頭文字D 峠の弾丸 《Project D》 作:ペンギン太郎
「Cの7番でクラッシュ!?それでケガは…?…そうか」
トオルがCの7番で事故を起こしたと聞かされ。トオルがどうなったか聞いていく淳郎は。事故の詳細について聞いていた後、納得したようにひと言だけ呟いて電話を切ると。
淳郎は重みのある足取りでプロジェクトD側の陣地に向かい。その場で待機する涼介達にこう話す。
「ハチロクに抜かれたロードスターは、クラッシュして走行不能…。そっちの勝ちだ…!!」
「……」
トオルの車がクラッシュしてしまった今、自分達の負けだと淳郎は言っていくが。それを聞いた涼介は何も言わずにうんと頷く。
「それで、トオルの起こした事故についてだが…」
「…わかってる。こっちも藤原から同じことを聞かされて、今対処しているところだ…」
「つい先程、うちのバンにメカニックを乗せて向かわせたが…。幸いドライバーは大した怪我もせず、車はフロントと足回りが少しイカれただけで済んでいたと聞いてる。今、ロードスターを麓まで降ろしている最中だから、それが終わってからにしようか…」
「…ああ、色々と迷惑をかけて済まないな」
「いや、事故を起こしてまったら助けるのは当然だろ。バトルを終えた今、チーム同士で争う理由なんてないからな…」
自分達のチームメンバーであるトオルが事故を起こしたにも関わらず、相手側がそれに気を利かせてくれたことに感謝し、深々と頭を下げる淳郎。しかし史浩はバトルして事故を起こしたらお互い様だと気遣うように言葉を返すのだった。
ダウンヒルで起きた事故の後処理を済ませた後、両チームは、ヒルクライムの準備へと入り。
セブンスターリーフからは、チームリーダーである川井淳郎がER34型スカイラインで出走することになり。プロジェクトDのヒルクライムを担当する啓介が、淳郎のスカイラインを見ながらタケルと拓海に言う。
「勝手に、34のGT-Rかと思ってたけどな…。FRのGTターボってとこが気に入ったぜ…。いい趣味だ」
「そうですか?僕としては、GT-Rが相手でも良かった気がするんですが…?」
「ふっ。相変わらずお前はそういったところが分かってねえみたいだな…。GT-Rじゃなく、敢えてスカイラインを選ぶのが立派だと俺は言いてえんだよ…」
GT-R嫌いの啓介が、淳郎の乗るER34スカイラインを認めるように言っていくのとは対照的に、タケルはBNR34型のスカイラインGT-Rの方が良かったのではないかと言うが。GT-Rではなく、スカイラインに乗っていることがいいんだと啓介は言い。そこから、走り終えた二人に自分の走りを注目するよう語り出す。
「プロジェクトDのエースの実力を見とけよ。お前ら…!!」
「…わかってますよ。相手の車に引き離されないよう頑張ってくださいね」
啓介が自分の走りを注目するようタケルに言った傍で、向こうから淳郎が近づいては、自己紹介をする。
「川井淳郎だ」
「俺は、高橋啓介…」
淳郎は自分の名を語った後、後ろを向いて啓介の元を離れるが。啓介の表情を見て感じたことについて内心呟く。
「(相手を威圧することもなく、かと言って虚勢を張っている様子もまるでない…。こっちのホームコースで俺の実力を知らない筈なのに。何故、あんなにも落ち着いていられる!!)」
啓介は自分の走りを知ってないにも関わらず、まるで全てを見通して自信があるように感じたのか。淳郎は再び啓介達に目を移し、警戒するのだった。
そこから啓介と淳郎は、自分達の車に乗ってスタートラインに並べていき。先行は淳郎のスカイラインが出て、啓介のFDがそれを後追いする形となり。
下りで負けてしまったトオルが、スカイラインのドライブシートに腰を下ろす淳郎に呼びかける。
「淳郎」
「痺れてきたぜトオル…。やる前から完全に向こうのペースに呑まれてる気分だ…」
「意識するな…。自分のペースを守れ。それができなかったから、俺はあのざまだ」
自分から自滅して負けたというトオルは、プロジェクトDの啓介とバトルする前に、こうアドバイスする。
「それからな、一つだけアドバイスしておくぞ。Cの6辺りから始まる蓋のない側溝の区間だ…。あそこは絶対イン開けないでインベタで行け!!」
「ん?」
「1メートル以上開けたら絶対いかれるぞ…。あいつら側溝の上をショートカットしやがる!!」
「何言ってんだトオル…?そんなバカなことが…」
「やれるんだよ、奴らは!!俺の言うことを信じろ、絶対にインだけは開けるな!!」
「……」
「それじゃあ始めます!!」
Cの6辺りから始まる区間で、インを開けないよう淳郎に警告するトオル。淳郎はトオルの言っていることがなんなのか理解できずにいたが、史浩からバトルを開始するよう声が掛かり。トオルは淳郎の傍を離れる。
そして、トオルはヘッドライトの明かりを付け。啓介もFDのリトラクタブルのヘッドライトを灯し。両者はアクセルを踏んでマフラーから
「(淳郎。俺達が相手にしてるドライバーは途方も知れない奴等だぞ…。格の違いを思い知らされたぜ。勝ち目はないかも知れねえけど、せめて1本目だけは逃げ切ってくれ!!)」
端の方でトオルが淳郎に負けないよう言っていく傍ら、すぐ傍にいるプロジェクトD側に停めてあるバンの横で、涼介から話を聞いている拓海と先程のバトルの映像を見て振り返っているタケルに目を向けながら呟く。
「(それにしても凄い奴らだぜ、プロジェクトD。こいつらにはオーラがある)」
トオルはプロジェクトDのメンバー達から迸るオーラを感じながら、底の知れない迫力に圧倒され。そう呟いていた矢先に、淳郎のスカイラインがスタートダッシュを始めると、FDはそれに続けて車を走らせ。
2台はそこから暗闇に包まれたもみじラインの上り方面へと駆け出し、ヒルクライムが開始されるのだった。
「(
もみじラインでのヒルクライムにて、上り方面の直線を豪快に突き進むR34スカイラインを追う啓介は、スカイラインのパワーに物を言わす走りを後ろから目の当たりにして評するが、それをまともに扱えないようじゃ話にならないと断言。前方にそびえる淳郎のスカイラインを見据えては静かに言う。
「(藤原と同じ手は使わない!!
拓海とは違うやり方で淳郎のスカイラインに勝つと宣言する啓介は、スカイラインの走りを後追いして、勝負を仕掛けるポイントを模索するのだった。
「ここからですよ…。先程拓海がバトルを決めた瞬間が映っていますのは…」
もみじラインのヒルクライムで啓介と淳郎が激走をしているその頃、スタート地点で待機しているタケルは、バンの後ろのトランクを開けて屋根代わりにして、その下にテーブルを置くと。涼介からノートパソコンを借りて、先程録画したダウンヒルの映像をプロジェクトDでケアマネージャーを務める早乙女真希と共に観賞する。
タケルと共にダウンヒルのバトルの映像を見た真希は、拓海が側溝を抜け切るのにやった溝跨ぎを見て、こう反応する。
「マジかよ…。あんな難しい側溝の上でフロントタイヤを浮かせて走るなんざ、どんなテクニックを使ったっていうんだよ…」
「やっぱ真希さんもそう思います?僕もこの走りを後ろから見た時は、どんなテクニックを使ったか、目を疑いましたよ…」
真希が拓海の超絶テクニックを見て引き気味になる一方で、タケルはハチロクが物理法則を無視したような走る映像を間近で見ながらも、現実であることが信じられないように言い。真希はバトルの映像を見ていきながらタケルに質問を投げかける。
「で、お前ならどう走るか聞かせてもらおうか。まさか…藤原と同じ技で抜けようって言うんじゃねえよな?」
「まさか。あれは駆動軸が後輪にあるハチロクと拓海の荷重移動が合わさって成せるテクニックですからね。FFに乗る僕なんかが、簡単に真似できたりしませんよ…」
「そりゃそうだな…。藤原も涼介の指示でやったとはいえ、溝にタイヤを落とさずに走り切るなんざ、凄すぎるぜ…」
拓海とハチロクだからこそ、できるものを自分が乗るスイスポでは到底敵わないと言うタケル。実際、トオルも真似しようと試したものの、自爆してしまった以上そう簡単にできないことであることは、誰から見ても明白である。
「そこのお前、ちょっといいか…」
「はい、なんでしょうか?」
タケルが真希と二人でダウンヒルの映像を観ている途中、タケル達に呼びかける人物がいた為、二人がパソコンから目を離して振り向く。そこには、先程拓海とバトルをした末次トオルがタケル達の前に立っていたのだ。
「急に呼びかけてすまないな。ちょっくらお前と話したいことがあるんだが、構わねえよな?」
「…別に構いませんよ。僕もあなたからお聞きしたいことがありましたので…」
タケルはトオルと話を対峙すると。先程のバトルについて話をした始めるのであった。
「(決して軽くはない34だけど…!!それをグイグイ引っ張り上げる心臓をこいつは持ってる!!ヒルクライムは
ヒルクライムでは、R34を操作する淳郎が啓介の指摘するパワーに物を言わせた走りで
「(そこまでインを閉めなくたって…。こんなところで行く気はねえ…。同じ手は使わねえって決めてんだよ!!)」
ここで決めるにはまだ早い。そう言っていく啓介はR34に詰め寄りながら、後に続いていくが。
コーナーをコンパクトに纏め、アクセル全開の時間を長くとることを優先する淳郎の走りに食いついていくのであった。
「俺がお前に聞きたいことはただ一つ…。どうすれば、あそこまで走り切ることができるのか聞きてえんだ…」
トオルがタケルに聞いたのは、自分がホームコースとするもみじラインで、何故拓海やタケルが自分よりも速く走れるかというシンプルな質問であり。
タケルはその質問に対し、頬を搔きながら答える。
「どうって言われましても…。僕はただ、拓海やあなたの走りを後ろから追っていくのに集中しただけですし…。あなたが思ってるような凄いテクニックを持ってはいませんよ…」
「……」
「まあ、強いて上げるとするなら。こっちには頼りになる
自分がこうも走り続けていられるのも、涼介という強力な味方がいるのに加え、拓海や啓介といった強豪と共にしてきたからだと答える。
それを聞いたトオルは、納得した表情をするのだった。
「なるほどな…。お前達が今まで勝ち続けてきた理由がわかった気がするぜ…。そんな凄え味方がいるんじゃ、俺が敵わねえのも無理はないな…」
「まあ…。かく言う僕もまだ拓海や啓介さんの足元には及ばないですけど…。いずれ二人を越していこうと思っていますからね…」
タケルはそう返した後、今度はトオルにある質問をする。
「それよりも…。トオルさんはどうして、拓海を追い越そうとするのに、あんな無茶をしたのですか?…拓海がCの7番でやったあの溝跨ぎは、普通に考えたら誰にもできない人間離れした離れ技なんですけど…」
「…そうだな。もうバトルを終えたんだし、話してやるよ」
トオルは神妙な顔つきをして、タケルに無茶してでも勝ちにいこうとした理由を打ち明かす。
「俺には、奈保っていう彼女がいて。かれこれ6年もの間付き合っていてな…。今夜のバトルをするのに奈保からタイヤ代を買うのに必要な金を借りたんだが、借りる時にバトルで負けたら走り屋を辞めるって約束をしていたんだ…」
「へぇ〜そんな事情があったのですか…(彼女からタイヤ代借りるなんて、最低だね…)」
タケルはトオルが彼女からタイヤ代を借りてまで走りに専念したことを内心毒づくが。そこからトオルの話を聞き続ける。
「タイヤ代を借りる時に奈保に言われたんだよ…。もしバトルに負けて走り屋を引退するって約束を守ってくれないのなら、絶対に別れるって…。だから俺は何が何でもお前達に勝とうとしたんだ…」
「…そうでしたか。彼女との約束を果たそうとするその姿勢もそうですけど…。あなたがどれだけ走り屋を続けるのにどれだけ必死だったか、わかった気がしますよ…」
「ああ、…お前達とバトルして踏ん切りが付いたよ、どれだけ自分が浅はかだったか思い知ったんだし。俺は…今夜を気に走り屋を引退する…」
トオルは彼女との約束を守ろうとするのに、走り屋を辞めると言うが。その話をタケルの傍で聞いていた真希がトオルに詰め寄ってはこう語りだす。
「ちょっと待ちな…。お前、それ本気で言ってるのか?」
「え…?」
「この先お前が走り屋を続けるかどうかはお前次第だが…。バトルに負けたくらいで辞めるようじゃ、結局はその程度の奴だったってことになるんじゃねえのか」
「そ、それは…」
「それにな…。お前の話を聞く限りじゃ、彼女はお前が走り屋を続けることに否定的だと思えねえんだが。本当は車ばかりに目を向けているお前に、自分にもっと振り向いてくれと彼女は言いたいんじゃないのか。そうでなきゃ、別れ話を切り出すなんて真似はしたりしねえよ…」
「!!」
真希が確信をつくひと言を言い、それを聞いたトオルは目を開かせ。真希はふうとため息を付きながらこう話す。
「ま、お前の彼女が本心ではどう思ってるかはあたしにはわからねえが。その答えは、お前自身が聞くことだな…。その時はじめて、お前にとって一番大事なのはどっちかハッキリするよ…」
「(流石は真希さんだね。人一倍走り屋として本気でやってるのもそうだし、啓介さん達と一緒にどんな人生を歩んできたか、見て取れるよ…)」
真希はそう言ってはトオルの元を離れていき。何も言い返せずにいたトオルはただ、立ち尽くす他なく。
二人のやりとりを傍で聞いていたタケルも、涼介達の援助があってこそ、自分がこうも走り続けてこられたのか痛感するのだった。
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