頭文字D 峠の弾丸 《Project D》 作:ペンギン太郎
もみじライン スタート地点
「トオルがハチロクとスイスポを振り切れねえって…?」
「ど、どうなってんだよ…?わけわかんねえよ…」
もみじラインのダウンヒルバトルが終盤に入ろうとする中、淳郎はトオルのロードスターが拓海のハチロクに張り付かれたままでいる話に耳を疑うしかなく。慎一もその話を傍で聞いては、その話に信じきれずにいた。
「トオルが、長い間の走り込みで身に着けた最大の武器は…。誰にも負けねえ、突っ込みの速さだ…」
「あの突っ込みに敵う奴なんざ、いねえ筈だよ!?」
「あいつはここの全てのコーナーを知り尽くしている…。昨日一晩走っただけのとはわけが違う…。それなのに、あのハチロクとスイスポは離されるどころか、ついてきてるってのか…」
昨日走っただけのハチロクとスイスポが、タイトなヘアピンが続くもみじラインを走りきるどころか、自分達のチームのエースと互角にやり合っているという話に、淳郎はプロジェクトDのドライバーが自分が思ってたよりも凄い走りをするのを痛感するしかなかった。
「(後ろから拓海に張り付かれてるにも関わらず、ロードスターは鋭い突っ込みをしている…。普通なら後ろから食いつかれたら走りが乱れるしまうのを、距離を保ったまま走り続けるなんて、結構タフなとこもあるんだね…)」
勝負は終盤へと入り。ロードスターがハチロクに後ろから張り付かれていながらも、トオルはラインを崩さず、慣性ドリフトを駆使してはヘアピンを抜け。ハチロクはそれに追随していく形でドリフトするようにクリア。
それを追うタケルも、荷重移動を使ってリアをスライドさせてコースを抜けていくと、先を突っ走る二台の後に続いていくのである。
「(でも…後ろから見て思ったけど。コーナーを抜けて立ち上がった後の次のブレーキングに関しては…、ハチロクの方が速い…。もしかしたら、次のコーナーに突入して減速するまでの差が二台の距離を縮めてると言うのか?)」
コーナーに突入する際、ブレーキングの差で距離が縮まないのを不思議に思い、拓海がブレーキングに切り替えるタイミングでトオルより速いのではとないかとタケルは推察し。
その推察は正しく、スタート地点では涼介がそのことについて解説する。
もみじライン スタート地点
「複雑な地形の峠道には、数え切れないほど多くのコーナーがある。特に下りを攻めた場合は…コーナーとも
「確かに…。全開で行くか、半開で行くか…。迷うところは多いな…」
「そういう区間の処理能力の差が、藤原と相手の走りの差になっている…。覚えておけよ、啓介。これが俺の提唱する公道最速理論の重要ポイントの一つだ」
「ああ…」
この先走り続けていくには、コースを見極め。適切に判断する能力を身に着けておくよう忠告する兄からの言葉に対し。啓介は、真剣に聞き入れて頷く。
「ヤバっ、ゾっとするぜ」
「こんなすげー突っ込み、見たことねーぞォ!!」
バトルが終盤近くまでいったその頃、トオルはキレのある突っ込みを続けながら、もみじラインを攻めていき。ハチロクが後ろから食いついていきながら、そのテールを追う。
スイスポも、二台に負けないようノーズを突っ込ませ。二台の走りを観察しながら、後を追っていく。
その走りを、コースの外から観ていたギャラリーは、トオルのロードスターに離されずについていくハチロクとスイスポに驚く。
「セブンスターリーフのロードスターについていくなんて…。あのハチロクとスイスポ、何者なんだよォ!?」
「とんでもなくレベルが高いんじゃねえのか…!?プロジェクトDって!!」
地元では負け知らずのロードスターに、ハチロクとスイスポが苦戦することなく。ついていけてる様に、ギャラリーは圧倒されるしかなく。プロジェクトDが如何に速い走りをしていくのか実感していくのだった。
もみじライン スタート地点
「そろそろだな。勝負かけるポイントに近づいてる頃だ…」
「なぁ涼介、勿体ぶらないで俺にも教えてくれよ。どんな作戦なんだ?蓋のない側溝の攻略って…」
終盤の近づくにつれ、涼介は左腕に付けている時計で、バトルが開始して数分経った今、三台がどのあたりを走っているか推測して、拓海が行動を起こすと分かりきったかのように涼介が呟く。それを聞いた史浩は、拓海が側溝のあるコーナーをどう攻めるのか質問をする。
その一方で、プロジェクトDがいる陣地の向かい側にいるセブンスターリーフ側では、淳郎が中継地点からバトルがどう進んでるか話を聞き。重い顔つきを見せながらメンバーに状況を話す。
「相変わらず食いつかれてるらしい。もうCの10番を通過したってさ…」
「ええ、Cの10を…」
「こっちが考えてたよりも、遥かにレベルが高い相手だったな…」
「けど、淳郎さん…。振り切れなくても、それでトオルさんが負けたわけじゃねえから…。順番が変わって、2本目に突入するだけだし…。勝負はまだ、これからでしょ…?トオルさんが抜かれるなんてことは、ありえないっすよォ…」
「そうだな…。抜いたり、抜かれたりなんてことはまず考えらんねぇ…。あの辺から先は、無理できねえ区間だからな…」
トオルなら、ハチロクに抜かれることはないだろうとメンバー達に言っていく淳郎ではあるが。その胸の内は、焦りに満ちており、トオルを心配していきながら内心呟く。
「(振り切れなくたって、焦ることはねえんだぞトオル。負けない走りに切り替えていけよ!!)」
淳郎は、今ももみじラインを駆け抜けてるであろうトオルに、走りで負けないよう激励していく。
そして、プロジェクトD側では、蓋のない側溝をどう攻略するか涼介が説明をする。
「俺が藤原に教えた蓋のない側溝の攻略法っていうのは、藤原が元々得意としている
「ああ、溝にタイヤを引っ掛けるヤツか…。溝落としとか言ってる…。あれの応用なのか?」
「まさか…。そんなことができるタイプの側溝じゃないのは、お前も見てわかるだろ…。あれとは、正反対の
「正反対の
拓海が得意とする溝落としとは別のやり方で、側溝を攻めるよう教えたと涼介は言っていくが。史浩はそれがなんなのか分からずにいた。
「(とてつもないドライバーだ…!!振り切れねえ…!!)」
バトルは終盤へともつれ込み。Cの10番を通り越してダウンヒルを続ける三台。
トオルは、後ろから食らいつくハチロクと、後に続くスイスポがどんな走りをするか気になるように言う。
「(どうしても後ろから、こいつらの走りを見たくなったぜ…!!一体どんな走りなのか!!俺のホームコースをどんな風に攻めるのか、どう違うのか…何が何でも二本目に行くぜ!!)」
二本目に持ち込ませ、後ろからハチロクの走りを見たいというトオルは、興奮しながら先を突き進み。
もみじラインを攻略していく上で、一番の難所である蓋のない側溝があるCの7番付近に近付くと。ロードスターはアウト側にある溝にハマらないよう慎重にステアリングを切り込んでいくが。
拓海は頭でシミュレーションをしていきながら、コースの先を読み。一つの道筋を導き出し、仕掛けに入る。
「(ラインが見えた…!!)」
ロードスターがラインを切り込むスピードが速かったのを見逃さなかった拓海は、ロードスターが空けた排水路の横を掠めるように、車体を素早くかぶせ。
その走りを後ろから見たタケルは、拓海が何を仕掛けようとするか感づく。
「(この先は確か、インとアウトが入れ替わるS字コーナーの筈だけど…。まさか、
そこから先はタケルが予想していた通り。ハチロクはレブを1万回転まで回して、パワーを絞り出すと。コーナーの外側にある排水路を物ともせずノーズを突っ込ませ。カウンターアタックを使って、ロードスターよりも前に出ようとする。
「(鼻面を突っ込まれた!!クソったれがァ、譲らねえぜ俺は!!)」
「(ここでカウンターアタックを使って抜きにいくとは、流石だね…。粗方下見してきたコースでどう抜いていくのか、頭でシミュレーションしながらラインを見つけるとは…)」
拓海がカウンターアタックを使い、ロードスターを抜きにいこうとする瞬間をみたタケルは、拓海が蓋のない側溝があるコーナーをどう攻め込むか集中しながら見ていくが。
ハチロクがオーバーテイクしようと横から一気に畳み掛けようとするのを阻止しようとしたか。トオルはスペースを空けまいとコーナーの外側を抑えつける。
「(こっちにだって地元の意地ってやつがあるんだ!!抜かすかァ!!)」
だが、ハチロクはロードスターに走るラインを抑えられながらも、勢いを落とさぬまま車を加速させ。勢いを落とさず、ロードスターの横をすり抜けてオーバーテイクしていっては前に出ようとする。
「(なんだとォ!?…通れるだけのスペースは空けてねえ…。そんなとこに道路はない筈だ…。ふざけんな…お前…一体!?…どこを走ってんだァ!?)」
「……」
ハチロクがどこを走っているか疑問視するトオルだが、後ろからハチロクを追うタケルは、拓海がどうやって蓋のない側溝を横切ったか見ていくと、その光景の凄さに息を吞む。
「(…なぁ拓海。どんなテクニックを使ったら、そんな曲芸じみた芸当ができるというの…?)」
タケルは呆れたように呟いて、ハチロクの走行シーンを注視するが。その走りは、通常では考えられないものであった。
ハチロクは右側のタイヤを、蓋のない側溝の上に浮かせながらコーナーを通過しており、あまりにもの超絶テクニックを目の当たりにしたタケルは、言葉を失うしかないのだった。
もみじライン スタート地点
「荷重移動の
「外側の二つに掛かる荷重を、後ろだけに持っていくってことか…」
「そうだ。つまり、意図的に強い荷重移動を作り出し、イン側のフロントの荷重を目一杯抜く。それができれば…アクセル全開であの側溝の真上をショートカットできる!!」
「!!」
「(おうおう、史浩は完璧に驚いていやがるよ。ま、俺もそれを聞いて何も言葉は出ねえが…。斎藤も今頃、それを見て、開いた口が塞がらないだろうな…)」
涼介から、拓海が荷重移動を使ってフロントタイヤを浮かせ。リアタイヤだけでコーナリングする技術を使えば、勝負に勝てると強気に言い。超絶テクニックの内容を聞いた史浩は衝撃を受けては言葉が出ず。啓介も拓海を追うタケルが史浩と同じリアクションをしてるのではないかと独りでに思うのだった。
「(抜かれた!!…俺、夢でも見てんのか…?)」
側溝を通り越してハチロクに抜かれたことに強いショックを受けたトオルは、後追いのポジションに入れ替わるが。気を取り直して、後ろからハチロクを追いかける。
「(一体何が起こったのか…。もう一度目の前で見せてくれ!!)」
トオルはハチロクがどんなテクニカルを使って自分を抜いたか確かめるが。ハチロクは先程と同じようにフロントタイヤを浮かせ、溝の上を跨いではショートカットしていく。それを見たトオルは、ハチロクに対抗意識を燃やす。
「(くそったれがァ…。ハチロクにできるなら、こいつにだって…!!)」
ハチロクと同じ、軽量ボディが持ち味のロードスターなら同じテクニックができると思ったか。トオルはロードスターのフロントを右側の側溝に寄せ付け。拓海がやってみせた『溝跨ぎ』を実践しようと試みる。
「あ、バカ…!!そんな無暗に突っ込んだら…!!」
後ろから見ていたタケルは、トオルが無暗に溝跨ぎをすることに思わず口が出てしまうが、時すでに遅く。ロードスターはフロントタイヤを側溝の中へと落とし、車体を大きく沈み、姿勢を崩してしまう。
「(右フロントの接地感がねえ…。浮いてるのか!!ダメだ…!!戻れねえ…!!)」
トオルはステアリングを回してコントロールしようとするが、制御が効かなくなったロードスターは右側のフロントタイヤを溝の中に沈めたまま左側にリアが回転。そこから車体が大きく傾き、ルーフが地面を掠め。再び横転しかけるも、なんとか元の姿勢に戻り。車体をぐらつかせて静止するのだった。
「!!」
バックミラー越しにロードスターがクラッシュする瞬間を見た拓海は、すぐに急ブレーキを掛けてその場で停止し。タケルもロードスターがリアを傾けてすぐに急ブレーキを掛け、サイドを引いて車体を抑えつけた為、大事には至らなかったが。
ロードスターはその場でクラッシュしてしまい、走行不能に陥ってしまうのだった。
「お、おい…やっちまった!!大丈夫か!?」
その場にいたギャラリー達が急いで駆けつけてトオルの安否を確認に向かい。タケルと拓海も車から下りてすぐに、トオルの元へ駆け出す。
すると、右側のフロントとヘッドライトが傷ついてしまったロードスターの運転席から、トオルが落ち込んだ様子で車から下りてくるのだった。
「大丈夫ですか…?怪我は?」
拓海がトオルに怪我がないか心配しながら呼びかけるが、トオルは首を横に振り。トオルが無事でいたことに拓海はホッとするも。タケルは、トオルに対し曇った表情を見せながら語りかける。
「…どうしてあんな無茶をしたんですか?今回は無事で済んだから良かったものの、一歩間違えれば、大惨事になっていたかもしれないんですよ…」
「……」
真剣そのものな顔付きをするタケルはトオルを問い詰め。自分がしでかしたことの重要性をわかっていたのか、トオルはショックのあまり、何も言い出せずにいた。
「……」
「タケル…。この人は見た感じ、物凄くショックを受けてるみたいだから、そのへんに…」
「…そうだね。今はこの状況をどう片付けるか考えないと。僕がここに残って後処理をするから、拓海はこのことを涼介さん達に伝えといて」
「…わかった」
そうしてダウンヒルバトルは、トオルのロードスターが走行不能になったことでプロジェクトDの勝利で終わり。
タケルはトオルが起こした事故の後処理に追われるのだった。
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