陸の乗るFD2について、新たな展開を書きましたので、どうぞご覧ください。
赤城山 夜
その日の夜、赤城山を駆け巡るように車を飛ばす集団がいた…。
黄色のFDを筆頭に、橙色のS14と赤のRX-8が後に続き。豪快な排気音を、赤城の山々に響かせる。
「おおっ、ヤケに速いと思ったら、レッドサンズの高橋啓介とその取り巻きのS14と8じゃねえか…。今日もやけに飛ばすな…」
「でもよ…。思いっきり飛ばしている割には偉い鋭さが増してねえか、なんていうかこう…。洗練されてる気がするんだが…」
「言えてる…。まるで兄の涼介に近づいてる感じがするな…」
赤城を走りに来ていたギャラリーが、目の前を通り過ぎっていく啓介達の走りを見ながら語っていくが。別の話題が上げると、空気が変わる。
「けど…レッドサンズは群馬エリアからは勿論、県外の奴らからもレベルが落ちてんじゃないかって言われてるみたいだぞ…。同じ赤城を走る走り屋にとっちゃ、複雑な気分だよ…」
「ああ。去年、エンペラーとの交流戦で高橋涼介がコースレコードを更新してすぐに、他所者に記録を塗り替えられたのと、弟の啓介が地元で完敗したのが、広まったからじゃねえかな…」
「そのおかげで、レッドサンズは昔みたいに群馬じゃ羽振りが利かせなくなったらしいし、他所からも結構挑戦をされてるみたいだそうだ…」
「皮肉なもんだよな…。かつては地元で負け知らずで、赤城ではバトルを引き受けなかったのに、今じゃ完璧に舐められてるし…。もう、そろそろ潮時なんじゃねえのか」
去年の秋に、中嶋陸に地元のコースレコードを塗り替えられたのと、啓介がクリスに完敗したが故に、レッドサンズは過去の栄光を失ったかのように陰口を叩かれるが、当の本人達はそれを気にする様子もなく、赤城の山を攻め続けていくのだった。
赤城山 頂上
頂上に面する観光案内所近くの駐車場で、啓介に続けて赤城を走ったケンタと真希は、先程の啓介の走りについて語り出す。
「啓介さん…、久々に赤城を走ったんですけど、何かやられたのですか?今日の啓介さん…走りにキレが増してまるで別人みたいだったっすよ…」
「同感だな…。あそこまで攻めていながら、無駄な動きが減ってるみたいだし、コーナーへの入り方や曲がり具合も鋭くなってたからな…。お前、涼介から何を教わったというんだ」
後ろから啓介の走りを見た二人から、走りが良くなったと聞かされた啓介は、そのことについて口を切り出す。
「別に特別なことを教わったわけじゃねえよ…。兄貴から雪が振り積もろうが赤城を走っとけって言われたから、それをやったまでのことだ…」
「やるじゃないっすか、啓介さん…。俺なんか雪の日は家に籠もってたっていうのに、雪道を走り続けるなんて、流石っすよ…」
「はぁ〜雪道を走るお前も凄いけど、何でもかんでも過大評価するお前も大概だぞ、ケンタ…」
啓介が雪道を走っていただけだと言っているにも関わらず、それを聞いたケンタが褒めちぎるが。
啓介の発言を肯定的に頷くケンタに、真希はため息をつくのだった。
「とにかく…春が来るまでに…、もっと腕を上げねえとな…。兄貴の夢を果たす為にも、絶対的な速さを身に着けねえと…」
涼介の目的である関東制覇を果たす為に、今よりも速く車を走らせられるようにならないと啓介は言うが、そこへある人物が飄々と話しかける。
「あら…随分と大きなことを言うじゃないの…。お兄さんの為に、力を尽くすなんて、素敵だわ…」
「ん…?誰だ、横から入ってきて…って、お前は!?」
啓介達が声のする方向に顔を傾け、話しかけてきた人物を目にすると、そこには啓介達にとって因縁のある人がいたのだった。
「お久しぶりね、啓介君。去年の秋頃に
「お前…クリスっていうふざけた名を語ってた奴だったな…。何しに来た…!!」
「やあね〜そんなに警戒しないでよ。あたしはただ、あなたがどれだけ腕を上げたか、見に来ただけよ…。さっきの話も聞かせてもらったけど、冬の間も、無駄に過ごしてたなかったみたいね…」
「くっ…!!」
因縁の相手でクリスを見た啓介が怒りを露わにするのに対し、クリスは動じる様子もなく、余裕のある表情をして受け流すのである。
「てめえ…何のこのこと俺達の前に来たと思ってやがるんだ…!!お前が啓介さんを負かしたお陰で、俺達レッドサンズは他所者から舐められる羽目になったってのに…!!」
「あ〜ら…随分と嫌われちゃったみたいね…。でも、あたしはあなたみたいにすぐ怒る子は好きじゃなくてよ…」
「んだとォ!!」
「ケンタ。負けたのが悔しいからって、八つ当たりするのはよせ。こいつは神奈川じゃ名の知れた走り屋だって、瀬名も言ってたんだぞ…」
クリスがケンタを言い負かし、そこから啓介に目線を向けながらこう告げる。
「さっきの話の続きだけど…。あたしがここに来たのは、あなた達レッドサンズの惨状を見に来ただけよ。群馬エリアで最速と言われてたあなた達が、あたしと陸ちゃんに負けただけで、こうも揺らいでいるようじゃ、お兄さんが目指す関東制覇は叶わないわ」
「!! てめえ、兄貴を侮辱する気か…」
「まさか…。あたしはただ、あなた達にひと言だけ言いたいことがあってここへ来ただけで、別にあなたのお兄さんがやろうとしていることを、否定する気はないわ…。」
「…じゃあ、何が言いたいんだ…!!」
啓介が怒り口調でクリスに問い詰めるが、クリスは余裕のある表情から一転して、真剣味のある顔つきに変わるやこう言い放つ。
「そもそもの話、レッドサンズは、赤城の白い彗星とも呼ばれた高橋涼介が自分の掲げる公道最速理論を検証する為に作った、実験的なチームのようなものでしょう。それがコースレコードの一つを更新されただけで、強豪としての名が揺らぐようじゃ、最初からない方がマシよ…」
「なんだとォ…!!」
「だってそうじゃないの…。記録っていうのは、更新される為にあるものよ。いつの時代も、新しい記録が打ち立てられて、塗り替えられていく…。そんなことも知らずに、ただ自分達の名を広めたいが為にやってるんじゃ、先が思いやられるわ…」
クリスから核心を突くひと言を発せられた啓介はまともに言い返すことができず、押し黙ってしまうが。クリスはそんな三人を見据えたまま、話を続ける。
「あたしが言いたいことは、それだけよ…。今のあなたの腕じゃ…あたし達を相手にするどころか、神奈川エリアの走り屋を相手にすること自体、難しいわね」
「この野郎…!!一度、勝ったくらいで啓介さんに好き放題いいやがって…!!」
「今の言葉は、あたしも見過ごせないな…。そこまで言われたからには、何がなんでも…こいつをぶち抜いてやらないと気が済まねえ…!!」
クリスの挑発じみた返しに、ケンタと真希が食ってかかるも。啓介は落ち着いた様子で言う。
「クリス、だったな…。俺達をどう言おうが勝手だが。兄貴の夢が叶わないなんてことを言われたからには、黙って見過ごすわけにはいかねえよ…!!」
「じゃあ…あたしにどうしろと?」
「決まってる…。もう一度、俺とここでバトルしろ。今の俺は、あの時と違うってことを見せつけてやる…!!」
啓介は、負けた屈辱を晴らそうとクリスに再戦を申し込むが、クリスはスカしたような顔をして、返す。
「…お断りよ。あなたの実力が前に会った時より上がってるみたいだけど、まだ甘い箇所が見て取れるからね。そんな状態のあなたを相手にしても…タイヤとガソリンが無駄になるだけよ」
「くっ…!!」
「それともう一つ、別にあたしはあなたからの再戦自体を拒む気はなくてよ。あなたが神奈川の強豪を相手に勝ち続けて、あたしが所属するサイドワインダーのホームコースまで来たのなら、その時は、ちゃんと相手してあげるわ」
クリスは赤城でのバトルは受け付けないが、自分が所属する走り屋チーム『サイドワインダー』のホームコースでなら啓介からのリベンジを引き受けるように言うが、そのことに対し、ケンタは反発する。
「ふざけるなよ!!どう考えたって…お前が有利な地元で勝負しろってことじゃねえか…!!自分だけ有利なとこでバトルするなんざ、不公平だろうが…!!」
「あら。前はあたしが、あなた達とバトルするのに得意の地元でバトルしたじゃないの。それに、レッドサンズは敢えて相手の地元で勝つことが流儀じゃなかったのかしら?」
「うるせえ…!!お前に負けてから、俺達レッドサンズは…走り屋としてのプライドもメンツもめちゃくちゃになったんだ…!!今ここでやらなきゃ、群馬エリアの頂点に立つ走り屋として示しがつかねえんだよ…!!」
ケンタは、啓介が赤城でクリスに負けたのに加え、涼介が出したコースレコードを陸に更新されてしまったが為に、その雪辱をここで晴らしたいと言わんばかりの口調で、クリスにバトルするよう言っていくが。
クリスは重みを増したような表情でこう告げる。
「自惚れるのも大概にしなさい!!あなた達がやろうとしていることは、自分達がやられたことを、今度は他所の相手にしようとしているのと同じだってことに、まだ気付かないの!!」
「「「……!!」」」
「あなた達にとって、他所のチームが作った記録は、お粗末なものに映るかもしれないけど…、その記録は、そこで走り続けた人間にとって、かけがえのない誇りでもあるのよ…。それを、自分達の腕を示す為だけに踏みにじる覚悟が、あるというの!?」
「そ、それは…!!」
「この際、言わせてもらうけど…あなた達が目指そうとしている頂点は、とても残酷なものなのよ…。レースの世界は抜きつ抜かれつしながら、時には誰かの記録を塗り替え、誰かの誇りを超えていくことでしか、上には行けない世界なのよ」
戯言を重ねるケンタに、クリスが真剣な表情でレースの厳しさを突き付け。啓介と真希も、その言葉に何も言い返せずにいる。
「もし、それを超えていく覚悟がないのなら…ここで大人しくしていることね。あたし達が走る世界は、仲良しこよしで成り立つ世界じゃないことを、あなた達が理解できていればの話よ…」
そう言い切ったクリスが、自分のS2000へ向かい。乗り込もうとするが。啓介が決意を固めたような顔で、クリスに向かって言う。
「待てよ…。まだ話が終わっちゃいねえよ…!!」
「何よ、他に言いたいことがあって?」
「いや、お前の言うことは、あながち間違ってねえよ。実際、俺達は負けたチームの悔しそうな面を嫌と言うほど見てきたからな。特に否定する気はねえ。だがな…」
啓介は、力強く決意を固めたような表情で、クリスに言うのである。
「それでも俺達は、兄貴が果たそうとする夢に向かって、全力で突き進むしかねえんだ…。俺がこうして走り屋をしていられるのも、兄貴のおかげでもあるんだ。だから、ここで立ち止まってられるようじゃ、俺をここまで導いてくれた兄貴に合わせる顔がねえからな…!!」
「啓介さん…」
「あたしも同じ意見だよ。好き勝手やってた啓介と、目標もなくついてったあたしに、こんなにも面白えものがあるってことを教えてくれた涼介に、まだその恩も返しきれてねえんだ…。それを果たすまで、あたしはこいつと涼介にとことんついてってやるよ」
啓介に同調するように、真希もまた涼介の夢に向かって全力を注ぐと言った。
それを聞いたクリスは、ふっと笑みを浮かべる。
「その覚悟があるのなら、いいわ、あたしはあなた達が神奈川まで来るのを待ち構えてあげる…。負けることなく辿り着けたのなら、その時は全力で相手してあげるよ」
クリスは啓介達の示す覚悟を理解したか、啓介の今後を期待するように、赤城を走り去ろうとするが。最後に一つだけ、ある忠告を口にする。
「最後に一つだけ、教えてあげるわ…。陸ちゃんがここで出したコースレコードなんだけどね…。あたしの見立てが正しいのなら、まだ…本気を出してなくてよ」
「!? なんだと…」
「そりゃあそうよ…。陸ちゃんがあの時乗ったFD2は、ワンメイクレースに出るためだけに用意した競技車両だもの。陸ちゃんはどんな駆動方式の車でも乗りこなせるけど、一番得意なのは、何と言ってもFFだからね…」
「じゃあ…あいつはどういう時に本気を出すと言うんだよ…」
「そうね…。いつお披露目するのかは分からないけど…。陸ちゃんが本気で攻める時が来るのなら、必ずあの車を使ってくる筈よ…」
「…あの車だと?」
「ええ…本気を出す時の陸ちゃんはね。ホンダの職人が細部まで徹底的に仕上げた、あの赤いFD2に乗ったその時が、陸ちゃんの真髄を見られるのよ…」
「赤いFD2だと…!?」
クリスは、陸が本気を出すのなら。赤いFD2を出してくるに違いないと言い。
啓介達は陸の底力の凄さにゾッとするのだった。
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