頭文字D 峠の弾丸   作:ペンギン太郎

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ACT.107 ホワイトクリスマス 後編

 「あった。絶対ここだよォ、やっと見つけたァ」

 

 

 商店街でタケル達と別れたなつきは、教えてもらった道筋を辿り、拓海の家である藤原とうふ店に辿り着き。

 興奮気味になりながら、店に入ろうとするが。中から一人の男が出てきては、立ち止まる。

 

 

 「冷えてきたな…。ふぅ〜む…この分じゃあ山は雪だな…。ん?」

 

 

 店の中から出てきた拓海の父である文太が、秋名山の方角を見ながらタバコを蒸すや、すぐ近くで立っているなつきに気付くや目を細める。

 

 

 「あ、あのー豆腐…じゃなかった…拓海君の友達なんですけど…」

 

 「ああ、あいつならバイトからまだ帰ってねえけど」

 

 「ええっ!?そうなんですか…。あの〜」

 

 「ん?」

 

 「いえ、いいんです。何でもないです。どうも失礼しました…」

 

 

 拓海がいない今、ここにいても仕方ないと思ったなつきは、反対方向を向いて寂しそうに歩き出すが、落ち込む様子のなつきに思うところがあったか、文太はなつきを呼び止める。

 

 

 「あのさ…あんた。荷物も重そうだし…うちの息子に用があって来たんなら…、直に帰ってくると思うから、上がってお茶でも飲んでなよ」

 

 「えっ、いいんですかぁ」

 

 

 先程までどんよりしていたなつきではあったが、拓海が戻ってくるまでの間、家に上がらせてもらい、文太と二人で拓海の帰りを待つのであった。

 

 

 

 

 

 「…つまんねーな。クリスマスって」

 

 

 一方、拓海はというと。渋川市の商店街にあるクリスマスツリーを見つめながらクリスマスが面白くないように呟いていた。

 

 

 

 

 

 タケル 自宅

 

 

 「ただいま〜」

 

 

 ケーキを買って家に戻っきたタケルが、玄関を開けて上がろうとすると。リビングからエプロンを着た遥香が迎え入れる。

 

 

 「おかえり、タケル。ケーキは買ってきてくれた?」

 

 「勿論。ホールサイズの奴をちゃんと買ってきたから、晩飯の後、皆で食べようか」

 

 

 タケルがケーキの入った箱を見せると、遥香は、タケルの後ろにいる結衣に視線を移す。

 

 

 「いらっしゃい、結衣ちゃん…。今日はご馳走を作ったから、いっぱい食べてってね」

 

 「は、はい…ありがとうございます…」

 

 「ふふっ。ホント、タケルには勿体ないくらい素敵な子ね…修君と付き合っていた頃を思い出すわ」

 

 

 結衣と初対面を果たした遥香は、結衣の顔を見ていきながら褒めていくも、そこから結衣を招き入れては二人に言う。

 

 

 「じゃあ…早速だけど、夕食を食べましょうか。ワインも買ってきたことだし、イブの夜を過ごしましょう」

 

 

 遥香が結衣をリビングに迎え入れ。テーブルには手作りの料理が並べられ。三人はテーブルを囲み、遥香が赤ワインの入ったグラスを片手に持ち、タケルと結衣がソフトドリンクを傾ける。

 

 

 「それじゃあ…メリークリスマス」

 

 

 「「メリークリスマス」」

 

 

 遥香の音頭を皮切りに、三人はグラスを鳴らしてはご馳走に手を付け始め。

 和やかなムードに包まれながら、イブを過ごし始めるのであった。

 

 

 

 

 

 藤原とうふ店

 

 

 「ただいまー。あれっ、誰か来てるのか?」

 

 

 少し寄り道をした後、拓海が自宅に帰ってくると、玄関の靴置き場に見慣れない靴が置いてあることに気付き。そこから戸を開けたその瞬間、

 

 

 パンッ

 

 

 「メリークリスマス!!」

 

 「なんだよ…それ!?」

 

 「…メリークリスマス…」

 

 「親父まで何やってんだよォ!?」

 

 

 目の前で、なつきが文太と一緒にコタツに座りながらクラッカーを鳴らしては拓海にサプライズをし。拓海は突然の出来事に慌てふためくしかないのだった。

 

 

 

 

 

 渋川市 某カラオケ店

 

 

 『メリークリスマス!!いやぁ、楽しいっすねェ!!』

 

 

 タケルと拓海が、それぞれ別の場所でイブの夜を過ごす頃、渋川市の商店街にあるカラオケルームではイツキの掛け声が響き渡り。

 端のソファーに腰を下ろす健二が、シャンパンの入ったカクテルグラスを片手に、ハイテンションな様子のイツキに呆れる。

 

 

 「あいつ、アルコールが入ってるわけでもねえのに…やけにテンション高えな…」

 

 「まあ、今日くらいはいいじゃないの。折角のイブなんだし、楽しみましょう」

 

 「そうもそうだな。…真子ちゃんと沙雪ちゃんがこっちに来てくれなきゃ、俺達三人、寂しい夜を過ごす羽目になってたからな…」

 

 「ええ…。でも、仲のいい友達と一緒に過ごすのも、素敵だと思いますよ…」

 

 

 軽井沢から遊びに来た沙雪が、イブを楽しみましょうと健二に言い。沙雪と一緒に来た真子が池谷の隣に座ってはイブを楽しむ。

 

 

 「ところで、拓海君やタケル君が来てないけど、二人について、何か聞いてない?」

 

 「拓海なら金がないからっつって誘いを断ってな。タケルも彼女が来るっつっては、俺らとは別行動だよ」

 

 「ええ〜っ!!拓海君来てないの…。ガッカリ…」

 

 「まあ、あいつのことだからおそらく、例の彼女と一緒にイブを過ごしてると思うぞ。何せ、あんな可愛いが相手じゃ、そっちを優先するのも当然だしな」

 

 「えっ、拓海君に彼女がいたのですか?」

 

 「ああ、先週からうちにアルバイトしてる子で。名前はなつきちゃんって言うんだが、積極的で愛想良くて、今じゃスタンドには欠かせない存在になってるんだ」

 

 「へぇ〜そうだったの…。拓海君、見かけによらず、ちゃんと彼女作ってたんだね…」

 

 

 拓海に彼女がいたことに意外そうにする真子に対し、沙雪は拓海のプライバシーを聞いて面白がる。

 

 

 「いやーしかし、彼女のいねえ俺が言うのもあれだが、なんかホッとするよ。…ステアリングを握ってる時は超人的な技を繰り出す拓海やタケルも、素に戻ればただの18のガキなんだなって」

 

 「そうだな。なつきちゃんが何を考えて拓海と同じ場所でバイトを始めたか知らんが…。拓海も、その理由ぐらい考えてやってもいいんじゃねえか」

 

 「あいつら、もうすぐ卒業だもんなー。いいよなその時期は…俺らにも思い出あるけど」

 

 「だからこそ、二人には…高校生活最後の冬って奴を大事にしてもらいたいんだよな…。そうでなきゃ、今のイツキみたいに一人寂しい夜を過ごすことになるからな」

 

 

 健二が拓海やタケルを気遣っては二人が今過ごしている時間を大切にするように言い。池谷も健二の言うことに頷く。すると、ムードが悪くなったか、沙雪がその場で立ち上がっては二人に言う。

 

 

 「もう〜二人揃って何辛気臭いこと言ってんのよ。折角のイブなんだし、思いっきり楽しみましょう!!」

 

 「へっ?」

 

 「ほら、次はあたしらが歌う番だし、思う存分歌っては盛り上げていきましょう!!真子、次はあんたも歌うんだから、こっち来なさい!!」

 

 「え、えぇ…」

 

 

 真子にカラオケルームのステージに上がるよう強気に言っては、壇上に上がらせると。マイクを一本渡してはここにいる全員に言う。

 

 

 「じゃあ…今からあたしと真子が一曲歌うから、聞いてね。いい、真子?」

 

 「う、うん…」

 

 「じゃあ聞いてください。あたしと真子のデュエット曲で『NEXT(インパクトブルーの彼方に ED曲)』!!」

 

 

 沙雪の合図で曲が流れ始めるや、二人の歌声がカラオケルームに響き。

 カラオケルーム内は一気に盛り上がっていくのだった。

 

 

 

 

 

 タケル 自宅

 

 

 「…そう。結衣ちゃんは、友達の紹介でうちの弟と出会ったんだ」

 

 「はい。最初会った時は明るくて、優しそうな人なんだなって思いました。でも…走り屋をやってると聞かされた時に、大丈夫なのかなって」

 

 「まあ、結衣ちゃんがそう思うのも当然よね。走り屋って、あまり良い印象を持たれていないもの。あたしもタケルが走り屋をすると聞いた時、正直、不安だったからね」

 

 「…そ、そう言われると、まるで僕が悪いかのような気がするんだけど…」

 

 「今更何言ってるのよ…。こうなることは、わかりきっていたでしょ」

 

 

 ワイングラスを傾けながら結衣の話を聞く遥香は、相槌を打ちながら、優しく聞いていき。結衣の隣に座るタケルもまた、二人の話を聞きながら、少し身を縮める。

 

 

 「でも、こうして走り屋を続けてきたおかげで、タケルも一皮向けて一人の大人になってるし。色んな人と交流して視野も広がったから、結衣ちゃんが思う程、走り屋は悪い人達の集まりじゃないと、言い切れるわ」

 

 「…そう、ですね…」

 

 

 遥香は赤ワインを飲んでほろ酔いになりながらも、二人を見ていきながら話し続ける。

 

 

 「あなた達二人は、来年の春まで時間が有り余っているから…悔いのないように、精一杯楽しみなさい…。あたしだって、修君といっぱい過ごしたかったのに、あたしを置いてどこかへ行っちゃんだもの。少しは待たされる方の気持ちも考えろって言ってやりたいくらいだわ…ぐすっ、修君のバカァ…」

 

 「あ、あの…遥香さん…?なんか、悲しそうな顔をしてますけど…」

 

 「そんなことないわよォ…。あたしは別に悲しくなんか、微塵も思っていないんだから…」

 

 

 

 先程まで優しそうな雰囲気を見せた遥香は、赤ワインを飲み過ぎたからか、顔付きが徐々に変化していっては、今にも泣き出しそうになる。

 

 

 「あ〜あ…。やっぱりこうなったか…」

 

 「え?」

 

 「姉ちゃんは、お酒強い方なんだけど。こうも飲み過ぎると、泣き上戸になってしまうだ。前に、お酒をめちゃくちゃ飲んだ時の姉ちゃんはかなり泣き散らかしてたって、家まで運んでくれた池谷さんが言ってたくらいだからね」

 

 「そうだったの…。私のお父さんも、お酒は強い方なんだけど、ここまで変わる人じゃなかったわ…」

 

 

 タケルは酔っ払ってる遥香を見ては、こうなることをわかりきっていたのか、結衣に説明し。酔っぱらいを相手にしていってはめちゃくちゃに絡まれてしまうのであった。

 

 

 

 

 そうして楽しいひと時は終わりを迎え。時刻は12時を過ぎては日付が変わっていたのだった。

 

 

 「じゃあ結衣さん…。もうそろそろ時間だし、家まで送ってあげるよ」

 

 「え、もうそんな時間なの…」

 

 「だって、このままここにいたら、親が心配するでしょ。今から駅に向かっても電車は走ってないだろうから、僕が結衣さんを車で送る他ないからね」

 

 「そうだね…。もう少しタケル君といる時間を過ごしたかったけど、タケル君がそう言うなら仕方ないわ…」

 

 「んじゃ…。結衣ちゃんを送ってくるから、姉ちゃんは後片付けよろしく…って、ワインを飲み過ぎては、寝てしまってるよ…」

 

 

 結衣を家まで送ることを遥香に伝えようとするが、当の遥香はテーブルの上でうたた寝をしており。それを見たタケルは苦笑する。

 

 

 「この様子じゃ、姉ちゃんはしばらく目覚まさないだろうし、書き置きだけ残して行くとするか」

 

 

 テーブルに伏している遥香に毛布を優しく掛けては、すぐ横にメモを残し。結衣と一緒に自宅を出たタケルは、スイスポに結衣を乗せ、雪が振り積もっていく道を進みながら、高崎へと向かわせた。

 

 

 

 

 

 国道17号線

 

 

 「タケル君…ちょっといい?」

 

 「ん?なんだい、結衣さん…」

 

 「タケル君は高校を卒業しても、群馬に残るんだよね?」

 

 

 タケルがスイスポを運転しながら、結衣と共に高崎へ向かう中で、結衣はタケルの進路について尋ねると、タケルはステアリングを握ったまま、照れ臭そうに答える。

 

 

 「…ここだけの話なんだけど。卒業したら、知り合いの整備工場で働くことになったんだ」

 

 「じゃあ、タケル君は来年から整備士になるってこと?」

 

 「必ずしもそうってわけじゃないけど、整備工場で働けば、車について色々学べるし、働きながら整備士の資格も取れるからね。でもって、そこからダートラやジムカーナに出て、そっからプロを目指そうと思ってるんだ…」

 

 「そう。タケル君は本当にプロを目指してるんだね」

 

 「そりゃあそうさ。プロになる為に必要な技術は勿論、車に関する知識もちゃんと身につけないと、本当の意味でプロになれないからね。結衣さんは、どうなの?」

 

 「私は…埼玉の看護学校に行って、そこで勉強してから群馬の病院で働こうと思ってるの」

 

 「いいじゃないか。ずっと群馬にいるより、外の世界に出て視野を広げるのも悪くないよ」

 

 「それでね、看護学校で勉強して、その合間に車に関わることができるアルバイトに挑戦してみようと思ってるの」

 

 「へ?」

 

 「…だって、…タケル君と出会う前までの私は、車について全然知らなかったから。今のままではいけないと思って…。だから、向こうで何か知るきっかけになるアルバイトを見つけてやってみようと思うの」

 

 「そっか。結衣さんは自分なりに車を知ろうとしてるんだ。その気持ち立派だよ…」

 

 「えへへ…。そうかなぁ…」

 

 

 タケルが結衣のを褒めると、結衣は嬉しそうに笑みを浮かべる。

 そう話している内に高崎に到着し、結衣の自宅前までゆっくりと走っては、辿り着き。二人っきりの時間が終わりを告げる。

 

 

 「着いちゃったね…」 

 

 「うん…今日は本当にありがとう。タケル君と過ごせて、すごく楽しかった」 

 

 タケルは少し名残惜しそうに結衣を見つめるが。結衣も別れるのを惜しむように玄関の前で立ちすくんでいた。

 すると、玄関の扉が開くき、一人の男性が顔を出す。

 

 

 「おかえり、結衣。イブは楽しめたかい?」

 

 「お父さん…」

 

 「ん?タケル君がいるってことは、渋川から送ってくれたのか。うちの娘が迷惑を掛けてすまなかったね」

 

 「い、いえ…。これくらい、別に大したことじゃありませんので…」

 

 

 タケルが、結衣の父である哲治を前にしては緊張するも、哲治は結衣に目を向ける。

 

 

 「結衣…。もう遅い時間帯だから、早く家に入りなさい…。タケル君とは、二人だけで話したいことがあるから」

 

 「わ、わかったわ…」

 

 

 結衣は父の言葉に渋々従い、家の中へと入っていき。哲治はタケルと目を合わせ、静かに語り始める。

 

 

 「僕と妙義であったその後のことは、色々と聞かせてもらってるよ。秋名で涼介君を負かしては、須藤京一や中嶋陸といった強豪を相手にバトルをしてきたってね」

 

 「は、はい…」

 

 「ま、それに関しては色々と小言を言ってやりたいところだけど…。目撃情報だけじゃ君を補導するには証拠が薄いからね。今回は軽い注意だけで留めておくよ」

 

 「す、すみません…」

 

 

 哲治は警察官という立場から、タケルに注意するが。タケルはその場で萎縮し。哲治は少し間を置いて、話を続ける。

 

 

 「君がプロを目指していることは結衣から聞いてるよ。ただでさえ、走り屋に対する視線が厳しい中でよくそんなことが言えるね」

 

 「そ、そうですね…」

 

 「ま、今の世の中。誰もが土屋圭市や織戸学、谷口信輝みたいな峠上がりのプロになれるわけじゃないけど。それでも君がプロを目指すというのなら、少しアドバイスをしてあげるよ」

 

 「アドバイス…でありますか…」

 

 

 哲治は腕を組みながら、真剣な眼差しをタケルに向け。そこからあるひと言を話す。

 

 

 「今、道は雪が積もって路面が凍結してるだろ。なら、その道を思う存分走って、腕を磨きなさい。勿論、人に迷惑を掛けない範囲でね」

 

 「えっ?」

 

 「雪道を走ることはリスクが大きいかもしれないが、そこで得た経験は君に大きな財産になる。路面の変化、車の挙動、限界…すべてが勉強になるはずだ」

 

 「あの、雪道を走り込めって仰ってますが、仮に走り続けたとして、それがどう変わると言うのですか…」

 

 「その答えが知りたければ、自分で走っては考えてみることだ。雪道を走り続けた後で、タイヤを履き替えたら、その違いが分かるかもしれないからね」

 

 「…わかりました。ご教授してくださり、ありがとうございます」

 

 「ああ、雪道で下手に滑らないよう。気を付けて帰るんだぞ」

 

 

 タケルはアドバイスをくれた哲治に一礼すると、結衣の自宅を後にし。

 雪が吹雪く中、スイスポのライトが白い闇を切り裂きながら、雪道を、駆け出していくのであった。




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