ガソリンスタンド
「ええっ!?昨日、そんな危ない奴と出くわしたんですか!?」
「ああ、おかげでこっちは散々な目にあってな。一歩間違えれば、車をぶつけてたかもしれなかったんだ…」
池谷達が秋名でパルサーと遭遇した翌日、タケルがカプチーノにガソリンを入れにスタンドに寄り、当事者である池谷から昨日の出来事を聞かされ、タケルは衝撃を受ける。
「本当、危なっかしいったらありゃしないよ…。今度あのパルサーと会った時にはギャフンと言わしてやりたいっすよォ」
「なるほど、今度の相手はパルサーと来たか…。随分と扱い難い車に乗っていた奴がいたもんだね」
「タケル…。さっきからお前とイツキが話してるパルサーっていうはどういった車なんだ?」
相手の車がパルサーだと聞いたタケルは、その車のことを知っていたのか、扱い難いと言い。拓海はパルサーについて聞いてきたので、タケルが説明をする。
「そっか…。拓海がパルサーを知らないのも無理はないか、パルサーっていうのは…日産がWRC(世界ラリー選手権)に参戦するために作った車で。正式にはパルサーGTI-Rって呼ばれてるんだけど、2リッターのターボエンジンに四駆を組み合わせた、当時としてはかなり本格的な一台だったんだ」
「四駆のターボか…。じゃあ、ランエボみたいな感じなのか?」
「近いところはあるけど、ボディはもっとコンパクトで軽く。立ち上がりは鋭い反面、クセが強くてね。特にフロントにエンジンと駆動系が集中してるから、扱いをミスるとすぐアンダーが出やすい性質を持ってるんだよ」
「なるほど…。だからさっき、扱い難いって言ったのか」
「うん。パワー自体はあるんだけど、それを四輪にうまく配分して走らせるのが難しくてね。乗りこなせさえすればめちゃくちゃ速いけど、中途半端に乗ると逆に危ない車でもあるんだ」
「そのパルサーが秋名で仕掛けてきたってことは、狙いはおそらく…お前らに違いないだろうな…」
「え?俺と…タケルが、ですか…」
「そりゃそうだろ。拓海達が高橋涼介の作るチームに入るかどうかってところでそのパルサーが遥々群馬にやってきたんだ…。他に来た理由が見当たるわけねえだろよ…」
「言われてみるとそうかもしれないですね…。とにかく、そのパルサーについて、調べないことには行動に移れないですし…」
タケルがそう呟いてた矢先に、一台の車がスタンドに入って来ると、タケルを含むいつものメンバーの前に停まり。
そこから健二が降りてくるや、自分が調べた情報を話す。
「池谷…。昨日秋名に現れたパルサーなんだけどな…。新潟にいる知り合いから聞いた話によると、めちゃくちゃヤバい奴だそうだ…」
「本当か!?」
「名前は坂口健吾っていって。新潟の走り屋の間じゃ、1、2を争うほどの腕を持っているんだが、県内では危なっかしい走りをするから『デストロイヤー健吾』って呼ばれていて、あのナイトキッズのEG6と同等かそれ以上の悪質な奴みたいだそうだ…」
「デストロイヤー…ですか?」
「…昨日のようなプッシュを仕掛け相手を事故らせて勝ちにいくやり方から、そう付けられたらしくてな。奴と関わって無事に済んだ走り屋は一人もいないそうだ…」
「そうか…。昨日はすんなりと道を開けたから、俺達は無事で済んだんだが…。もしバトルしたとなれば、車だけじゃなく、俺らもお陀仏になってたかもしれないな…」
昨日会ったパルサーに乗る男が、デストロイヤー健吾と呼ばれている人物だと聞き、危機感を露わにする池谷だが。タケルは心配そうにする池谷に対し、こう言い切る。
「でも…。このまま手をこまねいていたら、奴の思う壺だと思いますよ。そんな危ない奴を放っておいといたら…何の関係もない走り屋が巻き込まれるかもしれませんし…」
「言えてるな…。健二、お前の方から群馬エリアの他の奴に広めてといてくれるか。もし、奴がまたどっかに現れでもしたら、俺達に教えてくれと…」
「わかった…。そっちの方は俺が何とかするよ。とにかく、今の間だけは峠を走らない方がいいかもしれんからな…」
池谷は群馬エリアの走り屋に、パルサーが現れたら伝えてくれるよう健二に頼むと、健二はそれを了承してすぐに行動に移るのだった。
高崎 某住宅街
「結衣、ちょっといいかな」
「何、お父さん…?」
タケル達がいる渋川市から離れたとこにある高崎のとある住宅街。そこに位置する一軒家の軒先で花壇に水をやっていた結衣に、父親の哲治が声を掛ける。
「結衣はついこの間、仮免許を取ったばかりだろ。次の技能検定に向けて父さんと一緒に練習してみるってのはどうだ?」
「え?…う~ん、私はできるならタケル君に教わりたかったんだけど」
「それは難しい話だな。何せタケル君はまだ免許を取って一年も経ってないだろ。仮免許の人に運転を教えるには、免許を持ってから三年以上必要なんだから、結衣の横に乗って運転を教えることはできないしね」
「そうなの。…ちょっとガッカリ」
結衣がタケルから運転を教わりたかったと父に話すも、タケルは去年の夏前に拓海やイツキと一緒に運転免許を取っている為、仮免許を取ったばかりの結衣に運転を教えるのは法的に難しいと哲二は言い。
そこから、不満そうにする結衣に向かってこう語る。
「それなら、結衣に渡す予定の車に乗って練習するってのどうかな?自分の車なら、俄然やる気が出てくるでしょ」
「え?私に渡すって…お父さん、私の車を買ってくれるの?」
結衣は父親が自分の車を買ってくれると聞いて、意外そうにするや、哲二はこう語り出す。
「そりゃあ…結衣が専門学校に通うにしても、親戚の家から学校まで距離があるだろ。電車で行くにしても、一時間に一本しか走っていないローカル線だし、不便に決まってるから、最低でも一台は持っておいた方がいいよ」
「…うん。その話を聞いたら、やる気が出てきたし。私、やってみる…!!」
結衣は、自分の車を父親が買ってくれると聞いて嬉しそうな顔で、やる気を見せていくが。そこから、自分が乗る予定の車について聞いていく。
「お父さん…。厚かましいことを聞くみたいで悪いんだけど、私に買ってくれる車ってどういった車か教えてくれる?」
「そうだなぁ。まだ運転に慣れていない結衣にはタケル君が乗ってるスイスポみたいな、扱いやすくてキビキビ走れるコンパクトカーがいいかもしれないよ。例えば、ヴィッツやデミオみたいな感じのね」
そう答えながら、結衣に渡していく車について考えていく哲治であるが。結衣に渡す車について、改めて考えを張り巡らせていくのだった。
赤城山
群馬では屈強を誇っていたレッドサンズのホームコースの、赤城山にて。今夜もまた、ケンタと真希を含むレッドサンズのメンバーが赤城の頂上に集まっていた。
「ああ〜腹立たしい…なんで俺達が他所から来た奴を相手にしなきゃいけねえんだよ…。レッドサンズは地元じゃバトルしねえってのに…」
「(ケンタの奴、ここ最近ずっと格下相手の尻拭いをさせられて、鬱憤が溜まってるみたいだな…。ま、今のあたし達じゃ、それで精一杯なのも仕方ないけど…)」
レッドサンズは、地元では一切バトルしないのが鉄則であったのだが。中嶋陸にコースレコードを塗り替えられるだけに飽き足らず、赤城ではトップクラスの腕を誇っていた啓介がクリスに敗れたことで。他所者から完璧に舐められてしまい。その後始末をするために、レッドサンズからケンタと真希が挑戦しに来た走り屋達の相手を任されることになり、尻拭いをさせられていたのだ。
「こうなったのも全て…。斎藤が俺達の地元で中嶋に負けたのが原因だというのに、なんで涼介さんはあいつを新しいチームに引き入れようとしてんだよ…」
「それに関しては仕方ないとこもあるだろ。涼介はタケルとバトルして、その走りを間近で見てるんだし。そんな腕利きを見過ごす方ことがあり得ないって話だ…」
「…そうかもしれないけどな、早乙女。涼介さんが走らねえというなら、なんで啓介さんの次に同じレッドサンズの俺を選ばなかったか、おかしいだろ…。」
「…お前、あたしに負けてる上、レインバトルが得意だと抜かしておきながら、妙義でハチロクに完敗したくせに、よくそんなことが言えるな…」
ケンタは自分を差し置いて、タケルをチームに引き入れることに不満を露わにするも、二人は涼介を秋名で負かしてからも、それなりに勝ち続け。真希は涼介がタケルを入れること賛成しながらも、未だに自分が優れてると思い上がるケンタに呆れるのだった。
「よぉ、お前ら…。少し聞きてえことがあるけど、いいか」
ケンタと真希が話していたところに、リーゼント頭が特徴の男が突っかかってきた為、真希がその男からの話に応じる。
「ん?誰だお前は…。見たところ、赤城の走り屋じゃないみたいだが、何の用があるってんだ?」
「へっ…。別に俺はお前らみてえなカスに用があるわけじゃねえよ」
「んだとォ!!」
「あんた…、あたしらを誰だか承知の上で話しかけてきたんじゃないだろうね?」
真希が睨みを利かせた鋭い目つきで、話しかけていくと。リーゼントが特徴のその男は、ニヤつきながら返す。
「知ってるさ。赤城じゃホラ吹きで有名なレッドサンズだろ。巷じゃ最速を誇っていた筈が、今じゃ他所者を相手に、ダセえ走りをするってな…」
「なっ!?なんだその言い方は…。てめえ、俺達を群馬じゃ名乗れたレッドサンズだと知ってながらバカにしてるのか!?」
「はぁ…まだ気付いてねえのか、巷じゃお前らは過去の栄光にすがってるだけの腰抜けだって言われてるのに、そのことを自覚すらしてねえとは、お前…頭悪すぎるぞ」
「こ、この野郎…言わせておけば!!」
「待ちなケンタ。あんた、この辺りじゃみない顔をしてるが、ひょっとして、県外から来た奴なのか?」
「ほぅ…そこの姉ちゃんは、そこにいるガングロより賢えみたいだな。俺は坂口健吾、新潟じゃトップを誇る走り屋だ」
健吾が自信満々に話していき、その名前を聞いた真希はあることを思い出す。
「坂口健吾だあ?…ひょっとしてあんた、デストロイヤー健吾っていう奴じゃないよな」
「ほぉ…その名が群馬まで知れ渡ってるとは、鼻が高いぜ」
「勘違いするなよ。ここに来る前に風間から警告を受けたんだ…。群馬には、なりふり構わず勝負を仕掛け、相手を事故らせる危険な奴が走ってるってな…」
「はっ、そんなことを言うなんざ…。俺からすればただの負け惜しみにしか聞こえねえがな。大体バトルってのは、どんな手を使ってでも先に着けば、いいだけの話だろ」
健吾が、自分の悪評を聞かされても物ともせず。勝ちさえすればそれでいいと抜かしていく。しかし真希は、そんなふざけたことを平気で口にする健吾に対し、こう言い放つ。
「…だったら尚更、あんたとやりあうのは御免だ。走り屋としての矜持を無視するような奴と、バトルするわけにはいかねえよ」
「ああん?てめえ…負けるのが怖くて逃げようってのか?」
「自惚れるんじゃねえよ。あたしらは曲がりなりにも、自分達がしていることはどれだけ危険かわかってるし、周りに迷惑かけてるからには、あんたみたいな自分勝手に車を振り回す奴と勝負する気はないだけのことだ…」
走り屋としてマナーを守る以上、健吾のような男とやり合う気はないと、真希は突っぱね。車に戻ろうとする間際、真希は振り向き様に言い放つ。
「いっとくけど、あんたがどれだけ自信あるのかは知らないけど、群馬エリアの走り屋をナメないことだな。あたしらの大将である涼介は勿論、その涼介が認める奴らが群馬にはいるからな。そいつらに勝てるっていうのなら、その時は少しくらい認めてやるよ。行くぞ、ケンタ…。こんな自分勝手な奴と関わってる暇はねえ」
「ああ、お前なんざ、うちの涼介さんや啓介さんの足元にも及ばねえからな…。出直してくることだ…!!」
真希とケンタが車に乗り込んで赤城を下りていき。それを見送った健吾は、握り拳を固く握りしめ、忌々し気に走り去る二台を見ていきながら呟く。
「…野郎、群馬の走り屋が調子に乗りやがって…!!そこまでして、俺とバトルしねえってんなら、目にもの見せてやる!!」
健吾は真希達を追いかけようと、自分が乗ってきたパルサーに乗り込み。エンジンを始動させ、勢いを付けていきながら、二台を追い始めた。
「(あいつ…。俺達とここでやり合おうってのか…)」
「(仕方ねえ…。あまり乗り気じゃねえが、放っておいても付きまとって来るだけだし。少しだけ付き合ってやるか…)」
後方から急速に接近する灰色のパルサーのヘッドライトを確認した二人は、乗り気ではなかったが。半ば強制的にバトルをすることになった。
真希の8が先頭を切り、その後ろにケンタのS14が続いていく。更にその後方から、健吾のパルサーが食らい付くように迫りくるのだった。
「なめんなよ…。てめえらみてえな雑魚を相手に、遥々群馬まで来たんじゃねえんだ…。実力の違いって奴を見せてやる!!」
そうしてローリングスタート形式でバトルが開始され、先を行くレッドサンズの二台が駆け下りていく。その後ろを健吾が豪語しながらケンタのS14のテールにぴったり張り付くと、躊躇なくリアをプッシュして押し当てる。
「なっ…!?いきなりケツに張り付いて、突っつきやがった…!!」
「へっ、てめえみてな下手くそはいるだけで目障りなんだよ…。とっとと道を開けろってんだ」
ケンタは車体を揺さぶられながらも、後ろからテールにプッシュを仕掛けるパルサーに悪態をつく。だが、健吾はそこから猛烈に押し続け、道を開けるよう脅しを掛け続ける。。
「(ケンタ…!!お前じゃそいつの相手をするには荷が重い!!あたしが引き受けるから大人しく下がれ!!)」
真希が後ろを走るケンタにハザードを点滅させて合図を送り。ケンタは真希からの合図を見て状況を察し、引き下がるしかないのだった。
「(ち、畜生…!!仮にもレッドサンズの一員である俺が…。こんな奴を相手に下がるなんざ、納得行かねえってのによ…!!)」
ケンタが悔しさを噛みしめながら、車体を路肩に寄せつけ道を開けていくが。パルサーはS14の横を抜け切ろとしたその瞬間、健吾はケンタに対し、猛追を仕掛ける。
ガッ
「なっ…!?」
「けっ、俺の走る道を邪魔した報いだ。そこで大人しくのさばってるんだな」
パルサーはS14の横を突っ切る直前で、サイドから容赦なく車体を押し当て。ぶつけられてバランスを崩したS14はその場でリアを大きく流しながら、スピンしてしまう。
「ケンタ!!」
真希は思わず声を荒げるも、パルサーはケンタのことなど構わず、8の直後に迫りくる。
「へっ…。さっきは随分とデカい口を叩いてくれたな。てめえみたいな生意気な女は嫌いじゃねえが、この場でたっぷりと痛めつけてやろうじゃんか…」
「…よくもあたし達の地元で、舐めた真似をしてくれたな。あんたみたいなやり方、あたしは絶対に認めねえ。あたしがここで叩き潰してやる!!」
そこから、8とパルサーによる一騎打ちとなり。赤と灰の二台が、赤城の峠を舞台に駆け出していくのだった。
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