頭文字D 峠の弾丸   作:ペンギン太郎

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ACT.112 Kカー対決 後編

 タケルと陸が乗る二台の軽自動車がスタートラインに並び立ち。両者はそれぞれ、マフラーを吹かしながら出走できるよう態勢を整えた。

 

 

 「(…今のところ、中嶋を相手にどこまでいけるか分からないけど…。やるからには全力を尽くさないと…)」

 

 「(お前がどう思ってるかは知らねえが、カプチーノは前後ダブルウィッシュボーンに50:50の前後重量配分が完璧に仕上がってるのが特徴だ。その分ピーキーなハンドリング操作を求められる車だから、そいつに振り回されないようにすることだな)」

 

 

 陸はタケルの実力ではカプチーノを扱い切れないとでも言うようなことを言い、自分が乗るビートについて、語り出す。

 

 

 「(ま、俺が今乗ってるこいつ(ビート)は、規格は軽自動車だが、ミッドシップならではの回頭の鋭さがある。短距離の切り返しなら、こっちの方が上だ。そのじゃじゃ馬でどこまで張り合えるか、しっかりと見させてもらうからな)」

 

 

 駆動方式の差で、自分に武があると自信満々に言う陸は、余裕があるかのように言っていくが。このバトルはどちらに軍配が上がるのであろうか。

 

 

 

 「あの…少しお聞きしたいことがあるのですけど…」

 

 「何かしら?」

 

 「タケル君が乗ってるカプチーノと、中嶋さんが乗るあのビートという車はどう違うのですか?」

 

 「そうね…。二人が乗る車は当時人気だった軽スポーツの三台のうちの二台だけど。強いて言うとしたら、走りの味付けが違うとこかしらね」

 

 「味付け…ですか?」

 

 「ええ。カプチーノはフロントエンジンのFRで、前が軽い分、ステアリングの操作と荷重の乗せ方で曲がる車なの。リアを滑らせたり、積極的に使う走りがしやすいわね。一方のビートはミッドシップのMR。エンジンが真ん中にあるから、車の向きが変えやすくて、切り込みが鋭いのが特徴よ」

 

 「そうなんですね…。同じ軽自動車でも、そういった違いがあるのですね…」

 

 

 結衣がクリスの話を聞き、カプチーノとビートの違いについて納得すると。二台が並び立つスタートラインの真ん中には、先程タケル達に注意をした係員がフラグを手に掲げながら、カウントを開始する。

 

 

 「それじゃあ、カウントを開始します!!カウント5秒前!!」

 

 

 係員がカウントを開始し始め、二人はギアをNから1速に入れ、アクセルを踏む手前に入り。いつでも出れるよう神経を集中させる。

 

 

 「5秒前…4…3…2…1…GO!!」

 

 

 係員がフラッグを下ろすと同時に、二台は排気音を響かせてスタートダッシュを開始した。

 陸のビートが一歩前に出ると、タケルのカプチーノがその後ろに続く。

 

 

 「どっちとも速いですね。でも、タケル君の車より、中嶋さんの車が速く前に出ることができたのはどうしてですか…?」

 

 「駆動方式の差によるものよ…。タケル君が乗るカプチーノはターボでパワーがあるのに対し、陸ちゃんのビートはミッドシップだから発進時のトラクションが良く。立ち上がり時の加速で一歩前に出たのよ…」

 

 「そう、ですか…」

 

 

 クリスが二人の差が車の性能差によって出たと結衣に話し。そこから先の展開について語る。

 

 

 「でもね、初速で後れを取っても、勝負が決まるのはパイロンを旋回するところよ。旋回性能で勝るMRに対して、ドライバーのステアリング操作がものをいうFRで、どこまで食いつけるか。そこがこの勝負の決めどころってとこね」

 

 

 パイロンを曲がっていくのに、どう攻め込むかが勝負の鍵を握るとクリスが言っていき。二人がどうパイロンを回っていくのか、期待するように見ていくのだった。

 

 

 

 

 

 先頭を突っ走る陸のビートは、甲高い排気音を響かせながらコースを駆けていくが、中間加速区間に入ると、後ろから迫っていたカプチーノが急速に差を詰め、ビートの横に並ぶ。

 

 

 「(ふんっ。漸く高回転域に入ったか。ターボは出だしこそ遅れるが、今みたいな中速域に入ってしまえば、本領を発揮するからな)」

 

 「(よしっ。ビートの横に並んだ…!!このままの勢いでパイロンを回って先に戻ってやる!!)」

 

 

 並走するビートに目を向けながら、カプチーノを飛ばすタケルは、パイロンが目前に迫ってるのに気付いたか、ステアリングに力を込め、旋回の姿勢を作る。

 陸もまた、静かに視線をパイロンへ移し、タケルと同じように進入姿勢を整える。

 

 

 「…来るぞ」

 

 「えっ…?」

 

 

 二台が飛び込もうとした瞬間、ギャラリーにいた坂本が低く呟き。周囲の走り屋達も、その言葉に釣られるかのように、視線を鋭くする。

 

 

 ギャアアアア

 

 

 「おおっ!!ビートは一気に切り込んでは、見事に曲がりやがったぞ」

 

 「す、すげぇ…。あんなにも鋭い旋回は、初めてだ…」

 

 

 

 「(速い…!!前にバトルした時もそうだったけど、コーナーを曲がって、そっから立ち上がる時の加速が断トツに速い…!!ムカつくけど、こればっかしは認める他ないね…)」

 

 

 陸のビートがパイロンを鮮やかに曲がり切った瞬間、ギャラリーからどよめきが上がり。

 タケルも、陸のコーナリングを見た直後、キレのあるコーナリングに圧倒されるのだった。

 

 

 「凄い…。どうやったら、あんなに綺麗に曲がれるのですか…?」

 

 「それはね…。陸ちゃんがMR特有の回頭性を活かしてるからよ…。普通なら、あそこまで攻め込むと、アンダーが出て外側に膨らんでしまうのを、曲がる直前で左足ブレーキを使って、姿勢を安定させたからこそ、ああやってタイトに曲がり切ることができたってわけ」

 

 「それって、曲がる直前に左足でブレーキを踏んだってことですよね?普通に右足でブレーキを踏むのと、どう変わるのですか?」

 

 

 結衣がどうして左足でブレーキを踏む必要があるのかという質問に対し、クリスは詳しく説明を開始する。

 

 

 「右足だけでブレーキとアクセルを踏み分ける普通のやり方だと、どうしても一瞬アクセルが離れるでしょ。左足ブレーキは、右足でアクセルを踏み続けたまま、左足でブレーキを軽く踏むの。そうすることで、エンジンの回転を落とさずに、フロントに荷重を乗せてタイヤを効かせられるのよ。特にああいうタイトな旋回では、姿勢を崩さずに曲がれるから有利になるわ」

 

 「そっか…。そうやって外側に流れにくくして、スムーズに曲がるんですね。勉強になります」

 

 

 結衣はクリスの説明に納得したように頷くと、視線をコース上へ戻し。次にパイロンへ進入していくタケルのカプチーノを、じっと見つめる。

 

 

 「タケル君は…この局面をどう乗り切るんでしょう…。クリスさんはわかりますか?」

 

 「さあね。でも、陸ちゃんにあそこまで強気に出たからには、何か一発やってくれるに違いないわ」

 

 

 クリスがタケルの動きに注目していると、カプチーノはパイロンに差しかかろうとする直前で、リアを滑らせ始めた。

 

 

 「あ…!タケル君の車、後ろが流れてますよ…!」

 

 「ええ。どうやらタケル君はドリフトで曲がろうとしてるわ。そうすることで回転数を落としにくくして、次の立ち上がりに繋げてようとしている。発想自体は悪くないけど…リアの流れが少し強過ぎるから、立ち上がりでワンテンポ遅れるかもしれないわ…」

 

 

 クリスの解説が終わらないうちに、カプチーノはリアを滑らせたままパイロンを回り切り。リアの流れを収束させながら、アクセルを踏み。次の加速へと繋げていくと、先を行くビートの後を追い始める。

 

 

 「なんて言ったらいいかわかりませんけど…。先程までの走りを見た限りじゃ、二人の走りは同じように見えますけど、僅かに違うところがありますね…」

 

 「あら、中々いいところに気付くじゃない…。あなたが言うように、陸ちゃんがサーキットの正統派だとするなら、タケル君は峠やラリー寄りの攻め方をしてるとこかしらね」

 

 

 結衣がタケルと陸の走りが異なってるように呟くと、クリスが二人の走りはスタイルが違うといい、陸の走りをサーキット寄り、タケルの走りをラリー寄りと位置づけるのだった。

 

 

 

 

 

 パイロンを回り切った二台は、スタート地点を目指して一直線に突き進み。

 ビートはミッドシップレイアウトのトラクションを活かしてスムーズに加速を伸ばして、突っ込んでいくのに対し。カプチーノは、本格的にターボが効き始めたか、エンジン音を高めながら徐々に差を縮めていくのだった。

 

 

 「(こいつ…!!さっきまでカプチーノに振り回されていた筈が、もうリアを抑え始めていやがる…!!)」

 

 

 後ろから近づくカプチーノをサイドミラー越しに見た陸は、まだカプチーノを走らせて間もないとはいえ、少しずつ乗りこなしていくタケルの走りに、表情を硬める。

 

 

 「(どれだけ腕があるドライバーでも。乗ってすぐにカプチーノをコントロールするのは、普通にあり得ない筈だ…。なのに斎藤の奴は、カプチーノのシビアなステアリングコントロールに対応し始めてるというのか…!?)」

 

 

 タケルの適応力の高さに陸は驚きを隠せず、このバトルに負けてしまうのではないかと、僅かながら焦りを見せ始める。

 だが、サーキットで結果を出し続けてきた陸にとって、レーサーとしてのプライドがそれを許さなかったか。ステアリングを握る手に、自然と力がこもる。

 

 

 「(面白い…!!本気で来るというなら、抜かれないよう振り切るまでだ…!!)」

 

 

 陸はサイドミラーへの意識を切り、前方のゴール地点へ固定すると、ギアを上げ、アクセルを深く踏み込んでいき。ビートを全開に加速させるのだった。

 

 

 「(更に速くなった!?そっちがそう来るのなら、こっちも負けてられないよ…!!)」

 

 

 タケルも負けじとシフトアップし、ターボを効かせながら、ビートの背後に食らいついていく。

 

 

 「どっちとも、更にスピードを上げてきてますよ…」

 

 「二台共、決着を付けようと必死になってるわね…。ゴールまであと僅か…、どちらが先に着くのか、目が離せないわ」

 

 

 結衣とクリスの二人を含む、ギャラリーの注目が集まる中、ゴール直前で、二台は再び横並びに近い位置まで詰め寄り、加速していく。

 

 

 「も、もしかして、カプチーノが勝っちまうんじゃ…」

 

 「…いや、僅かにビートが前に出てますから、おそらくこのバトルは…」

 

 

 坂本はビートがリードしていると呟いたその瞬間、二台はほぼ同時にゴールラインを駆け抜け。

 僅かに先にラインを越えたのは、

 

 

 

 

 

 「…判定結果、ビートが僅差で先着です」

 

 

 スタート地点のすぐ真横にいた係員がストップウォッチを手に、はっきりと、ビートの勝利を告げ。

 この場にいる全員が、白熱したバトルを繰り広げた両ドライバーに拍手を送るものだった。

 

 

 

 

 

 「くっそぉ…。後一歩ってところで負けたかぁ…。かぁ〜悔しいなぁ…ホント…」

 

 「でもタケル君、負けてしまったけど、いい勝負だったと思うわ。あそこまで行って最後までいく姿、カッコよかったよ」

 

 「そ、そうかなぁ…。僕としては、中嶋にまた負けてしまったのが、心残りなんだけど…」

 

 

 結衣の労いに、タケルは悔しさを滲ませるが。先程のバトルを見たクリスがタケルに褒め言葉を送る。

 

 

 「そうとも言い切れないわ。乗っていた車が軽自動車だったとはいえ、陸ちゃんを相手に、あそこまで追い詰めたのは、あなたが初めてよ」

 

 「え?…本当ですか?」

 

 「ええ、陸ちゃんが本気で走り切ったことなんて、ここ数年の間じゃ…滅多にないもの…。今日のバトルで走り切ったことは誇りに思ってもいいと思うわ…」

 

 

 クリスに褒められたタケルは、満更でもなさそうに照れ臭そうにするが、その様子を少し離れた場所から見ていた陸は、小さく鼻を鳴らすと、借りていたビートを持ち主の元へに返しにいく。

 

 

 「急な頼みとはいえ、この車を貸していただき、ありがとうございます。おかげで、いいバトルができました…」

 

 「へへっ、いいってことよ…。あんないいバトルが見れたんだし、貸した甲斐があったからな…」

 

 

 ビートの持ち主であるデモカーショップのオーナーが、陸を褒めちぎりながら、ビートを走らせた感想を聞く。

 

 

 「で、こいつを走らせての感想はどうだったんだ…?」

 

 「そうですね…。出だしの加速と立ち上がる時の踏ん張りは良かったですが、コーナーリングする際、旋回時の曲がり具合が課題点ってところですかね…」

 

 「ほぉ…一度乗っただけで、そこまで把握するとは…お前さん、プロなのか?」

 

 「いえ、俺はまだGP2に少し出た程度で、正式なシートもライセンスもこれからってところです…。では、ここで失礼させてもらいます…」

 

 

 そう言い残し、陸はオーナーの元から離れ。クリスのいる場所へ戻ろうとしたところで、結衣が前に立つ。

 

 

 「すみません…。少し気になったことがあって、聞いてもいいですか?」

 

 「…なんだ、言ってみろ」

 

 

 先程まで、敬語を使っていた口調が、いつも通りのぶっきらぼうに戻り。結衣は陸に対し、真っ向から確信を突くような質問をぶつける。

 

 

 「前に玲さんから聞いたんですけど…。あなたは仮にもプロのドライバーなんですよね。なのにどうして、峠を攻めているのですか?」

 

 「…それを聞いて、何になると言うんだ」

 

 「それは…、ただ…仮にもプロを名乗ろうとするあなたが、どうして峠を走る人達をあれ程毛嫌っていながら、かく言う自分も峠を走っているのは、矛盾してるじゃありませんか…」

 

 

 結衣の言葉に思うところがあったか。陸は自分が何故プロでありながら、峠を攻めているのか結衣に話し出す。

 

 

 「俺は好きで峠を攻めてるわけじゃねえよ…。元々サーキットだけでやっていこうとしたんだが、昔、F1レーサーをやっていた親父から言われたことを実践しているだけだ…」

 

 「え…」

 

 「日本に戻ってくる前に、親父は俺にこう言ったんだよ…『お前がそうまでして、上を目指したいというのなら、サーキットだけに閉じこもらず、ニッポンの公道も経験してみろ』ってな…」

 

 

 陸はこの時、プロのレーサーだった父親から、授かった教訓をやっているだけに過ぎないと打ち明かし。それを聞いた結衣は、何も言えずに押し黙るしかなかった…。

 

 

 「他に聞くことがないなら、俺はここで失礼するぞ…。後、斎藤にはこう伝えといてくれ…お前が思ってる以上に、関東の走り屋はレベルが高いってな」

 

 

 陸はそう言い残すと、結衣の前を通り過ぎて歩き去っていき。結衣は、その背中を黙って見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 群サイ 夕方

 

 

 「はぁ〜今日は色々と疲れたなぁ…。早く帰ってぐっすりしたいよ」

 

 「タケル君…。疲れてるのは分かるけど、ちゃんと前を見て運転してね…。ここで事故でも起こしたら、お父さんに怒られるかもしれないんだから」

 

 「大丈夫だよ。ちゃんと安全速度の範囲内で走るから、心配しないで」

 

 

 陸とのバトルを終えたタケルはカプチーノに乗り。結衣と共に群サイの駐車場を後にしようとした。その時、出ようとした道の先に一人の男が立っていた。

 

 

 「ん…?誰だろう…」

 

 

 タケルが車をその場で停めて降り。前に立つ男に近づくと、男はタケルをじっと見ながら口を開く。

 

 

 「よぉ。昼間のバトル、見させてもらったぞ。お前、結構やるじゃねえか…」

 

 「あ、ありがとうございます。…ところで、あなたは?」

 

 「俺は坂本っていって、ラリーをやっていてな。お前と少し話をしたいんだが、いいかな?」

 

 

 坂本はそう言ってタケルを呼び止め。タケルに話を切り出していくのだった。




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