頭文字D 峠の弾丸   作:ペンギン太郎

117 / 117
 更新しました。


ACT.112 Kカー対決 後編

 タケルと陸が乗る二台の軽自動車がスタートラインに並び立ち。両者はそれぞれ、マフラーを吹かしながら出走できるよう態勢を整えた。

 

 

 「(…今のところ、中嶋を相手にどこまでいけるか分からないけど…。やるからには全力を尽くさないと…)」

 

 「(お前がどう思ってるかは知らねえが、カプチーノは前後ダブルウィッシュボーンに50:50の前後重量配分が完璧に仕上がってるのが特徴だ。その分ピーキーなハンドリング操作を求められる車だから、そいつに振り回されないようにすることだな)」

 

 

 陸はタケルの実力ではカプチーノを扱い切れないとでも言うようなことを言い、自分が乗るビートについて、語り出す。

 

 

 「(ま、俺が今乗ってるこいつ(ビート)は、規格は軽自動車だが、ミッドシップならではの回頭の鋭さがある。短距離の切り返しなら、こっちの方が上だ。そのじゃじゃ馬でどこまで張り合えるか、しっかりと見させてもらうからな)」

 

 

 駆動方式の差で、自分に武があると自信満々に言う陸は、余裕があるかのように言っていくが。このバトルはどちらに軍配が上がるのであろうか。

 

 

 

 「あの…少しお聞きしたいことがあるのですけど…」

 

 「何かしら?」

 

 「タケル君が乗ってるカプチーノと、中嶋さんが乗るあのビートという車はどう違うのですか?」

 

 「そうね…。二人が乗る車は当時人気だった軽スポーツの三台のうちの二台だけど。強いて言うとしたら、走りの味付けが違うとこかしらね」

 

 「味付け…ですか?」

 

 「ええ。カプチーノはフロントエンジンのFRで、前が軽い分、ステアリングの操作と荷重の乗せ方で曲がる車なの。リアを滑らせたり、積極的に使う走りがしやすいわね。一方のビートはミッドシップのMR。エンジンが真ん中にあるから、車の向きが変えやすくて、切り込みが鋭いのが特徴よ」

 

 「そうなんですね…。同じ軽自動車でも、そういった違いがあるのですね…」

 

 

 結衣がクリスの話を聞き、カプチーノとビートの違いについて納得すると。二台が並び立つスタートラインの真ん中には、先程タケル達に注意をした係員がフラグを手に掲げながら、カウントを開始する。

 

 

 「それじゃあ、カウントを開始します!!カウント5秒前!!」

 

 

 係員がカウントを開始し始め、二人はギアをNから1速に入れ、アクセルを踏む手前に入り。いつでも出れるよう神経を集中させる。

 

 

 「5秒前…4…3…2…1…GO!!」

 

 

 係員がフラッグを下ろすと同時に、二台は排気音を響かせてスタートダッシュを開始した。

 陸のビートが一歩前に出ると、タケルのカプチーノがその後ろに続く。

 

 

 「どっちとも速いですね。でも、タケル君の車より、中嶋さんの車が速く前に出ることができたのはどうしてですか…?」

 

 「駆動方式の差によるものよ…。タケル君が乗るカプチーノはターボでパワーがあるのに対し、陸ちゃんのビートはミッドシップだから発進時のトラクションが良く。立ち上がり時の加速で一歩前に出たのよ…」

 

 「そう、ですか…」

 

 

 クリスが二人の差が車の性能差によって出たと結衣に話し。そこから先の展開について語る。

 

 

 「でもね、初速で後れを取っても、勝負が決まるのはパイロンを旋回するところよ。旋回性能で勝るMRに対して、ドライバーのステアリング操作がものをいうFRで、どこまで食いつけるか。そこがこの勝負の決めどころってとこね」

 

 

 パイロンを曲がっていくのに、どう攻め込むかが勝負の鍵を握るとクリスが言っていき。二人がどうパイロンを回っていくのか、期待するように見ていくのだった。

 

 

 

 

 

 先頭を突っ走る陸のビートは、甲高い排気音を響かせながらコースを駆けていくが、中間加速区間に入ると、後ろから迫っていたカプチーノが急速に差を詰め、ビートの横に並ぶ。

 

 

 「(ふんっ。漸く高回転域に入ったか。ターボは出だしこそ遅れるが、今みたいな中速域に入ってしまえば、本領を発揮するからな)」

 

 「(よしっ。ビートの横に並んだ…!!このままの勢いでパイロンを回って先に戻ってやる!!)」

 

 

 並走するビートに目を向けながら、カプチーノを飛ばすタケルは、パイロンが目前に迫ってるのに気付いたか、ステアリングに力を込め、旋回の姿勢を作る。

 陸もまた、静かに視線をパイロンへ移し、タケルと同じように進入姿勢を整える。

 

 

 「…来るぞ」

 

 「えっ…?」

 

 

 二台が飛び込もうとした瞬間、ギャラリーにいた坂本が低く呟き。周囲の走り屋達も、その言葉に釣られるかのように、視線を鋭くする。

 

 

 ギャアアアア

 

 

 「おおっ!!ビートは一気に切り込んでは、見事に曲がりやがったぞ」

 

 「す、すげぇ…。あんなにも鋭い旋回は、初めてだ…」

 

 

 

 「(速い…!!前にバトルした時もそうだったけど、コーナーを曲がって、そっから立ち上がる時の加速が断トツに速い…!!ムカつくけど、こればっかしは認める他ないね…)」

 

 

 陸のビートがパイロンを鮮やかに曲がり切った瞬間、ギャラリーからどよめきが上がり。

 タケルも、陸のコーナリングを見た直後、キレのあるコーナリングに圧倒されるのだった。

 

 

 「凄い…。どうやったら、あんなに綺麗に曲がれるのですか…?」

 

 「それはね…。陸ちゃんがMR特有の回頭性を活かしてるからよ…。普通なら、あそこまで攻め込むと、アンダーが出て外側に膨らんでしまうのを、曲がる直前で左足ブレーキを使って、姿勢を安定させたからこそ、ああやってタイトに曲がり切ることができたってわけ」

 

 「それって、曲がる直前に左足でブレーキを踏んだってことですよね?普通に右足でブレーキを踏むのと、どう変わるのですか?」

 

 

 結衣がどうして左足でブレーキを踏む必要があるのかという質問に対し、クリスは詳しく説明を開始する。

 

 

 「右足だけでブレーキとアクセルを踏み分ける普通のやり方だと、どうしても一瞬アクセルが離れるでしょ。左足ブレーキは、右足でアクセルを踏み続けたまま、左足でブレーキを軽く踏むの。そうすることで、エンジンの回転を落とさずに、フロントに荷重を乗せてタイヤを効かせられるのよ。特にああいうタイトな旋回では、姿勢を崩さずに曲がれるから有利になるわ」

 

 「そっか…。そうやって外側に流れにくくして、スムーズに曲がるんですね。勉強になります」

 

 

 結衣はクリスの説明に納得したように頷くと、視線をコース上へ戻し。次にパイロンへ進入していくタケルのカプチーノを、じっと見つめる。

 

 

 「タケル君は…この局面をどう乗り切るんでしょう…。クリスさんはわかりますか?」

 

 「さあね。でも、陸ちゃんにあそこまで強気に出たからには、何か一発やってくれるに違いないわ」

 

 

 クリスがタケルの動きに注目していると、カプチーノはパイロンに差しかかろうとする直前で、リアを滑らせ始めた。

 

 

 「あ…!タケル君の車、後ろが流れてますよ…!」

 

 「ええ。どうやらタケル君はドリフトで曲がろうとしてるわ。そうすることで回転数を落としにくくして、次の立ち上がりに繋げてようとしている。発想自体は悪くないけど…リアの流れが少し強過ぎるから、立ち上がりでワンテンポ遅れるかもしれないわ…」

 

 

 クリスの解説が終わらないうちに、カプチーノはリアを滑らせたままパイロンを回り切り。リアの流れを収束させながら、アクセルを踏み。次の加速へと繋げていくと、先を行くビートの後を追い始める。

 

 

 「なんて言ったらいいかわかりませんけど…。先程までの走りを見た限りじゃ、二人の走りは同じように見えますけど、僅かに違うところがありますね…」

 

 「あら、中々いいところに気付くじゃない…。あなたが言うように、陸ちゃんがサーキットの正統派だとするなら、タケル君は峠やラリー寄りの攻め方をしてるとこかしらね」

 

 

 結衣がタケルと陸の走りが異なってるように呟くと、クリスが二人の走りはスタイルが違うといい、陸の走りをサーキット寄り、タケルの走りをラリー寄りと位置づけるのだった。

 

 

 

 

 

 パイロンを回り切った二台は、スタート地点を目指して一直線に突き進み。

 ビートはミッドシップレイアウトのトラクションを活かしてスムーズに加速を伸ばして、突っ込んでいくのに対し。カプチーノは、本格的にターボが効き始めたか、エンジン音を高めながら徐々に差を縮めていくのだった。

 

 

 「(こいつ…!!さっきまでカプチーノに振り回されていた筈が、もうリアを抑え始めていやがる…!!)」

 

 

 後ろから近づくカプチーノをサイドミラー越しに見た陸は、まだカプチーノを走らせて間もないとはいえ、少しずつ乗りこなしていくタケルの走りに、表情を硬める。

 

 

 「(どれだけ腕があるドライバーでも。乗ってすぐにカプチーノをコントロールするのは、普通にあり得ない筈だ…。なのに斎藤の奴は、カプチーノのシビアなステアリングコントロールに対応し始めてるというのか…!?)」

 

 

 タケルの適応力の高さに陸は驚きを隠せず、このバトルに負けてしまうのではないかと、僅かながら焦りを見せ始める。

 だが、サーキットで結果を出し続けてきた陸にとって、レーサーとしてのプライドがそれを許さなかったか。ステアリングを握る手に、自然と力がこもる。

 

 

 「(面白い…!!本気で来るというなら、抜かれないよう振り切るまでだ…!!)」

 

 

 陸はサイドミラーへの意識を切り、前方のゴール地点へ固定すると、ギアを上げ、アクセルを深く踏み込んでいき。ビートを全開に加速させるのだった。

 

 

 「(更に速くなった!?そっちがそう来るのなら、こっちも負けてられないよ…!!)」

 

 

 タケルも負けじとシフトアップし、ターボを効かせながら、ビートの背後に食らいついていく。

 

 

 「どっちとも、更にスピードを上げてきてますよ…」

 

 「二台共、決着を付けようと必死になってるわね…。ゴールまであと僅か…、どちらが先に着くのか、目が離せないわ」

 

 

 結衣とクリスの二人を含む、ギャラリーの注目が集まる中、ゴール直前で、二台は再び横並びに近い位置まで詰め寄り、加速していく。

 

 

 「も、もしかして、カプチーノが勝っちまうんじゃ…」

 

 「…いや、僅かにビートが前に出てますから、おそらくこのバトルは…」

 

 

 坂本はビートがリードしていると呟いたその瞬間、二台はほぼ同時にゴールラインを駆け抜け。

 僅かに先にラインを越えたのは、

 

 

 

 

 

 「…判定結果、ビートが僅差で先着です」

 

 

 スタート地点のすぐ真横にいた係員がストップウォッチを手に、はっきりと、ビートの勝利を告げ。

 この場にいる全員が、白熱したバトルを繰り広げた両ドライバーに拍手を送るものだった。

 

 

 

 

 

 「くっそぉ…。後一歩ってところで負けたかぁ…。かぁ〜悔しいなぁ…ホント…」

 

 「でもタケル君、負けてしまったけど、いい勝負だったと思うわ。あそこまで行って最後までいく姿、カッコよかったよ」

 

 「そ、そうかなぁ…。僕としては、中嶋にまた負けてしまったのが、心残りなんだけど…」

 

 

 結衣の労いに、タケルは悔しさを滲ませるが。先程のバトルを見たクリスがタケルに褒め言葉を送る。

 

 

 「そうとも言い切れないわ。乗っていた車が軽自動車だったとはいえ、陸ちゃんを相手に、あそこまで追い詰めたのは、あなたが初めてよ」

 

 「え?…本当ですか?」

 

 「ええ、陸ちゃんが本気で走り切ったことなんて、ここ数年の間じゃ…滅多にないもの…。今日のバトルで走り切ったことは誇りに思ってもいいと思うわ…」

 

 

 クリスに褒められたタケルは、満更でもなさそうに照れ臭そうにするが、その様子を少し離れた場所から見ていた陸は、小さく鼻を鳴らすと、借りていたビートを持ち主の元へに返しにいく。

 

 

 「急な頼みとはいえ、この車を貸していただき、ありがとうございます。おかげで、いいバトルができました…」

 

 「へへっ、いいってことよ…。あんないいバトルが見れたんだし、貸した甲斐があったからな…」

 

 

 ビートの持ち主であるデモカーショップのオーナーが、陸を褒めちぎりながら、ビートを走らせた感想を聞く。

 

 

 「で、こいつを走らせての感想はどうだったんだ…?」

 

 「そうですね…。出だしの加速と立ち上がる時の踏ん張りは良かったですが、コーナーリングする際、旋回時の曲がり具合が課題点ってところですかね…」

 

 「ほぉ…一度乗っただけで、そこまで把握するとは…お前さん、プロなのか?」

 

 「いえ、俺はまだGP2に少し出た程度で、正式なシートもライセンスもこれからってところです…。では、ここで失礼させてもらいます…」

 

 

 そう言い残し、陸はオーナーの元から離れ。クリスのいる場所へ戻ろうとしたところで、結衣が前に立つ。

 

 

 「すみません…。少し気になったことがあって、聞いてもいいですか?」

 

 「…なんだ、言ってみろ」

 

 

 先程まで、敬語を使っていた口調が、いつも通りのぶっきらぼうに戻り。結衣は陸に対し、真っ向から確信を突くような質問をぶつける。

 

 

 「前に玲さんから聞いたんですけど…。あなたは仮にもプロのドライバーなんですよね。なのにどうして、峠を攻めているのですか?」

 

 「…それを聞いて、何になると言うんだ」

 

 「それは…、ただ…仮にもプロを名乗ろうとするあなたが、どうして峠を走る人達をあれ程毛嫌っていながら、かく言う自分も峠を走っているのは、矛盾してるじゃありませんか…」

 

 

 結衣の言葉に思うところがあったか。陸は自分が何故プロでありながら、峠を攻めているのか結衣に話し出す。

 

 

 「俺は好きで峠を攻めてるわけじゃねえよ…。元々サーキットだけでやっていこうとしたんだが、昔、F1レーサーをやっていた親父から言われたことを実践しているだけだ…」

 

 「え…」

 

 「日本に戻ってくる前に、親父は俺にこう言ったんだよ…『お前がそうまでして、上を目指したいというのなら、サーキットだけに閉じこもらず、ニッポンの公道も経験してみろ』ってな…」

 

 

 陸はこの時、プロのレーサーだった父親から、授かった教訓をやっているだけに過ぎないと打ち明かし。それを聞いた結衣は、何も言えずに押し黙るしかなかった…。

 

 

 「他に聞くことがないなら、俺はここで失礼するぞ…。後、斎藤にはこう伝えといてくれ…お前が思ってる以上に、関東の走り屋はレベルが高いってな」

 

 

 陸はそう言い残すと、結衣の前を通り過ぎて歩き去っていき。結衣は、その背中を黙って見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 群サイ 夕方

 

 

 「はぁ〜今日は色々と疲れたなぁ…。早く帰ってぐっすりしたいよ」

 

 「タケル君…。疲れてるのは分かるけど、ちゃんと前を見て運転してね…。ここで事故でも起こしたら、お父さんに怒られるかもしれないんだから」

 

 「大丈夫だよ。ちゃんと安全速度の範囲内で走るから、心配しないで」

 

 

 陸とのバトルを終えたタケルはカプチーノに乗り。結衣と共に群サイの駐車場を後にしようとした。その時、出ようとした道の先に一人の男が立っていた。

 

 

 「ん…?誰だろう…」

 

 

 タケルが車をその場で停めて降り。前に立つ男に近づくと、男はタケルをじっと見ながら口を開く。

 

 

 「よぉ。昼間のバトル、見させてもらったぞ。お前、結構やるじゃねえか…」

 

 「あ、ありがとうございます。…ところで、あなたは?」

 

 「俺は坂本っていって。ラリーをやっているんだが、お前と少し話をさせてもらいたいんだが、いいかな?」

 

 

 坂本はそう言ってタケルを呼び止め。タケルに話を切り出していくのだった。




 評価・感想をお願いします。

好きな軽スポーツは?

  • A マツダ AZ-1
  • B ホンダ ビート
  • C スズキ カプチーノ
  • D その他
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

MF……GODの継承者(作者:紅乃 晴@小説アカ)(原作:MFゴースト)

滅んだはずの“走り屋”文化が、MFGによって再び蘇った時代。▼一人の青年――城島和也は、日産スカイラインGT-R R34を駆り、世界最高峰の公道レースへ挑む。▼骨董品と揶揄される、かつて湾岸を駆けた怪物。▼それを駆るのは、“神様”と呼ばれた走り屋たちの系譜を継ぐ者。▼箱根で、伝説が再び牙を剥く


総合評価:3577/評価:9.2/連載:24話/更新日時:2026年06月11日(木) 07:53 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>