頭文字D 峠の弾丸   作:ペンギン太郎

112 / 123
 更新しました。
 峠の弾丸本編もそうですが、試しに書きました外伝作『昴と鈴木』も投稿していますので、もしよろしければそちらもお気に入り登録お願いします。


ACT.108 冬を制する者

 日付が変わってクリスマス当日になった日の深夜、結衣を高崎まで送り届けたタケルは、結衣の父である哲治からもらったアドバイスを胸に、雪道を駆け走っていく。

 

 

 「雪道を走ることは良い経験になる、か…。具体的にどう変わるのか…僕には想像つかないけど。結衣さんのお父さんが言うぐらいだから、きっと何かしらの理由があるに決まってるよ…。とりあえず、自宅に帰ってパーティーの片付けをしないと…」

 

 

 外は雪が吹雪ながら凍結している道路の上を進ませ、哲治が言ったことの意味が何なのか、深く考えながら車を走らせ。遥香が待つであろう自宅に戻ろうと、タケルは車を飛ばすのだった。

 

 

 

 

 

 ガソリンスタンド

 

 

 「「「「あけましておめでとうございます~。今年もよろしくお願いしま〜す!!」」」」

 

 

 「ああ、おめでとう。こちらこそ今年もよろしくな…。正月明けは客が多いから皆、頑張ってくれ」

 

 

 年が明けてから最初のシフトに入った拓海達は、店長の祐一に新年の挨拶をしては、祐一が今年もよろしくと拓海達に返す。

 年明けであるこの時期は群馬に帰省した人が多いので、仕事が忙しくなるぞと、声を掛けるのだった

 

 

 「任せといてくださいよ、店長!!」

 

 「張り切ってるな、イツキ」

 

 「そりゃそうっすよ…。4月からここで、正社員として働くんですから〜」

 

 「4月から毎日イツキと顔を合わせるのか。なんだか嬉しいやら悲しいやらだなァ…」

 

 「よろしくお願いしますよォ、先輩」

 

 

 高校を卒業した後、スタンドで本格的に働くことが決まったイツキはいつも以上に張り切り。それを聞いたなつきがイツキに聞くのである。

 

 

 「イツキくん、ここに就職するの?」

 

 「まーね。俺、車に触ってるの好きだからさ…。スタンドの仕事結構楽しく続けられると思うんだ」

 

 「そっかァ。拓海君やイツキ君もえらいよね…。春からもう社会に出て働くんだね…。なつきもバイト始めてみて思ったんだけど、働いてお金稼ぐことって本当に大変なんだね…」

 

 「いやぁ、なつきちゃんが言う程大したことじゃないよ。俺にとっちゃ、いつもやってることが延長しただけだし…。タケルも、普段世話になってる整備士のおじさんの元で働くって言ってたから、お互いクルマ好きが興じて、今に至るだけだよ」

 

 「ほぅ…。タケルは政志の整備工場で働くことになったのか…。確かにそれなら、車のことをイチから知ることができるし、まさに天職と言ってもいいだろうな」

 

 

 タケルが見習いながらも、整備士として働いていくことになったのをイツキが口にすると、すぐ近くで話を聞いていた祐一も、納得するのだった。

 

 

 「おーい、お客さんだぞー」

 

 「はーい」

 

 「いらっしゃいませーっ」

 

 

 池谷から仕事に集中するよう言われた二人は、仕事モードへと切り替わり。スタンドに来た客の応対をする。

 

 

 

 

 

 群馬サイクルスポーツセンター

 

 

 年明けから数日後。群馬県のみなかみ町に位置する群サイのコース上を、一台の白いセダンが攻め込んでいた。

 

 

 ンバアアアア

 

 

 群サイを駆け巡る白のFD2 シビック・タイプRのステアリングを握るのは、神奈川の走り屋である中嶋陸で。

 陸は、路面が凍結する群サイのコース上を突っ走りながら、タイヤのグリップを確認する。

 

 

 「…フンッ。滑りやすくなった路面を走るなんざ、俺にとって造作もないが…。頼まれたからには、キチンとタイヤの性能をフルに使いきらねえとな…」

 

 

 何故、陸が群サイを走ってるかというと、出資元のタイヤメーカーからの依頼で、試作品のスタッドレスタイヤの走行性能を確かめるのに群サイのコースを走っていたのだ。

 その為、陸はタイヤの感触を掴みながら、コース上の雪道を慣れたように駆け抜けていく。

 

 

 

 

 

 群サイ スタート地点

 

 

 「お疲れ、陸ちゃん…。こんな雪の積もった道を走り切るなんて、流石ね」

 

 

 群サイのスタート地点に戻ってきた陸は、ドライブシートに座ったままヘルメットを外し、息を整えた。そこに、車の外からコートに身を包むクリスが陸に近寄り、差し入れのドリンクを差し出し。陸はそれを受け取ると車の中で飲み干す。

 

 

 「…褒める必要はねえよ。これくらいの雪道を走り切れねえんじゃ、話にならねえからな」

 

 「…相変わらずストイックだね。少しくらい余裕を持ってもいいとあたしは思うわ。で、タイヤの調子はどうだったの?」

 

 「…結果だけで言えば、まあまあってところだな。スノーロードの走破性は申し分ないが、タイヤの食い付きが走り続けていく途中で落ちるのが課題点ってところだ」

 

 「あら、ひとっ走りしただけでそんな細かいところに気付くなんて、やるじゃないの。タイヤもちゃんと使い切ってるし、文句の付けようがないわ」

 

 

 クリスはFD2のタイヤの溝に触れながら、陸のタイヤマネジメントの高さに改めて感心する。だが陸は、それができて当然だと言わんばかりに肩をすくめる。

 

 

 「今更何言ってんだよ。この程度のことなんざ、俺やお前にとっちゃ朝飯前だろ。走り出してから決められた距離を走り終えるまで、タイヤのグリップを余すことなく使い切るよう、訓練してきたからな」

 

 「それもそうね…。そういった練習はRDRSで散々やらされたもの。でも…陸君が言った内容を依頼主であるメーカーにそのまま報告していいのかしら?」

 

 「そうでなきゃ、俺に頼んだ意味がねえだろ。例え試作品だろうが欠点を見つけたからには、改善するのが当たり前なんだからな」

 

 

 任された仕事はキッチリ熟さないといけないからか、陸は走って行く中で見つけた欠点をそのまま伝えると言い。

 車から降り。その場で腕を伸ばしながらあることを聞く。

 

 

 「なぁクリス…。群馬といえば、あいつはどうしてるか聞いてるのか?」

 

 「あいつ?」

 

 「…スイスポに乗った、あのクソガキのことだよ」

 

 「ああ、タケル君のことね…。赤城で玲ちゃんとバトルしてから、ますます頭角を現してるみたいよ。なんでも、いろは坂で秋名のハチロクと一緒に須藤京一を負かしただけに留まらず、陸ちゃんのFD2と同じK20AのDC5にも勝ったと噂に聞いてるわ」

 

 「…そうか、俺と赤城でバトルして無様に散った後、一皮剥けて、腕を上げたか…」

 

 「そうそう…ここに来る途中で面白い話を耳にしたわ。タケル君、近い内に関東エリアの各地を回るらしいわよ」

 

 「…何だと?」

 

 

 タケルが関東周辺を回っていく話に興味を示したか、陸はそのことをクリスに聞くと。クリスが楽しげに笑みを浮かべて話す。

 

 

 「あたしの聞いた話だと、高橋涼介が群馬エリアの走り屋を中心にした県外遠征チームを作ってるそうよ。それでタケル君と秋名のハチロクをチームに加えて、関東エリアを回っていくつもりらしいわ」

 

 「けっ、そんな下らないものを作ってるなんざ、あいつら…どんだけ頭悪いことをしでかそうとしてんだよ」

 

 「いいじゃないの…。関東各地を回って、自分達の実力を知らしめようとする姿勢はあたし、嫌いじゃなくてよ」

 

 

 陸は涼介が進めている県外遠征チーム編成を批判すると、クリスがタケル達をフォローするように言っていく。しかし、峠を攻めることに何かしら思うところがあったか、陸はある人物を引き合いに出して語り出す。

 

 

 「クリス…。お前は気楽げに言ってるが、峠を攻めることが御法度だというのが、まだわからねえのか?過去にレーシングドライバーの土屋圭市が碓氷峠を攻めるシーンを載せたビデオを販売して、ライセンスが剥奪される寸前まで追い込まれたことがあったろ」

 

 「そうだったわね…。許可を取って走ったつもりだったんだけど。結局、問題視されたって聞いてるわ」

 

 「だからこそ、プロとして走るのなら、それぐらいの線引きをしないといけないんだよ。自己満足したいが為に、公道を攻めるあいつらなど、車に興味のない奴からすれば、そこらの暴走族と大差ないからな」

 

 

 陸は峠の走り屋など恐れるに足らないと吐き捨て、飲み終えたドリンクのペットボトルを握り潰しては近くのゴミ箱に投げ捨てると、自分が乗ってきた車へと戻るのであった。

 

 

 

 

 

 赤城 夜

 

 

 雪が次第に振り積もり、路面が白一色となった赤城道路を、一台の車が駆け抜けていく。

 

 

  ブゴアアア

 

 

 赤城道路を果敢に攻めているのは、レッドサンズの高橋啓介が駆るFD2で。啓介はいつものような感覚でタイヤを滑らながらも、涼介が言ったことを脳裏に浮かべる。

 

 

 『路面が凍結する冬だからといって…。暖房の効いた部屋でゴロゴロしてるようじゃ進歩がないぜ、啓介…。スノーロードを走り込め…。ズルズル滑る路面を頭の中を空っぽにして走りまくるだけでいい…』

 

 

 雪道を走るだけで、ドラテクが大きく飛躍するかのように言っていたのを思い出しながら、啓介は更にアクセルを踏み込む。

 

 

 『その効果は春になってハイグリップタイヤに履き替えた時、初めてハッキリと分かる…。感覚が研ぎ澄まされて劇的に洗練された走りができるようになっている筈だ。雪はハンデなんかじゃなく…、最高のトレーニングパートナーなんだ』

 

 『走り屋にオフシーズンはない…。冬を制する者は夏を制する…!!お前がいつか…プロのレーサーになっても…、この言葉を忘れるなよ啓介!!』

 

 

 雪道を走る事が、ドラテクを底上げするのに大きく影響を及ぼしていくとアドバイスした涼介の言葉を、啓介は胸に刻んでは、更に攻め続ける。

 

 

 「(冬を制する者は…、夏を制する…!!あの二人だって、この冬をヌクヌクとサボっちゃいない…。秋名のスノーロードで走り込みをしている筈だ…。負けねーぜ、あいつらには…!!)」

 

 

 自分も負けてられないかのように言っていく啓介は、無我夢中で、赤城の雪道を攻め続けるのだった。

 

 

 

 

 

 秋名山

 

 

 ブォオオオオ

 

 

 啓介が赤城を攻め込んでいるその頃、秋名ではタケルが啓介に合わせるかのようにスイスポを走らせるが、スタッドレスタイヤを履いているスイスポでは、普段通りのやり方が通用しないと嘆く。

 

 

 「う〜ん…。スタッドレスだからか、タイヤの食い付きが悪過ぎる…。これじゃあ、いつも通りの突っ込みができないよ…」

 

 

 スタッドレスタイヤは雪道や凍結路でグリップを稼ぐのに、トレッドが柔らかく作られており、突っ込み重視の攻め方を得意とするタケルにとって、レスポンスが鈍く感じるのもごく当たり前のことであった。

 いつもなら躊躇なく飛び込めるコーナーも、車が外へ逃げようとするのをステアリングで抑え込み。

 同じセクションを繰り返し走りながら、雪道の感覚を覚えようと必死になる。

 

 

 「こういった雪道での攻め方に関しては、拓海に聞いた方がいいかも…しれないけど、あいつのハチロクはFRだしなぁ…。はぁ…マジでどうしたらいいか、わからなくなってきたよ…」

 

 

 拓海のハチロクはFRなのに対し、タケルのスイスポはFFである為、走らせ方は勿論、攻め方が異なるのだ。

 だから、拓海に聞いたとしても参考になるとは限らないので、どう切り出せばいいのか、言葉に詰まってしまう。

 

 

 「…仕方ない。一人で考えていても埒が明かないし、もう少し走り込みをしてから、帰るとするか…」

 

 

 自分一人では雪道を攻めるのに、どう答えを導いたらいいか分からないと呟いたタケルは、やれるだけのことをやってから帰ろうと口にするが、上り方面から聞き慣れたエンジン音とタイヤを滑らせる音が近づいてくるのだった。

 

 

 ブォオオオン

 

 

 「…おっ、丁度今、豆腐の配達を終えたところか。ここに来たのもあれだし、話だけでもしておこうっと…」

 

 

 車のエンジン音を耳にしたタケルは、拓海のハチロクがこっちに近づいては降りてくるに違いないと判断し。拓海に自分がいるのを知らせようと車を路肩に停め、ハザードを点灯させて合図を送ると。上り方面から、ハチロクが雪道をいつも通りと同じ感覚でドリフトしながら下りてくる。

 

 

 「…?」

 

 

 ハチロクを走らせていた拓海は、タケルの合図に気が付くと、車をスイスポの後ろに来ては車を停め。中から拓海が降りてはタケルに近寄る。

 

 

 「どうしたんだよ、合図なんか送りやがって…」

 

 「悪い、ちょっと聞きたいことがあって呼んだんだ。…この雪道で、普段に近い感覚で走るにはどうしたらいいかってね」

 

 「…何だよそれ?」

 

 

 拓海はタケルの言っていることについて、疑問を浮かべるが、タケルは話を切り出す。

 

 

 「拓海…。さっきの雪道でのドリフトを見せてもらったよ。どうすれば、ああやってタイヤを滑らせられるのか、教えてくれる?」

 

 「…どうして俺に聞くんだよ。他の奴じゃダメなのか?」

 

 「だって…拓海は走りにくい雪道をまるでスケートリンク場の上を滑ってる様な感じでタイヤを滑らせてたじゃないか。あれだけの走りをするにはどうしたらいいのか、こっちが聞きたいくらいだよ」

 

 

 拓海が普段と変わらない感覚で、雪道を走ることがどうしてできるのか、それを聞いていこうとするタケルではあるが、拓海は軽く息を吐いてこう返す。

 

 

 「お前がどう思ってるかは知らないけど、タイヤなんて滑らせずに済むなら滑らせない方がいいよ。ドリフトだって、別に滑らせることが目的じゃなくて仕方なしに滑ってるだけだし…」

 

 「それって、ただ単に…無理にスライドさせてるわけじゃなくて、必要最低限しか滑らしてないってこと?」

 

 「まぁ…そんなとこかな」

 

 「…なるほどね。よぉくわかったよ…。拓海の考えてることは、今の僕にはまだちゃんと理解しきれないってことがね」

 

 

 拓海の走りの本質は、普通では考えられない為、今の自分には理解できないと察したか、タケルは悔しそうに笑い、拓海とその場で別れるのであった。




 評価・感想をお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。