頭文字D 峠の弾丸 《Project D》   作:ペンギン太郎

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 third stageを書き終えました。次回からはfourth stageに突入しますので、応援よろしくお願いします。


ACT.127 旅立ち

 タケルと拓海がバトルして数日が経ち。

 雪がまだ完全に溶け切っていない3月のある日。

 拓海達が通う高校で卒業式が執り行われていた。

 体育館には多くの卒業生が席を埋め、壇上に上がっている校長の話に耳を傾け。

 イツキが卒業を前に涙を流す横で、拓海は茫然と前方を見つめていた。

 タケルはいつものように校長の話を聞き流しつつも上の空で。後ろの席で座ってるなつきが、ハンカチでそっと涙を拭う。

 

 

 「(おい文太…。もう少しちゃんとしたらどうなんだ?)」

 

 「(なんだよ…。ただ、息苦しいから緩めただけだっての)」

 

 

 保護者席では文太が慣れないスーツ姿で拓海達を見守るも。話を聞いていく途中ネクタイを指で緩めながら、どこかぎこちない様子で。タケルの親代わりで式に出席した政志は、きちんと整ったスーツ姿のまま、ネクタイを緩めている文太に小声で注意するも。文太は不満そうな顔を浮かべる。

 

 

 「(ったく、仮にも息子が旅立つのを見届けなきゃいけねえのに。こんな様じゃ、天国の勝に笑われるぞ)」

 

 「(けっ…。こんな様で悪かったな…)」

 

 「(ちょっと、政志さん…。まだ式の最中ですよ。もう少し声を抑えてもらえますか?藤原さんも落ち着いてください…)」

 

 

 政志の反対側に座る遥香が、あまり声を出さないよう二人をたしなめ。文太と政志は互いに目線を交わしながら、改めて拓海とタケルの姿を見守るのだった。

 

 

 

 

 

 「とうとうこの日が来ちゃったか…」

 

 「だな。こんなにも、早く迎えるとはな…」

 

 

 卒業式を終えて、卒業証書が入った黒筒を手に持って歩く拓海とタケルは、卒業したことを実感しながら校舎を出る。

 

 

 「拓海く〜ん!」

 

 

 卒業したことを二人が話している真っ最中に、なつきが拓海の元へ駆け寄り。拓海を見つめながら、話しかける。

 

 

 「卒業…しちゃったね…」

 

 「うん…」

 

 「(いいよなぁ拓海は、こんなにも甘い空気が漂ってるなんてさ…)」

 

 

 二人だけのムードに包まれているのを傍で見ているタケルは、拓海を羨ましく思っていると、なつきが軽く話しかける。

 

 

 「この後、友達と集まるんだけど…。最初だけ顔出してすぐ帰るから…」

 

 「わかった…。じゃあ、いつものとこへ迎えに行くから…」

 

 「うん…。なつきも拓海君とゆっくり話したいから…」

 

 

 なつきは、後で会うと拓海と約束すると。友達が待っている方に向かい。それを見送った拓海に、タケルは肩を組んでは言う。

 

 

 「拓海、茂木さんと会うことができるのは、これが最後になるかもしれないんだし…。思う存分、話してきなよ…」

 

 「お、おう…。ってか、お前にしてはやけに優しい気がするな…。この間のバトルで俺に負けたっていうのに…」

 

 「いいよ、それくらい…。拓海とのバトルに負けはしたけど、僕自身、新たな目標が見つかったしさ…」

 

 「目標?何だよそれ…」

 

 「ああ。それはね…」

 

 

 「お〜い!!拓海ぃ、タケル!!」

 

 

 タケルが言いかけた矢先、校舎から出てきたイツキが、二人に声を掛けながら近づいていき。涙ながらに語り出す。

 

 

 「しかし…卒業って泣けるよなァ…。うぅ…」

 

 「イツキ…。卒業して感極まるのはわかるけど。少し落ち着けって…」

 

 「ぐすっ…。そうだよな。ところで、この後どうする?俺ん家で、青春でも語り合うか?」

 

 「…お前と語る程の思い出なんて、あったか?」

 

 「なんだよその言い方は!!まるで俺との思い出がないみたいじゃんかよォ!!拓海の方はどうなんだ」

 

 「冗談だって、そう怒るなよ。拓海、お前はどうするんだ?」

 

 

 イツキがタケルの失礼な返しに感情的になるが。タケルは隣に立つ拓海に目線を送るが。拓海は視線を外し、ぎこちなさそうに言う。

 

 

 「俺は、その…」

 

 「ああ!!お前ひょっとして、茂木と二人っきりで!?」

 

 「いや…その…」

 

 「もうここまで来たら、隠す必要ないんじゃないか。どのみち後で会う約束をしてたんだしさ…」

 

 「いいんだいいんだ。行ってこいよ…。どうせ俺は二人と違ってロンリードライバーなんだ!!」

 

 

 イツキが独りでに泣きながら二人の前を走り去り。それを見ていったタケルは、拓海にこう言い残す。

 

 

 「拓海…。僕はこの後、姉ちゃん達と一緒にある用事を済まさないといけないから、ここで御暇させてもらうよ。残された時間を、大切にしろよ…」

 

 「…わかった。遥香さんには、よろしく言っといてくれよ」

 

 「ああ、またね…」

 

 

 タケルはその場で拓海と別れると、遥香との待ち合わせ場所へ行き。そのまま、次の場所へ向かうのであった。

 

 

 

 

 

 群馬県 〇〇市 某墓地

 

 

 「久しぶりだね父さん…。今日、無事に高校を卒業したんだ…」

 

 

 タケルが向かった先は、父・勝が眠る墓前で。タケルは腰を下ろし。墓前に線香を上げて静かに手を合わせ、卒業の報告を父に伝える。

 

 

 「それで、卒業後のことなんだけど…。僕、父さんと同じプロの世界に挑戦しようと決めたんだ。まだ父さんには及ばないかもしれないけど…きっといつか、父さんを超えるドライバーになってみせるから、僕や姉さんを見守っててね」

 

 

 タケルはそう決意を伝え、ゆっくりと腰を上げ。後ろで待っていた遥香と政志の方を向き。用事を済ませたと言う。

 

 

 「姉ちゃん…。父さんに言いたいこと全部言ったから、もうそろそろ行こっか…」

 

 「そうね…。きっとお父さんも天国からあたし達を見守っては…。タケルが大きく成長するのを期待してると思うわ…」

 

 「ま、後はタケルが無茶をしてヘマしないようにすることだな…」

 

 「何をっ!!それじゃあまるで、僕がプロになれないみたいじゃないか…」

 

 「ほら、タケル。お父さんへの報告も済ましたんだし、もう帰りましょう」

 

 

 遥香がタケルを嗜め、父の墓前から離れていくも。タケルはあることを思い出し、前を歩く遥香に話しかける。

 

 

 「姉ちゃん…。少し寄りたいところがあるからそこへ行くのに、車使ってもいい?」

 

 「…いいわよ。でも、帰りが遅くならないよう…ちゃんと日が暮れるまでには戻ってくるのよ」

 

 「へへっ、ありがとう姉ちゃん…」

 

 

 タケルは、ある場所へ寄り道することを遥香から許してもらい。

 墓地の駐車場で遥香達と別れたタケルは、ある目的地へと車を走らせて行くのであった。

 

 

 

 

 

 秋名湖

 

 

 「湖の氷、すっかり解けちゃったね…。だんだん暖かくなってくんだね…」

 

 

 拓海と二人っきりで、秋名湖に来ていたなつきは、橋の上で湖を眺めながら静かに呟き。拓海がズボンのポケットに手を突っ込んだまま、橋の上を渡り歩くと、なつきは拓海の後を追うように歩いては、秋名湖の畔に立つ。

 

 

 「拓海君…。地元の運送会社に就職決めたんだよね…」

 

 「ああ。俺…車から離れた生活をするのが考えられないよ」

 

 「離れるのは嫌だな…」

 

 

 なつきは拓海と別れたくないように言って、立ち止まると。目の前に立つ拓海に本音をぶつける。

 

 

 「わかってたけど、やっぱり嫌だ…。ねえ、拓海君も一緒に東京いこうよ…。ねっ?」

 

 「俺は残るよ…」

 

 「え…」

 

 

 自分と一緒に東京へ行かないかと拓海を誘うなつきだが。拓海は、一度決めた決意を変える気はなかったか。自分の心中をなつきに語り出す。

 

 

 「俺…去年の秋から考えていたことがあるんだ…。俺の夢ってなんだろうって…冬の間ずっと考えてて…やっと気が付いたんだ」

 

 「……」

 

 「車に乗ることが好きだから、誰よりも速く走りたいんだ…。俺、プロのドライバーになりたい…。その為に地元に残る」

 

 「その為に?」

 

 「俺は、今度できる新しいチームにタケルと一緒に入って、色んなことを勉強したいんだ…。そして、誰にも負けない頂点のドライバーに立つ」

 

 「(…凄い、凄いよ…拓海君)」

 

 

 拓海の目指している先を聞いたなつきは、あまりにものスケールの大きさに言葉を失うが。拓海の後ろ姿を見ていっては、その大きさに圧倒されるのだった。

 

 

 「(…なつきは夢の為に、我慢する。拓海君がいなかったら、なつきの高校時代はきっと…嫌な思い出ばっかりになってた…。拓海君がいてくれたから…楽しい思い出がいっぱい作れたよ。なつきは、拓海君と釣り合ってないよね…)」

 

 

 拓海と自分は、これ以上距離を縮めることはできないと悟ったか。なつきは目に浮かべていた涙を手で拭い。意を決したように拓海を見据える。

 

 

 「(でも…いつまでも絶対に忘れないでいる。拓海君との思い出は、なつきの宝物だから…頑張って夢を実現させてね…)」

 

 

 それからなつきは、拓海に駆け足気味で近づいて、拓海の胸に抱きつき。拓海はなつきからのハグに戸惑いながらも、離さないまま見ていくと、なつきは涙を溢す。

 

 

 「(拓海君…。なつきも拓海君に負けないように頑張るから…)」

 

 

 拓海は、涙を溢しながら自分に抱きつくなつきを優しく抱きしめ。

 春が近づく夕風を浴びながら、なつきとの時間を過ごしていくのだった…。

 

 

 

 

 

 「……」

 

 

 拓海となつきが二人っきりでいる姿を、離れた場所から観ていたのは、父親の墓参りを終え、秋名湖に寄ったタケルで。二人が抱き合っているのを見ては何を思ったか、タケルは静かに思う。

 

 

 「(拓海。お前がそうしていられるのも今のうちだけだ…。春になれば、僕達は今までよりもずっと厳しい走りの世界に踏み込む…。なつきちゃんと一緒にいられる今を、大事にしろよ…)」

 

 

 そう心に留め、二人に気づかれないよう静かにその場を離れ。いつもは軽快に響く音を抑えながら、タケルは秋名湖を後にするのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、季節は春を迎えた。

 運送会社に就職した拓海は、桜が満開に咲いて春一色となった道路をトラックで走っていた。信号が赤になり、トラックが停止してる間、右手に見える渋川駅をぼんやりと見つめる。

 

 

 「藤原。信号変わったぞ…」

 

 「あ、すみません…」

 

 

 隣に座る先輩社員から青になったと言われた拓海は、慌ててる間もなくアクセルを踏み、トラックは渋川駅の前を走り去っていった。

 

 

 

 

 

 「オーライ、オーライ…」

 

 「イツキ…。俺が給油をするから、お前は窓を拭いといてくれ」

 

 「ういーっす」

 

 

 その頃、ガソリンスタンドでは、店長の祐一が入ってきた車を給油機の横へ誘導し。池谷が正社員になったばかりのイツキに、指示を出しながら動く。

 イツキはアルバイト時代から慣れた手つきで窓を拭き。熱心に仕事に励んでいた。

 

 

 

 

 

 拓海とイツキが、自分達の持ち場で働いていた同じ頃、

 タケルは政志の工場に見習い整備士として就職し。まだ整備士としての資格もない為、政志の横に付きっきりで車のことを学び。タケルは真剣に仕事に取り組む。

 

 

 「いいかタケル。お前にはまだ本格的な作業をさせられねえから。俺の言うことにきちんと従うんだぞ…。少しでもミスをすれば、整備士としての信用に響くからな」

 

 「わかってますよ。ご指導お願いしますね、社長…」

 

 「はぁ…お前にそう呼ばれるのは違和感ありまくりだな…。ま、やるからにはちゃんとしろよ」

 

 

 政志は呆れたような顔でタケルを見守り。タケルはまだ未熟ながらも、一日でも早く一人前になろうと手を動かしていくのだった。

 

 

 

 

 東京 渋谷

 

 

 「なつきー」

 

 「結衣…」

 

 

 渋谷のレンタルショップでアルバイト中のなつきに声をかけるのは、同じ群馬出身の結衣だった。

 なつきが店の前を掃除しているところへ、久々に出会った結衣が、友人であるなつきに顔を出す。

 

 

 「久しぶりね、なつき。専門学校に通ってるんだってね」

 

 「うん、そうだよ。結衣もこっちの学校?」

 

 「ううん、私は埼玉の方なんだけどね。今日は看護学校の友達と東京に遊びに来てて。なつきがこの近くでバイトしてるって聞いたから、寄ってみたの」

 

 「そうなんだ…。ねえ結衣、拓海君がどうしてるか、知ってる?」

 

 

 なつきは、拓海が元気にしてるか尋ね。結衣は、微笑みを見せながら、そのことについて教える。

 

 

 「知ってるよ。拓海君、タケル君と一緒に涼介さんが作った『ProjectD』っていうチームに入ったの。関東各地の峠を走り回ってるみたいなの」

 

 「プロジェクト…D?」

 

 「うん。どういう意味でその名前にしたのかは、私にもわからないけど…。涼介さんのことだから、きっと何か理由があると思うよ…」

 

 「へぇ〜。拓海君、プロになるために、そのチームで頑張ってるんだね」

 

 「そうだよ。タケル君も、今頃は拓海君や啓介さんと一緒に、どこかの峠で車を走らせてるよ…」

 

 

 そう言いながら、二人は夜空を見上げ。

 拓海とタケルがそれぞれの夢に向かって走り続けているだろうと、思いを馳せるのだった。

 

 

 

 

 某峠

 

 

 渋谷で結衣達が夜空を見上げていたその頃、

 拓海とタケルは涼介が指揮を執る新チーム『ProjectD』に加わり。レッドサンズの松本ともう一人のメカニックがハチロクとスイスポのセッティングをしている間、涼介から指示を受ける。

 

 

 「ここの峠はタイトなヘアピンが多く。攻略するには苦戦を強いられるが、あらかじめ言った通りにすれば、お前達二人でも攻略できる。問題ないな?」

 

 

 「勿論です。僕と拓海ならこれくらいどうってことありませんからね。拓海もそう思うでしょ?」

 

 「え…まあ…タケルがこのコースについて下調べしてくれたんだ。お前の言うことを信じてみるよ…」

 

 

 二人は涼介からの作戦を聞いてそれを了承すると、松本が二台のセッティングを済ませ。その内容について涼介に語り。涼介は二人にGOサインを出す。

 

 

 「よしっ。今日の相手は然程大した奴ではないが、くれぐれも油断するなよ。俺達の目標は関東各地の峠を渡り歩き。それを制覇することだからな…」

 

 「行ってこいよ。軽く流して、ぶっちぎってこいよ」

 

 「はいっ。行こうか、拓海」

 

 「ああ…」

 

 

 啓介が行ってくるよう手で合図を送ると、二人はそれぞれハチロクとスイスポに乗り込み。

 自分達の夢であるプロを目指し、目の前に広がる峠を駆け巡り始めるのだった。

 

 藤原拓海と斎藤丈瑠。

 二人の走りはまだまだ続く…。

 

 

 

 

 

 

第一部 完




 次回からはプロジェクトDことfourth stageに入りますが。可能な限り書き続けていきますので、お付き合いお願いしますね。

 もしよろしければ評価・感想を入れてくれれば励みになりますので、無理にとは言いませんが。是非この作品が面白いと思ったら、入れてください。

もし自分が、走りを磨くのに乗るとしたら?

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  • ハチロク
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