頭文字D 峠の弾丸   作:ペンギン太郎

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 更新しました。
 今回、スイスポに載せるコンプリートエンジンについて触れて行く関係で長くなりましたが、最後まで読んでいただければありがたく存じます。


ACT.55 勝率0パーセント

 秋名山 夜

 

 

 「ほぉ〜あのタケルという若者が走ってるというだけあってか中々いいコースじゃないか。これなら次に攻め込むにはうってつけだな」

 

 

 静まり返った夜の秋名を駆け抜ける青いエボⅥは静寂な夜を駆け巡り豪快なエンジン音を鳴らしては峠を攻め、秋名のコースを見ていってはここに来ただけのかいはあったと呟く。

 

 

 「今妙義に行ってる京一とは後で合流しては秋名(ここ)のコースレイアウトについて報告するとしてだ。群馬エリアの頂点にはあの赤城の白い彗星と呼ばれている高橋涼介がいるからにはそれなりに用心しておかないとな」

 

 

 エボⅥのステアリングを操作しながら車を走らせていくそのドライバーは車内に備え付けてあるビデオカメラにコースレイアウトを記録しては峠を攻めていき。それが終わり次第京一達と合流しようとするのであった。

 

 

 

 

 

 妙義山

 

 

 秋名にてエボⅣが駆け抜けている同時刻、秋名から30キロ離れたところにある妙義山では、中里のR32と清次のエボⅣによる熾烈なヒルクライムによるバトルが行われていた。

 

 

 『うわぁっ!!ヒルクライムで毅さんのR32がアタマ取られるなんて!!』

 

 『信じらんねーことだぜ何者だ、あのエボⅣ!!バカっ速!!』

 

 

 エンペラーとナイトキッズのバトルを観に来ていたギャラリーはエボⅣの圧倒的な速さに驚かされ、その後に中里のR32が続くが。前を走るエボⅣはまるで必死に後を追うR32を嘲笑うかのように中低速コーナーが続く妙義の道路を突っ走り。地元の走り込みの差で圧倒的に不利な先行ポジションを陣取っては計り知れない底力をギャラリーに見せしめる。

 

 

 「見たか瀬名。あのエボⅣの超絶的な加速スピードをよ。あんなの反則級だろ」

 

 「そうだな。エボⅣは4WDならではの駆動軸(トラクション)の良さを活かしてはコーナー出口からの立ち上がり加速が通常では考えられないくらい速く。中低速域が続くこの妙義山をまるで水を得た魚のように突っ走るあの姿は正に戦場を駆け巡る騎兵そのものだ」

 

 「でもよ、中里のR32だって上りでのバトルとなればパワーでは負けてない筈が、どうしてこうも引き離されているかわかるか?」

 

 

 今夜のバトルを一目見ようと赤城の走り屋である瀬名とレッドサンズの真希がエンペラーの代表格であるエボⅣの走りを見ようと偵察がてらギャラリーに来ては二台の走りを観察し。中里のR32が清次のエボⅣに遅れを取っているか理由を聞くと瀬名は重みのある口調で理由を話す。

 

 

 「それに関しては観に行く前に涼介が言っていたんだが。中里は元々思いっきりの良さと勢いでアクセルを踏み込んでは豪快に突き進んでいくタイプで、前に高橋啓介とバトルしては負けたことがまだ尾を引いては走りのリズムが狂っているからだろうな」

 

 「なるほどな…。いつもの中里なら自信満々で走っているのを今日に至ってはミスが目立ってはランエボに遅れをとっている。あのままのペースじゃ前を行くエボⅣに追いつくことは難しいかもしれんな」

 

 「それにあいつは精神面にムラっ気があるからかツボにハマると速いが、その反面プレッシャーに弱くキレやすい一面も持っている。どうやらこの勝負…。中里には悪いが、向こう側の圧倒的勝利と見ていいかもしれないな…」

 

 

 中里のR32の走りを見てはいつもと様子が違うことに気付いた瀬名は今日のバトルには負けてしまうのでないかと危惧するも、その予想は的中したのか。中里は清次が駆るエボⅣに一向に追いつくことができずジリジリと引き離されていくのである。

 

 

 「(くっ、こんな筈はねえ!!だが…まだまだチャンスはあるぜ!!俺が止めずに誰が止められる!!)」

 

 

 圧倒的な加速スピードで前を行くエボⅣを追う中里。だが、上りの中速レフトターンで荷重移動の甘さからプッシュアンダーを出し、コントロール不能に陥ったR32は右フロントをコンクリートウォールに当ててしまいスピンしてしまった。

 

 

 「く…くそぉっ!!」

 

 

 その場で走行不能になってはエボⅣに負けてしまった中里は地元の走り屋としての意地が見せつけられず敗北を喫しては悔しさを露わに、ステアリングを叩いては大声で叫ぶのだった。

 

 

 

 

 

 「約束通りステッカーを貰おうか」

 

 

 勝負前に行った決め事として、ナイトキッズは自分達のステッカーをエンペラーに渡すと。清次はそのステッカーをカッターで真っ二つに引き裂き、それを逆さにしてエボⅣのリアフェンダーに貼ってはナイトキッズに見せつける。

 

 

 「へへっ。俺のエボⅣのウイングが半分に切り裂いた群馬エリアのステッカーで埋め尽くされるのももう時期だ」

 

 「くっ…テメエら舞い上がってんじゃねえぞ!!まだまだ群馬には速い奴がいっぱいいるんだ!!」

 

 「ふっ、負けた奴が何言っても虚しいもんだな」

 

 「!!」

 

 

 自分達のチームのステッカーを引き裂かれ、群馬勢の走り屋を攻略するのは時間の問題だと吐かす清次に慎吾は群馬にはまだ上がいると反論するも。清次はそれを聞き入れず単なる負け惜しみだと言っては煽る。

 

 

 「やれやれ。折角観に来てやったというのにいいようにヤラれてしまったな中里」

 

 「風間…!!お前来てたのか…!?」

 

 「瀬名。赤城の走り屋であるお前が何故ここに!?」

 

 「俺はただそこにいるエボⅣがどれだけやれるのかこの目で確かめようと思っては偵察に来ただけだよ。涼介から赤城を貸し切りにするよう達しがくるぐらいだから相当なもんかと予想していたが、まさかここまでやれるとは微塵も思わなかったよ」

 

 

 バトルに勝ったエンペラー勢が不敵な笑みを浮かべては偉そうにふんぞり返る中、ナイトキッズとエンペラーの輪に入ってきた瀬名を見た京一は余裕たっぷりの表情から一転して憎き敵を見るような目つきに変わるのである。

 

 

 「ちっ、今日のところは引き上げるが。涼介をこの手で倒した暁にはお前にリベンジをかましてやるから覚悟しておくことだな!!」 

 

 「いいぜ京一。俺に勝とうと抜かすのなら精々秋名のハチロクとスイスポにヤラれるなんて無様な様を見せるんじゃねえぞ」

 

 「ああん!!てめえ、俺達じゃハチロクやスイスポには敵わねえとでも言いたいのか!?ふざけんじゃねえ!!」

 

 

 ランエボに乗ってる自分達ではハチロクやスイスポには敵わないと言われては癪にきたか、清次は声を荒らげては瀬名の前にきてはガンを飛ばす。しかし瀬名は清次に睨まれても大して表情を変えずに寧ろ舐め腐ったような顔をしては清次に言う。

 

 

 「俺からすれば、お前らが速い理由の殆どがランエボに付いているAYC(アクティブヨーコントロール)やACD(電子制御可変多板クラッチ機構)に助けられてるからに決まってるだろ。だからこそ、そんなモンに一切頼らずハチロクやスイスポに乗り続けては腕を磨いてきたあいつらの方がランエボに乗ってるお前らより速いのは間違いないからな」

 

 「てめえ…!!群馬勢が調子に乗るのもいい加減に…!!」

 

 「落ち着け清次、そいつは涼介同様お前如きが敵う相手じゃない。大人しく引き下がれ」

 

 「なんだと!?俺がこいつに勝てないとでも言うのか京一!?」

 

 

 涼介同様瀬名には勝てないと言われては京一に反論する清次だが、京一は清次が納得してないのを見ながらも瀬名との間に何があったか話す。

 

 

 「そいつはな清次、一年前俺が涼介に負けた数カ月後にいろは坂に来てはバトルを仕掛けてきてな。その時の瀬名はランエボ使いである俺達への当てつけか、FRに改造したエボⅨで俺に挑んでは4WD使いの俺がドリフトする為だけに改造したランエボに負かされたという屈辱を味わわされたんだよ」

 

 「くっ…。そんなふざけたランエボで俺達の面子に傷つけるようなことを…!!」

 

 「ふざけるも何も、実際FRに改造したランエボやインプレッサは存在してるんだし。改造申請書を出してはちゃんと許可を取った上で走らせたよ。お前達はただ車を勝つためだけの道具にしか使っていないから遊び心なんてもんは持ち合わせてはいないだろうが、こういった趣味全開の車を走らせるのも有りじゃねえのか?」

 

 

 京一から苦い過去を聞かされては憤りを見せる清次に対し、瀬名は洒落が通じない清次を舐め腐ったように言い返しては煽る。

 

 

 「ま、そこまで俺の言うことが信じられないと言うのなら今度秋名に出向いてはハチロクかスイスポとバトルしてみることだ。あの二台は俺達群馬勢のカリスマとも呼ばれている男を相手に白星を築いたんだ。実際にやってみればその理由が判明するだろうしな」

 

 「…いいだろう。丁度秋名にはあいつが偵察に行ってるからな。情報を聞き次第秋名に直行してやる!!清次、引き上げるぞ」

 

 

 京一は次は秋名に出向くかのように言いつけ、この場にいるメンバーに引き上げるよう指示を出す。

 

 

 「おう、お前ら全員これからはエンペラーのステッカーを見かけたら無条件で道を開けることだな!!」

 

 

 清次はまだ瀬名に対しての怒りが残っていたか声を荒らげては自分達が走る時は大人しく引き下がれとナイトキッズに吐かしてはこの場を後にし。

 ナイトキッズは走り去っていくエンペラーを見ていっては暗い雰囲気に包まれるしかないのだった。

 

 

 「毅。ヒルクライムでお前のR32より速いなんて信じられねえよ」

 

 「くっ…」

 

 「そう気を落とすなよ。負けたとはいえお前は群馬勢としての意地を奴らに見せつけたんだ。同じ群馬の走り屋として誇りを持っていいと俺は思うぜ」

 

 「風間…」

 

 「後のことはあいつらに任せるとしてだ。こうも立て続けに負かされている今、俺達群馬勢の最後の切り札はレッドサンズでも高橋兄弟でもなく、あの二人だけだからな」

 

 

 中里を慰めつつ元気づける瀬名は後のことをまだバトルしてないであろうタケルと拓海に後を託すのであった。

 

 

 

 

 

 ガソリンスタンド

 

 

 「ナイトキッズがヤラれた!!例のランエボチームに!!」

 

 「えぇっ!?マジすか!?」

 

 「朝からどこに行ってもその噂で持ちきりなんだよ。中里のR32が壁に刺さっては相当のダメージだって…」

 

 「うええ〜悲惨…。ナイトキッズ今頃ボロボロ…気の毒になってくるな…」

 

 「中里さんも以前啓介さんに負けたことが後を引いてたとはいえ、今度の敗北は相当来てたらしいから今頃立ち直るのに苦労してるかもしれないよ」

 

 「ランエボ軍団は一ヶ月で群馬エリアを総ナメすると言ってきてるらしいんだ。あいつ絶対秋名にも来るぞ…」

 

 「ふえっ!?攻めてきたらどうするんですか!?」

 

 

 昨夜ナイトキッズがエンペラーとバトルしては負けたことを聞いたイツキは過去に色々あったとはいえナイトキッズに同情するも、ゆくゆくは自分達に回ってくるのでは健二が言っては不安視する。

 

 

 「どうするもなにも、挑まれたからには引き受ける他ないでしょ。地元として他所者に舐められるわけにはいかないですからね。ね、池谷先輩?」

 

 「ああ、秋名の走り屋としてチーム張ってるからには挑戦から逃げるわけにはいかない!!念の為S13のタイヤ、食いつく方に付け替えた。チームのメンバーにも連絡を入れといた」

 

 

 池谷はエンペラーを相手に備えてはタイヤをグリップが効きやすいヤツにしたといい、この場にいる拓海とタケルを呼びつける。

 

 

 「拓海、タケル。ひょっとすると奴らはお前らを名指しで下りのバトルに挑んでくるかもしれない。別にシカトしてもいいぞ。お前達二人の不敗神話は俺達の誇りなんだ。それをランエボ相手に壊して欲しくない。お前達二人は正式にスピードスターズのメンバーじゃないしな」

 

 「俺も二人には勝ち続けて欲しいな。ランエボじゃあ洒落にならないよ。WRCのラリーカーとバトルするようなもんだ」

 

 

 池谷はチームを率いてる自分達の問題である拓海とタケルにはエンペラーと関わらないよう警告し、健二も行けたちと同じように負けて欲しくないと二人にいうが拓海は意を決してはここにいる全員に言う。

 

 

 「池谷先輩。俺…逃げるのは嫌です」

 

 「「「え?」」」

 

 「俺もバトルしたいです。あいつらと…」

 

 「「「えー!!」」」

 

 「僕も拓海と同じです。ランエボ相手にバトルするのは厳しいかもしれないですけど、だからといって何もしないまま手をこまねいて逃げてしまうんじゃ秋名の走り屋として名折れですからね」

 

 「タケル、お前まで…」

 

 

 拓海の口からまさかのランエボとバトルをするという言葉が出たのに池谷達三人は驚愕し。タケルもそれに同調したか拓海と同じ様にランエボとバトルすると言っては池谷を困惑させる。

 

 

 「拓海、タケル〜!!お前ら益々走り屋らしくなってきたぜ!!やっぱりお前らは俺の友達だ!!二人ならランエボ相手に勝つに決まってるぜ!!ランエボなんざぶっちぎりだー!!」

 

 「イツキ。そう判断するのは早いって、まだバトルに勝てるかどうか分からないんだしさ…」

 

 「なあ池谷。イツキはああ言ってるけど大丈夫かなァ…」

 

 「ううん。現時点では勝つ確率は…0%だ」

 

 

 イツキは二人の言葉に感動しては涙ながらに興奮するも、調子付くイツキとは対照的に冷静な池谷と健二はランエボとのバトルがどうなるか考えるも二人が乗るハチロク・スイスポではランエボとの間にかなりの差がある為、勝つことはできないと池谷は断言するしかないのだった。

 

 

 

 

 

 鈴木自動車

 

 

 「というわけなんですけど、何かこうスイスポをランエボと渡り合えるようにすることができる方法はないのですか?」

 

 

 その日の夜、タケルはスイスポに乗っては政志の整備工場に足を運び、偶々来ていた勇にランエボとやるからにはどうすればいいのか相談する。

 

 

 「そうだなぁ…。スイスポとランエボじゃ性能差が段違いだからな。そいつらと渡り合おうとするならば、もうそろそろあれ(・・)を用意してもいいかもしれんな」

 

 「え?あれっていうのは何のことです?」

 

 「実はな、タケルには黙っていたんだが。スイスポに新たに載せるコンプリートエンジンを用意していてな。本当ならお前がもう少し経験を身に着けた後で載せ替えようと思っていたが、エンペラーていう生意気な口を開く奴等のことを聞いたからには早めに載せないといけなくなったからな」

 

 「コンプリートエンジン…でありますか?」

 

 

 勇が自分の為にコンプリートエンジンを用意していたと聞いては意外そうな顔をするタケルだが、勇はそれをスイスポに載せるとどう変わっていくかタケルに説明する。

 

 

 「俺が知り合いを通じては取り寄せたそのエンジンをスイスポに載せれば従来の125馬力から170馬力近くに上がってはトルクも増してはキビキビと走れるようになるからな。そこに新しく用意したスーパーチャージャーを取り付ければお前のスイスポは更にパワーが向上しては最強を誇るマシンに生まれ変わる算段ってわけだ」

 

 「つまり、そのコンプリートエンジンってヤツと新たなスーチャーが加わればスイスポは更に速くなるんですね。もう〜それを早くに言ってくれれば涼介さんとのバトルはもっと楽に勝てたかもしれなかったじゃないですか…」

 

 「あのなぁタケル、そう簡単に教えたら俺がお前にしてやった特訓の意味がなくなるだろうが。そもそもこれを今日に至るまで黙っていたのもお前の為を思ってのことなんだからな」

 

 

 タケルは勇から新しく用意したコンプリートエンジンについて説明を聞いては何故早く教えてくれなかったと文句を言うが、勇は教えたらタケルの為にならないと返す。

 

 

 「僕の為にって、どういう意味なんですか?どうしてそんな秘密兵器を隠す必要があったというのですか?」

 

 「まあ落ち着きなよ。若大将だってそれなりに苦労したんだ。少しは若大将のことも考えてやりなって」

 

 

 タケルは政志に宥められるも今日に至るまでコンプリートエンジンのことを隠し通していたことに憤りを見せ。勇は言いにくそうな顔をしながらもバラしてしまった今話すことにしては理由を語る。

 

 

 「それはだなタケル、お前にはまだ…」

 

 

 ブォオオオン

 

 

 勇が黙っていた理由を話そうとしていた中外からは聞き慣れたエンジン音が聞こえてきたので外を確認すると、文太が祐一をつれては工場に入ってきた。

 

 

 「お、タケルじゃないか。お前も政志のとこに来てたのか」

 

 「拓海の親父さんに店長じゃないですか。お二人こそどうしてここに?」

 

 「いやな。文太がハチロクに載せるっていう新しいエンジンを見に来ないかと誘いを受けてはここに来たんだが。こいつがいうに痺れちまう程凄いヤツだと言っていたからな」

 

 「痺れるほど凄いヤツ…ですか?」

 

 「ああ、それならそこに布を被せては置いてあるぜ。一応高価なヤツだから見たら直ぐまた被せとけよ」

 

 

 祐一が見にきたという新しいエンジンは工場のある一角に布を被されては保管されていて。

 政志から注意を言い渡された祐一は文太と共にハチロクに載せるというエンジンを見ては驚愕する。

 

 

 「すげーな…おい。こうくるかよ…」

 

 「どうだ…痺れたろ」

 

 「痺れるなんてもんじゃない、ぶっ飛んだよ。よくこんなモンが手に入ったなァ」

 

 

 祐一は布に被されていたモノを見るや、今まで見たことないような表情をしては驚く他ないのである。

 

 

 「(勇さん、店長がエンジンを見てびっくりしてますけどあれってそんなに凄いヤツなのですか?)」

 

 「(そりゃ驚くのは当然だろ。何せあれは…ヒソヒソ)」

 

 「(えぇっ!?あれってそんなに凄いヤツだったの!?よくそんなモンが入手できましたね!?)」

 

 「(やっぱお前もそう思うだろ。あのおっさん、どんな伝手を使ってはあんな凄えモンを手に入れたって話だ)」

 

 

 文太達が三人で話している横でタケルが小声で聞いては勇がハチロクに載せるというエンジンについて軽く説明し、その詳細を知ったタケルはエンジンを手に入れる文太の人脈の深さに感心するしかなかった。

 

 

 「これがハチロクに乗ると思うとゾクゾクするな」

 

 「俺もだ、久々に血が騒ぐよ。拓海には勿体ないくらいのシロモノだろ」

 

 「で、いつ載せ替えるんだ?」

 

 「さあてね…。エンジン変えて終わりってわけじゃないからな。あちこち補強して足回りも弄ることになるだろ」

 

 「足さえ決まればこれは凄い車になるぜ」

 

 

 政志も整備士としての腕が鳴るようなことを言い、早くにも新しいエンジンに手を付け加えたいと呟く。

 

 

 「俺が自分でテストしてベストのセッティングを出す。そん時は頼むぞ政志…」

 

 「いいけどさ…しつこいからな文太は。絶対妥協しねーからな」

 

 「昔を思い出すな。ここに勝がいたらどれ程よかったものか…」

 

 「けっ、あいつの名前を出したところでもう会えたりはしないよ。何せ空よりも高く上に逝っちまったからな」

 

 

 祐一は昔走り屋として過ごした思いでを懐かしむように言い、文太もタケルの父親である勝のことを思いだしては思い老けるが、再びぶっきらぼうな顔をしては重い口を開く。

 

 

 「だがな、拓海にはまだやり残したことが一つだけあるんだ」

 

 「やり残したこと?それって拓海には何が足りないというのですか…?」

 

 

 文太が拓海にはまだやらせないといけないことがあるといい。タケルはそれが何なのか気になっては文太に聞くと。文太はタバコを一服しては言う。

 

 

 「教えてやってもいいが、絶対拓海には喋らないって約束するか?」

 

 「え?…いいですけど、そこまで口止めするからにはとても大事なことなのですね」

 

 「ああ、これは今のお前さんにも通じることだからな。その条件ってのは…」

 

 「……(ごくり)」

 

 

 タケルは唾を飲んでは文太の言う事に耳を傾け、文太は今まで見たことないような真剣な顔をしては言う。

 

 

 

 

 

 「負けることだ」

 

 「!?」

 

 

 文太から出た言葉、それは拓海が負けない限りエンジンを乗せ換えるつもりはないとのことで。タケルを含む全員が文太が拓海の敗北を望んでいる事実に衝撃を受けるのだった。

 

 

 「どうして拓海が負けないといけないのですか!!そんなことする必要が一体どこにあると言いたいのですか!?」

 

 「タケルの言うとおりだぞ文太。拓海は折角ここまで誰にも負けて来てないのに!!」

 

 

 拓海が負けを経験しない限りエンジンを載せ換えるつもりはないと聞いては、何故父親である文太が息子である拓海の敗北を望んでいるのかタケルは声を荒らげては理由を聞こうとし。祐一もタケルと同じ拓海には負ける必要がどこにあるのかを聞こうとするが。

 文太は神妙な顔をしながらもタケル達に理由を語るのだった。

 

 

 「そこが気に食わないんだよ。勝ち続けてるうちはパワーを上げることの本当のありがたみが分からない。今の戦闘力でマシンをとことんギリギリまで追い込んで、最後の一滴まで絞り尽くして。そこで勝てない悔しさを感じて初めて分かることがある」

 

 「だからって…、そんなの…拓海が可哀想じゃないですか。負ける必要がなくたってあなたから直接教えてあげれば済むのでは…」

 

 「タケル、お前の言いたいこともわかるがこれに関しては親父さんの言うことが最もだ。時には敗北を経験してそこから得るものだってあるんだし、親父さんからすれば拓海には負けを経験してはそっから立ち上がってほしいというのが親父さんの願いだと俺は思うぜ」

 

 「勇さん…」

 

 

 タケルが文太に文句を言っては反論するのに対し、勇はタケルの肩に手をやり諭すように言ってはタケルを落ち着かせ。タケルが押し黙ったのを見ては文太は言う。

 

 

 「そういうことだから。あいつが負けるまでハチロクを弄るわけにはいかないんだ。実際、お前の車にエンジンを載せ換えないよう政志達に釘を刺したのもそれが理由だからな」

 

 「釘を刺したって…。まさか、あなたがコンプリートエンジンを載せないよう勇さんやおじさんに言ったのですか!?どうして僕も新しいエンジンを載せ替えてはダメなのですか!?」

 

 「決まってるだろ。お前は拓海とは違って走り込みの経験もそうだが、パワーを得ることの本当の意味ってヤツを知っていないからだ。そんな半端者にパワーのあるエンジンを載っけた車をやったところで結局は宝の持ち腐れになるからな。もし仮に勝も生きていたとしてだ、あいつも俺と同じことを言ってるに違いねえよ」

 

 「……!!」

 

 

 文太から自分にコンプリートエンジンを与えるにはまだ早いと言われては反抗するも、文太から使いこなすには経験値とそれを得ることに対しての理解力が足りないと言われては何も言い返せず押し黙るしかないのであった。




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