ガソリンスタンド
「うっしゃー復活!!俺のS13!!」
そう叫ぶ池谷の前には、修理を終えてフロントが元通りになったS13が佇み。愛車が戻ってきたことを歓喜する池谷は涙を流すのだった。
「良かったじゃないですか。ようやく走り屋として復帰できますね」
「早速、今日から走り込み開始だ!!タイヤのグレードを落としてドリフトの練習だぜ!!タケル、今晩は付き合ってくれるな?」
「勿論付き合いますとも。丁度試したいことがありますし、その練習も兼ねて一緒に走りますよ」
「じゃあ今晩は頼んだぜタケル!!」
「俺もやりますよー。昨日体験した拓海のダウンヒルを忘れないうちに…」
「なに…!?」
「乗ったのか?拓海のハチロクに…」
イツキが拓海のダウンヒルを体験したと聞かされた池谷と祐一は驚きを見せながら、イツキの発言に耳を疑う。
「乗りましたよォ。ハチロクじゃないけどー」
「なんだよーその意味ありげなスケベな笑いは?」
「詳しく聞かせろよー!!」
「あ〜はいはい、それに関しては僕からお話しますよ…」
そっからタケルが昨晩の出来事を二人に話す。
「というわけで、拓海がハチゴーに乗って走り屋を抜き去ったんですよ。いや~ホント、拓海はやってくれますねぇ〜」
「信じられますか店長、そんな話…いくら拓海でも、ハチゴーですよハチゴー」
「普通だとちょっと考えらんないことだけどなーなんせハチゴーだから」
タケルから聞いた話があまりにも信じられなかったのか池谷と祐一は耳を疑う。
「ははっ、二人が信じられないのも無理はありませんよ。ハチゴーで格上の車を抜くなんて話、その場に居合わせ僕でさえ、未だに信じられないですからね」
「信じてもらえなくても事実は事実だよ」
昨日のことが本当とはいえ、愛車のハチゴーをバカにするような言い方をされたイツキは涙を流す。
「でも、拓海の運転が凄かったのは嘘じゃありませんよ。何せLSDすら付けてないにも関わらず、ドリフトで滑らせてコーナーを抜けて行きましたからね」
「ドリフトしたのか、イツキのハチゴーでか?」
「一瞬の出来事でしたよー。下りの連続ヘアピンでガラの悪い二台をゴボウ抜き!!あんなスカッとしたないですよー」
イツキも昨日のことを清々しく語っていき。祐一はイツキの話に疑問を持ちつつ、拓海の走りについて語り出す。
「あのハチゴーをそこまで乗れるとなると…。拓海のテクニックには俺が考えていたよりも遥かに幅広い適応性があるってことになるな」
「それってハチゴーとハチロクは車体が一緒だから操縦性が似てるのではないですか?載せているエンジンは違えど、下りとなれば拓海の持ち味が活かせますし」
「そんなことはないな。ノーマルのハチゴーと文太が長年かけて熟成させたハチロクの足じゃ…それこそ月とスッポンまるで別物だ」
「悪かったすね、月とスッポンで…」
「それじゃあ拓海はどんな車でも乗りこなせてしまう…と?」
「どんな車でもってわけにはいかないと思うが…。少なくともFRの車ということに限っていうなら…。ちょっと走ればすぐにその車のポテンシャルをギリギリまで引き出せるんじゃないかな…。ハチロクってのはそういう車らしいからな」
「そういえばハチロクは電子制御が備わってないから誤魔化しが効かないと政志さんが言ってましたね。基本操作が身についていないと乗りこなせない車に、拓海は乗り続けてきたからこそ、他の車にも対応できるようになったんですね」
「そういうことになるな。車がドライバーを育てる。文太はいつもそう言ってたよ…」
「となると…最初から電子制御が備わっているスイスポに乗っている僕は拓海みたいになれないってことか。はぁ~それだったらおじさんにハチロクを頼んどけば良かったなぁ…」
「そう気を落とすなよタケル。お前のスイスポもハチロクには及ばないが、ドライバーを鍛え上げる車に変わりはないぞ」
「え?それってどういう意味ですか?」
「これは政志から聞いた話なんだが、スイスポはパワーが低く、駆動方式こそFFだが足回りがしっかりしてるからドライバーが腕を上げるにはうってつけの車だと言っていたぞ」
「そうですか…。まさかスイスポがハチロクと同じドライバーを育てる車だったなんて…」
「くぅ〜良かったなタケル。俺と同じいい車に巡り会えてよォ!!これからは一緒に秋名を走っては秋名最速の走り屋と呼ばれるようお互い頑張ろうぜ!!」
「イツキ、嬉しいことを行ってくれるのはありがたいけど。お前の場合上達するのに後10年、いや20年は掛かるんじゃないかなぁ…」
「に、20年〜!!」
共に頑張ろうと鼓舞したイツキだが、拓海のようになるには大分掛かると断言され、その場でショックを受けるのであった。
秋名山 頂上
ギョワアーア
日が沈んでは静まり返った秋名の頂上にて、タケル達は車を走らせ、腕を磨いていく。
池谷は旧料金所前で車を走らせながらリアタイヤを滑らせる練習をし、コツを掴んだか、サイドブレーキを引いてステアを回して鮮やかにスライドを決める。
「いい調子じゃないですか。その調子で行けばドリフトもできるようになるかもしれませんね」
「サイドでケツを出すコツがわかってきたぞー。ステアとのタイミングがキモなんだよなー」
「ドリフトのきっかけ作りでサイドを引く練習ってわけかー」
「でも池谷先輩。俺昨日拓海の横に乗ったけど、あいつサイドブレーキなんて一度も引かなかったすよ」
「イツキ、拓海がやったのはフットブレーキだけで荷重移動を起こすハイレベルなテクニックなんだよ。僕達がそこに辿り着くにはまだまだ練習する必要があるけど」
「俺や健二が今までドリフトのつもりでやってたやり方はグリップで入ってからアクセル踏んで出口寄りでタイヤ滑らせて喜んでたけど、そういうのはパワースライドっていってドリフトとは違う初歩的な技なんだよ。本当のドリフトっていうのは拓海みたいに流しながらコーナー入って出口ではスライドを抑えて立ち上がるんだ。あれが一番速いしなんたってかっこいいよな」
「なるほどー。池谷お前随分勉強してんなー」
「S13直ってくるまで暇だったからな…。色々本読んだりしては研究したのさ」
池谷は参考に読んだドラテクの本を健二とイツキに見せ、勉強したアピールをする。
「俺もやってみようかなサイドスピン」
「なんかワクワクしますねー俺もやってみよ」
「イツキ、お前の場合は程々にしたほうがいいかもしれないよ」
「なんだよ…俺の腕がそんなに信用できねえってのかァ…」
「当たり前だろ。レビンに拘るあまり、間違ってハチゴーを選んだ奴をどう信じろっていうんだよ」
「うぐっ!!お前、結構痛いところを突くじゃんかよ…」
イツキは車に関する知識が不足してるのを言われ、押し黙るしかなかった。
「俺はコツを掴んだから次のステップへ行くよ。今度は直線じゃなくて低速コーナーのスピンに挑戦してくる」
「あ、待ってください池谷さん。走りに行くのでしたら僕も一緒についていってもいいですか?」
「おう、全然構わねえぞ。そういやお前、今夜試したいことがあるって言ってたな。一体何をしようってんだ?」
「何って秋名の下りを走る際ブレーキングの練習でもしようかなと」
「ブレーキングだァ?あれだけの走りができるっていうのにまだ初歩的な技をやるっていうのか?」
「いえいえ、これがちょっとばかし違いましてね。ABSをキャンセルした状態で車を走らせてはブレーキングをするんですよ」
「ABSをキャンセルするってお前正気か…!?そんなことしたらタイヤが空回って挙動が乱れるかもしれないんだぞ!?」
「危険なのは重々承知してます。でも拓海は、最初からABSが付いていないハチロクでここを走り込んでブレーキングを磨いてきたんです。それに追いつこうとするならば、こちらもABSを切って体で覚えていくしかないんですよ」
ABSを切った状態で走るとどうなるのか知っていた池谷はタケルにやらないよう反対するが、タケルは池谷の制止を振り切っては拓海に追いつく為にやるのだと強気に言うのだった。
「そこまで言うんからには止めるわけにはいかないが、ABSをキャンセルした状態でブレーキングをするっていうのはお前が思ってる以上にめちゃくちゃ危険なんだぞ。元からABSが付いてる車で走ってきた俺でさえ、恐ろくてできないからな」
「わかってますよ。最初は軽く流しながらやってみますので、ご心配なさらないでください」
「そう言われたら余計に心配になるな。とりあえず俺が後ろについてやるから、一回試しに走ってみろ」
「了解しました」
そんなわけで池谷はタケルが無茶をしないか見張る為後方について走ってみることに。果たして、ABSをキャンセルしたまま走るとどうなるのだろうか。
「お、一つ目のコーナーに来たか。じゃあ早速試してみるとしましょうかねぇ」
スイスポを颯爽と走らせていっては一つ目のコーナーに入る直前で軽く踏み込んではブレーキングを開始する。しかし、
「あれ?ブレーキを踏んでも前がロックして減速が効かない…。それどころか舵も効かなくなって…げ!?目の前にガードレールがぁ!!」
ギャアアア
やはりABSを切った状態で走ったりのがマズかったか。秋名の下りによる勾配も重なって減速するどころか止まらなくなっては滑り出してしまい。
途中ガードレールに近づいてくも、サイドブレーキを咄嗟に引いてリアに荷重を掛け、上手くスピンさせて車を止めるのだった。
「あ、危なかったぁ…まさかABSを切っただけで車の動きがこんなに変わるとは思いもしなかったよォ」
「タケル、大丈夫か!?」
池谷はスイスポがガードレール手前で急停止したのを目の当たりにしてすぐさま車から降り。タケルの元へ駆け寄る。
「大丈夫ですよ池谷さん。見ての通りガードレール寸前で止まりましたからね」
「ったく心配かけさせやがって、だからあれほど言ったんだ。ABSをキャンセルした状態で走るなんざ危な過ぎるって…」
スイスポがガードレール寸前に止まって衝突を免れたことに呆れつつもホッとする池谷であったが。タケルはABSを切った状態で走らせることがどれだけ恐ろしいことなのか、身をもって知るのであった。
「とりあえずお前は極力スピードを出さずにブレーキングするところから始めたほうがいいぞ。さっき失敗したのもお前がスピードを出し過ぎたまま走ってはブレーキが効かなかったかもしれねえからな」
「そうですね。さっきのでABSなしのブレーキングの難しさを充分味わいましたので次からは安全速度で走りつつブレーキングをやってみますよ」
タケルは池谷の言う事に従っては秋名の頂上に戻ってはABSなしでのブレーキングに再挑戦をすることにした。
ギョワアーア
「健二さん。今のはどうでしたか?」
「少しずつだが上手くなってきたと思うぜ。にしてもお前がABSを切ったまま下りを走るなんて聞いた時はガチで驚いたよ。ABSが切れた状態でのダウンヒルなんざ、俺達からすれば危険極まりないからな」
「そうだぞタケル。いくら拓海に追いつきたいからってあまり無理はするなよな」
「あ〜はいはい。それはもうさっきので充分身に沁みてるから言わないでくれ」
先程まで偉そうに言っていたタケルはイツキから意趣返しの注意を施されては苦い顔をする。
「にしても池谷の奴、ここに戻って来るにしてはえらい遅くねえか?まさかまた事故ったりしてんじゃないだろうな」
「言われてみるとそうですね。一回池谷さんの携帯にかけてみましょうか」
池谷に連絡を取るためにタケルは携帯を出しては電話をかけるも池谷は通知には一切応じず、そのまま不通に終わってしまうのであった。
「おかしいなぁ。普段は電話が鳴ったらすぐに出る池谷さんが出ないなんて、何かあったとしか言いようがないですね」
「もしかすると池谷の奴。また秋名で事故ってんじゃないだろうなァ…」
「そう決めつけるにしては早すぎませんか?まだなんとも言えませんし、ひとまず僕が下りてみては様子を見てきますね」
「見てくるってお前、ABSをキャンセルしたまま探しに行くっていうのか?」
「ご心配なく。安全速度で走っていきますのでとりあえず健二さんはここでイツキと一緒に待っといてください」
タケルはすぐさまスイスポを走らせては池谷の様子を見に秋名の下りを走り出した。
「池谷さん。いったいどこで道草食ってるんすかねぇ…ん?」
タケルが池谷を探しに秋名を下っていくや、目の前で池谷のS13が赤いハッチバックとバトルしているのを目撃する。
「あれはEG6型のシビックじゃないか。見たところ池谷さんとバトルしてるみたいだけど…なっ!?」
後ろからS13とEG6の走りを観察するタケルだったが、なんとEG6は前を走るS13のリアにわざとプッシュして揺さぶってきた。
「あのEG6!!後ろからぶつけてくるなんて、何を考えてるんだ!!」
池谷のS13はターンイン寸前でバンパーを突かれるや、その場でスピンしてしまい。タケルは車から降りて立ち止まったS13に近づき池谷の安否を確認する。
「大丈夫ですか池谷さん!?」
「心配ねぇ…軽くスピンしただけだ…。それよりもあのEG6…」
「えぇ。明らかにわざとぶつけてきたんでしょうね」
二人の前で止まっているEG6はタケル達を見るや、まるで追えるもんなら追ってこいとでも言うような雰囲気を出し、タケル達が再び走るのを待っていた。
「あの野郎…俺を誘ってるつもりか知らねえが逃さねえーぞォ!!」
「待って下さい池谷さん。相手はわざと車をぶつけてくる奴ですから、まともにやり合ってはいけませんよ!!」
「お前の言うことは最もだ。だが、あそこまでされて置きながら黙ってるわけにはいかねえんだよ!!」
池谷はよほど頭にきたのかEG6の挑発に乗って再びバトルを再開させては、秋名の下りを走り出す。
「参ったなぁ…。ああなってしまったからには止まってくれそうにもないかぁ。でも、池谷さんを放っておくわけにもいかないしとりあえず追いかけないと」
池谷達の後を追うことにしたタケルは再びスイスポに乗り込んでは追い始める。
前方を突き進むEG6の後を追っていく池谷だが、走りについて来れないのか、先を行くEG6の後についていくのが精一杯で。EG6はコーナーを曲がる寸前でブレーキランプをパッパッと点滅させながらコーナリングをしてはクリアする。
「(ブレーキランプ…!?あのスピードでコーナリングしながらブレーキィ!?)」
先程ヤラれたバンパープッシュが気に食わないのか前方にいるEG6を忌々し気に見つめる池谷だが、EG6の走りを間近で見ていっては、それを操るドライバーの腕が確かであると理解する。
「とてもついて行けない!!物凄いテクだ…何者だァあいつ!?」
気が付いた時にはEG6は遙か先に行っており、EG6はそのまま走り去り、暗闇の中へと消えていくのだった。
「(あんな勢いで下りのコーナーに突っ込めるのは拓海やタケルだけだと思っていたけど…。今のEG6…突っ込みの速さは二人以上かもしれねえ…)」
秋名山 麓
「大丈夫でしたか池谷さん?」
「この通り無事だ。あのEG6には逃げられちまったがな」
「そうですか、でも池谷さんがご無事で何よりです。それにしてもあのEG6、見事にやってくれましたね」
麓に下りていた池谷と合流したタケルは、上にいるイツキと健二に連絡を取り、数分後に下りてきた二人と合流しては先程のことを話す。
「げぇ、そんな危ねぇのとやりあったってのかよ…かぁ〜とんでもねぇ奴が秋名に現れたもんだなァ…」
「くやしいけどあのEG6の走りは本物だったぞ。何せ物凄いスピードでコーナーをクリアしていったからな。一つ気にかかることがあったんだが…」
「気にかかること?」
「あのEG6がコーナリングする時どういうわけかブレーキランプをフッフッと点滅させながら曲がって行ったんだ。俺の見間違いかもしれねえが、あれは一体…」
「そうですかーそんなのよくあることじゃないすかー。コーナーの途中でブレーキを踏むなんてしょっちゅうですよー」
バカなことを言ってるイツキを無視しては話を戻し。EG6がやったことが何なのか分からないと話す池谷であったが、それを聞いたタケルはEG6が何をしたか答える。
「池谷さん。あなたが見たのは左足ブレーキっていうテクニックだと思いますよ」
「左足ブレーキ?なんだそれは?」
「左足ブレーキというのはFF特有のテクニックの一つでして、僕もスイスポを走らせる時に使う技なんですよ。FRではあまり使うことはないテクニックで、限界領域での姿勢制御をするのに左足ブレーキをするんですよ。FFはアクセル空けたらアンダーを出しますから、右足はアクセル踏んだままラインをはらませないよう左足でブレーキ踏んでリアの荷重を抜く高度なテクニックですからね」
「そうだったのか。となるとそのEG6は相当速い奴と見て間違いねーかもしれねえな。やったのは許せねーけど」
「そりゃあそうですよね。向こうはわざと車をぶつける真似をしてきたんですから。そう思うのも無理はありませんよ…」
「上手く車をぶつけないでスピンで逃げれたから良かったけど…。あのEG6、今度会ったらただじゃおかねーぞ」
池谷は再びEG6と出会ったのならこの手でブチ抜いてやりたいと気概を示すが、先程の時点で既に差が開いていた徒労に終わるかもしれなかった。
「(今度の相手はEG6か。池谷さんにここまでやってきたのもそうだが、同じFF使いの走り屋として負けるわけにはいかないね)」
池谷と同じことを考えたかタケルは同じFF使いとして負けてられないとEG6への対抗意識を燃やしていくのであった。
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