょっと来て」
「はい」
祐一が仕事について教えると言ってはなつきを連れて、拓海達の前を離れ。
イツキと池谷は目にうれし涙を浮かべながら感想を口にする。
「いいもんだな、女っ気のある職場っていうのも…」
「枯れ木に花がパッと咲いたような…」
「あんな可愛い子を紹介してくれたタケルに、後でガッツリ礼を言わねえとな…」
「ですよね。俺、生まれて初めてあいつに感謝するとは思わなかったすよォ…」
「なんか…よくわかんねー。なんでタケルは、こんなことしてくれたんだよ…」
男所帯のスタンドで、なつきと一緒に働けることにイツキ達は嬉しそうに涙を流すが、拓海はなつきがスタンドで働くことにあまり気乗りしないでいた。
「やっほー茂木さん。遊びに来たよ〜」
なつきが池谷に仕事を教わりながら働いてる最中、タケルがスイスポに乗ってスタンドにやってくると。なつきは車に近づき、タケルに挨拶する。
「タケル君…昨日は色々とありがとね。おかげでスムーズに決まったよ」
「いやいや、別に構わないよ。茂木さんに頼まれたら断るわけにはいかないし」
なつきは照れ臭そうに笑ってはタケルに感謝を告げ。タケルはそこから続けて話す。
「にしても、茂木さんの口からスタンドで働きたいから、雇ってくれるよう店長にお願いしてって頼まれた時は驚いたよ…」
「でも、タケル君が推薦してくれたおかげで、拓海君と一緒に働けるなんて…なんか運命みたいだよね?」
「そうかな?僕からすると、意図的に拓海と同じスタンドを選んだように思えるけど…」
タケルがなつきと話をする横で、拓海がバキュームクリーナーを吹きながら、二人をチラ見する。
口ではなつきのことを遠ざける拓海だが、なつきがタケルと親しげに話していく様子にデジャヴを感じる。
「……」
「どうした、拓海。手が止まってるぞ」
「あ…いや、何でもないです」
「そうか。お前と彼女に何があったか知らんが、バイトしている間はしっかりしておくんだぞ」
池谷に声を掛けられ、慌てて意識を戻す拓海だが、なつきのことが気になっていたか、あまり集中できずにいた。
この日の仕事を終えたイツキ達は、いつものファミレスに寄ってはテーブルを囲い。
池谷は、前に座る健二に、なつきとスタンドで働けることに感激するかのように話す。
「やっぱいいもんだよなー。女の子がいると…」
「いいっすよねーなつきちゃんは」
「お客さん受けもいいし…、つまんない仕事もみょーにウキウキして張り合いが出るよ」
「お前さあ…今の言葉、真子ちゃんが聞いたら、絶対ただじゃ済まねえぞ」
健二が呆れざまにため息をついては、池谷の話を聞いていくのだが、気になることがあったか二人に質問する。
「けどよーその子、拓海の彼女なんだろ?人の彼女じゃいくら可愛くてもつまんねーじゃん」
「そんなことねーよォ。スタンドで働いてる時のなつきちゃんは誰の彼女でもないよォ。な、イツキ?」
「ええ、そうっすよねェ…。なつきちゃんは俺達のアイドルですよォ…」
「……」
二人して、なつきと一緒に働いてるのを自慢気に語る姿に、健二はゲンナリするが。なつきについて話を続ける。
「でもなー何でこんな時期にスタンドなんかでバイトするのかなー。その子、高三だろ…?今が一番気楽に遊んでいたいだろうに…」
「俺らだって、高三ですよォ」
「いや、お前ら三人…貧乏な走り屋小僧だからな。バイトぐらいやんないとガソリン買えないだろ」
健二は現役の高校生である三人(拓海・タケル・イツキ)は金銭的に余裕がないように言うと、イツキは不満気な顔をしては悪かっすねと皮肉げに呟く。
「今時の女子高生がやるバイトじゃないんだよな…。タケルみたいに旅館でバイトした方がメシもでるし、温泉にも入れたりすることもできるから、そっちの方が余っ程マシな気がするよな…」
「言われてみるとそうだな…。ガソリンスタンドの仕事は寒いし手も荒れるから、あまり向かないのに、何故あんなにやれるのか不思議だよなー」
三人はなつきがどうして、ガソリンスタンドでのバイトに積極的なのか疑問を持つが。その理由が拓海にあると気付かないでいた。
渋川市 学校
「拓海〜。今日も相変わらず眠たそうな顔してるね」
なつきがスタンドで働き始めて数日後。
学校の廊下を一人で歩いていた拓海に、後ろからタケルが声を掛けると。拓海は目つきを変えてはタケルに近づき。誰から見ても不機嫌だと分かる表情を見せる。
「お前…。何、余計なことをしてくれたんだよ」
「へ?僕…拓海の気に触るようなことしたか?」
「惚けんなよ。お前が茂木をスタンドで働かせるよう、店長に口添えしただろ。おかげでこっちは最悪な気分なんだよ…」
「ああ、そういうことね。一応言っておくけど、僕は茂木さんに頼まれて店長にお願いしただけで…、別に拓海に嫌がらせをするつもりでやったんじゃないよ」
「くっ…!!」
なつきと一緒に働く羽目になったのを拓海は腹立たくするが、タケルは白々しく返す。二人が険悪なムードに包まれているにも関わらず、親しげに声を掛けてくる人物がいた。
「拓海くーん」
二人が話してる横で、なつきが声を掛けては拓海に呼びかける。
そこからなつきが二人の間に加わる形で話をし出す。
「あのさー24日と25日バイト入ってるでしょー。あたしもそこ入るんだよー一緒だよねー。世の中、クリスマスで浮かれまくってる時に…、せっせとバイトだなんて、あたしらってなんて健気なんでしょー」
「(…絶対、拓海と一緒になるよう、調整しただけなのに、わざとらしいよ茂木さん…)」
「お前さ…。本当に続ける気なのか今のバイト」
「えっ?」
拓海と同じシフトになったことに、嬉しそうに話すなつきを、タケルが呆れながら見ていくが。拓海は冷めた目を向け言い放つ。
「なんかさ…らしくないと思うけど、スタンドのバイトってお前が思ってるよか、ずっとキツいんだぞ…。お前がそんなに無理することないじゃん…。なんか凄い無理してる気がして、見てらんないよ」
「おい拓海、いくら茂木さんに忠告する為とはいえ、その言い方は…」
拓海の発言に気が振れたか、タケルが慌てて拓海を止めようとするも、拓海に散々言われたなつきは、ムキになって言い返した。
「なつき、辞めないよ…!!制服だって気に入ってるし、働くのだって楽しいもん。拓海君なんて…、なつきのこと何もわかってないよォ」
そう言ってぷいっと首を振って二人の元を離れてしまうなつきを、拓海達を呆然と見送っていくしかなく。結果的になつきを怒られせてしまうのだった。
「(あちゃあ〜二人が一緒になれる機会を作った僕が言うのもなんだけど…。二人が元通りの関係になるには、かなり時間を食いそうな気がするよ…)」
拓海となつきが元の関係に戻るのに、どれ程時間が掛かるのか。タケルは頭を悩ませる他ないのだった。
秋名山 夜
夜の9時半頃。雪が降り積もった秋名の下りを、イツキはスタッドレスに履き替えたハチゴーで攻めていた。助手席には池谷が相乗りしするが、イツキの掛け声にウンザリしていた。
「どりゃああ」
イツキは掛け声を出しながらコーナーに進入したが、ステアリングを切るタイミングが遅くれたか。ハチゴーは思うように曲がらずに、車体が滑り出し、路肩に乗り上がるのだった。
「あれっ、全然曲がんねー」
「だから言ったろ。雪道は難しいって。もっとデリケートにやんねーと。スピード出さなくてもいいから…、早めにじわっと切って、サイド引いてみな…」
池谷が溜息をついては、雪道を攻めるのが如何に難しいのかを語る。そこからイツキにアドバイスをしていきながら練習に付き合い。もう一度チャレンジしたイツキが、スピードを落としてコーナーに進入する。
「おおっ。ホントだやったーっ。こんな低いスピードでドリフトできたーあれ?」
ハチゴーのリアが雪を滑り、綺麗にドリフトするが、カウンターを入れるが遅れてしまい、車体が流れてしまった。
「面白れぇーっ。難しいけどマジで面白れーっ!!これなら俺にもドリフトできそうだよォー」
「そうだな。車を壊す心配なしにガンガン、タイヤ滑らせられるからな。その分スピードは出せないけど」
「ヤバくて30キロ以上は出す気がしないっすよォ…。どこへ吹っ飛んでいくかわかんねーもん。こんなんじゃ、いくらあの二人でも、雪の上で車をかっ飛ばすわけにはいかないだろーな」
「それでも、俺らよりは飛ばすだろーけどな…。あいつらのことだから…60とか70は出しちゃうかもな…」
「よーしっ。雪の上でビシビシ、ドリフトの特訓するぞォー。拓海とタケルの背中が見えてきたような気がしますよ俺!!」
ドリフトをすることができて調子づいたか、イツキは雪道で練習を重ねて二人に追いつこうと躍起になっていくのだった。
午前4時頃
スタッドレスに履き替えたスイスポを運転するタケルは、秋名湖のホテルで夜勤を終えた遥香を乗せ、雪の降る秋名の下りを慎重に走っていた。
「タケル…。冬用タイヤに替えたとはいえ、少しスピードを出し過ぎてない?」
「そんなことないよ…。今でも60か70で走ってるけど、一応これでも抑えてる方だよ」
「それのどこが抑えてるのよ…。どう考えたって出し過ぎだから、もう少し落としなさい」
「はーい…」
横乗りする遥香に窘められたタケルは渋々アクセルを緩めた。
雪道は路面が凍結していて、ほんの少しのアクセルワークでフロントが滑りやすく。ライトが照らす白い雪が、静かに舞い落ちては視界の悪い峠を、セーブしながら走らせるのである。
「ん?」
タケルがバックミラー越しに確認し、ヘッドライトをチラつかせながらこっちに近づく車に気付くや。車を端に寄せては道を譲る。
「どうしたのタケル?あんたにしては、珍しく道を譲るわね」
「いや、後ろからヤケにスピードを出してる車が来てるみたいだから少し気になってね…」
「?」
タケルの言ってることが何なのか遥香は分からないでいたが、後ろを振り返ったその時、
猛スピードで走ってきたその車は、スイスポの横を猛スピードで抜いていくと、雪を大きく巻き上げ、目の前のコーナーに減速もせずに突っ込んでいく。
カァアアアン
「あれって…拓海君の車だよね…」
「やっぱり…。こんな吹雪の中で平気で飛ばす奴なんて、あいつしか考えられないよ」
二人が乗るスイスポを抜いていったのは、拓海のハチロクだった。ハチロクはコーナー手前で、フルブレーキングを掛け、リアを傾けて滑らせては、ブレーキングドリフトで一気に曲がり、そのまま勢いに乗って吹雪の中へ消えていくのであった。
「…ねえ、拓海君。何キロ出してたか、わかる?」
「多分…100キロ以上は出てたと思うよ…。ただでさえ、吹雪で視界が悪く、路面も滑りやすい筈なのに、あいつの頭の中はどうなってるんだ?」
悪天候など意に介さず、まるでスキーをするように車を滑らせていく拓海の走りを目の当たりにしたタケルは、思わず息を飲んだ。
拓海の技量の高さと、恐れ知らずの度胸の強さに、ただ圧倒されるばかりであった。
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