頭文字D 峠の弾丸   作:ペンギン太郎

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ACT.117 群馬の精鋭VS新潟の破壊者 

 赤城山 麓

 

 

 「もしもし…涼介か。たった今、真希から来た連絡によると、例のパルサーが赤城に来ていると情報が入った。…わかった、赤城の走り屋には、そいつと下手に関わらないよう、俺から忠告しておくよ」

 

 

 赤城の麓にある駐車場にて、瀬名がスープラのフロントに腰を預けたまま、涼介と電話で会話し。スピードスターズの健二を通じて、坂口健吾のパルサーが群馬に来ているのを聞かされた瀬名は、そいつを相手にしないよう注意喚起すると涼介に伝えるのだった。

 

 

 「…にしても、このタイミングで厄介な奴に目をつけられたもんだな。ただでさえ、レッドサンズは他所者とのバトルで手が付けられないってのに…」

 

 

 そう呟きながら赤城山を眺める瀬名は、トラブルが起きないことを願うのだが、その願いは届かないことに気付かないでいた。

 

 

 ピリリリリ

 

 

 「ん?…こんな時にまた電話かよ。今日は随分と忙しいな、全く…」

 

 

 瀬名は文句を言いながらも、再び携帯を耳に当て。そこから電話の相手と話をする。

 

 

 「もしもし…。急にどうした?俺に連絡を入れてくるなんざ、どういった用件で…何だと!?真希がパルサーと赤城でやりあってるのか!?」

 

 

 同じ赤城を走る走り屋から真希が健吾のパルサーとバトルをしていると知らされた瀬名は、声を慌ただしくしながらも、状況を聞いていく。

 

 

 「…それで、状況はどうなって、…わかった。今から俺がそっちに向かうから、お前達は一般車が来たら赤城を走らないよう、道を塞いでおいてくれ」

 

 

 何の関係もない一般車が巻き込まれないようするのに、道を封鎖するよう頼み込んだ瀬名は、そこから電話を切ってすぐに、スープラに乗り込もうとするがヘッドライトを灯してこっちに近づく車が来た為、瀬名は車から誘導灯を取り出すと、その光で進路を示すように立ちはだかる。

 

 

 「すみません。今、赤城は危険な状況に置かれていまして…。今夜ばかりは走るのを控えてもらえますでしょうか?」

 

 

 瀬名が運転席側に回り込み、中に乗っているドライバーに赤城を走らないよう声掛けするが。窓が開いて、その車に乗っていた人物が瀬名の顔を見るや、意外そうにする。

 

 

 「あれ?瀬名さんじゃないですか…。どうしてここに?」

 

 「へ?結衣ちゃん…?」

 

 

 なんと、車に乗っていたのはまさかの結衣で。意外そうにする結衣の隣に座っていた哲治が、顔を乗り出して瀬名に挨拶をする。

 

 

 「ほぉ…。君達赤城の走り屋は、いつから道を封鎖して、公道を独占するようになったんだい?」

 

 「げっ…。結衣さんのお父さん!?」

 

 

 現役の警察官である哲治の顔を見て、瀬名は思わず冷や汗をかくが、状況が状況なだけに、事情を説明することに。

 

 

 「申し訳ありませんけど…。今夜は赤城を走らないでもらえますか。今、レッドサンズの真希が、マナーの悪い走り屋とバトルしている最中ですので…」

 

 「ふうん…。それを聞いてしまうと、尚更見過ごせないな…。そんな危険なことをする奴がいるとなれば、警察官として放っておくわけにはいかないよ」

 

 「そ、それはその…」

 

 「瀬名さん…。真希さんがバトルしてると言ってましたよね?瀬名さんがこうして道を塞いで注意するってことは、相手はよっぽど危ない人なのですか?」

 

 「ああ、君の言うとおりだよ。今、真希が相手してるのは、新潟から来た奴で、なりふり構わず車をぶつけてくるほどの、危ない奴なんだ…」

 

 「ええっ!?そんな危ない人と、真希さんがバトルをしてるのですか!?」

 

 

 瀬名から真希が相手をしている健吾について聞かされた結衣は、健吾の恐ろしさに怯えるも。哲治は真剣な顔付きをしながら瀬名に問いかける。

 

 

 「瀬名君…。その走り屋は新潟から来たと言ったね。もしかして、坂口健吾という、パルサーに乗っている男じゃないのかい?」

 

 「え、ええ…そうですけど…」

 

 「やはりそうか。群馬県警の間でも、あいつは要注意人物としてマークしていたんだが、新潟との県境付近で頻繁に危険な走りを繰り返していてね…なかなか決定的なところを押さえられずにいたんだ」

 

 

 哲治は瀬名の情報から、その走り屋が健吾ではないのかと予測し。瀬名がそうだと答えるや、健吾の危険性について語っていきながら、深刻な表情を浮かべる。

 

 

 「結衣…。練習がてら赤城に来て悪いんだけど、ここで待っといてもらえるかい。今からその坂口という男のところへ行かないといけないからね」

 

 「えっ、でも…お父さん」

 

 「いいかい。いくら結衣が走り屋と仲良くなってきたとはいえ、誰もが瀬名君みたいにマナーを守るわけじゃないんだよ。赤城を走っている坂口の様な危ない奴もいるところにお前を連れてくわけにいかないから、ここで待っておくんだ。いいね」

 

 「わ、わかったわ…」

 

 「哲治さん。俺が先に行って状況を見てきますから、どっか適当なとこで封鎖してもらえますか?俺としても、真希の様子も気になりますし」

 

 「うん、そうしといてくれるかな。僕がハザードを点けて待機しておくから、その二台の居場所が判明次第、この番号に連絡してくれ」

 

 

 哲治は自分の携帯番号を書いたメモを瀬名に渡し。瀬名はそれを受け取ってすぐに、スープラへ乗り込んでいく。

 

 

 「じゃあ…俺は先に行って様子を見てきますから、後のことはお願いします」

 

 

 瀬名はそう言って車を発進させ、物凄い勢いで赤城山を上っていくのであった。

 

 

 「瀬名さん…大丈夫かしら」

 

 「結衣、心配する気持ちはわかるが…。相手はかなり危険な男なんだ…。僕もできれば瀬名君と一緒に駆けつけたいけど、今乗ってきてたこの車じゃ、瀬名君はおろか…坂口の車に追いつくことができないからね」

 

 

 結衣の運転の練習の付き添いとはいえ、普通車に乗って来たことに、悔しそうにする哲治。

 そこから結衣と二人で、赤城の山を見上げながら、瀬名と真希の無事を祈るしかなかった。

 

 

 

 

 

 瀬名が上り方面を駆け上がる中、真希は健吾と一騎討ちを繰り広げる。

 

 

 「(…野郎、群馬じゃ難易度の高い赤城を難なくクリアするだけに飽き足らず、扱いづらいパルサーを苦戦することもなく、走らせていきやがる。悔しいけど、デカい口を叩くだけのことはあるぜ…!!)」

 

 

 真希がステアリングを握る赤のRX-8は、ピークパワーでは、先代のFDに劣る。だが、パワーが抑えられている分だけ、車はコントロールしやすく、安定した挙動を保ちやすいのが特徴だ。

 タイトなコーナーが続く赤城の中間セクションへ入っていくと、真希はステアリングを小さく、素早く切り返しながらスムーズにクリアしていく。

 だが、後ろから8を追うパルサーも、決して遅くはなく。アンダーが出やすい特性を物ともせず、ブレーキングドリフトでノーズを内側に沈み込ませながらコーナーを抜け、8のテールに食らいついていく。

 

 

 「(へっ…、思いの外やるじゃねえか…。FDよりパワーが落ちているRX-8を、上手く乗りこなして赤城を降りていきやがる…。さっきのS14よりかは、マトモに張り合えるかもしれねえな!!)」

 

 

 健吾が後ろから真希の走りを見ていきながら、真希のドラテクの高さを認めるが。中間セクションを抜けた先で薄く笑みを浮かべ、行動に移ろうとする。

 

 

 「(ようやく長えS字コーナーを抜けたか、この先の直線気味の区間なら、パルサーのパワーを思いっきり発揮することができる…!!)」

 

 

 そこから、一気に攻め立てようとしたか。健吾はパルサーのノーズを8のリアにピッタリと寄せると、ケンタにした時と同じ様にプッシュを仕掛けた。

 

 

 ガッ

 

 

 「(なっ、…この野郎、また後ろから押し込んで来やがった…!!こいつは、バトルを勝ち負けでなく、相手を潰すことでしか考えられねえのか)」

 

 

 後ろから仕掛けてくるパルサーの猛追に、真希は思わず舌打ちをするが、パルサーは距離を詰めていきながら、8を執拗に追い立て。再び短い直線に入ってすぐに、パルサーは二度目のプッシュを仕掛けた。今度は明らかに強く、8のリアが外側へ押し出される。

 

 

 「(お前を逃がすわけにはいかねえんだよ…!!てめえをここで仕留めれば、赤城じゃ最速って噂の高橋兄弟が出てこざるを得ねえだろ!!…仲間がヤラれて、黙ってるわけにもいかねえからな…!!)」

 

 

 高を括る健吾は赤城で真希を仕留め、高橋兄弟のどちらかを赤城に呼びつけようと画策し。真希はカウンターを当てて車体を立て直すが、ラインが乱れた隙間を、パルサーが確実に突いてくるのだった。

 

 

 「(くっ…!!このままじゃ、確実にやられちまう…!!こんなところでくたばるわけには…!!)」

 

 

 真希がもうそろそろ限界に近づいてるのではないかと危機感を募らせたその時、前方から一台の車がヘッドライトをハイビームにしたまま、急接近してくるのだった。

 

 

 「なんだぁ、…スープラじゃねえか。そんなでけえだけの車が、何しに来たってんだよ」

 

 「…風間!!助けに来てくれたのか!!」

 

 

 真希と健吾のバトルに割って入ってきたのは、瀬名が駆る赤いスープラだった。

 スープラは二台の横を勢いよくすり抜けると、次の瞬間にはサイドターンで向きを変え、二台の後方へと滑り込むのだった。

 

 

 「ようやく追いついたか…。このことを早く哲治さんに伝えておかないと」

 

 

 二台に追いついた瀬名は、哲治の番号に連絡を入れ。目の前で繰り広げられる状況を、麓で待機してる哲治に伝えていくのだった。

 

 

 

 

 

 赤城 ゴール付近

 

 

 「もしもし、瀬名君か…。うん、了解した。こっちは車を道のど真ん中に停めて封鎖してある、逃げ道は塞いでおいたから、真希君に合図を送って、こっちにおびき寄せてくれ」

 

 

 瀬名から合流したと連絡を受けた哲治は、結衣の練習用に乗ってきた車を道の中央に停め。ハザードを点けたまま通路を塞ぐのだった。

 

 

 「さて…この程度じゃ止まってくれる相手じゃないのはわかっているけど…。少しは大人しくなってくれるといいんだけどね」

 

 

 

 

 

 場所は再び赤城の道中へと戻り。

 後ろから8とパルサーを追っていた瀬名が、スープラを一気に加速させると、二台がインを抑え込んで空いたアウト側の隙間を突き、パルサーの横を豪快にすり抜け。そのまま真希の8のサイドに並ぶと、手で素早く合図を送る。

 

 

 「(…なるほどな。麓で待機してる罠に引っ掛け、パルサーを追い詰めるってわけか…。負けっぱなしなのは気に食わねえが、背に腹は代えられないからな…)」

 

 

 瀬名からの合図を察した真希は小さく頷き。瀬名がスープラのアクセルを緩め、真希が空けたアウト側へ車体を寄せ。8が空けたイン側のラインをパルサーが抑え付け、そのまま先行していくのであった。

 

 

 「(ちっ…もう終わりかよ。群馬最速の割には呆気なさ過ぎるぜ…。ん?)」

 

 

 8を抜き去って前に出た健吾の前に、道の中央へ停車した車が現れ。哲治が誘導灯を振りながら、止まるように合図を促すのだった。

 

 

 「(くそったれ…、そういうことだったか…!!野郎、正面から勝てねえとはいえ、こんな汚え真似をしやがって…!!)」

 

 

 自分がこれまでやってきたことを棚に上げるように健吾は激しく苛立つ。だが、目の前で停止を求める哲治の指示に健吾が従う筈もなく、パルサーはそのまま勢いを増して突き進もうとするのだった。

 

 

 「邪魔だごらぁ!!とっとと道を開けやがれ!!」

 

 

 「…これ以上は流石にマズいか」

 

 

 パルサーは停車している哲治の車へ向けて突っ込んでいき。哲治はギリギリまで誘導灯を振って制止を求めるが、危険を察して即座に車の横へ退避した。

 

 

 ガリッ

 

 

 紙一重の差で正面衝突を免れたものの、パルサーのサイドボディが哲治の車に接触し。車体に傷を負いながらも、健吾は勢いを落とさずに、麓へと逃げ去っていった。

 

 

 「…ふぅ。あと一歩遅れてたら、車ごとあの世行きになってたかもね」

 

 

 哲治が、接触した車の傷を見ながら息を吐き。すぐ後方から、瀬名のスープラと真希の乗る8が遅れて追いついて来るのだった。

 

 

 「哲治さん、怪我は…?」

 

 「ああ、大丈夫だ。ぶつかる寸前で避けられたから、かすり傷程度で済んだよ。まさか、目の前に車が止まっていようが構わず突き進むとは、…噂通りの走りをする奴だったね…」

 

 

 哲治がパルサーの逃げ去った方向を見つめながら、瀬名が哲治達の乗ってきた車の傷に目をやっては、申し訳なさそうに言った。

 

 

 「哲治さん。奴を取り逃してしまったのは申し訳ありません。協力してくれたお詫びと言ってはなんですが…。その車、俺の知り合いのガレージに持って行ってもいいですか?車はきちんと元の状態にしてお返ししますので」

 

 「ああ、そうしてくれると助かるよ。この車は結衣の為に中古で買ったものなんだけど…。直してくれるなら、お言葉に甘えさせてもらうよ」

 

 

 

 瀬名が哲治達が乗ってきた車をルドルフのところに持っていっては直すと言うと。哲治はそれで構わないと返すが、瀬名はそこから次の行動について話す。

 

 

 「真希…。バトルした直後ですまないが、この車をルドルフのところへ持っていかないと行けないから、お前は哲治さん達を自宅まで送ってやってくれないか」

 

 「…わかったよ。どうせあんたのスープラじゃ、一人しか乗せられないしな。貸しにしといてやるよ」

 

 「すまない」

 

 

 瀬名は軽く礼を述べた後、逃してしまった健吾が次に狙うであろう走り屋について、話を移す。

 

 

 「これは俺の予想なんですけど…奴が次現れるとしたら、涼介達だけじゃなく、タケルや拓海も狙ってくる可能性が高いかもしれません」

 

 「そうだね。もし奴が、今のやり方でタケル君や拓海君に手を出そうものなら、後悔するかもしれないよ…。何せあの二人が、奴のしでかしたことを見過ごすわけがないからね…」

 

 

 瀬名は健吾の狙いが高橋兄弟の他にタケル達も加わってるのではないかと予測し。哲治が二人を相手にすれば健吾が痛い目に遭うに違いないと静かに言い切るのだった。

 

 

 

 

 

 翌日

 

 

 「えぇーっ!!あのパルサーが赤城に現れたですってェ…!!」

 

 

 瀬名達が健吾と遭遇した翌日、スタンドでは健二から昨日のことを聞かされたイツキが、いつものように独特のポーズをして大げさに驚いていた。池谷も寝耳に水だったのか、詳細を確認しようと乗り出す。

 

 

 「それで、赤城ではどうなったんだ?まさか…レッドサンズがやられたっていうんじゃないだろうな…」

 

 「いや、風間が偶々赤城に来ていた結衣ちゃんの父親と連携して取り押さえようとしたらしいんだが、向こうは制止を振り切って逃げたそうだ…」

 

 「そうか…。とうとう奴が赤城まで来るとは、ますます収拾がつかなくなってきたな…」

 

 

 健二から話を聞き終えた池谷が、う〜んと頭を悩ますも。そこへ一台の車がスタンドへ入っていき。池谷達はすぐに仕事モードへと切り替えた。

 

 

 「いらっしゃいませ」

 

 「ハイオク満タンで」

 

 「了解しました。ハイオク満タン入りまーす!」

 

 

 スタンドにやってきたのは黒のFDで、池谷が給油機のノズルをFDの給油口に差し込み、そこからガソリンを入れながら、タオルで車を拭いていくと。その車に付けられているナンバーを見た瞬間、池谷の目つきが変わる。

 

 

 「…新潟ナンバーだと。まさか…」

 

 

 池谷がFDに付けられている新潟ナンバーに目をやる途中、黒のFDの運転席から一人の男が降りて、池谷達の前に立ち。男は静かに口を開く。

 

 

 「失礼…。ここに来れば、秋名のハチロクか…弾丸と話ができると聞いて来たんだが」

 

 「!! お客さん…ひょっとして、ハチロクかスイスポにバトルの申し込みをしに来たのですか?」

 

 「いや。俺は観光目的で群馬に遊びに来ただけで…。もしハチロクか弾丸に会えたのなら…坂口のことについて、ひとこと言っておこうと思ってな。ここにいないのなら、また別の機会に寄らせてもらうよ」

 

 

 男がそう言って、給油を終えたFDに乗り込んで、スタンドを立ち去ろうとするが、池谷が男の口から坂口という言葉が出たのに反応して呼び止めた。

 

 

 「ちょっと待ってください…!!あなた今、坂口って言いましたよね?…もしかして、デストロイヤー健吾と呼ばれてる、あのパルサー乗りのことを言ってるのですか?」

 

 

 池谷が改めて聞いていくと、男は再び池谷達のいる方に振り返り、こう打ち明かす。

 

 

 「そうだ。俺は小野哲也っていって、あいつと同じ新潟の走り屋でな。過去に一度やり合って…車と、この顔に傷を負わされたんだ」

 

 

 そう言いながら哲也が額に付けられた古い傷を三人に見せつけ。傷跡を見た三人は、思わず言葉を失ってしまうのだった。




 今回新たに、エナジーマン様からのリクエストキャラの小野哲也を登場させました。
 登場したとはいえ、端役に近い形ではありますが、その活躍にご期待を。


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