『え?なつきが拓海君と同じスタンドでバイトを始めたって?』
「そうなんだよ…。どうしても拓海と一緒に働きたいって茂木さんが言うから、店長にお願いしたんだ…」
クリスマスイブを間近に控えたある日の夜、タケルは結衣と電話で話をし。拓海となつきの近況を教える。
『優しいわね、タケル君って…。あ、そうだ。クリスマスなんだけど…。時間が空いてるから一緒に過ごさない?』
「お、いいね。その日はバイトが夕方までだから、終わったらすぐ迎えに行くよ…。どっか遊びに行こうか」
『ううん…。私、タケル君のお家に行きたいんだけど、いいかしら?』
「へっ?」
結衣がタケルの家へ遊びに行きたいと聞いたタケルは、きょとんとした顔をするが、結衣は続けて言う。
『私達、付き合ってるでしょ。だから一度くらい、タケル君の家に寄ってみたいと思って…』
「僕は構わないけど、姉ちゃんがOKしてくれるかどうか…」
「私は全然構わないよ…」
「ね、姉ちゃん…?」
二人の会話に割って入ってきたのは、姉の遥香で。遥香は電話越しに弟が彼女と親しげに話すのを聞き、ニンマリとしていた。
「だって、タケルが付き合ってる子がどんな子か、あたしも気になるし。ひと目会ってみたいから、家に来てもいいわよ」
「え…そ、そうなの…」
家に入れる許可がもらえたことに意外そうにするも、電話の向こうにいる結衣が少し驚いた声で返した。
『あ、ありがとうございます…。えっと、名前は…』
「遥香よ。うちの弟がいつも世話になってるみたいだけど、その日結衣ちゃんが来るのを楽しみに待ってるわ…」
『は、はい…。よろしくお願いします。遥香さん』
電話越しに結衣が礼を言うと、遥香はふふっと笑みを浮かべながらその場を後にした。
そこからタケルと入れ替わっては話を再開する。
「じゃあ…当日は駅まで迎えに行くから、待っててね」
『うん…。私、何かプレゼントを用意して待ってるから、ちゃんと迎えに来てね』
そう言って別れを告げた後、タケルは電話を切り。
イブが来るのを楽しみにするのだった。
イブ当日。
周りがクリスマスイブで賑わう中、スタンドでバイトをする拓海達の元に、健二の180が入ってきては池谷が声を掛ける。
「イブの夜に暇してる奴もおるもんだなァ…。他にいくとこねえのかよ」
「へへっ。それを言われると…」
健二が頭を掻きながら池谷の言うことを肯定する。
「まぁ、いいじゃねえか…今日はどこに行ってもロンリーには辛くてさ…」
「右を見ても左を見てもカップルだらけですからね…」
一緒に過ごす彼女がおらず、悲しそうに嘆くイツキに健二が共感すると、この場にいる皆にある提案をする。
「こんな日は皆でパーッと美味いもんでも食いに行こーぜ」
「それもいいね。今日は真子ちゃん達も来るって言ってたし、ぱあっとやるか…。お前らはどうするんだ?」
健二の案に乗っかった池谷は、拓海達を誘っては一緒に行かないかと呼びかける。
「勿論行きますよー暇ですしー」
「拓海は?」
「金ないからやめときますよ、俺」
「えぇー!?なんだよー相変わらず付き合い悪いな…」
「なんなら、タケルを呼ぶってのはどうだ?」
「それは難しいと思いますよ。あいつ、今日は彼女が家に来るって言ってましたから…」
「そうか…。タケルは予定があるんか…」
「……」
拓海が誘いを断るや、すぐ傍にいたなつきが疑りながら耳を傾ける。
「そーだ。なつきちゃんも一緒にいかない?」
「えっ。あ…あたしはあのー。家で用事があるので早目に帰んないといけなくて…」
「そうかァー。残念だなー」
なつきも一緒に来れないことに、池谷達は残念そうにするが、誘いに乗ったイツキも含めた三人と後から合流する真子達と共にイブを過ごすことになるのであった。
渋川駅
拓海達がスタンドでイブをどう過ごすか話しているその頃、駅の改札口の近くで、結衣はタケルがタケルが来るのを待っていた。
「遅いな…タケル君…。夕方になったらすぐ迎えに行くって言ってたのに…」
先に待ち合わせ場所に来た結衣は、タケルに渡すプレゼントを片手に、早く来ないかと待つが。辺りには通り過ぎる人ばかりで、いつまでも来ないタケルに、少し不満を見せたその時、
「よぉ、お嬢ちゃん…。一人で何してるんだよ?」
一人で立っている結衣に話しかけたのは、髪を伸ばし、金髪に染め上げては、ガラの悪い大学生風の男が結衣に声を掛けてきた。
「なんですか?私は彼氏が迎えが来るのを待ってるんですけど…」
「おいおい、連れねえこと言ってくれるなよ…。なんなら、俺が代わりに相手してやってもいいぜ」
「…お断りします。私、あなたみたいな感じの悪い人は好きじゃありませんので、構わないでください…」
「んだとォ!?人が優しくしてやってんのに、その態度はいただけねえなァ…!!」
ガラの悪い男の誘いをに断る結衣だが、男は結衣の言うことに腹を立て、苛立ちながら結衣の腕を掴もうとする。
「きゃっ!!止めてください!!」
「いいじゃねえかよ…。俺、これでもこっちのテクはある方なんだ…。どっかやれるとこ連れ込んでは、分からせてやるよ…!!」
男は嫌がる結衣を力尽くで思い知らせようとするが。結衣は、それを振り解こうと必死に抵抗し、男は引き離さないと強引に行く。
「やっべー…。掃除終わらせるのに、時間食っちまった…。早く迎えにいかないと、怒るに違いない…ん?」
バイトを終えたタケルが車を飛ばて駅に向かうと、改札口の近くで、結衣が男に絡まれているのを目撃した。
「結衣さん…!!」
タケルは一瞬で表情を変え、急ブレーキをかけて車を停めた。ドアを勢いよく開け、車から降り。雪の積もる地面を駆け足気味で蹴っては結衣へ駆け出した。
「あの野郎、どこの誰だか知らないけど…一発かましてやる…!!」
結衣を助けようとに躍起になるタケルは、勢いを付けながら近づいていくと、その場で飛び上がった。
「結衣さんを離せ!!」
ドゴォ
「ぐはぁ!!」
タケルの飛び蹴りが男の顔面に炸裂し。男は悲鳴を上げ、雪の上にすっ飛んで倒れ込む。
「タケル君…!!」
「ゆ、結衣さん…?。大丈夫だった…?」
結衣は驚いた顔でタケルを見つめると、すかさず抱きついてきた。急に抱きしめられたタケルは、頬を赤らめて照れ臭そうに頬を掻いた。
「痛ってぇな…!!何しやがる!!」
地面から立ち上がった男は、飛び蹴りを食らってぶちギレた様子で拳を突き立て、反抗しようとする。しかし、タケルと目が合ったその瞬間、手を止めた。
「お、お前…斎藤じゃねえか!?なんでここに…」
「え?…ああっ、御木か…。こっちに帰ってきてたの…?」
「てめぇ、先輩に向かって呼び捨てとは、どういうつもりだ!!」
「呼び捨ても何も…僕はあなたのこと、鼻から敬ってはいませんし、正直、大嫌いですからね」
タケルが御木と呼ぶこの男は、どうやら知り合いだったらしく。その場で見ていっては今にも手を出す状況になる。
「た、タケル君…。この人とはお知り合いなの…?」
「まあね…。この男、御木っていってサッカー部の先輩なんだけど。去年、茂木さんに手を出した上に、弄んだことを自慢してたクズ野郎でね…。それで拓海がぶちギレて、こいつをぶん殴っては、部活を辞めてしまう羽目になったんだ…」
「そうだったの…。見た目だけじゃなく、中身も腐ってるなんて、最低な人ね…」
結衣が顔をしかめては御木を見ていくが、御木はその事が忘れられないでいたのか。忌々しげにタケルを睨む。
「忌々しいことを思い出させんじゃねえよ…!!お前があの時のことをなつきに話したせいで、俺はなつきに振られてしまったんだ…!!藤原の次に会いたくもねえお前とここで会うとは最悪だよ…!!」
「それはこっちの台詞ですよ。あんたの顔は見たくもなかったのに、こんな形で再会するとは思いもしませんでしたからね…。ま、おかげで良い思いはできましたけど…」
タケルは結衣に腕を組まれながら、冷ややかな目で御木を睨みつけていく。御木は顔を歪め、反抗しようとするも、周囲には人集りができ始め。気まずそうに後ずさる。
「くっ…!!覚えてろよ…!!この借りはキッチリ付けさせてもらうからな…!!」
御木は捨て台詞を吐き捨て、近くに停めてあった自分の車に乗り込むと、慌てて逃げ出すように走り去っていった。
「ふぅん…。ST205か。ダサい車に乗っているね…」
タケルは独りでに逃げていった御木に、乗っている車をバカにするのだった。
「タケル君、さっきは助けてくれて、ありがとう…」
「え…いや、なんていうか…ついカッとなって手出してしまったけど。結衣さんが無事で何よりだよ…」
「ふふっ。私を助けてくれた時のタケル君、カッコよかったよ…。目の前で人を蹴ったのに驚いたけど、おかげで酷い目に遭わずに済んだわ」
「ま、まあね…。僕もまさか、イツキ以外にあれをするとは思わなかったし…」
「それはそうと、さっきの人が乗っていった車をダサいって言ったよね。それってどういうこと?」
「ああ、そのまんまの意味だよ。あいつが乗ってたのはST205型のセリカGT-Fourっていって。世界ラリーではランエボやインプに勝てなかった上に、最終的に不正までやらかして、セリカの名に唯一の汚点を残した車なんだ」
「そうなんだ…。車についてはよく知らないけど、いい車じゃないってことだけは確かみたいね」
ST205について軽く話した後、タケルはこの後どうしようか考えるも。結衣は御木に絡まれた時に落としたプレゼントを拾い上げ、悲しそうな顔をする。
「…ああ〜折角作ったプレゼントがボロボロ…。あんなに苦労して作ったのに…」
「あの…。その手に持ってるのは、もしかして…」
「うん…。タケル君にあげる為に私が編んだ手袋が入ってるの…。でも、さっきのことで落として踏みつけられて…」
プレゼントが台無しになってしまったことに結衣が悲しそうに俯くと、タケルは結衣の持つプレゼントをその場で受け取り、すぐさま開けては編み物の手袋を嵌める。
「た、タケル君…。どうして…」
「いいじゃないか。元々僕にくれる物だったんだし。例えボロボロでも、手が温まるし…僕にとってこれ以上素敵なプレゼントはないよ」
「…ありがとう」
タケルに褒められて嬉しかったか、結衣は少し涙を見せながら笑顔を見せるのだった。
「とりあえず、結衣さんが無事でなりよりだし。早速遊びに行くとしますか」
タケルは結衣をスイスポに乗せては駅を出発しては、商店街へと向かっていくのだった。
渋川市 商店街
車を近くの駐車場に停めたタケルは、結衣と並んで賑やかな商店街を散策する。
雪の降る夜の街はカップルで溢れ。イルミネーションがキラキラと輝かせる。
「うわぁ…人がいっぱいだね…」
「そりゃあ、今日はイブだから皆同じことを考えるし。こうも街中が盛り上がるのも当然さ。とりあえず、ケーキでも買って家に戻ろうか…」
「そうね。私、タケル君の家が気になるし、遥香さんにも会ってみたいわ…あれ?」
「どうしたの、結衣さん?」
「あそこにいるのってなつきだよね。…ケーキを買ってるみたい…」
タケルは目を細め、結衣の指差す方向を見ていくと、そこにはなつきが一人で店頭の前に立っては、ケーキを買っていた。
「へぇ〜、相変わらず健気だね、茂木さんも。大方、拓海に渡すつもりなんだろうけど…拓海が何処に住んでるのか、知ってるのかな?」
なつきがクリスマスケーキを買っているところを見ては、なつきの狙いが拓海にあると感づいたか。タケルはケーキを購入し終えたなつきに呼びかける。
「おーい、茂木さ〜ん。こっちこっち」
「え?…あ、タケル君。それに結衣も…二人もケーキを買いにきたの?」
「そうだよ。茂木さんが手に持ってるそれ、拓海と一緒に食べようと思って買ったんだよね?」
「うん…拓海君、最近なつきのことを避けてる気がするし、これ、受け取ってくれるかしら」
「心配ないって。拓海のことだから、ぶっきらぼうな顔をするけど、ちゃんと貰ってくれるよ。なんなら、拓海ん家を教えてあげてもいいよ」
「え、いいの?」
「勿論♪すぐそこの路地を抜けて、右に曲がったところに藤原とうふ店って看板が書いてあるから、行ってすぐに分かると思うよ」
「本当!?…じゃあ、早速行って拓海君にこれ、渡してみるね。タケル君、道を教えてくれてありがとね」
なつきは嬉しそうに礼を言い、タケルが教えた道筋を通って路地の中へと入っていく。なつきと別れたタケルは再び結衣のいる方向に顔を向ける。
「さてと、茂木さんも言ったことだし…僕達もケーキ買って、家に戻ろうか」
「うん…」
なつきが拓海と上手くいくことを願いながら、二人はケーキを買い、それを持ってタケルの家へと向かっていくのであった。
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