頭文字D 峠の弾丸 《Project D》   作:ペンギン太郎

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 更新しました。
 この話の最後に、スイスポとハチロクに関するアンケートを設けましたので、宜しければ入れてください。


ACT.126 炎のコースレコード

 秋名山 5連続ヘアピン

 

 

 秋名の5連続ヘアピンに入っていった二台は、互いに一歩も譲らない激闘を繰り広げていた。

 先頭を走るタケルは、一つ目のヘアピンに差し掛かる直前でフルブレーキングしてフロントに荷重を掛け。そのままイン側の底溝にフロントタイヤを落とし込み、高いグリップを得て、引っ掛けるようにコーナーを鮮やかに抜けた。

 しかし、拓海も遅れを取らずに、ブレーキングドリフトでスイスポの後を追い。ヘアピンに突っ込むとフロントタイヤを底溝に嵌め。タケルのスイスポを風除け代わりにしながらテールに食らいついていく。

 

 

 「(やってくれるね…。僕のスイスポを風除け代わりにして、スリップストリームで追い上げてくるとは、流石に一筋縄ではいかないか…)」

 

 「(…まだ勝負に負けたと決まったわけじゃないんだ。何がなんでも…ここで差を縮めて…。お前に勝つ!!)」

 

 

 半端な走りをしていればすぐに抜かれると感じたか、タケルは一時も気が抜けない状況に追い込まれるが。拓海を相手にする以上、こうなるとわかりきってるからには、何がなんでも抜かせるわけにはいかないと。より一層気を引き締めていく。

 

 

 

 

 

 ハチロクとスイスポが5連続ヘアピンを走っている同時刻、涼介はそこで待機するチームメンバーから近況報告を受け。それを近くに立つクリスに教えるのだった。

 

 

 「中継地点にいるメンバーからの話によると、スイスポが5連続ヘアピンへ入る手前でハチロクを抜いたそうだ。二台がここへ近づくのも、時間の問題だな…」

 

 「流石はタケル君ってとこかしら。秋名で一番難しいとされる5連続ヘアピンで抜くんじゃなく、敢えて入る手前で追い抜くだなんて。余程、ハチロクに勝つ自信があるみたいね…」

 

 「ああ。あそこのヘアピンは完璧に曲がり切るのに、高いレベルを求められるポイントだからな。おそらく中嶋も、そこで二人の走り屋を見ている筈だ…」

 

 「ご明察ね。陸ちゃんは走りにおいて、コーナーをどう曲がるのか重要視する人だもの。コーナーリングの良し悪しを見極めるには、あそこが一番適しているわ」

 

 

 涼介の報告で、タケルと拓海が5連続ヘアピンで激走していると耳にしたクリスは、タケルがヘアピンに入る前にハチロクを抜いたのは、自信の現れでないかと推測していくが。

 結衣は二人のバトルで気になることがあったか。隣にいる玲にある質問をする。

 

 

 「玲さん。少し聞きたいことがあるんだけど、いい?」

 

 「ん?何かな…」

 

 「タケル君が乗ってるスイスポと、拓海が乗ってるハチロクって車は、具体的にどう違うの?前にタケル君から聞いた話だと、駆動方式が違うぐらいしかわからないんだけど…」

 

 「う〜ん…ハチロクとスイスポは、駆動方式は違うけど、どっちも1.6Lのローパワーな車だから、優劣を付けるのは難しいと思うよ。特にこれといった特徴もない車だし…」

 

 「そうとも言い切れないわよ。玲ちゃんの言うようにハチロクとスイスポはパワーの劣る車だけど、どちらもドライバーの質を高める車であることに変わりはないわ」

 

 「…どういうことですか?」

 

 

 クリスがハチロクとスイスポに大きな違いはないとでも言うような口調で語っていくと。結衣はそのことについて、クリスに尋ねる。

 そこからクリスは二台の特徴について話し出す。

 

 

 「ハチロクは今時の車みたいな電子制御が殆どないから、ドライバーの操作がそのまま伝わるの。上手く荷重移動を使ってコントロールすれば速く走れるけど。ミスをすればすぐに遅くなるから、ドライバーがきちんとしていないと、本領を発揮しない車よ」

 

 「つまり…。拓海君が乗るハチロクは、速く走らせようとするには、ドライバーの腕が試されるってことなんですね…」

 

 「ええ。逆にスイスポは電子制御が入っていて、FFという駆動方式のおかげでコントロールしやすいから、運転がまだ上手くなくても車が素直に反応してくれるの。だから、走りの基本を身に着けるのに、とても向いている車なの」

 

 「…ハチロクとスイスポは、走りの違いだけじゃなく、ドライバーの反応に対するアプローチが異なる車だということなんですか…?」

 

 「それだけじゃない。ハチロクとスイスポはどちらも、ドライバーを育てる車だが、育て方が違うんだ。ハチロクはミスを許さない厳しさでドライバーを鍛え、スイスポは安定した土台の上で更に伸ばしていく。だから、ハチロクに乗る藤原は、ごまかしの利かない車で鍛えられた『天然』の走りをする一方で、斎藤は電子制御の助けも借りながら伸びてきた『養殖』の走りをする、といえばわかるかな?」

 

 「天然と養殖…」

 

 「ま、要するに…車と共に同じ峠を走ってきたドライバー同士による。走りの違いを確かめる為のバトルでもあるってことさ。FRのハチロクとFFのスイスポという駆動方式が異なる車で二人がどう決着をつけるか。一見の価値があるのは間違いないからね」

 

 

 ハチロクとスイスポ。

 走りに対する性質の異なる車が、このバトルでどうぶつかるのか。結衣を含むこの場にいる全員が、秋名を下りてくる二台を静かに待っていくのだった。

 

 

 

 

 

 5連続ヘアピンを駆け下りる二台は、陸が待ち構える5個目のヘアピンに近付くと。二台共、溝落としでコーナーをクリアしていく。

 

 

 

 「(速い…!!一度姿勢を崩せば立て直すのに時間は掛かるハチロクを、拓海は物ともせずに使いこなしている…。あそこまで完璧にハチロクをコントロールしているからには、下手にアンダーを出したら最後、一気に抜かれてしまう…)」

 

 

 タケルがバックミラー越しに後ろから追ってくるハチロクを見ると。ハチロクはスイスポとの距離を一定に保ったまま、リアに食いつき、接戦になる。

 

 

 「(ハチロクは今でこそ古い車だけど、ドライバーの操作に機敏に応えてくれるのが最大の特徴だって、おじさんが言ってたんだ…。これだけ走り続けていても差が開かないということは、拓海の方が僕よりもコーナリングで優れているという他ない…)」

 

 

 バックミラーに映るハチロクを見つめながら、タケルはスイスポよりも運転が難しいハチロクを操る拓海が、自分よりも走りが優れてるという現実を受け止めるしかなかったが。バックミラーを見るのを止めて、目線を前に向けながら気持ちを切り替える。

 

 

 「(でも、コーナーじゃ拓海に勝てないことはわかりきっていたんだ…。曲がりで勝てないなら、コーナーを抜けた先の立ち上がりで、拓海よりも速く前に出るしかない…)」

 

 

 戦術を切り替えたタケルは、コーナーで無理に勝負するのではなく、コーナーを抜けた後の立ち上がりでハチロクとの差を広げていく方向へ舵を切った。

 スイスポがヘアピンをクリアして、ハチロクがそれに続く。立ち上がりでもハチロクはスイスポのリアに食いついたまま、距離が変わることなく均衡を保ち続けていた。

 

 

 「……」

 

 

 5連続ヘアピンの5つ目のヘアピンの近くにいた陸は静かに腕を組んだまま、静かに二台の走りを観察し。

 スイスポが5個目のヘアピンでフロントタイヤを底溝に落し込み、引っ掛けるようにして抜けきると。その後ろを走るハチロクも同じようにタイヤを溝に嵌め。遠心力を活かしたコーナリングを見せていくのだった。

 

 

 「お、おい…。見たか今の」

 

 「す、凄えな…。あんな狭く勾配の強いヘアピンを、あんな簡単に抜けちまうのか…」

 

 「ああ。やっぱりあの二台はコーナーが断トツで速いんだ。秋名まで観に来た甲斐があるよ…」

 

 

 5連続ヘアピンにいたギャラリー達がどよめき、二台のコーナリングの凄さに圧倒されている中、陸はギャラリーを呆れたように一瞥し、再びコース上へ視線を戻し。内心で呟く。

 

 

 「(ふんっ…。所詮峠を走ってるだけの奴らじゃ、その程度の見解しかできねえか…。さっきのあれは、この峠を走り込み。仕掛けるポイントを完璧に把握してないとクリアできない高度な技術(テクニック)だ。少しでもタイミングを外せば足回りがイカれてしまうにも関わらず。何の躊躇いもなくあそこでやれるなんざ、余程自分の走りに自信があるからだろうな…)」

 

 

 陸は、スイスポとハチロクがやった溝落としは高度な技だと分析し。他のギャラリーが単にコーナリングの速さに驚いている中で、ある一点に注目する。

 

 

 「(あの二台がここで見せたあの(・・)コーナーワーク…。車を走らせる上で一番重要なポイントが何なのかを、あいつはわかってるみたいだな…。後は、あらかじめクリス達に待機するように言っておいたあそこで、どう決めるかだ…)」

 

 

 陸はそう結論づけると、5連続ヘアピンを後にしようと後ろに停めてある無限RRへ戻っていき。車に乗り込み、スタートボタンを押してエンジンを始動させる。

 

 

 ブォオオオン

 

 

 「(斎藤の走りが観れたからには、ここにいる必要はねえな…。あいつがどれだけ大きくなって、俺のところに再び現れるか。その時が来るのを楽しみにしといてやるよ…)」

 

 

 ンバアアアア

 

 

 タケルの将来を期待するように言い切ると、陸は無限RRを走らせ、獣の雄たけびを彷彿させるVTECサウンドを轟かせながら、5連続ヘアピンを走り去っていくのだった。

 

 

 

 

 

 ハチロクとスイスポのバトルは終盤の最終セクションへと突入し。

 涼介達のいるゴール直前の、複合コーナー手前にて、二台のスキール音が響く。

 

 

 「…そろそろ来るみたいだぞ」

 

 「えっ、もうそこまで来てるのですか?」

 

 「ええっ。FR特有の、タイヤを滑らせた時のスキール音がここまで聞こえるということは、かなり近づいていることを意味するからね…」

 

 「それにもう一つ…。ブレーキングでフロントに荷重が乗った時の音も混じってる。スイスポもハチロクと接戦を続けてるのが、音だけでわかるからね…」

 

 「タイヤの音一つで…そこまでわかるものなの?」

 

 

 結衣を除く三人が、山から響くスキール音に耳を澄ませ。再びコースへ視線を戻した涼介が開口一番に言う。

 

 

 「不思議なものだな…。あの二人が走っているだけでここまで見応えのあるバトルになるとは…。もし俺もこのバトルに混じったら…、完成している俺の走りにまた新しいものが見えてくるに違いない…」

 

 

 二人のバトルに参加したら、今よりももっと良い走りができるかもしれないと涼介は呟くと。刻一刻と近づいてくる二台の気配に、再びコース上を見ていくのだった。

 

 

 

 

 

 5連続ヘアピンを抜け、長い直線区間に入ると、ハチロクがスイスポにサイドバイサイドで並び。

 タケルは、横を走る拓海に目を向けていきながら呟く。

 

 

 「(とうとうゴール直前のコーナーまできたか…。拓海とのバトルが終わるには、まだ早い気がするけど…)」

 

 「(何もかも吹っ切れた…。俺は、タケルと一緒に涼介さんについていけばいいんだ…)」

 

 

 拓海の目つきが、新たに決意したように変わっていくのを見たタケルは、拓海が覚悟を決めたと察したか。自然とステアリングを握る手と、アクセルを踏む足に力が入る。

 

 

 「(…その様子だと覚悟を決めたみたいだね。お前とのバトルが終わりに近づいていくのは名残惜しいけど、どんなバトルにもゴールがある。最後のコーナーで、一発勝負と行こうか…!!)」

 

 

 ハチロクとスイスポは、そのまま横に並んだまま勢いを増していくと。涼介達がいる最終コーナーへ、全力で駆けていった。

 

 

 

 

 

 ギャアアア

 

 

 「音が段々大きくなっていきますよ…」

 

 「どうやら…もう直前まで、近づいてるようだな」

 

 

 タイヤのスキール音が、さきほどよりも鮮明に響く。

 結衣が身を乗り出し、涼介がそろそろ来るのではないかと静かに頷く。

 そして、ハチロクとスイスポが横並びのまま。涼介達の眼前に広がる最終コーナーへと突入する。

 

 

 「来たっ!!両者共に互角のまま、コーナーへと突入するよ!!」

 

 「そうね…。ライン取りが自由に選べるこの複合コーナーで、どんな走りをしてくれるか。見届けさせてもらうわよ…」

 

 

 玲とクリスがそう語っていきながら、二台がコーナーへと入っていく瞬間を見ていく横で。涼介は過去に二台と秋名でバトルした時の出来事を思い出すかのように言う。

 

 

 「(前に俺とここでバトルした時は、インベタを抑えられながらも、アウトから攻めていったあの走りを…。今度は俺が見届ける側になるとはな…)」

 

 「(お願い、タケル君…勝って…!!)」

 

 

 涼介が真剣な眼差しを向け。結衣は祈るように手を握りしめる。

 二台はノーズを突っ込み、リアを滑らせながらドリフトでコーナーを曲がっていく。立ち上がりでの勝負を狙い、アクセルを踏み込む。

 

 

 「おおっ!!ハチロクもスイスポも、ドリフトでここを抜け切る気か!?」

 

 「…二台共。順調に進めてるみたいね。後はどう立ち上がるかで勝負が決まるわ」

 

 

 ハチロクとスイスポのドリフトを見て興奮気味に叫ぶ玲とは対照的に、クリスは冷静にその走りを注視していた。

 

 

 「…見て。タケル君の車が、ハチロクよりも前に出たわ…!!」

 

 「スイスポはスーチャーを付けてるから一歩前に出れたんだよ…。後はこっから突き放すことができれば…」

 

 「…待て。ハチロクが後ろから更に詰めてくるぞ…!!」

 

 「「え?」」

 

 

 涼介の言葉に、二人は息を飲む。コース上では、ハチロクがスイスポにインを抑えられながらも、アウトから一気に加速をつけて差を縮めようとする。

 

 

 「(…後少し。このコーナーから立ち上がりさえすれば…!!)」

 

 

 タケルは、ハチロクから逃げ切ろうとアクセルを限界まで踏み込む。しかし、スイスポがハチロクを振り切ろうと距離を空けようとしたその時、

 

 

 ギャアアア

 

 

 「(…しまったっ!!ここに来て、もうタイヤが…!!)」

 

 

 スイスポはフロントタイヤが限界に近づいたか。フロントのグリップが一気に抜け、車体が僅かに流れた瞬間、後ろを走るハチロクのノーズが前に出て、オーバーテイク。

 バトルの結末は、ハチロクの勝利が確定した。

 

 

 「…どうやら、勝負は決まったみたいだな」

 

 「……」

 

 「まさか、最後の最後でスイスポのタイヤが限界を迎えるとはね。こればっかしは、認めざるを得ないか…」

 

 「そうね。タケル君もここまでよく頑張ったけど…ハチロクが、ほんの少しだけ速かったってとこかしら…」

 

 

 涼介達はスイスポがハチロクに一歩及ばなかったことに言葉を交わす中、結衣は目に涙を浮かべ。タケルが負けたことを悔しそうにする。

 

 

 「タケル君…」

 

 「そう泣かないでよ結衣ちゃん…。結果的に負けたとはいえ、スイスポはハチロクといいバトルをしたんだ…。今日のことは、一生の思い出になると思うよ…」

 

 「玲ちゃんの言う通りね…。ここで見せてくれたあの走りはあたし達から見ても本物だということが、証明されたんだもの…。いずれあの二人は、関東だけに留まらない逸材になるとあたしは信じてるわ…」

 

 

 玲が結衣を優しく抱きしめ。クリスも優しく言葉を添えていく。

 そんな中、ゴール地点のメンバーから連絡を受けた涼介が、悲しそうな顔をする結衣に向かって口を開く。

 

 

 「結衣ちゃん…。斎藤はバトルに負けはしたが、一ついいことを教えてあげるよ」

 

 「…なんですか」

 

 

 涼介は少し悔しそうでありながらも、どこか清々しい表情を浮かべて言った。

 

 

 「…斎藤と藤原が、このバトルで出したタイムは…俺があの二人とバトルした時に出たコースレコードを更新したと麓にいるメンバーから連絡が入った…。それが何を意味するのか、わかるかな」

 

 「…!!」

 

 

 高橋涼介から出た言葉は、自分とバトルした時に出たコースレコードを、タケルと拓海が更新したという事実であり。

 この場にいる誰もが、言葉を失うのであった…。




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  • スイスポ
  • ハチロク
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