今回の話の最後に好きな軽自動車についてアンケートを載せましたので、もし宜しければアンケートにご協力ください。
群サイで因縁の再会をするタケルと陸。
両者は鋭い目線を交わしながら、睨み合うのだった。
「まさかお前とこんな形で再会するとはな。去年、赤城でコテンパンにやられておきながら、まだ峠を攻めてるのか、斎藤…」
「そういうお前こそ、どうしてここにいるんだよ…」
二人が火花を散らし、今にも喧嘩を勃発しそうな勢いを見せるが。そこにクリスが間に割って入り、二人を落ち着かせる。
「はいはい、そこまでにしておきなさい…。今日は二人とも喧嘩をしに来たんじゃないでしょ…」
「…ちっ」
クリスに抑えられながら陸が引き下がると、クリスはタケル達の方に視線を向け、再会の挨拶をする。
「久しぶり、タケル君…。あなたがこの場にいるってことは…、軽自動車を走らせに来たのね?」
「ええ、僕は瀬名さんからお借りしたカプチーノを練習しに群サイに来たんですよ…。最も、涼介さんからカプチーノに乗るよう言われて乗ってるだけなんですけどね」
「まあ、そうだったの…。あの高橋涼介があなたにFRを勧めるだなんて…、あの人、見るところはちゃんと見てるわね」
タケルから、涼介の指示でカプチーノに乗ってると聞いたクリスは、手を口元にやって納得し。涼介の考えを分かりきったかのように呟くのだった。
「タケル君…この人達とは知り合いなの?」
「うん。今、僕が話しているのがクリスさんって言ってね。そっちにいる中嶋と同じ箱根の走り屋で、玲さんとも知り合いなんだ…」
「えっ、玲さんのお知り合い?前に玲さんから、オネエの走り屋がいるって聞いたことがあるけど…もしかしてこの人がそうなの?」
「ええ、そうよ。あたし、クリスって言うの。よろしくね、お嬢さん」
「よ、よろしくお願いします…」
結衣が戸惑いながら頭を下げると、クリスは優しく微笑んで返してた。
その様子を横目に、陸がタケルへ突っかかるように口を出す。
「それはそうと斎藤…。お前、あの高橋涼介が作ってる県外遠征チームに加わるそうだな…」
「えっ?そうだけど、どうしてお前がそのことを知ってるんだ。このことは、まだ公になってすらいないのに…」
「それはね、あたしが陸ちゃんに教えてあげたの。高橋涼介は群馬エリアだけじゃなく、県外の走り屋の間でもそれなりに名が通ってる男だからね」
「なるほど、そういうことか…」
涼介が進めている県外遠征チームについて、陸が知ってたことにタケルは意外そうにするも、クリスが自分から話したのを伝えるや、納得する。
「だがな、お前があの高橋涼介と組もうが大して変わりはしねえよ…。群馬の走り屋なんざ、俺やクリスは愚か、神奈川という激戦区を知りつくしている奴からすれば、そこらの走り屋と大差ないからな」
「なんだとっ!?」
陸が涼介は愚か、県外遠征チームを作ったとしても無意味であると小馬鹿にするように言うが。タケルはその発言に頭がきたか、陸に怒りの眼差しを向けるのである。
「ちょっと、さっきからなんなんですか!?走る場所が違うだけで、どうしてそこまで見下すんですか…!!」
「結衣ちゃん。陸ちゃんの言い方は問題あるけど、強ち間違ってないのよ…」
「えっ…」
結衣がタケルと同じように反発すると、クリスが結衣を宥めながら、陸が言っていることについて理由を話す。
「あたし達がホームにしている神奈川は、箱根という走り屋の聖地があるだけじゃなく、近くには富士スピードウェイという、関東で一番レベルが高いサーキットがあるの。そこで本格的に走ってきたあたし達から見ると、群馬や栃木で走ってる走り屋は…正直、甘過ぎるわけなのよ…」
「そんな…」
クリスが陸の言っていることを肯定していくのに、結衣が不満気な顔をするが。陸はタケルに対し、更に言うのだった。
「そういうわけだから…。今度高橋涼介に会ったとしたら、こう伝えとくことだな…。お前らが進めているのは、バカがやろうとしていることの延長線だってな」
「…この野郎!!」
「そこの君達。さっきから何をしているんだ!!これ以上問題を起こすと言うのなら、出て行ってもらうぞ!!」
陸の発言に頭がきたか、タケルが思わず胸倉を掴みかけるが、その場面を目撃した係員から注意され。タケルは渋々引き下がる。
「タケル君…落ち着いて…。ここには他の人達もいるんだから…」
「陸ちゃんもよ…。今の発言はあたしでも見過ごせないわ…。群馬の走り屋が徒党を組んで、関東各地を攻め込むのは…褒められたことじゃないけど、その威勢だけは認めるものがあってよ」
タケルと陸はそれぞれ結衣とクリスに宥められ、落ち着くが。これ以上言い争っても意味がないと判断したか、タケルは踵を返し、結衣に促すように言葉を返す。
「わかったよ…。ここで言い争っても仕方ないし、もう一度カプチーノを走らせてみるよ」
「タケル君…」
「それより、どうして結衣さんが中嶋と言い争っていたの?」
「うん…実はね。軽自動車のことであの人が酷いことを言うから、つい言い返してしまったの」
「なるほどね。中嶋が軽自動車を侮辱したから、それを言い返したんだ」
「そうなの。私からしたら、ここにある車はどれも可愛らしくて面白そうなのに…。それを酷く言われるのが耐えられなくて…」
「まあ、中嶋の暴言は今に始まったことじゃないからあれだけど、結衣さんの言うこともわかるよ…。軽自動車は、パワーこそ抑えられてるけど、その分コントロールしやすくて、誰にでも扱い易いのが唯一の強みだからね」
タケルは結衣に対し、軽自動車の良さを語りながらフォローしていくと。そこから陸に対し、趣旨返しとでも言うように嫌味を言う。
「それにさ、あいつは軽自動車がダサいって言ってるけど…今、日本で一番売れてる軽自動車がなんなのかわかる?」
「え…?それって…N-BOXじゃなかったかしら」
「そっ。今一番人気の軽自動車はホンダが作ったN-BOXなんだ。走りに特化した車を作るのが得意な筈のホンダの人気商品が、まさかの軽自動車っていうのが、なんとも皮肉だよね〜」
「なんだと…っ!!」
「ふふっ。タケル君にしては、中々痛いところを突くわね…」
タケルが言ったことが癪に障ったか、陸は無言ながらも青筋を立て、クリスは陸を言い負かしたタケルを褒めちぎる。
「じゃあ…そういうことだから、僕達はそろそろ行くよ。行こう、結衣さん」
「うん」
二人が並んで離れようとするが、中嶋はタケルを人睨みし、声を低く吐き捨てる。
「待て…斎藤」
「ん?」
「今の言葉は聞き捨てならねえな…。お前が今バカにしたN-BOXは、F1の元エンジニアが開発に携わった一台なんだ。それを知らずに侮辱するとは、どうやら真髄を分からせてやる必要があるみたいだな」
「…じゃあ、どうするって言うんだよ」
「…俺とここでバトルしろ」
「なっ!?」
なんと陸は、タケルに対し自分と群サイでバトルするよう言っていくと、そこから更に話し続ける。
「お前は今日、カプチーノに乗って走りに来たと抜かしていたな…。FFしか乗ったことないお前が、FRを乗りこなすなんざ、絶対にできねえよ」
「何を…っ!!」
「まあ、ここには他の軽自動車も置いてあることだし、そいつを借りてお前が如何に未熟か、思い知らせてやるよ…」
陸が軽自動車によるバトルで、実力の違いを見せてやると言っていき。挑戦を突き付けられたタケルは真っ向と立ち向かって言う。
「…いいよ。こっちもお前にやり返したいと思ったとこだから、その挑戦…受けて立つよ」
「なら、決まりだな…。クリス、俺と斎藤がバトルできるよう、運営に話をつけといてくれ」
「はぁ〜わかったわ。そっちの方はあたしがやっておくから、くれぐれも問題を起こさないでよね…」
そこから、タケルと陸による軽自動車でのバトルが行われることが決まり。
想いもよらぬ形で再戦するのであった。
「陸ちゃん…。運営の方にはあたしが話を付けておいたわ。本コースは空いてなかったけど、多目的広場が空いてるから、そっちを使って構わないってね」
「そうか。それをしてくれただけで十分だ。ご苦労だったな」
クリスが二人を見ながら説明を終えると、陸がタケルに視線を向けた。
「今回は急に決まったバトルだから、すぐに済むが、それで構わねえよな?」
「別に構わないよ…。元はといえば、僕達が勝手に決めたことだし、スペースを空けてくれただけでもありがたいからね」
「ふんっ。その余裕が命取りにならなければいいがな…。じゃあ、バトルの内容を説明するぞ」
そこから陸がタケルに対し、バトルの内容について、話す。
「ルールは至って単純だ。あそこにパイロンが置いてあるのが見えるだろ?スタート地点から加速して、パイロンを旋回した後、スタート地点に戻ってくる。ジムカーナ形式のバトルだ」
「つまり…先にパイロンを回ってこっちに戻ってきた方が勝ちっ、ってことだね」
「そういうことだ。お前はそのカプチーノで俺に挑むんだろ?」
「当然…。その為にここに来たんだからね。お前は何に乗るつもりなんだ?」
「…俺は、あれに乗ってお前とやるつもりだ」
陸が親指で車の置いてある方向を示すと。その視線の先を追ったタケルは、思わず目を見開く。
そこには、赤いボディが印象的なコンパクトな軽自動車が止まっていた。
「えっ…、あれって…ホンダのビートじゃないか。あの車で僕とバトルをするの…」
「あら、意外ね。陸ちゃんが、あれ程否定してたビートに乗るなんて、どういう風の吹き回しなのかしら」
「勘違いするな。俺は相手と同じ駆動方式で挑むのがポリシーなんだが、ここにはカプチーノ以外にFRの軽自動車がなかったから、仕方なく、MR(ミッドシップ)のこいつを選んだんだよ」
「そういうことね。まあ、FRの軽自動車なんてカプチーノを除けば、殆どが軽トラか箱バンしかないから…無理もないわ」
陸がビートに乗ってタケルのカプチーノに挑む意志を示すと、二人は互いに向き合い、鋭い視線を交わす。
「じゃあ早速、バトル開始といくか。わかってると思うが、俺は相手と勝負するのに一切手は抜かねえからな」
「言われなくても承知してるよ。赤城ではいいようにやられたけど…今度ばかりは負けるわけにはいかないからね」
そう言いながら、バトルに突入しようとする二人はそれぞれがカプチーノとビートに乗り込んでいき。
車をスタート地点に持っていって、並べていく。
「おいおい、面白そうなことになってきたぞ…」
「なんだなんだ。さっきまで喧嘩してた奴らが、軽自動車でバトルするのかよ…」
タケルと陸のバトルが群サイにいる走り屋達に知れ渡り、ギャラリーがざわめきながら集まってくる。その中で、タケルと一緒にいた結衣がクリスの横に歩み寄る。
「あの…クリスさん」
「ん?何かしら、結衣さん」
クリスが優しく微笑みながら振り返ると、結衣が今から行われようとするバトルについて、遠慮がちに聞く。
「急遽決まったバトルですけど、…クリスさんはどっちが勝つと、思ってますか?」
「そうね…。タケル君はまだカプチーノに乗り始めたばかりで、FRに慣れていないでしょ…。それに比べて陸ちゃんはS2000やNSXといった扱いにくい後輪駆動の車に乗り続けてきたんだもの。だとすると、このバトルは陸ちゃんが有利とみていいと思うわ」
「そんな…」
「でも、それがこのバトルの見どころよ。後輪駆動の操作に長けた陸ちゃんを相手に、タケル君がどこまで張り合えるか…そこに注目してみるのも面白いかもしれないしね」
後輪駆動に乗った経験の差で、タケルが陸に敵わないと言うクリス。結衣は祈るように腕を交差させながら、タケルが勝つことを信じるのだった。
「すんません。向こうでバトルが始まるみたいですけど、一体どうなってるんすか?」
「なんだ坂本、知らねえのか。今からカプチーノとビートで一騎討ちするそうだ」
「…へぇ〜、なんか…面白そうな組み合わせですね」
ギャラリーの中に、顎髭を蓄え、十字のネックレスを下げた男がいた。坂本と呼ばれた男は、ギャラリーに混ざって、二人のバトルをひと目見ようとしており。坂本は知り合いの走り屋から状況を聞く。
「先輩、あそこにいる二人について何か聞いてます?」
「さあな。俺の聞いた話じゃ、ビートに乗ってる奴はサーキット上がりだそうだ。さっきまで軽自動車をバカにしてたのが気に食わねえが、腕に関していや、申し分ないそうだ」
「じゃあ、カプチーノに乗ってる方はどうなんです?」
「ああ、あの若者か。どうも、自分で持ってきたカプチーノを走らせに来たらしいが、本コースでいきなりスピンしちまったそうだ…」
「そうですか…」
先輩から話を聞いた坂本はタケルの姿をじっと見つめ。
タケルが乗るカプチーノが、サーキット上がりの陸が駆るビートに挑む光景を、坂本は意味深そうに見守っていくのだった。
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