頭文字D 峠の弾丸   作:ペンギン太郎

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 今回は決戦前の幕間です。


ACT.49 決戦前の日常

 鈴木自動車工場

 

 

 秋名にて一戦を終えてから数時間が経ち。動かなくなったプジョーを整備工場に持ってくるや、その亡骸を前にレオはなんとも言い切れない気持ちでプジョーを見つめるのだった。

 

 

 「レオ、今日はご苦労だったわね。プジョーもきっと最後まで走りきれては本望だったと思ってるに違いないわ」

 

 「母さん。ごめん、父さんから貰った車をダメにしてしまって…」

 

 「いいのよ。あの人もあなたに渡す前からこうなることは分かっていたんだから、決してあなたのせいじゃないわ…」

 

 「ほぅ〜陽子の息子って意外と涙もろい奴だったんだな。これが文太なら車を壊していようが何のためらいもなく平然としてるってのによォ」

 

 「そう酷えこと言ってやるなって。あれでも一応親として慰めてるんだからそっとしておいてやりなよ」

 

 

 父から譲り受けたプジョーを壊してしまったことを涙ながら悔やむレオを母である陽子が慰め、その様子を陰ながら祐一と政志が温かく見守る。

 

 

 「ねえおじさん。車の整備士をしてるっていうのならレオのプジョーを直すことができないの?」

 

 「お嬢ちゃん。希望に添えなくてすまねえが、こいつはもうどうにもならないんだ。エンジンには大穴が空いちまったのもそうだがフレームに至ってはもう手の施しようがねえくらいイカれちまってるから解体屋へ持っていっては廃棄する他ないんだ」

 

 「それじゃあ…もうレオのプジョーは走れないっていうの…。ひっく…そんなの…いくらなんでもあんまりだよ…」

 

 「アンナ…。悲しむ気持ちはわかるけど、プロである政志がそう言ってるんだから受け入れるしかないのよ」

 

 「ママ…」

 

 

 レオのプジョー・205T16がもう直しようがなく廃棄するしか道がないと聞かされてはアンナは強いショックを受けるも、陽子は悲しむアンナを抱きしめては慰めるのであった。 

 

 

 「政志、あなたに無理強いをして申し訳ないけどプジョーのことをお願いしていいかしら?」

 

 「全然構わねえぞ。なんなら、お前の息子に合った新しい車を探してやってもいいぜ」

 

 「ありがとう。今になっていい友人を持って良かったと心から思うわ」

 

 「ほぉ〜お前さんの口からそんな言葉が出るたァ意外だぜ。ところでレオっていったか。お前さんの車に関してだが次に乗りてえならどういったヤツを選ぶんだ?」

 

 「そうですね。僕としてはやはりプジョーには強いこだわりがありますので、今更他の車を選ぶなんて真似はできませんから次も同じプジョーでいきたいと」

 

 「そうかい。となると輸入車を探すのならあいつに頼むしかないか…」

 

 

 プジョーに乗り続けたいと言うレオの意図を汲んだ政志は輸入車関連を取り扱う業者に心当たりがあったか。メモ帳を取り出し、そこに電話番号を書いてはレオに手渡す。

 

 

 「これは俺の古くからの友人の携帯の番号で。前橋で輸入車を専門に取り扱っている車屋をやってるから、そいつに頼めばきっとお前の希望に添った車を用意してくれるに違いねえぜ」

 

 「ありがとうございます。ここまでしてくださったこのご恩は決して忘れません」

 

 「いいってことよ。お前さんにはチューニングしたスイスポの試運転とタケルに経験を積ませてくれたって恩があるからな」

 

 「そうですか。ではタケル君に関してですが、もしタケル君と会ったのならこう伝えて貰えますか。君がモータースポーツの世界に入るというのなら、僕と同じラリーがあっているかもしれないからいつでも歓迎するよと」

 

 「ほう…タケルにはラリードライバーが向いてるかもしれねえってか、まああいつの走りはラリーに近いもんがあるし、お前さんの予想もあながち合ってるかもな」

 

 

 レオは丁重に礼をいい、それを受けた政志は気にする程ではないと言い切ってはレオには大きな借りができたと返し。そしてタケルには将来はラリーの道に進むのが合ってると伝えるよう政志に伝言を頼むのであった。

 

 

 

 

 

 「ただいま〜って誰もいないか。仕方ない適当にカップ麺でも食べるとするか…。あれ、携帯の着信履歴があるみたいだけど誰からだろう…?」

 

 

 タケルはレオとのバトルを終えては自宅に帰ってくるも、遥香は夕方からホテルで仕事中の為留守にしており。タケルはバトルしては疲れが残ってるからか台所にある棚からカップ麺を取り出してはそれにお湯を注ぎ、できあがるのを待つ間ズボンのポケットに入れていた携帯を取り出しては画面を開くと、そこには着信履歴があったので中を確認するやガールフレンドである結衣からの通知が複数来ていたのだった。

 

 

 「あ、結衣さんからか…。あちゃあ〜ついさっきまでマナーモードにしてたから忘れてたんだっけなぁ」

 

 

 ピリリリリ

 

 

 「おっと、結衣さんからの着信がきたか。流石に出ないとマズイし応じるとしますか」

 

 

 マナーモードを解除してすぐに結衣からの通知が来ては携帯の通話ボタンを押し、電話に出る。

 

 

 「もしもし、結衣さん?さっき電話くれたみたいだけど…」

 

 『あ、やっと出てくれたわね。ちょっと酷くない、折角私の方から電話したのに出てくれないなんて…』

 

 「ごめん。ついさっき秋名で走っていてその時携帯をマナーモードにしてたから気づかなかったんだ」

 

 『そう、でも次からはできるだけ早く出てよね。あ、そうそう。今度の土曜日だけど、もしタケル君が大丈夫なら私と一緒にどこか遊びに行かない?』

 

 「土曜日?う〜ん…いいよ、その日は夜に予定があるけどそれに間に合うのなら全然構わないよ」

 

 

 土曜の夜は高橋涼介とのバトルをする日でもあるため、タケルは少しばかし頭を悩ましては考えるも結衣からの誘いを断るわけには行かないと思ったか、引き受けることに。

 

 

 『やったぁ、それじゃあ当日私は電車でそっちに行くからタケル君駅まで迎えに来てくれる?』

 

 「OK。その日は前に話した父さんのバイクで駅に行くから待っていてね」

 

 

 バトル当日にデートをすることにしたタケルは早速車庫に閉まっているであろうカタナを慣らし運転しては走れるよう調整に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 渋川市 渋川駅前

 

 

 土曜日の昼前、革ジャンに長ズボンの格好で来たタケルは普段乗っているスイスポではなく二輪のカタナと共に結衣が駅舎から出てくるのを待つ。

 

 

 「お待たせタケル君。今日は電車が来るのが遅くなっちゃったわ」

 

 「ううん、別にいいよ、僕も今来たとこだし」

 

 

 この日結衣は白のポロシャツに青のデニムを履いては今時の女子高生らしい格好で駅舎から出てはタケルと合流。会ってすぐにタケルが乗ってきたバイクを一目みては感想を言う。

 

 

 「これがタケル君が乗ってきたバイクなの?なんていうかこう、如何にも走れそうって感じがするわね」

 

 「でしょう。このバイク、スズキのGSX400Sカタナっていうんだけど。元々は父さんが乗っていたのを僕が乗り継いでは走らせてるんだ」

 

 「へぇ〜お父さんのバイクを大切に乗っているなんて親思いなんだねタケル君って」

 

 「いやぁ〜父さんの形見っていうのもあるけど、僕自身バイクに乗るのが好きだからね」

 

 「でも、スズキがバイクを作ってただなんて私始めて知ったわ。スズキって軽自動車しか作ってないところだと」

 

 「そう?まぁ世間一般でスズキといや、軽自動車のイメージが大きいから結衣さんがスズキのバイクを知らないのも無理はないか」

 

 

 タケルが今日乗ってきたバイク、スズキ・GSX400Sカタナを結衣に褒められては嬉しそうな顔を見せるも、スズキが二輪も作っていることを知らなかったと聞かされてはスズキの二輪は未だにマイナーだと思い知る。

 

 

 「とりあえず伊香保温泉にでも行って観光してみよっか。結衣さん、早速だけど僕の後ろに乗ってくれるかい」

 

 「…うん。しっかり掴まっているからちゃんと運転してよね」

 

 

 タケルからヘルメットを受け取った結衣はそれを頭に付け、そこからバイクに跨がるタケルの後ろに乗ってはタケルの腰をぎゅっと掴み、結衣と密着しながらタケルはバイクを始動してはツーリングを始める。

 

 

 「(や、柔らかい…。同じ年頃の女の子にここまで密着されるのは始めてだ。かぁ〜今日は本当カタナで来て良かったぁ…)」

 

 「(……)」

 

 

 人生初の二人乗りをしたタケルは後ろから結衣に掴まれてはヘルメット越しに顔を赤らめ興奮するも、結衣もヘルメットで顔が隠れてはいるがタケルと同じように顔を赤くしてはドキドキしていたのだった。

 

 

 

 

 

 タケルの提案で地元の観光スポットである伊香保温泉に来た二人は近くの駐車場にバイクを駐車しては早速伊香保温泉内を回っていき。

 この日は土曜だからか伊香保温泉は観光客にありふれては盛り上がりを見せていた。

 

 

 「タケル君ってさぁ、前から思ってたんだけど。タケル君は車にしか興味がないの?」

 

 「え?」

 

 「だって、私とデートする時のタケル君いっつもクルマの話ばっかしてるじゃない。そんなに車を走らせるのって楽しいものなの?」

 

 「そうだなぁ、ずっと群馬に住んでたんじゃ車やバイク以外に時間を潰せれるものがないのと。身近に走り好きがたくさんいてはそうならざるをえなかったところもあるからね」

 

 「ふ〜ん。じゃあタケル君質問するけど、もし私か車どっちかを選びなさいって言われたらどっちを選ぶ?」

 

 「え?それはちょっと難しい選択だなぁ。勿論結衣さんも大切なんだけど、苦楽を共にしてきた相棒(スイスポ)をそう簡単に切り捨てるなんて真似はできないし…」

 

 「それってどっちも選べないってことよね」

 

 「まあね、僕だってクルマ好きとはいえ女の子を捨てるなんて真似は絶対したくないよ」

 

 「そう、タケル君って優しいのね…ますます好きになっちゃいそう」

 

 「え…今なんて…」

 

 「ううん、なんでもない。そうだ、今日は夜に予定があるって言ってたよね。もしかしてまた秋名山に行っては車を走らせるの?」

 

 「そうだよ。結衣さんにはまだ言ってなかったけど、今夜の10時に涼介さんとバトルするんだ。前にやったときはコテンパンに敗れたけど今度はリベンジを果たしてやろうと思ってるんだ」

 

 「へぇ〜そうだったんだ。じゃあタケル君、私と約束しない」

 

 「約束?」

 

 「タケル君が今夜高橋先生とバトルをして勝ったらタケル君のお願いを聞いてあげるわ。その代わり、今日のバトルでタケル君が負けたら私の言うことを聞いてもらうからね」

 

 「いいよ。じゃあもし僕がバトルに勝ったのなら、結衣さんと一緒にどっかの温泉へ行くってのはどうかなぁ?群馬には草津温泉や四万温泉といった観光地として名高いし」

 

 「ふ〜ん…タケル君、意外とスケベだったんだね」

 

 「ふぇ!?い、いやぁ…僕はただ…偶には伊香保温泉(ここ)以外の温泉地に行ってみるのもどうかなって言っただけで決してイヤらしい気持ちで言ったわけじゃないから……!!」

 

 結衣はタケルと約束事を持ち掛けられてはそれに乗っかるも。

 タケルがスケベなことを口にしては結衣からジト目で見つめられ。それに対しスケベ心で言ったつもりはないと言い訳をするタケルだが、本心では結衣の想像通り卑猥な考えをしては動揺を隠すしかなかった。

 

 

 「いいわよ。タケル君がもし高橋先生に勝ったら一緒に温泉に行ってあげるわ。でもそのかわり、タケル君が負けてしまったら私の言う事聞いてくれる?」

 

 「全然構わないよ。結衣さんが行きたいところがあるならどこへでも連れてってあげるさ。結衣さんはどっか行きたいところでもあるの?」

 

 「うん。私はね、栃木県日光市にある日光東照宮へ行ってみたいの」

 

 「日光東照宮ってあの徳川家康が祀られているので有名なとこだよね?」

 

 「そうだよ。日光東照宮は江戸幕府成立の立役者である徳川家康を祀る為に二代目将軍の秀忠が建てたのもあるけど、今じゃパワースポットとして英気を養うのにうってつけの場所でもあるのよ」

 

 「へぇー、知らなかったなぁ。僕の中で日光っていやいろは坂ぐらいしか行くとこがなかったから勉強になるよ」

 

 「ふふっ。日光でいろは坂に行きたいだなんてやっぱりタケル君は根っからの走り屋なんだね」

 

 

 そう話しがらデートを推し進めていく二人ではあったが、一緒にいられる時間は限られてたからか気付かないうちにあっという間に時間は過ぎ去っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 渋川駅 入口

 

 

 時刻は夕方になってはデートは終盤となり、タケルは結衣を待ち合わせ場所であった渋川駅の前まで送りとどけるのだった。

 

 

 「着いたよ結衣さん」

 

 「ありがとう、駅まで送ってくれて。帰りのガソリン代は払った方がいいかしら?」

 

 「いいよ別に、僕はそこまでお金に苦労してないからこれくらいどうってことないよ(実際は車弄るのに結構使ってるから乏しいけど、女の子にお金を支払わせるわけにはいかないしね)」

 

 

 結衣を送り届けたタケルは降りる直前で交通費を支払った方がいいかと結衣に聞かれるも、彼女に迷惑をかけるわけにはいかないと思ったか、問題ないと返す。

 

 

 「そう。じゃあタケル君、送ってくれたお礼とは言ってなんだけど、ちょっといい?」

 

 「ん?なんだい結衣さん」

 

 「…少し恥ずかしいから、目閉じてくれる?」

 

 「? いいよ」

 

 

 結衣に言われた通り目を閉じてはしばらく待っているとタケルの頬に何らかの感触が触れるのだった。

 

 

 「(ん?何か柔らかいものが頬に触れてる気が…)」

 

 

 頬に触れていた柔らかい何かが抜けてすぐに、目を開けては結衣のいる方向に顔を向けると。結衣は顔を赤らめてはタケルを見つめていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 「タケル君、今日はその…ありがとね」

 

 

 結衣は恥ずかしそうな顔を見せては駅舎へと入っていき。それを見送ったタケルは結衣が自分に何をしたかようやく気付いては顔を赤くする。

 

 

 「そっか…ようやく拓海が女ボケになった理由がわかった気がするよ。あいつもこんな気持ちになっていたんだね…」

 

 

 ここにきてタケルは拓海の心情を理解したのか、子供から大人へと一歩進んだのであった。




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