「ようやく完成したか。ここまで仕上げるのに大分手こずったぜ…」
「ご苦労様だったな若大将。完璧に仕上がったこいつを見たらタケルはきっと大喜びするに違いないだろうしな」
秋名にて群馬最速の走り屋を決めるバトルが行われていたその頃、政志の工場にてスイスポのチューニングをしていた勇は完璧に仕上がったスイスポを見ては一息つき。その横でタバコを吸っては一服していた政志がタケルのスイスポを見ていっては勇に労いの言葉をかけるのだった。
「にしてもお前さんがロールバーを入れなかったのは意外だな。軽くしようってんならリアシートを取り払った方が良かったんじゃねえんか?」
「それに関してはロールケージを取り付けたらこいつは改造車扱いになりますから、車検を通すのに時間が掛かりますからね。ですから俺が持ってきたパーツを取付てはパワーアップさせるしかなかったんですよ」
「確かにな、ここまで仕上がったのなら後はタケルの腕次第ってとこか」
完成したスイスポを見てはタケルがどう扱うのか期待する政志と勇ではあるが。秋名で拓海のバトルを見ているタケルがこのスイスポをどう使いこなしていくであろうか。
秋名山
「(凄い、鳥肌もんだ!!理想的なラインを流していく!!こうしてピッタリ後ろについてラインとリズムをコピーしているからこそ、食いついていくことができるが。単独で走ってこれを再現するのは至難の業だ!!)」
今現在秋名では拓海と涼介による接戦が繰り広げられ、拓海は後ろからFCに迫れていながらも冷静さを失わないよう距離を保ちつつ走り続け。その走りを見た涼介は拓海の技量の高さに感嘆しては自分が探し求めていたものがそこにあると踏んでいく。
「(ストレートで速い走り屋は初心者…。コーナーを極めて中級…。上級者ともなればストレートでもコーナーでもない第3のポイントで差をつける…。そのポイントを極めることこそが…俺の最速理論のメインテーマだ!!長い間探り続けてきた最速理論に限りなく近いサンプルがこんなところにあったとは…。恐ろしい奴だぜ…)」
「(くっ…!!ダメだ、振り切れない…!!)」
後ろから追いかけてくるFCに気を取られては一向に引き離せず、コーナーをブレーキングドリフトで横切るも高橋涼介はピッタリと食いついてきており。ハチロクはコーナーを曲がっていく途中フロントをガードレールにかすり傷程度ではあるがあててしまった。
秋名山 ゴール地点
『こちら5連ヘアピンの入り口。今二台が姿を現しました!!ハチロクが前です!!』
二台が激闘を繰り広げている秋名のゴール地点。タケルは無線から流れる情報を入手しては拓海達の状況を把握しては呟く。
「いよいよ5連ヘアピンの前に来たか。そこを抜けた先はゴール地点だけど、涼介さんに追い詰められている拓海がこのまま抜けきっては勝てるかどうかだ…」
無線機を通じては今の戦況を知ったタケルは拓海がバトルをしている秋名山を見ていくが。限界に近づいていた拓海がどこまで持つのか心配するのである。
5連続ヘアピン 入り口
拓海はいよいよ5連続に差し掛かろうとする場面で、いち早くヘアピンに入っては勝負を決めに行こうとスピードを出してはブレーキングからのヒール&トウでギアを2速に落としドリフトで突入しようとするも、コーナーに入る直前でスピードを出し過ぎてしまったか。ハチロクはブレーキングした途端車の動きに乱れが生じる。
「(オーバースピードだ…。ミスったな!!)」
「(くそっ、曲がれ…!!)」
涼介は後ろからハチロクがスピードを出し過ぎているのに気付きブレーキングしては減速し。ハチロクがブレーキングにグリップの大半をフロントタイヤに費やしてはコーナリングフォースを発することができず、FCはハチロクがドアンダーを出してラインを空けた隙をついてはイン側を突入し、ハチロクの横をすり抜ける。
「(無茶な奴だ。ビッグパワーの車なら強引にパワーオーバーに持ち込むことができるが、ハチロクでやるとはな)」
ハチロクは一度減速してしまえばスピードを立て直すのにかなりの時間を要する為、フロントのグリップが回復するのを待つしかなく。抜き去ったFCはハチロクと入れ替わっては先を突き進んでいく。
秋名山 スタート地点
『涼介さんのFCが前に出た!!』
「何っ!?どういうことだ説明しろケンタ!!」
啓介は5連続ヘアピンで待機していたケンタに無線を通じてはFCがハチロクを抜き去った状況について聞くと、ケンタはそのことについて話す。
『ハチロクが突っ込みでアンダーを!!その間に涼介さんのFCがハチロクを抜いて!!』
「(ハチロクがアンダー!?)」
『凄いですよ!!やっぱり涼介さんは桁違いですよ!!絶対勝ちますよ涼介さんは!!』
ハチロクがアンダーを出しては抜かれたことが信じられなかったか啓介は半信半疑になるも、戦況は一向に変わらず、ケンタはこのバトルに涼介が勝つのではと自信あり気に伝えるのだった。
「(不思議な奴だ…。意外なほどの脆さを持っている。もう少し後ろにいて、手の内を見せない作戦だったが…。前に出たからには下手に食いつかれたら厄介だ。向こうが立ち直る前に一気に突き放し…勝負を決めよう!!)」
先程FCに抜かれたショックを引きずりながらも、冷静さを取り戻していった拓海はギアを4速に上げては先を行くFCの後を追いかけ。その走りをバックミラー越しに見た涼介はハチロクがまだ勝負を諦めていないと察しては、FCのスピードを上げストレートで差を広げていこうとする。
拓海はFCとの差が大きく開いていながらもコーナーを慣性ドリフトで抜けきりスピードを落とさず勢いをつけながらFCを追うのである。
秋名山 スタート地点
『今FCが通過しました。ハチロクが少し遅れて…。涼介さんのタイムが凄いです!!このまま行くとコースレコードを12秒程短縮しそうです!!』
「(12秒…!?勝負あったな…。後は兄貴が突き放すだけだ…)」
「「「……!!」」」
無線を通じては涼介との差がかなりあると知った啓介とスピードスターズの三人はあまりにもの凄さに言葉を失い押し黙るしかなかった。
「おい聞いたか。さっき入った情報によれば高橋涼介のFCがハチロクを抜いたらしいぞ!!」
「流石に高橋涼介を相手じゃ無理があったか。抜かれてしまったんじゃもうハチロクに勝ち目はなくなったよォ!!」
ゴール地点でも涼介のFCがハチロクを抜いたと情報が上がっては拓海が負けてしまうのではと騒ぎ立て。それを近くで聞いていたタケルは深刻な顔をしては秋名の山々を眺める。
「聞いただけでも背筋が凍ってしまいそうだ…。拓海が涼介さん相手に負けてしまうかもしれない時がくるとは…」
「まだ諦めちゃダメだよタケル君!!拓海君はまだ負けたと決まったわけじゃないんだから!!」
「無理言わないでよ茂木さん。拓海が相手をしてる人は群馬最速の走り屋で僕でさえ手も足も出なかった人なんだから…。拓海に負けて欲しくないのは僕だって一緒さ。でも、さっきの話からして拓海が勝てる可能性はゼロに等しくなった今、こればっかりはどうしようもないんだ…」
タケルが諦めムードを晒していく中なつきだけはまだ負けたわけではないと強気に言うが。涼介に抜かれてしまった以上勝ち目がないとマイナス気味になるしかなった。
「(拓海。バトルする前に勝つと信じてるって言ってしまったけど、もしもの場合は負けてしまってもいいんだよ。変に無理をやって事故を起こしてしまったら最後、僕だけじゃなくここにいる皆が悲しい目に会うから無理をせずに絶対に帰ってくるんだぞ!!)」
拓海が勝つ可能性がなくなったと思ったか、バトルの勝ち負けに対する拘りを捨てたタケルは拓海が無事に戻ってくるのを祈っていく。だが拓海はまだ勝負を捨てておらず涼介のFCに食らいつこうとしていたのだった。
ハチロクを抜いては先を行く涼介はロータリーサウンドを奏でながら突き進み、ハチロクとの勝負に決着を付けようとする。
「(軽量コンパクトなロータリーエンジンがもたらす最大の恩恵は
ロータリーに魂を惹かれたかのような呟きをする涼介はロータリーエンジンに込めた誇りを胸に、秋名の峠を走り続け。その後をハチロクがドリフトでコーナーを流していってはFCを追い。その走りを近くで見ていた沙雪は二人の走りを見ていっては評価する。
「流石だね。高橋涼介と拓海君…。そんじょそこらのドリフト小僧達とはスピードレンジが違うわ」
「沙雪。このバトルはどうなるの?」
「高橋涼介が前に出たからには…十中八九抜かれることはない。でも、相手はあの拓海君だからね!!拓海君まだ諦めてはいないわよ!!ラインのシビアさがFCより一枚上だもん…。やっぱ秋名を走り込んでるラインだもの!!」
地元での走り込みの差で拓海に分があると言う沙雪。その予測がどうなっていくのだろうか。
「(抜かれたら一気に置いて行かれるかと思ってたけど…意外と差が付かない?まだチャンスはある!!)」
涼介との差に大きな開きがないことに気付いたか、拓海はまだ勝てる見込みがあると思いハチロクを全開で飛ばしてはFCを追いかけ差を縮めようと必死になる。
「(近づいてる…。少しずつ差が詰まってる…)」
「(ちっ…フロントタイヤの食いつきが急に悪くなった…タイヤの熱ダレか…。前半のハチロクの走りのコピーが想像以上にフロントタイヤに負担を掛けたのか…)」
FCとの距離が近づいていくことに勝機を見出す拓海、その先を一歩突き進む涼介はFCのフロントタイヤの食いつきが怪しいことに違和感を感じては先程まで余裕があった表情に焦りを見せていく。
「(ハチロクがじわじわと追い上げてくる…。奴のタイヤは問題ないのか…。少しくらいタイヤがへたろうとも俺の
ハチロクと同じペースで走ってきては何故自分の車だけがタイヤの食いつきが悪くなってきたのか疑問を抱く涼介であったが、ハチロクとの差は徐々に縮まっていくのであった。
「(くそっ、限界か…。そうだ、
拓海はFCを追っていく途中で何か策を思いついたか。ステア操作と右足の微妙なタッチで荷重移動を起こしては、文太がこの日のためにセッティングしたハチロクを簡単にブレーキングドリフトに持ち込んではコーナーへと入る。
「(っしゃあ、いっけえぇぇ!!)」
コーナーを曲がっていく途中でイン側の縁石を掠めるようクリップしては全開ドライブでガードレールをギリギリでクリア。そのまま勢いを付けていってはFCの後ろに張り付くのに成功した。
「あいつ、一体何をやったというんだ!?」
涼介はハチロクが自分の後ろについたことに驚愕するも、ハチロクはその次のコーナーで更に溝落としをしては差を縮めていき。勝負はゴール地点へと差し迫っていく。
「来たみたいだぞお前ら!!」
「あのスキール音だと二台もつれてるようだな」
「ここまでは読んでいた展開になっているが、問題はここからだ…」
「そうだな。一か八かの仕掛けはこのポイントで決まるからな」
ゴール付近で待機していた四人(中里、慎吾、瀬那、真希)はスキール音が少しずつ近づいていってることに気付くや、バトルがどう決まるのか目の前にあるコーナーを見ては各々が口にする。
「ブレーキング勝負に必要なスピードの乗る直線…。道幅が狭い峠道で唯一このコーナーだけが三車線あってラインの自由度が高いうえに…二つのRが重なっている複合コーナーだ。ゴールはすぐそこだからな…仕掛けるポイントは他にないよ」
「ここならFRのスープラと8に乗っている俺達なら巻き返しをするのは可能だが、フロントの重いR32じゃ下りはキツいし。FFのEG6でもアンダーを殺すのに苦戦するからな」
「このコーナーを立ち上がって
四人がこのコーナーを攻めていくことが勝負のカギを握ると豪語するや、スキール音が大きくなっていっては下ってきた二台の車がヘッドライトを灯しながら近づく。
「来たぞ!!FCが
「っしゃあっ、ケツに食いついてる!!」
「さあどうするんだ二人共。ここが勝負のターニングポイントである以上インかアウトのどっちを攻めるかが勝負の分け目となるのをどう攻め込むというんだ!!」
「外からじゃ絶対無理だろ。イン側を抑えな勝負はつかねえ!!」
ハチロクとFCがゴール手前にある最後のコーナーをどう攻め込んでいくのか四人が注視すると。FCにイン側を抑えられたハチロクはアウト側に入って立ち並んでは突き進む。
「「
「涼介にイン側を抑えられた今、ハチロクにはイン側を攻め込むのが無理になったか!!」
「いや待て。ハチロクがここからどう巻き返していくか最後まで見届けろ!!」
ハチロクがアウト側からFCの横に並び立ち、そこからどう攻めていこうとするか四人はそっから更にバトルに目をやると、イン側を抑えたFCが前に出るやズルズルと膨らんでいってはイン側を空けてしまう。
「なっ、涼介のFCが膨らんでるだと!?一体何故…」
「どうやら秋名を攻め続けたせいで、フロントタイヤが限界にきてしまったみたいだな。グリップが落ちてるにも関わらず、出口で無理に攻め込んでスピードが乗り過ぎてしまったから、フロントが路面を捉えきれずに膨らんでしまったんだよ」
瀬那は涼介の走りを見て分析していると、ハチロクがFCの空けた隙をつき、イン側を抑えつけては抜きにいく。
「噓だろ!?」
「ラインがクロスするぞォーッ!!」
ハチロクがイン側を逆に抑えつけ、オーバーテイクをしてFCの前に出たその瞬間。涼介はアクセルをゆっくりと緩めていき、ハチロクとの距離を開くのだった。
「「「「……!!」」」」
今まさに、秋名の峠で涼介の不敗神話が途切れた瞬間を目の当たりにした四人は、言葉を失いながらも、通り過ぎていく二台を見つめていくのであった。
「ふっ、すげえもん見せられちまったなぁ…」
「痺れまくったぜ…たまんねーや…」
「だな。四輪ドリフトからのラインがクロスするなんて神業を観た瞬間鳥肌が立っちまったよ…」
バトルが終わった後、勝負の結末が決まる瞬間を目撃した中里、慎吾、真希の三人はその場で姿勢を崩して座り込み。一人だけ佇んでいた瀬那が二台が走り去った方角を見ては呟く。
「(涼介…。お前は負けてしまったが、いいバトルを見せてもらったよ。この勝負で築き上げたコースレコードはこの先ずっと破られる筈がないと俺は信じてるぜ)」
秋名山 ゴール地点
勝負の分け目が決まった直後、ゴール地点にいたギャラリーがどちらが先に下りてくるのか待ち遠しくしており。
タケルとなつきがギャラリーと共に、拓海が戻ってくるのを待っていた。
「来たぁ、来たぞォ!!」
ギャラリーの一人が声を出すと、上から拓海のハチロクが先頭を走り、その後に涼介のFCが続けては下りてきた。
「拓海君の車だ…」
「拓海…。お前、本当に涼介さんに勝ったというのか…」
バトルの途中で抜かれたと聞いた瞬間、負けてしまうのではと思っていたタケルだったが、先に下りてきたハチロクが二人の前を通り過ぎてはゴールし。この瞬間、拓海の勝利が決まるのだった。
「……」
スタート地点でも涼介が秋名のハチロクに敗れたと聞いた啓介は、兄が負けたことに大きな衝撃を受け。レッドサンズのメンバーも涼介が負けたという一報を受けては誰一人とて言葉を発せず頑なに押し黙ってしまう。
それを近くで聞いていたスピードスターズのメンバーもレッドサンズと同じように押し黙っては、拓海が勝ったことに喜びを見出せず。重い空気がのし上がっているこの状況で言葉を発することができないでいた。
だが、一つだけ確かなことがあるとすれば…。瀬那が呟いたように、二度と敗れることのないダウンヒルのコースレコードが刻まれ、群馬の頂点に君臨する高橋涼介の不敗神話が敗れたのは紛れもない事実ではあった。
「……」
バトルを終えた二人は秋名から少し離れた場所に車を停めては対峙する。
「あの…どうしても気になってることがあるんですけど…教えてもらえますか…」
「……」
「バトルの最中に俺が来るのを待っていたのは…何でですか?」
拓海は走っていく中で涼介が自分を待ち構えてはスピードを落としていたのではと聞く。
「俺が態々後半ペースを落としたとでも思っているのか?そいつはとんでもない見当違いだ…」
「それじゃあ何故…」
「お前が自分でペースを上げたんだろ。俺はペースダウンを最小限に食い止めただけだ…。フロントタイヤが怪しかったからな」
「タイヤ…?」
「タイヤなんて言い訳にはならないさ…条件は同じだ。俺の負けだ」
涼介は拓海とのバトルに負けたと潔く言っては車に乗ろうとするが、拓海はまだ言いたいことがあったか涼介に近づき口ごもりながらも思いを伝える。
「あの…俺の方が速かったとは…そんな風には絶対思ってませんから…」
「斎藤と同じつくづく変な奴だな。お前みたいな奴は初めてだ…。秋名の小さなステージに満足するなよ広い世界に目を向けていけ」
拓海との話を終えたか、涼介はFCのドライブシートに座り。車を動かそうとする前に拓海に言う。
「藤原拓海。お前は速かったよ…。それから…斎藤には今度の土曜、バトルには絶対に負けないと伝えといてくれ」
そう言っては車を始動させた涼介は、颯爽と拓海の前を走り去っては遠のいていき。拓海は走り去っていった涼介を見送ってはただ一人、その場に佇むのだった。
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