頭文字D 峠の弾丸   作:ペンギン太郎

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ACT.9 頂上対決

 数時間後 秋名山 5連続ヘアピン

 

 

 「ごめんねタケル。交流戦を終えて疲れてるのに迎えに来てもらって」

 

 「全然平気さ。車を運転してるのは僕だけどスイスポは名義上は姉ちゃんのだからこれくらいお安い御用だしね」

 

 

 秋名にて交流戦を終えたタケルは遥香を迎えに行ってはナビシートに乗せては帰宅し、タイヤが垂れている為スピードを落とし安全運転で秋名の峠を走っていく。

 

 

 「あれ?あそこ、車が止まってるみたいだわ」

 

 「え?もう交流戦は終わったっていうのにまだここに残ってる人がいたんだ」

 

 

 ハチロクが抜いたであろう5連続ヘアピンのコーナーにてヘッドライトを照らしては停車しており、それを躱しては通り過ぎようとしたが止まっている車が高橋兄弟のRX-7だとわかるやその場でブレーキを踏んでは車を停める。

 

 

 「どうしたのタケル?あそこにいる人達とは知り合いなの?」

 

 「そうだよ。あそこで止まっている人とさっきまでバトルしてたんだ」

 

 「え?じゃあ、あの二人がタケルの云う高橋兄弟なのね…。うわぁ~あんなにイケメンで走りもプロ級だなんて素敵だわ」

 

 「見るのはそっちかよ。まぁいいや、ちょっくら高橋兄弟と話してくるから中で待っといてくれる?」

 

 「いいわよ。でもこの辺りはもう真っ暗だから早く済ましてよね」

 

 

 車内に姉を残しては高橋兄弟のところへ向かい、二人に軽く挨拶してはここにいた理由を尋ねる。

 

 

 「ん?なんだお前もまだ秋名に残ってたのか?」

 

 「僕は秋名湖のホテルで働いてる姉を迎えにここを通っただけですよ。それよりもどうしてお二人はここに?」

 

 「俺達はハチロクがどうやって啓介のFDをこのヘアピンで抜いたのか検証をしに来ただけだ」

 

 「そういや実況の話だとここで拓海に抜かれたと言ってましたね。その話、詳しく聞かせてもらってもいいですか?」

 

 

 目の前で負かされた啓介がいるにも関わらずどの辺で抜かれたのか聞き始め、啓介はチッと舌打ちしては自身が抜かれたポイントを案内する。

 

 

 「この右だよ…。どうしてもわからねぇ…。インベタのハチロクが俺のFDよりも速いスピードで曲がれるなんて…。思い出してもゾッとするよ…あいつは本物の幽霊かもしれねーぜ…」

 

 「そんなわけないじゃないすか。拓海がやってみせた技にはきっと仕掛けがありますよ啓介さん」

 

 

 自分が何故ここで抜かれてしまったのかわからずハチロクは幽霊ではないかと二人に投げかけ。涼介はその話を聞いては結論を導き出す。

 

 

 「啓介。わかったぜ謎が…」

 

 「なんだと?」

 

 「お前が何故抜かれたか…。そのわけを教えてやろうか」

 

 

 涼介は仕掛けに気付いては啓介に説明をする。

 

 

 「これを使ったんだ。ハチロクのドライバーは」

 

 「?」

 

 「わかんねーか?溝だよ溝…」

 

 「まさか…ハチロクはタイヤを溝にハメてはこのヘアピンを抜けたってことですか?」

 

 

 涼介は道路の溝を足で指しては説明するも、啓介は理解できないからかきょとんとしては疑問を浮かべ。タケルは涼介の言っていることがわかったのかその答えを述べる。

 

 

 「その通りだ。排水用の側溝にイン側のタイヤを落として引っ掛けるようにして遠心力に対抗するのさ…。これならば確かにタイヤのグリップ以上のコーナリングフォースを得ることも理論的には可能なことだ…」

 

 「つまり拓海は俗に言う“溝落とし”を使ってここを抜けきったっと言いたいのですね。でもその技は実践するってそう簡単じゃないかと」

 

 「確かに、あまりにも単純明快でバカバカしい思いつきだが…。いきなりやろうとしても絶対に成功しないだろうな危険すぎて…。おそらくあいつは普段からこんなことも練習してるんだろう。余程この秋名を走り込んでる奴だ…」

 

 

 「……くっ!!」

 

 

 「クソッタレがぁっ!!」

 

 

 「うわぁ…めちゃくちゃ荒れてますねあの人…」

 

 

 啓介はすぐ近くのガードレールに寄るや強烈な蹴りを入れては八つ当たりしかなかった。

 

 

 「こんなことが起こるから峠は面白いぜつくづく…。久々に俺が熱くなれる標的(ターゲット)に出会えた気がするな。来週予定してた妙義山遠征は延期だ。まず秋名に完全勝利するまでその先はない。あのハチロク、そしてお前の相手は俺がやる!!」

 

 「(うわぁ…僕と拓海は高橋涼介に目つけられちゃったか…。まぁその方が面白くなってくるしこれはこれでいいかもね)」

 

 

 この時。タケルはとんでもない男を敵に回したなと思いつつもこれから先、面白い展開になることに期待しつつあるのであった。

 

 

 

 

 渋川市 某ガソリンスタンド

 

 「いやーもう朝からいろんな奴に同じ事何回聞かれたかわかんねーよ…。『昨日のハチロクとスイスポ何者だ?』ってさー」

 

 「俺も随分聞かれたなー。高橋啓介を負かしたお前らの噂は凄い勢いで広まってるぞ」

 

 

 交流戦が明けてからの翌日、スタンドには池谷達は勿論、タケルもグループに混ざっては昨日のことを話していた。

 

 

 「あははっ。あの時勝てたのは偶然ですからそこまで言わなくても」

 

 「そう言ってる割にはお前、めちゃくちゃ嬉しそうな顔をしてるじゃねえか」

 

 「それになぁ。昨日の交流戦でタケルのスイスポの走ってる姿がまるで弾丸みたいな走りをしてたからか、今じゃ『秋名の弾丸』と呼ばれては注目されてるみたいだぞ」

 

 「おおっ!!そんなカッコいい渾名で呼ばれてるのですか!?」

 

 「くぅ〜いいなぁタケルは。秋名の弾丸なんていい名前付けられてよぉー」

 

 「スイスポはラリーで活躍しては“黄色い弾丸”と呼ばれてたからな。それにあやかって秋名の弾丸という異名を付けられるのも納得だな」

 

 

 池谷が言うようにスイスポはスイフト・スーパー1600という名前でJWRC(ジュニアラリー選手権)に参戦しては数々の好成績を収めており。今では走り屋が乗り回す程人気の車になっている。

 

 

 「俺調子に乗ってあのハチロクとスイスポはスピードスターズの秘密兵器だって皆に蒸しまくったからなー。何とかしてお前らをスピードスターズに入れないと後々恥かくかなー」

 

 「池谷先輩それなら俺に任してくださいよー。なんたって俺は拓海とマブダチですからねー言う事聞かせますよー」

 

 「本当だろーなーイツキ」

 

 「小学校の頃からの付き合いですからねーあいつの弱点も色々握ってることだしー。その代わり俺のことも入れてくださいね。スピードスターズに」

 

 

 イツキが拓海をチームに入れる代わりに自分もスピードスターズに入れてくれないかと池谷に頼む。

 

 

 「拓海が入ってくれるなら絶対イツキも入れてやるよー」

 

 「ラッキー交渉成立!!」

 

 「良かったねイツキ」

 

 「けどお前車どうすんだ?タケルは自分の車があるからいいけどよ」

 

 「良くぞ聞いてくれました。俺はもう決心しましたよー。親父に泣きついて保証人になってもらってローンでハチロク買いますよ!!」

 

 「そこは自分で溜めたお金で買うんじゃないんだ…」

 

 

 肝心の車の購入は親任せだと堂々と言うイツキにツッコミを入れるタケル。

 かくいうタケルも車は政志から譲り受けたもので名義上は姉の名前で登録してあるのでイツキとは然程変わらないのである。

 

 

 「拓海がパンダトレノなら俺は赤か黒のレビン探して…!!いつか秋名最速のハチロクコンビと呼ばれるようになりますよォ!!」

 

 「いつのことやら…」

 

 「イツキが拓海と同じレベルに達するには10年は掛かるんじゃないかなぁ」

 

 

 イツキが独特なポーズをしては興奮するもそれを見ては呆れるのであった。

 

 

 「それでタケル。お前はどうするんだ?」

 

 「う〜ん。池谷さんのチームに入るってのも悪くはないですけど、僕としてはどこにも属さずフリーで走りたいですので申し訳ありませんがお断りさせていただきますね」

 

 「そうか。それは残念だったな」

 

 

 タケルがスピードスターズに加入してくれないのを残念がる池谷。だが同じ秋名の走り屋として活動はしていくと言うのでそれに関しては嬉しく思うのであった。

 

 

 「それはそうと。拓海ん家のハチロクはありゃーまともなハチロクじゃないぜ」

 

 「そうだよなーなんたって350馬力のFDより速かったんだからなー。よっぽど凄いチューンしてあるんだろーなー」

 

 「そうでもないですよ。昨日スタート時の走りを見た限りじゃ拓海のハチロクは大したチューニングはしてなかったみたいですよ」

 

 「そうなのかタケル?」

 

 「えぇ、僕の知り合いに拓海のハチロクを整備してる人がいまして、その人から聞いた話だと拓海のハチロクはエンジンに手を加えず足回りを重点的に弄ってると言ってましたよ。車はエンジンを弄るのもそうですが足を重点的に仕上げた方がより速く走れますからね」

 

 「へぇ〜そうだったんだ。俺らはタイヤかエンジンしか見てなかったからな。勉強になるよ」

 

 「それならさ一度でいいからナビシート乗せてもらって全開で秋名の下りを攻めて貰いたいと思わないか?」

 

 「オオッそれ言えてる!!」

 

 「乗ってみてぇ〜!!」

 

 「(…この人達自分が恐ろしいことを言ってるのに気付いていないのか?FDを抜かすくらいだからめちゃくちゃヤバいことになるのは想像に固くないっていうのに…)」

 

 

 拓海のハチロクに相乗りするのがどれほど危険なことなのかタケルは察するも、池谷達はハチロクに乗せてもらおうと話を盛り上げるのだった。

 

 

 「きっと一気に未体験ゾーンまで登り詰めるぜ」

 

 「想像もつかねーなーどんな過激なジェットコースターよりも凄いと思うなー」

 

 「(ダメだこりゃ。未体験どころか臨死体験をする羽目になるかもしれないね…)」

 

 

 最早完全に拓海のハチロクに相乗りする方向へと向かっていってしまい、タケルは池谷達がろくな目に合わないだろうなと遠い目をするのだった。

 

 

 

 

 

 秋名山 夜

 

 

 日が沈んでは鎮まりかえってる秋名の峠を一台の車がロータリーエンジンを蒸しては走っていた。

 

 

 「高橋涼介だ!!ついに出てきたぞレッドサンズのナンバー1が」

 

 「何しに来たんだろ!?秋名に…」

 

 「弟の仇討ちだろそれ以外は考えられないけどな…」

 

 「冷静沈着な理論派でどんなテクニックも使いこなしどんな状況でも速くどんな相手でも負けない…。名実ともに赤城最速の男高橋涼介」

 

 「昨日の今日でもう出てくるとは…」

 

 「下りでハチロクにやられたことが余程腹に据えかねているってことか?」

 

 

 ギャラリーが高橋涼介の登場に驚いていたその矢先、一台の黒い車がFCに負けない程のスピードを出しては先程のギャラリーの前を駆け抜ける。

 

 

 「アイツは…?」

 

 「知らない 秋名では見たことない車だ…!!」

 

 「黒のR32GT-R!!ゾっとするような存在感があるな…」

 

 「誰だァ!?あいつぅ」

 

 

 黒のR32はストレートで突き進んでは前を走っているFC3Sに追いつこうとしていた。

 

 

 「ストレートの速い車が追ってくる。少し様子を見てみるか」

 

 

 涼介はスピードを少し落としては後ろを走っている車を確認するや後方の車種を判別する。

 

 

 「(R32 GT-R!!)」

 

 「白いFCか。次はコイツだ!」

 

 「(どれ程のものか試してみるか。……ならやってやろうじゃないか。80%程度でかっ飛ばすぜ、ついて来れるもんなら、ついて来てみな!!)」

 

 「そう来るかそう来なくっちゃな!!」

 

 

 涼介はギアを上げては更に前へと進んでいき、R32に乗っている中里はバトルを挑まれたとわかっては目の前を走るFCを追い抜こうと涼介と同じようにギアを上げては突き進む。

 

 

 「(中々まともだぜ……。ちゃんとついてくるじゃないか)」

 

 「(ついて行けるぜ……。あの高橋涼介に…!?いくらドライバーが上手くても、所詮は型遅れのFCじゃこの辺が限界ってわけか!?)」

 

 

 中里は涼介に手を抜かれていることに気付かず、自分が乗っているR32が旧型のFCに勝っていると勘違いしては追いかけていき勝負は頂上に着くまで続のであった。

 

 

 

 

 

 秋名山 旧料金所跡

 

 

 秋名山の頂上に辿り着いた二人は向かい合うかのように車を停めては対峙する。

 

 

 「俺は高橋涼介。レッドサンズのメンバーだ。そっちの名前は?」

 

 「中里毅。ナイトキッズという妙義山のチームにいるんだ」

 

 「妙義の中里……?。そうか。名前くらいは聞いてるよ。妙義の走り屋が、秋名の峠で何をしているんだ?」

 

 「人のことは言えないだろ。自分だって赤城の走り屋だろうが。お互いに同じ目的で来てんじゃねーのかなー。昨日見たあのハチロク…あいつに会いたくてさ」

 

 「中里お前はハチロクに噛み付こうとしてるみたいだがこれ程噛み合わない取り合わせも珍しいぜ、どんなステージで勝負しようってんだい?ハチロク相手にチューンした380馬力のR32で…」

 

 「何…?何故俺の車のエンジンのパワーを知ってんだ?」

 

 

 涼介がR32の車の馬力を当てたことに中里は驚愕するも涼介は話を続ける。

 

 

 「やる前から結果はわかりきってるぜ上りじゃハチロクがGT-Rに歯が立たないだろうし…。逆に下りならどうあがいてもあのハチロクには勝てっこないぜ」

 

 「なんだとォ?俺のR32が下りでハチロクに負けるってのか…」

 

 

 涼介からハチロクに敵わないと言われ怒りを露わにする中里。

 

 

 「そうだ…。気を悪くするなよ俺は思った通りのことを言っているだけだ」

 

 「なんだよやけに弱気じゃねぇかよ。弟が負けたからってそこまで怖じ気つくこともないだろうが相手はたかがハチロクじゃねーか」

 

 「一度あいつとやり合えばわかるだろう…。奴に勝てるのは俺だけさ」

 

 

 涼介にバカにされてると思ったのか中里は興奮しては言い返す。

 

 

 「ふざけんなよ。そこまで言われちゃあ意地でも引き下がれねぇな…。あのハチロクに勝って今言ったことを取り消させてやる。いい気になっているのも今のうちだけだぜ。妙義にはナイトキッズの中里がいるってことを忘れるなよ。ロータリーなんざR32の敵じゃねぇってことを思い知らせてやる!!」

 

 

 そうして中里はR32に乗っては暗闇の中へと走り去っていき。その場には涼介だけが一人佇むのだった。

 

 

 

 

 

 翌日 渋川市 ガソリンスタンド

 

 

 「「ありがとうございました」」

 

 

 拓海がバイトをしているガソリンスタンドでは今日も元気よく挨拶しては利用客を見送る。

 客がいなくなってはこの場にいるのは拓海の他、同級生のイツキと池谷と祐一、それでもってガソリンを入れにここに来たタケルの5人である。

 

 

 「俺が池谷先輩のチームにですかぁ……!!」

 

 「なぁ頼むよ是非入ってくれよ」

 

 「絶対入れよな拓海。お前とセットで俺も入れてもらえることになってんだからな!!」

 

 「イツキ入るかどうかは拓海の自由なんだから無理強いするのはよくないよ」

 

 

 拓海にスピードスターズに入るよう池谷は頼み込み。イツキは自分もチームに入りたいからと偉そうに言っては拓海に入るよう強気に迫る。

 

 

 「入るのは別にいいんだけど……。先輩のチームって走り屋じゃないですかァ。俺別に走り屋ってわけじゃないから……」

 

 「何言ってんだよお前が走り屋でなかったら誰が走り屋だよー。お前ほど速い奴なんて秋名には一人もいないんだぜ」

 

 「池谷さんの言うとおりだよ。ちょっとくらい自信持ったっていいんじゃないか」

 

 「そうかなぁ…」

 

 

 拓海はボケてはいるが、池谷とタケルの言うことはあながち間違ってもいない。

 

 

 「なぁ拓海、俺タケルから聞いたんだけど…。お前5年前から秋名湖へ豆腐の配達してたってホントか?」

 

 「まーな」

 

 「知らなかったぞそんなの。黙ってるなんて水臭い奴だなー」

 

 「いやイツキ、その話は他所に知れ渡ったらヤバいんだから隠すのは当然だろ」

 

 「そうだよなー5年前って言えば俺達中学一年だから…バリバリの無免許運転だぜー」

 

 

 二人が言うように拓海は無免許運転をしていたので決して褒められたことではない。

 

 

 「どんな気分だった?中ボーが無免で運転するなんて…」

 

 「始めて一ヶ月くらいで運転することのキンチョー感は抜けますよ。朝早いから誰にも会わないし…。そりゃ始めの頃はカーブは怖かったけど…半年もすれば怖さも全く無くなったなー。スピードを出していくと自然とタイヤが滑るから…。思い通りに滑らせたり止めたりできるようになるまでもう半年…。毎日やってるとすべることの緊張感なんてすぐ麻痺するから…。仕方ないから滑りながらどれだけガードレールに近づけるか試すようになって…」

 

 「普通やるかァそんな危ないこと」

 

 「別に危ないことだなんて思ったことないけどな…。調子いい時は一センチくらいまで寄れるぜ」

 

 「いや、お前は平気で言ってるけどさ拓海。やるだけでもめちゃくちゃ危険なんだよ…」

 

 「そういう風にして楽しいこと無理に見つけないとつまんなくてしょうがないんだ仕事の手伝いなんて…。だから俺運転上手くなりたいなんて思ったこと一度もないんだ…。ただかったりーから早く帰りたくて豆腐が載っていない下りは思いっきりすっ飛ばして帰るんだよ」

 

 「(なるほどね。そういう事情じゃ車を好きになれないのも当然か)」

 

 「なあ拓海一つ聞いていいか?豆腐を載せてる時はどうやって走るんだ。あんまり飛ばすと豆腐が傷む筈だけど?」

 

 「上りは飛ばせないよあんまり…。親父が紙コップに水を入れてそれを缶ホルダー置くんだ見やすいところに…。この水さえ溢さないように走れば急いでも豆腐は壊れないって言うんですよ」

 

 「缶ホルダーに水入りの紙コップだぁ?それがどう役に立つっていうんだよ?」

 

 「それはですね池谷さん。一見何の変哲もないことに見えますけどこれが思いの外凄く難しいんですよ。僕も教わって試しにやったら思いの外苦戦しましたしね」

 

 「初めはノロノロ走ってもバシバシ溢れちゃって…。ブレーキ・ハンドル・ギアアクセルどれを取ってもちょっと荒いとすぐ車がガクガク揺れて水が溢れちゃうから…。紙コップの中で水を回せって親父はよく言ってました…。それができるようになるまで3年掛かったけど」

 

 「コップの中で…水を回す…?なんだそれ」 

 

 「表面張力で膨らんだ水面がコップの縁ギリギリのところをグルリと半周するんですよカーブ一つ抜ける度に。そうやって縁ギリギリのところで水を回しながら上っていくんです。コップの水を溢さないで上りのドリフトができるまでは5年掛かりました…それに比べたらコップのない下りのドリフトなんて楽すぎて眠くなっちゃいますよ」

 

 「なにぃ…コップの水を溢さないドリフトォ!?吹かすなよ拓海ィ冗談だろそんなのォ!?」

 

 「できますよ」

 

 

 池谷は拓海が水を零さずにドリフトができることに驚いては冗談じゃないかと聞くも拓海はケロッとした顔をしてはできると言う。

 

 

 「(おいおい僕でさえまだ水を溢さないよう走るので精一杯なのに、そこから更にドリフトするなんざどんだけ凄いことをしでかすんだよ拓海は…)」

 

 「(予め聞いてるとはいえすげーな文太…。お前とんでもないニュータイプの走り屋を作り上げようとしてるぞォ…。コイツはただの(やま)の走り屋で終わるようなスケールじゃねぇぞォ…)」

 

 

 祐一は以前文太がスタンドに寄った際聞いてはいたが拓海が自分が思ってた以上の実力までのし上がってることに驚く。

 

 

 「拓海、頼みがある…!!俺をナビシートに乗せて秋名の下りを攻めてみてくれないか!?」

 

 「えっ俺の横に?なんでですか?そんなもん別に面白いことないと思いますよ」

 

 「そうでもないよ。実際に拓海が走ってるとこを見てみたいし僕からも頼むよ拓海」

 

 「はぁー」

 

 「てめーっ拓海!!池谷先輩があんなに頼んでんだからもったいぶらないでOKしろよなっ!!」

 

 「いてて…わかったよ離せよイツキ」

 

 

 池谷の頼みに渋るもタケルのフォローとイツキからヘッドロックを掛けられては了承せざるを得なくなった拓海。

 

 

 「俺はいいですけど車をいつも借り出せるとは限らないからー。親父が乗っててもいいって言ったらその時乗せますよー先輩」

 

 「そうか…それなら今晩はどうだ?さっそく聞いてみてくれ」

 

 「はぁー?」

 

 

 そうして今晩は池谷を乗せて走ることになるやお客さんが来ては再び仕事へと戻っていくのだった。




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